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文:小出兼久 写真提供:(c)MSB

世界中で絶滅の危機に瀕している植物を保存するため、空想的な試みが2000年の8月末から英国で始まっているという話を聞いた。ミレニアム種子バンク(Millennium Seed Bank=MSB)である。それは最大の国際的環境保全計画の1つであるとこれまで認められてきた。
MSBは、2010年までに、24,000以上の種子、地球規模にして種子植物の10分の1を救うことを目標に、1,400程度の英国の種を既に集めているそうだ。絶滅種は300を超え、英国内の野生植物を脅かし、2050年までに、絶滅の危機に瀕する世界中の植物の4分の1を保護するという。
種子バンクとは、未来の世代のための貯蔵所である。MSBは、英国王立植物園キューのイニシアチブによると伝えられているが、現実は、キュー植物園ではなくイギリス南部のWakehurstという地方の植物園で管理されているようだ。MSBは既に、約5,000の種・2億5000万以上の種子を持っている。そこに集められた種子は、まず低湿度状態で乾燥され、数週間後には水分量が5%に減らされる。これは、種子が約200年間という長い期間、耐えられる環境にするためと言う。この種子は次に、清潔に検査され、種ごとにX線写真を撮り、個々の種子から約50のサンプルが一緒にされる。個々に寒天培地のゼリー状物質の入った培養皿に分けられ、発芽分析用の処理単位(ユニット)となる。その検査は毎年10年の間繰り返される。最後にそれらは、通常の育成管に据えられ、-20℃の温度で保存され、3つの地下金庫室に蓄えられる。
個別の育成管に保存された種子は、近代都市に生きる人々と同じくらい重要なことを伝えてくれる。そして、予防策というよりは種子採集支援策として、スコットランドに保管されることになる。
このような保存される種子のほとんどは外国の乾燥地域に生息するものである。
このプロジェクトのリーダーは、「土地が退化し、原産により支えられない土地利用とそれを覆う気候の結果で引き起こされる場合」、種子バンクと同様に「敷地外の」環境保全がさらに多く貢献することができると言う。毎年、60,000以上の種子が土地の荒廃や砂漠化によって失われていると推測されている。
乾燥地域は世界中の個体群生息地の20%を占めるため、そこに生息する種子の保全は基本的に重要なのだが、それには、その地域との協力が欠かせない。MSBプロジェクトは、地域自身が種子バンクを設けるのことへの支援を目標とし、その生産国中ですべての種子について、本質的な割合を収集することを計画している。
多くの植物が危機に瀕している。それは恐らく我々が想像するよりも、悪化しているのかもしれない。人口の拡大や開発の促進が及ぼす自然への重圧について考えていれば、種子の喪失は減少するはずであるが、我々は、多くの種子を失いかねない環境に直面しているのが現実である。気象変動モデルの多くも、植物へのすさまじい危険性を予測している。
種子の収集に話はもどるが、我々が現在保存する種の多くは、ことによると直接の用途を持っていないものであるという。合理主義からいえば、収集は無駄と言うことになる。しかし、我々が現在利用する薬の30%は、植物から抽出された生成物やその合成成分に基づいている。つまり、今後、新しい治療薬を見つけ出すつもりならば、植物のこの豊饒の角(ギリシャ神話=幼時の ゼウス神に授乳したと伝えられるやぎの角)を世界にわたって所有する必要があるそうなのだ。
研究者の間で、ノアの箱舟は様々な準備がされている。これは空想ごとではなく起こりえる現実の話でなのである。
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