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文:小出 兼久 2006.05.02 写真:NASA

米国宇宙局NASAは、2つの人工衛星クラウドサット(Cloudsat)とカプリソ(Calipso)を、先週4月28日、カリフォルニア・バンデンバーグ空軍基地から打ち上げた。そしてこの2つの新しい衛星により、大気圏に存在するオゾンホールの監視が始まった。従来の気象衛星レーダーよりも遥かに敏感な観測機器を搭載した衛星が、高度705キロメートルの軌道に投入されたのである。
クラウドサットとカプリソは、地球の上空705キロメートルを、太陽と同期した極軌道で、15秒の間をおいて連続して周回する。いずれも、NASAが「A-Train:A列車」と呼ぶ地球観測衛星隊の一員である。
地球観測衛星隊 A-Train(A列車)
地球観測衛星隊は、この2つを含む6機の地球観測衛星で構成される。OCO、アクア、クラウドサット、カプリソ、パラソル、アウラである。どれもが、同じ高度705キロメートルの太陽同期極軌道に投入され、ある地点の上空を決まった現地時間に通過する。先頭は今後打ち上げられるNASAの二酸化炭素観測衛星OCO、15分後に水循環関係の衛星アクア(Aqua)、その30秒後に今回のクラウドサット、その15秒後にカプリソ、その60秒後にフランスの地球観測衛星パラソル(PARASOL)、その13分後(最後)にNASAの地球観測衛星アウラ(Aura)が続く。
- Oco:大気圏中の二酸化炭素(CO2)濃度を測定する。 2008年に発射され、この隊を率いるリーダーとなる。
- アクア Aqua:Ocoに15分遅れて同じ軌道を通過し、地球(大洋・陸地・大気)の水循環に関する情報を収集する。
- クラウドサット:雲の微細研究を可能にする。雲の気候に対する役割を解明する。
- カリプソ:クラウドサットが雲を観測した15秒後、その雲を再び観測する。基本機能はエアゾールと雲の相互作用の解明である。
- パラソル PARASOL:生成されたエアゾールの生成者(自然or 人間)の相違を示す。極性化された光を測定する。フランスの人工衛星。
- アウラ Aura:NASAの衛星。ヨーロッパ全体を包囲する。大気化学を観測し、注目すべき地球規模の公害地図を作っている。
※5.以外はすべてNASAの衛星。
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クラウドサット衛星

クラウドサット衛星は、通常の気象レーダーの1000倍敏感なレーダーを搭載している。レーダーは、大気圏へマイクロ波と呼ばれる短パルス(電波)を送り、パルスが反射して人工衛星へと再び戻ってきた結果、雲の構造や量、降水の状況を得るという。パルスのリターンの強さは、現実に雲にある水の量と直接関係する。NASAは、「これで効果的に雲を量ることが可能になる」と説明している。パルスリターンの多様は、異なる段階が生じていることを意味し、雲の断面を知ることができる。
世界で初めての技術:クラウドサットCloudsat
- 大気圏がどれくらい効率的に大雨を生み出すのか、大雨を生む雲のパーセンテージ(推定値)を提供する。
- 雲の垂直にスライスされた状況を科学者に提供する。
- 雲の粒子と降雨・氷を区別して、検知する。
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カプリソ衛星

カプリソは、クラウドサットに遅れること15秒で、同じ空間を通過しつつ、赤外線とある一定可視領域光中からパルスを発射し、クラウドサット衛星の雲探査を補足する。カプリソの調査は、特にエアゾールに関係する。エアゾールとは、火山噴火、ダスト、砂塵嵐などの微細粒子のことで、森林発火や海洋噴出というナチュラル・プロセスを経て、大気圏へと放出される。人間の産業活動も同様に、車両からの排出など、多量のエアゾールを生み出している。
カプリソは、エアゾール分子を発見できる偏光ライダーを搭載し、エアゾールと雲粒子を区別する。ライダーというのは、レーダーに似たもので、ターゲット域の特徴を決定するために、電波の変わりに反射光を使う機器である。
エアゾールは、簡単に言えばチリだが、雲の粒を形成するときの核となる。言うなれば、チリに水蒸気がついて雲の粒になると考えればよい。清潔な大気中でできた雲は、核となるエアゾールが少ないため、大きめの液体粒子から構成され、そのため、この雲は雨を生じやすい。逆に、汚れた大気中ではより多くの雲が発生し、しかもより小さな液体粒子からできている。このため、こうした雲は、透けて、明るく見える。(冒頭の写真を参照して欲しい)
NASAや他の機関は長い間、宇宙空間のエアゾール測定を行ってきたが、すべてのエアゾールを測定することはできず、特に写真のような薄い雲におけるエアゾールの垂直分布はまったく分かってなかった。しかし今回、クラウドサットで雲量を測り、カプリソで雲の中のエアゾール分布を測ることができるようになった。
世界で初めての技術:カプリソCalipso
- エアゾールの垂直分布の統計を提供する。
- 不可視の巻雲(肉眼では見えない非常に薄い雲)がどれくらい頻繁に発生するか、その季節偏向を明らかにする。
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「我々の星地球にある、もっとも小さな水の、そのある程度は、雲の中に存在する。一つ一つは小さくとも、そこが、私たちの依存する淡水を提供してくれている」とスティーヴンズ博士は語っている。雲は、昔から気候に大きな影響を与えると思われているのに、私たちは、それをほとんど理解できてこなかった。材料がなかったからである。雲が地球の気候変動という重圧の下でどのように変化するのか、我々は実際に語ることができなかった。現在の人工衛星の技術ならば、雲やエアゾールがどのように生じ、発展し、影響し合うかの調査もできる。それにより、雲が地球温暖化を促進するのか、はたまた寒冷化を促進する*のかもわかるだろう。論争に終止符が打てることになるようだ。カプリソは、気候に対して、エアゾールの直接的、間接的な影響があるのかないのか、解明するのに役立つだろう。
*「エアゾールは宇宙空間へ直接光を散乱させ、その結果、地球に達する日射量が減り、冷却効果がある」と語る科学者がいる。一方で、「エアゾールは日射を吸収し、大気圏を温暖化し、水循環を変化させる。大気中の熱安定性を変化させ、時に対流を抑制する。その結果、降水量が増減し、長期的には、雲の発生にも間接的に影響する。」と言う科学者もいる。はっきりしたことは分かっていない。(断定することができない)
この2つの衛星という宇宙船!
いや正確には、6つと言うべきか。ここから将来得られる新しいデータによって、地球の気候の仕組みについて新しい洞察が可能となる。また、気候変化を予測する我々の能力も高まるだろう。もし、将来予測される気候が「負」の場合、それを防ぐ手だてもより現実的にしやすくなるはずである。日進月歩で進化する、変化する、気象の世界からは、当分目が離せそうにない。
参考HP:http://www.dice-k.com/030201/1308.html
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