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第11回:次世代燃料のもたらす未来
ー生物燃料ー

文:小出 兼久 2006.10.06 写真:AP通信

 




生物燃料の優位性が認めらつつある


石油価格の高騰と気候変動という一対の弊害をいかに乗り切るか、と、その解決を模索して議論が活発化してきた。ここへきて米国は、生物燃料(バイオ燃料やエコ燃料とも呼ぶ:biofuels)への依存を加速させている。これは、外国産石油への輸入依存度を縮小するようにとブッシュ政権が追い込まれたため生じている。

 

 

生物燃料の利点

ヨーロッパでは、生物燃料は環境的に重要だという声がある。特に輸送による二酸化炭素の排出は、例えば英国では、総排出量の1/4にもあたるため、排出削減にとっては、輸送用燃料がかなり大きな問題であった。輸送排出のうち1/4から4/5は道路車両から生じるという。

英国政府は、これを、京都議定書条約を満たす負担配分の達成を著しく害する恐れがあると受け止め、今年初めに、再生可能運輸燃料義務(RTFO)の導入を発表した。つまり、2010年までに、ガソリンスタンドで売られているガソリンとディーゼル車のすべてを生物燃料使用に代えてゆき、全自動車燃料の5%を生物燃料でまかなうようにすることで、燃料を生産する企業が新たに必要となったということでもある。

 

生物燃料というのは、一般に植物体を原料としていて、字面だけでも良い燃料と思われがちで、それは間違いではないが、自動車に用いた場合、エンジンで燃焼される時には、やはりCO2を放出する。しかし植物は、光合成をするためにCO2を吸収しているため、CO2量は差し引きされる。生物燃料の利点は、基本は、ほとんど炭素プラマイゼロがいいという考え方で、そうできずとも、生物燃料の消費と植物の栽培量のバランスがとれるようになれば、今ほどのCO2の増加に悩まなくてすむ、ということのようだ。

 

 

 生物燃料の科学上の原理は炭素サイクル


 ・植物は成長のために大気中の二酸化炭素(C02)を吸収する
 ・炭素(C)は体組織を構築し、酸素(02)は放出される
 ・燃焼で炭素(C)は酸素(02)と再び結合し、二酸化炭素
  (C02)になる
 ・二酸化炭素(02)は、再び大気の中へ後に放出される

 

 


生物燃料は、化石燃料よりも温室効果対策として優れている。
石油や石炭も遠く遠く遡れば、生物を原料にしている。その生産は植物抜きにはかたれないため、その意味で程度の差こそあれ、C02を吸収すると言えなくもないはずだが、化石燃料が放出したC02が植物体に吸収されそれが化石燃料になるのには、悠久とも言える時間がかかる。吸収は放出に追いつかない。だから私たちの生活に適した尺度では、化石燃料を炭素循環で語ることはできずに、消費する一方、二酸化炭素を放出する一方、というふうに測ることになる。

 

 

 

生物燃料の光と陰

翻って、生物燃料には、主にバイオエタノールとバイオディーゼルがある。これは、穀物、大豆、菜種油、サトウキビ、パーム油のような作物から作られる。単純に考えて、こうした植物を生産し生物燃料が得られるのならば時間はあまりかからなさそうであり、燃料としてC02を放出しても、植物の成長時にC02は植物体に吸収されるのだから、炭素循環は理想的な形で行われるようである。ゆえに、生物燃料のほうが環境に負担をかけないのだろう、と考えられる。

 

イギリス政府のレポートを読むと、多くの人は、低炭素というのが温暖化抑制のための将来のキーを握っているようだと思っているようで、それにより起こりうる可能性のある、望まれない結果についての関心もある、と書かれている。

 

生物燃料推進に伴う望まれない結果とはなんなのかというと、例えば、生物燃料を作るために、その材料の耕作地を設けようと熱帯雨林のような価値のある生態系を圧迫したり、生物燃料用の植物生産が増すことで、食物生産に影響を及ぼして、例えば、途上国の得られる食物の量や範囲が減少する・・というようなことである。ジェレミー・トム・キムソンシ氏(UK National Non-Food Crop Centre (NNFCC) の最高経営責任者)は、これらの悪影響を指摘している。

たしかに、パーム油を作るためにパームヤシを育て、そのために熱帯雨林をどんどん伐採してしまうのならば、差し引いたら環境的に良いパーム油とは言えないのではないか。
生物多様性というのは、こうして容易く危機にさらされてしまう。パーム油はバイオディーゼルに関する問題であるが、バイオエタノールでも起こらないとも限らない。その意味では、現行の生物燃料と言われるのは一時的な物のみであると、キムソンシ氏は話す。そして「第二世代」燃料ならば、現行の生物燃料の生産方式を代替することができるかもしれないと予測する。「私にとっては、これが答えである」とキムソンシ氏自身が述べている。また、「それは全く新しい事態を開く。」とも。

 

第二世代(次世代)生物燃料

生物燃料自体も従来の燃料に対する第二世代であり、汎用化もまだの中、キムソンシ氏がはや「第二世代」と呼ぶ生物燃料は、ガソリンの代替でリグノセルロースの利用である。このリグノセルロース系バイオマス(生物資源)についての研究が、第二世代の生物燃料としての賢明な技術の方向であるという。リグノセルロースは、土地から出て来るものすべてを意味している*。ジェレミー・トム・キムソンシ氏は、それが収量を2倍にするだろうとも話している。

 

*解説:リグノセルロースとは、植物体の茎や葉に含まれる成分である。そこで、理論的には、すべての植物がバイオマス(生物資源)であり、燃料原料になることになる。種により多少などは、これからの研究であきらかになるであろう。広葉樹や針葉樹のリグノセルロース系バイオマスを発酵原料等として利用するためには、飽和スチームで蒸煮処理した後、水を添加し可溶分を抽出分離すると共に、抽出残壇物を更に飽和スチームで蒸煮処理し・・・とする。リグノセルロースからバイオエタノールを合成することができる。バイオエタノールは、ガソリンの代替燃料として注目が集まっている。

 

「小麦などの穀物を単に得る代わりに、デンプン、グルテンだけを得る。または、単にデンプンを取り除くことができるよう、つまり、我々は作物全体を利用できるようにするつもりである」という。

この新しく利用可能な材料を生産しようとして、同じエネルギー量を費やす集約的な肥料と薬剤が投入され、結局は、同様(環境に優しくない)なのではないかと言う人もいるが、もし、生物燃料がすべての植物材料から生み出される技術が可能になれば、ある特定の植物だけに生産が偏ることは解消され、ひとつの植物に対する食物需要と燃料需要との間に争いが起きるようなことはなくなるだろう。

 

トム・キムソンシ氏は、「我々は、小麦を栽培する若者に栄養価値を得るために栽培しろと言うことができる。そして、また、燃料と化学薬品や製薬の原料としての栽培という前途有望なもう一つの分野を持たせることもできる。」と提言する。「とにかくまずはいろいろと試し、糖を切り開くことから、本当にエネルギー作物となり得る作物とは何か、全く新しい植物の範疇を知ることができる。」と。そして続けて、「今の時点では、エネルギー作物としての可能性があるのは、ヒマワリと飼料用トウモロコシだ」と書いている。実際に彼の言葉を裏付けるように、英国の大手石油会社ブリティッシュ・ペトローリアムは、「エネルギー・バイオサイエンス研究所」に5億ドルを投資している。

「食物の生産が大きく変わろうとしている。農業に植物の自然科学を適用することによって、生産性が上がり新たな報酬をもたらす。」と同会社のスポークスマン、デービッド・ニコラスは述べている。そして、「とはいえ、現実的に、エネルギー作物の収量のための自然科学の適用は、まだまだこれからである。」と付け加えていた。ブリティッシュ・ペトローリアムは、上とは別に、インドにおける研究へもお金を与えている。それは、食用作物の生産には適さない土壤でも成長できる植物から、バイオディーゼルを作り出すことができるかどうかという研究でである。「生物燃料というのは現実問題として、これからの産業の躍進する追加分野となるだろう。しかし、我々は、最も効果的で高収の生物燃料であろうとする(生物燃料の発達段階としては)初期の段階に留まっている」とニコラス氏は言う。

 

しかしながら、第二世代生物燃料が利用できる未来出現の前に、解決しておかなければならない、大きな障壁がある。それはテクノロジーおよびコストである。

 

「現行の生産方式も技術もまだまだ断然複雑である」とトム・キムソンシ氏が答えている。「植物毎に異なる[糖]はすべて、それを取るために自分自身の消化を必要とする。企業の多くは、我々が消化手段を取り除き、リグノセルロース上へそれを放射することを可能にし、全てのものを発酵させる「容器に使用するセルロース」と呼ばれるものを見ている」と彼が説明する。

私には、上記の説明は少々難解で理解できない部分もあるが、NNFCCは、英国がバイオマス(BTL)からの液体処理工場を持つことができるならば、より適当なBLTである植物を見つけ出すべき研究も行え、燃料を生み出すことができるという。彼は、そのためには、甚大な出資が必要であろうと見ている。世界のあちこちでBTL植物について、一単位およそ3億7500万ドル(440億円)の投資がされているが、現在、250,000トンのバイオディーゼル植物は900万ドルのコストで、その結果同量の燃料が求められるので大きな差がある。しかし、トム・キムソンシ氏は、環境によいという点で、BTLは本当にそうなので、ヨーロッパ中の政治がこの技術に対して細心の注意を払っていると答えている。

 

このレポートを読んで、これからの穀物の生産方法あるいは穀物そのものについて、地域ごとに大きな変化が生まれようとしている予感がした。考えても見て欲しい。かなり極端な話をすれば、それまで捨てていた剪定枝から、落ち葉から、あるいは無駄だと思われる雑草からも、さまざまな植物に含まれるリグノセルロースから生物燃料が生成できるようになるのではないか?

それは、すごい未来を手にするかもしれないということではないだろうか。我々の生活に新たな問題を引き起こすことだろう。私は最近「緑のゴミを堆肥に」というスローガンで、上述の落ち葉などをもとにした堆肥づくりを実践している。が、まさに、それ以上のことが起ころうとしている。 大ざっぱで楽観的すぎる見方かもしれないが、「存在するすべてのものにはまったく無駄がない」という一昔まえならば金言ですまされるべき言葉を、体感し実証される世界がひらけつつあるのでないか・・・と強く思う次第である。

 

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過去と未来の気候と緑
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第14回 2007年の警告 エルニーニョ現象は気候変動の引き金となる
第13回 植物の「ノアの箱船」は用意されている
第12回 生物燃料はグリーンエネルギーか死神か
第11回 次世代燃料のもたらす未来
第10回 水の乱用は地球を犠牲にする
第9回 2006年夏、中国の気象危機
第8回 非常な気象ー気候変動は我々に責任があるか?
第7回 気候変化による危険:自然は凶器
第6回 英国を襲う渇水の恐怖
第5回 地球観測衛星隊ーNASAのA列車ー
第4回 気候変化のB面
第3回 地球温暖化で急速に広がる伝染病からの警告
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