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文 Oliver Tickell・訳:JXDA 2007.02.12

この決定的な時に誤った行動をするならば、地球や我々、すべての生物は絶滅の危機に瀕することになる。
先日、気候変動における最も権威ある報告書が公表された。オリヴィエ・テイックル(Oliver Tickell)氏は、世界が温室効果ガスの抑制問題を真剣に受けとめる時期に来ている、と主張する。彼は、我々が不幸な結末を迎えないためにも、大胆な措置が満載の「京都2」の枠組をすべての国家が受け入れるべきだと呼びかける。以下その意見を紹介する。
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気象変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書(第1作業部会)が最近発表された。それによれば、地球の平均気温が今世紀中に1.8〜4℃上昇することは、ほぼ確実であるという。さらに、地球の気候システムの悪循環(ポジティヴフィードバッグ)が進めば、6.4℃の上昇もありえるという。この半分の温度上昇でさえも破局を意味するというのに、である。
この結果によって海面水位の上昇、豪雨、洪水、干ばつなどが発生し、何億もの人々が自らの家から追いやられることになる。これは、6500万年前に恐竜が絶滅したとき以来、我々地球上の生物が直面する最も大きな絶滅危機である。しかも、現在に至っても対策のない状況である。
世界は、1997年に京都議定書を議決し、温室効果ガス排出量の制御に向けた意義深い前進を選んだ。しかし、京都議定書の意義はいまだもって象徴的である。それは確かに「地球の未来を守るためならば世界が共同で行動できること」を示し、将来の同様の行動への先例とはなっている。しかし2012年に失効する。その時どうなるだろうか?
現実の温室効果ガス排出の削減効果は、不確かであまりないように見える。世界的に見て温室効果ガス排出量の上昇は、1997年の京都議定書以降、沈静化、横這いを続けている。とはいえ、京都議定書は2012年に期限切れになる、そうしたらどうなるのだろうか?私は、既存の議定書以上の規模で、かつ目標を成功させる新しい気候条約が必要であると考えている。それは、温室効果ガスの排出を世界規模で本当に削減するもので、その中心的な枠組みには、効率的で公正な方法によって全ての国を包含しなければならない。化石燃料を必要とせずに世界が発展するような、新しい道を示さなければならない。さらには、不可避で頑張っても耐えることができない地域に影響を与える気候変動の影響についても言及したものでなければならない。
私が京都2(*注)の名の下に提案した一連の議案は、京都議定書の効果のない枠組みとはかなりかけ離れたものであるが、次の目的を達成するものである。
*注)この2は京都に続くセカンドステージとか次世代といった意味合いと思われる
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毎年の温室効果ガス産出量に世界的上限を負わせる
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それを統一した世界的手法として採用し、国毎の(異なる)手法は無視する
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排出ではなく生産の点から温室効果ガスを制御し、例えば、化石燃料による排出の場合、燃焼で地球温暖化が起こりうることに基づいて、鉱山や源を適度にするといった具合に、燃料それ自身の生産量を制御する
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誰もが入札できる公開制の世界的競売で、温室効果ガス産出の「権利」を売る。
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獲得した権利に応じて、毎年すべての企業の化石燃料生産水準を制限する
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温室効果ガスが発生する他の工業製品も、同様に扱う。例えば:
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セメント製品からの二酸化炭素(CO2)と航空産業に対する余剰放射の影響
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森林火災によるメタンと二酸化炭素のような回避可能な温室効果ガス排出のために、政府に対して人口数に基づいた1人あたりこのくらいと制限した権利を支給する
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温室効果ガスを破壊するか安全に埋める企業の権利をクレジットする
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気候変動の原因と結果の両方に取り組むために、世界的競売で調達された資金を利用する
全体として見ると、これらの方法は、経済的に効率的で、かつ、公正公平な手段で温室効果ガス産出量の必要な削減を成し遂げる、新しい手法(アプローチ)を提供することになる。そして、気候基金*(注*これらの方法で得た資金)−それはたやすく5000億ドルに達するはずで、1年につき1兆ドル(l.兆2500億から1兆5000億ドル)になるであろうが−、これを多くの前向きな方法で用いることができるはずである。例えば:
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炭素を吸収し貯蔵する働きをする森や沼のような、自然の生物群系(ナチュラルバイオーム)をもつ国へ「使用料」を支払い、そうした吸収・貯蔵庫の維持と拡張に務める
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存続可能な低炭素エネルギー開発をサポートするべく、低炭素開発銀行を設立する
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たとえば、再生可能な生成技術のような、低炭素エネルギー研究に資金を助成する
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また、化石燃料の利用を防ぐために化石燃料に保証金を支払えば、化石燃料販売による収益を失う国へ、経済収益を与えることになる
厳しい時期
私は、この提案やこれに類似した提案が簡単に受け入れられるとは言わない。実質的に、化石燃料の製造者である国と企業は、新しい税に直面することになるからである。
しかし、また、五分五分で、これは彼らのためでもある:すなわち、一つ基準の世界市場でのライバル企業や国との公平な競争を確保できること、長期投資をしようとする者にとって最も重要な将来に関してより確実性が増すこと、つまり、生産率が遅くなるおかげで化石燃料の寿命を保全し、延命できることなどである。
反対する者は、現在温室効果ガス排出の大半の責任を負っている豊かな国々からでるだろう。
目下そうした国々の政府は、特定の目標によって束縛されないけれども、「温室基金」に入るお金の大部分は結局、彼らの経済から生じる。
1バレルの油を燃やすとおよそ0.4トンの二酸化炭素が排出される。このため、1トンの二酸化炭素排出の権利を20ドルの価格とすると、1バレルでは8ドルになり、1リットルのガソリンは5セントになる。
不平がでるのは間違いないが、しかし、この費用水準が適正価格でないと本気で論ずることのできる人はほとんどいないだろう。
いずれにせよ、温室効果ガスを制御するためのどんなシステムでも、最終的には、主にその大部分を排出する豊かな世界と人々によって融資されなければならない。
これらは大胆な方法である、しかし、我々が直面する世界的脅威に比べればなんということもない。
この決定的な時期の行動を誤ってはいけない。そうなれば、地球とそこに済む人々、並びに全ての生命体は最も厳しくて有害な結果に直面することになる。 ― IPCCの最新報告書は何度もそう述べている。
オリバー・ティッケルは、環境と健康問題に関するフリージャーナリスト兼活動家である
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IPCCによる第4次評価報告書(第一作業部会)
気象変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球の気候変動が人間によって誘発されている「可能性が非常に高い」と結論として下した。
重要な調査結果
IPCCの評価報告書における定義
出来事の確率*:
*これは報告書の文章に使われている英単語について、使う単語によってどのくらいの確率でそう断じているのかを測る目安として挙げられている。
| 使用された英単語 |
その参考訳 |
確率 |
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virtually certain
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ほぼ確か |
99%以上 |
| extremely likely |
極めて可能性の高い |
95%以上 |
| very likely |
非常に可能性の高い |
90%以上 |
| likely |
恐らく |
60%以上 |
| more likely than not |
どちらかといえば |
50%以上 |
| unlikely |
ありそうもなく |
33%未満 |
| very unlikely |
かなりありそうもない |
10%未満 |
| extremely unlikely |
極めてありそうもない |
5%未満 |
(出典:IPCC)
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今世紀の終わりまでに、気温は1.1〜6.4度上昇しうる。
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海面は28〜43cm上昇しうる。
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北極の夏の海氷は、恐らく今世紀の後半には姿を消す。
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世界各地で熱波の数値が増加する可能性が非常に高い。
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気候変動は恐らく熱帯性豪雨の激烈化に結びつく。

京都議定書は2012年に失効する。その時何が?
第4次評価報告書
今回の報告書は、2007年度にIPCCによって第4次評価報告書として公表される4つの報告書のうちの最初のものである。(4AR) これは、IPCCの第1作業部会によるもので、気候変動の科学的側面を評価するものである。他の3つの報告書はそれぞれ、気候変動の影響、順応と脆弱性、緩和などについて評価する。 そして最後にそれらを総合して報告する。
IPCCとは何か
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気象変動に関する政府間パネル(IPCC)は、世界気象機構(WMO)と国連環境計画(Unep)によって1988年に設立された。
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その役割は、人間によって引き起こされる気候変動のリスク、その潜在的影響、それへの順応と変動緩和のための選択についての科学的根拠を評価することである。
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この世界的な団体はそれ自身が研究を行うのではない。
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その評価は主として、仲間である専門家達が調査しまた公表した科学/技術文献 について行う。
最初の評価報告書は1990年に公表され、最新のものである第3次評価報告書は、2001年に発表された。
気候変動の中グラフィックス1(出典:IPCC)
人間の活動が気候変動の原因である「可能性が非常に高い(注:ほぼ間違いない:very likely)」と、130以上の国々の科学者が結論として下している。 これは第3次評価報告書よりも踏み込んだ表現である。下記のグラフィックスは、世界の気温が次世紀にわたってまさにどれだけ上昇する可能性があるのか、についての彼らの予測を示す。

気候変動に関する政府間パネルは、2100年までに気温が1.8度〜4度上昇する可能性が非常に高いと予測している。次の図は3つの(気温上昇)シナリオそれぞれが、地球上に及ぼす影響の範囲を示したものである。

上の地図をつくるのに使った排出のシナリオA1B, A2, B1 は、詳細な経済と技術データの範囲に基づいている。それぞれが描く将来は、地域によって異なる人口増加や化石燃料と代替燃料の使用とその結果による二酸化炭素(CO2)増加について考慮したもので、拡大図によれば、それぞれの線に見える部分も広範な幅があることが分かる。

CO2は主な温室効果ガスであり、産業革命以来それは明らかに上昇している。石炭の燃焼、石油の使用、森林破壊は、すべて大気中に二酸化炭素を放出する。

他の主な温室効果ガスに、メタンと亜酸化窒素がある。両方のガスとも大気中に存在するのは、CO2よりもずっと少ないが、温室効果ガスとしては、CO2よりもずっと強力であり、メタンはC02の20倍以上、亜酸化窒素は300倍以上の影響を与える。
気候変動グラフィックス2(出展:IPCC)
図1.大気中における二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素の過去一万年の濃度変化(大きい図)と、1750年以降の濃度変化(はめ込み図)。
測定は、氷芯と大気サンプルから行われ、シンボル色の違いは研究の違いを示し、大気サンプルは赤線で示す。大きい図の右軸は放射強制力を示す。

図2. 2005年時での全世界の平均放射強制力(RF)は、人為発生の二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)と他の重要な動因とメカニズムに対して、科学的理解 (LOSU)の評価水準と強制力の典型的地理的範囲(空間規模)を持って、見積り分類される。
純人為発生の放射強制力とその範囲も、また、示される。これらは、構成要素条件から非対称不確実性評価を合計することを必要とし、単純な追加によって得ることはできない。
LOSUの非常に低い追加強制力要因は、ここに含まれない。爆発性エアゾールは、追加的に自然強制力を与えるが、一時的な性質なので、この図に含められない。線形飛行機雲の範囲は、空一面雲の中で、飛行の他のありえる効果を含まない。

図3. (a)地球平均地上気温、 (b)潮位計 (青)と衛星データ(赤)による世界平均海面水位の上昇と、(c)北半球における3月から4月の積雪面積の観測値の変化。全ての変化は1961年から1990年の平均との差。滑らかな曲線は、10年の平均値を示し、丸印は各年の値を示す。影の部分は、平均値の不確実性の幅を示す。

図4.1906年から2005年の大陸規模と世界規模の10年平均地上気温の変化結果と自然強制力と人為強制力を用いた気候モデルシミュレーションの比較。
1901年から1950年の平均値を基準にしている。黒線は観測された変化で、観測面積が全体の50%未満の期間は破線。青帯は、太陽活動と火山による自然強制力のみを考慮した5つの気候モデルからの19のシミュレーション。赤帯は、自然強制力と人為強制力の両方を考慮した14の気候モデルからの58のシミュレーション。

図5. SRESシナリオ(排出シナリオに関する特別報告)による、21世紀末の世界平均気温の変化と、世界海面水位予測。いずれも1980年から1999年を基準として比較。

図6.1980〜1999年と2090〜2099年の降雨値の相対変化
値は、SRES A1Bシナリオに基づいた12月から2月まで(左)と6月から8月まで(右)の間のマルチ・モデル平均値。白帯はモデルが変化の徴候と一致するのが66%未満のところであり、点描帯はモデルが変化の徴候と一致するのが90%以上のところである。

図7. 実線は、シナリオA2、A1BとB1による(1980-99の値と比較して)地表温暖化の複数のモデル世界平均であり、20世紀シミュレーションの継続を示す。影は、個々のモデルの年次平均の1つの標準偏差範囲のプラスマイナスを示す。与えられた時間とシナリオで動くAOGCMsの数は、線と同色の色数字によって示される。オレンジ線は、濃度が2000年の値で一定の状態に保たれた場合の想定をしめす。図右側の灰色バーは、6つのSRESマーカーシナリオに対する最良推定値(個々のバー内の実線)と可能範囲を示す。灰色バーの最良推定値と可能範囲は、図の左にあるAOGCMを含み、同様に、独立モデルの階層と観測の制約からの結果も含んでいる。
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気候変動の経済The economics of climate change :
ザ・スターンレビュー

経済活動からの温室効果ガス排出が引き起こす気候変動が科学的に証明されている現在、国際規模でこの問題に対応するためには気候変動の経済学について適切に理解することが必要となる。本書『スターン・レビュー』は、英国政府の依頼を受け、元世界銀行チームエコノミストで現在英国政府の経済担当政府特別顧問のニコラス・スターン博士が、気候変動が与える経済影響を分析、試算した報告書である。
英国の政府のためにニコラス・スターン卿が編纂した報告書によれば、世界は今気候変動にしたがって行動し、経済結果を破滅に追いやることに直面している。世界銀行の元チーフ経済学者である彼によって書かれた調査のポイントは、以下のとおりである。
気温
_ 炭素排出量は世界気温をすでに0.5度押し上げている。
_ 排出に対してなんの対策もとられなければ、世界気温は75%以上の確率で、
次の50年で2度から3度上昇する。
_ さらに世界の平均気温が5度上昇するかもしれない確率も50%ある。
環境的な影響
_ 氷河の溶解により洪水の危険性が増す。
_ 穀物生産量が低下する。特にアフリカで低下する。
_ 海面の上昇によって、2億人の人々が永久に住み替えを余儀なくされる。
_ 種の最大40%が絶滅の危機に直面する。
_ 激しい気象パターンの実例がさらに増える。
経済的影響
_ 極端な天候は世界の国内総生産(GDP)を1%ほど引き下げる。
_ 気温が2度から3度上がると世界経済の生産高を3%減らす。
_ 気温が5度上昇すると世界生産高の10%が失われるおそれがある。
最貧国では10%以上を失うだろう。
_ 最悪のシナリオでは世界消費は1人あたり20%減少する。
_ 管理しやすい水準で安定させるため、排出量は次の20年は横這い、
その後は1〜3%低下させる必要がある。これにはGDPの1%を要する。
変動の対策
_ ひどく汚染を助長する製品やサービスに対する消費者需要を引き下げる。
_ 世界的にエネルギー供給をより効率的にする。
_ エネルギー排出をしない行動ーこれ以上の森林破壊を防げば炭素排出の源を
軽減するのに大いに役立つ。
_ クリーンなエネルギーと輸送技術を促進し、2050年までにエネルギー産出量
の60%を非化石燃料が占めるようにする。
政府の対応
_ 炭素価格付け(売買)の世界市場を作る。
_ 米国、インド、中国のような国々を引き入れ、ヨーロッパの排出権取引機構(EETS)を
地球規模に拡大する。
_ 炭素排出量を2020年までに30%、 2050年までに60%削減するために、
EETSの新しい目標を設定する。
_ 炭素削減目標を設定しその経過をモニターする新しい独立した団体を作るための
法案を可決する。
_ グリーンテクノロジーへの英国の企業投資を先頭に立たせるために、
100,000もの新しい仕事を生み出すという目的を持つ新しい委員会を作る。
_ 先の米国副大統領アル・ゴアは問題について英国政府に助言することができる。
_ 貧しい国々が気象変動という難題に順応するのを支援するために、
200億ドルの基金を創設するべく世界銀行や他の金融機関と共同で取り組む。
_ 持続可能な林業を促進し森林破壊を防ぐために、ブラジル、パプアニューギニア、
コスタリカと共同で取り組む。
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