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住宅潅漑システムの操作とメンテナンス
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効率的な潅漑は、高品質のシステムデザイン、優れた水管理技術、規則的なシステムメンテナンスによって成り立つ
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住宅用スプリンクラーの調整と修理は、散水範囲を大きく改善し、植物の成長を向上させ節水を促進する
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潅漑コントローラーの季節ごとの調整は、節水と植物の健康状態向上のための本質的な方法である
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新技術は、改良された水管理につながる
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潅漑評価は、どこで節水を達成できるのか具体的に示すことができる
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潅漑は、大規模な地中スプリンクラーシステムから小規模な住宅の灌漑システムまで広範囲に設置されるため、それに応じた技術が必要となる。スプリンクラーというと、水を無駄にしがちなイメージがあるが、例えば、ホースにつなぎ手動で設定するならば、(目で見てリアルタイムで調節ができるわけなので)地中埋設のドリップラインのような灌水方法と同じかそれ以上に、効率があがるものである。どのような技術も用いる人の能力次第であるが、まずは、技術を知ることである。では、何のために技術が必要か?それは、効率的な水使用のためである。
ランドスケープにおける効率的な水使用は、地域社会や水道局だけでなく、もちろん、個人の目標でもある。例えば、アメリカの住宅でランドスケープが使用する水量は、平均すると、家庭で消費される総水量の50パーセントに達しているとよく言われている。ならばこの水量を減らすことが、総使用水量を減らすための手っ取り早い方法となる。節水(効率的な水使用)のために、多くの方法が試みられるが、ひとつに、生育する植物の種類にかかわらず、住宅潅漑システムの調整は、本質的に節水となる。設置した灌漑システムについて、必要であれば修理をしたり、部品を取り替えたり、あるいは敷設の場所や器具を替えたり・・適切な維持管理は植物をよく成長させつつ、節水も達成する。
節水のための灌水システムとプログラム
まず、いつでも手動が可能とは限らない。灌漑システムにはコントローラー(クロックあるいはタイマー)を付けよう。多少費用がかかっても、自動にする。コントローラーによって、スプリンクラーシステムの設定を変えることは、もっとも簡単にできる節水のための改善である。
ある植物が必要とする水量を適切に与えるために、ゾーン(ステーション)設定をする。植物の種類によって必要とする水分量は異なる。そこで、コントローラーの実行時間を数分単位で適切に設定する。
同じ植物でも必要とする水量は季節によって変わる。その植物の要求にあわせるために、コントローラーの実行時間は季節と共に変更しなければならない。これがプログラムである。想像がつくと思うが、植物は、事実として、肌寒い春や秋に必要とする水量は夏よりも少ない。例えばブルーグラスの芝生は、春や秋には1週間につき約15〜23mmの水を必要とするが、真夏には1週間につき約32〜38mmの水を必要とするようになる。こうした変化する水需要に対応して、コントローラーの中には、ピークの夏の実行時間に対する何パーセントという設定ができるものがある。 1つ設定を変更すれば、春秋にはその60パーセントの割合で灌水するというふうに、容易にリセットすることができる。 (図1)
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コントローラの季節ごとの調整は、節水を実現するだけでなく、植物の要求に水分量を一致させることにより、植物をより健康にする。例えば、粘土質土壌に対しては過剰な灌水が行われやすいが、これは、植物の根を機能させるのに必要な酸素を奪うことになる。正しい水量を適用することは、より健康な根をもたらす。
灌漑の実行時間は、日照などの露出環境と合致させる。陰地や北側に面したエリアは、日当たりがよいランドスケープで必要な灌漑量を1とすると恐らくその半分の量ですむ。逆に、南か西に面した斜面ではこの2倍を必要とする場合もある。灌漑の実行時間は、コントローラ上で状況に応じてまめに調節することが大事となる。
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図1:季節によって変わる水量調整を、基本水量の何%と設定して灌漑を行う性能を持ち、灌漑サイクルのために複数の開始時刻をセットすることのできるコントローラーの例
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灌漑の回数も重要である。トータルとして同じ量を灌漑する場合でも、少ない回数で深く(つまり長く)灌漑すれば、粘土質土壌においてもより深い発根を促進する。一般に植物の根は、深さ約30cmのところで水が過剰供給とならない限り、深く成長するが、植物がより深く根を育てる能力を持つことができれば、より深い土壌の中で見つけた水を取り出せるようになる。そうして乾燥に強い植物ができあがる。しかし、単略思考で、深く灌漑をすればいいというものでもない。灌漑は注意深く、水が根域以下に流出するような無駄を避けるべきである。
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もし粘土質土壌表面や斜面から水が流出する場合(図2)、「サイクリング」を考慮し、灌漑時間を2つあるいは3つに分けることが必要となる。サイクリングとは循環または浸透ともいわれ、水が浸み込むことを可能にするためにゾーン毎に灌水を止めて、間をおいて必要とする時間の残りを潅漑することを指す。例えば、14分間の実行時間は、7分間潅漑し、その後一旦このゾーンの灌漑を停止して、その間コントローラは別のゾーンを灌漑し、後、前のゾーンに戻って残りの7分間潅漑して、合計14分間の実行時間を達成するという方法である。 サイクル時間を決めるためには、スプリンクラーを作動させて水が流出するまでに何分かかるのか、その時間を計る。それが何分間になるのかは、傾斜、地盤の種類、圧密の程度や他の要因の程度に依存して変わる。最初に潅漑するべき最大時間としてこの数(単位:分)を使用する。それから、ゾーンを停止し、浸透時間を考慮に入れる。この方法はサイクル浸透灌漑と呼ばれる。行うには、複式の開始時刻をコントローラー上で設定する必要がある。
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図2:サイクリングはこの写真のような水の流出を最小限にすることができる。
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節水のためのメンテナンス
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設置から時間が経てば、スプリンクラーシステムの一部がすり減ったり破損して、水を無駄にしたり、最悪の場合故障することがある。水を効率的に利用するためには、常に継続したメンテナンスが行われなければならない。例えば、スプリンクラーのヘッド(ノズルともいう)が行方不明になったり故障すると、ランドスケープにウエットスポット(水たまり)を作り、水流出をもたらす。(図3)
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図3:壊れたスプリンクラーヘッドは水を無駄にするだけでなく、周囲の植物にも悪影響をもたらす。 |
無計画で、あるいは、最初はそうでなかったのに何かの拍子でヘッドの向きが変わり、スプリンクラーが舗装面に散水して水流出を起こしたり、逆に水のかからないドライスポットを作り出すことがある。これを見たら、ヘッドカバーは、簡単に開けることができるので、取り外し、それからヘッドパターンを潅漑する植物の向きに調整しなおし、カバーを再び本体に差し込む。ノズルが詰まった場合も、ドライスポットを引き起こすが(図4)、ノズルは簡単にネジを回して抜くことができるので、下に入っているフィルタを掃除してから、締めなおす。また、時間が経つにつれて、ノズルがすり減り、スプレー・パターンがゆがむことがあるので、このときはネジを回してノズルを抜いて、新しいものと取り替える。

図4 芝生中に発生したドライスポット
スプリンクラーヘッドは地面に対して直角になるように調節する。ヘッドが傾いていると、一方の側により多くの水を散水し反対の方向により少なく散水するという、スプレー・パターンのゆがみを生じさせることになる。そして、ランドスケープエリア内に水の行かないドライスポットを生みだしたり、水が草刈り機や歩行を直撃するのもよくあることである。 ひとつのゾーンにあるすべてのスプリンクラーヘッドは、同じメーカーの同じ散水率(1時間につき散水される水量)を持つ、同じ種類のものを用いる。違う種類のものが混合されると、あるエリアでは過剰な水を受けることになり、別のエリアでは水をほとんど受け取らないということになりかねない。
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例えば、回転式(ローター)ヘッド(図5)は、同じ実行時間中に、スプレーノズル(図6)の水量の1/3しか放出しない。このため、ひとつのゾーンにローターヘッドとスプレーノズルを一緒に設置しないようにする。スプリンクラーヘッドから絶えず水が漏れるようであれば、コントロールボックスのバルブ(電磁弁)に漏れがあることを示している。漏れやすいバルブは取り替えるようにする。 散水は、ヘッドから散水される水が霧にならないように、推奨された圧力以下でシステムを作動する。ヘッドが圧力過剰に調節されていると、霧を吐出し、風に飛散して水を浪費することになる。水圧の高い地域では、システム内にインラインで圧力調整器(減圧弁)を付ける。逆に、低圧すぎると、大きな水滴を滴下させ、意図したエリア中に散水できなくさせる。この場合は、より少ない圧力で動くヘッドやノズルを使用するようにする。厳しい低圧状態の中では、ブースターポンプが必要とされる場合がある。
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図5:ローターヘッドは、ゆっくりと1つ以上の水の流れを出しながら回転し、スプレーノズルよりも大きな面積をカバーする。

図6 ポップ・アップ・スプレーノズルは、あらかじめ決まっているいくつかのセットパターン(1/4、1/2、3/4、全円または可変円など)に応じた固定されたスプレー帯を生む。ヘッドは、散水時に隆起し、終了後には撤収する。
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節水のためのシステム更新
完全にシステムを更新したとしても、2、3年以内で元が取れる。更新は地域社会が利用できる水を増やし、システムの維持がより簡単になり、ひいてはより健康的なランドスケープへと結びつく。
潅漑システムは、植物への潅漑を効率的にする一方で、水保全のためにデザインされるべきである。例えば、1つのヘッドからのスプレーは、隣のスプレーノズルに触れるところまで伸びるべきである。隣同士のスプリンクラーヘッドが遠く離れて設置されているところでは、均一な水範囲は達成されない。 メーカーが推奨する散水の重複範囲を達成するために、正方形または三角形のパターンでスプレーノズルの位置を決める。ランドスケープの主要なかたまり(植栽)からはみ出した小さなエリアでは、この重複を達成することができないため、スプリンクラー潅漑はほとんど不可能である。こうした小さいランドスケープエリアを設けることは止め、そうしたエリアは舗装あるいは、マイクロ潅漑システムで灌漑できる花壇にする。古い灌漑システムを使っていると、芝生の穂先より上にポップアップせずに、静止したスプレーノズルで散水するような非効率になっている場合がある。こうしたヘッドでは芝生の草丈を推奨高さである約8cmに刈ると、高い草がスプレーをブロックしてしまう。背が低いスプリンクラーヘッドは、芝草を短く刈り込むことで、遮る障害物も少なくなり、より多くの水を散水することができる。しかし、芝草の草丈が低くなれば、それだけその地面は乾燥しやくすなり、頻繁な散水が必要となる。そこで、古いシステムは更新、つまり思い切って捨てて取り替える。そうすれば、大きく水効率を上げることとなる。さらに、水があり、灌漑が必要でない時にはシステムを停止できるような、水センサーを併せて付ければ、言うこと無しである。この場合、マニュアルで停止させれば同様な結果を達成できるが、多くの場合、家を留守にしても役に立つのが雨センサーである。雨センサーは、十分な降水があるときに自動的にコントローラーを切る。同様に土壌水分センサーは、土壌が濡れていて潅漑の必要がないときにシステムを停止する。土壌水分センサーの場合は、いくつかの異なる場所に差し込むとそれぞれの露出環境が異なるため、乾燥する割合も異なるので、問題になる場合がある。1つの土壌水分センサーでランドスケープ全体に対する水の適用を規制するのは困難だということである。
将来に向けた技術革新--灌漑とランドスケープの新しい地平へ
技術の進歩は、灌漑(ランドスケープイリゲーション)を革新する可能性を持っている。なかでも注目すべきは ET(蒸発散)コントローラーで、これは適用すべき正しい水量を計算することによって実行時間を調節する。今までの当て推量灌漑に代わるものである。 ETコントローラーは、測候所(気象ステーション)情報に基づいて放送や電話回線により送信されたデータを使用するもので、もしこうした現在のデータが利用できない場合は、標準的な(史実に基づく)ET情報が、計算によりコントローラーにプログラムされる。これらの機器は市場で手に入れることができるようになったばかりであり、恐らく時間が経つにつれてより一般的になると思われる。 蒸発散(ET)とは、1日または1週間単位で、植物によって使用される水である。それは、植物に取り込まれた水と地表面から蒸発した水を含んでいる。 ETは、天候(日射、気温、風、湿度)と植物の成長段階によって影響され変化する。 芝生や植栽地を潅漑する新しく効率的な方法が、現在試験的に進行中である。地表下のドリップ潅漑ライン(チューブ)は、埋めることで風の流れによる水損失と蒸発による無駄を取り除く。しかし、この技術が長年にわたってどのように機能するか判断を下すには、時間が必要である。
新しいスプリンクラーシステムを設置したり、あるいは古いシステムを一新するように、ETコントローラを初めとするこうした技術にも期待をしたい。灌漑の新しい技術はランドスケープイリゲーション(灌漑)を革新し、それまでのランドスケープの思想を根底から覆す力を持っているのだから。
さまざまな潅漑方法の効率:
地表下のドリップ 90%、 地表面のドリップ(マイクロ)潅漑 85%、 大きなロータースプリンクラー 70%、 小さなロータースプリンクラー 65%、 スプレーノズル -スプリンクラー 50%
潅漑評価
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灌漑評価とは、あなたが使っている灌漑システムが、効率的かそうでないか、適切に使用されているかを評価することである。次の質問を読めば、あなたの住宅潅漑システムの検査と問題の修正に役立つであろう。この結果はあなたとあなたの地域社会にとって本質的な節水となるはずである。地域社会、水道局、企業のなかには、こうしたサービスを希望する人々のために、ランドスケープ水評価をしてくれるところもある。JXDAは、灌漑評価(調査)を実施している。
●スプリンクラーの灌漑評価●
ステップ1.
スプリンクラーヘッドの状態と種類を検査する。スプレーノズルの損傷や紛失がないかどうか、ラインでは水漏れがないかどうか定期的にチェックする。ヘッドが舗装面に散水をしていないか、逆に、水のまかれていない部分はないだろうか?目詰まりしているノズルはないだろうか?ヘッドが芝生や他の植物が繁茂した中に埋もれてしまってないだろうか?必要であれば、ねじ上げたり、掘り起こして、フレキシブルなライザー(スイング管)の先にヘッドを付け替えたり、あるいは柔軟性のないライザーにつけたヘッドを平面レベルまで上にあげるためにねじ山をつけたライザーを付け加える。
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図7:ランドスケープ内からハードスケープに向かって水を投入せずに、ランドスケープにウォーターバックを投入するために、ヘッドはハードスケープエリアに沿って並べる
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どの種類のヘッドを設置したらよいのだろうか。スプレーノズルは、ローターヘッドの1/3の時間で、同量の水を吐出する。ローターヘッドは、大きな芝生エリアの潅漑に適しており、スプレーノズルよりも効率的と評価される。2つのランドスケープに対して同量の水が必要な場合には、ローターヘッドでは、スプレーノズルゾーンの灌漑時間(分)を3回実行するようなゾーンを設定することになる。ひとつのゾーン中で使われるヘッドはすべて同じ種類のものにする。もし違うものが紛れていたら取り替える。
ステップ2.
エリアは平地だろうか、斜面だろうか?
斜面とバーム(小丘)では水は自然に流出してしまうため、効率的に潅漑をするのは難しい。斜面では、低い散水率のノズルに、循環と浸透の灌漑方法を用いる、サイクル浸透灌漑を行う必要がある。コントローラー上で実行時間の調節を状況に応じて行う。
ステップ3.
ドライスポットがないかどうかチェックする。
ドライスポットは、スプリンクラーヘッドが互いに離れすぎて設置されたり、推奨される正方形か三角形のパターンで設置されていない場合、カバーされる範囲が不十分になることで生じる。他の原因としては、低いシステム水圧、詰まったノズル、または南や西に面しているか、風が吹いて露出されることにより生じる。
ステップ4.
ウエットスポットがないかどうかチェックする。
ウエットスポットは、一つのゾーンから次のゾーンへと灌漑を止めた後、もっとも低い位置へと水が排水された結果、できる。これは、正常なシステムの排水として当然生じるべきものなのであるが、北に面して露出したエリアや陰になっているエリアで水をやりすぎることで発生しやすい。また、バルブから水が漏れていると、水道の蛇口から滴が落ちるように、ヘッドからも絶え間なく水漏れする。そしてウエットスポットができる。この場合、バルブボックスを開け、ソレノイドバルブ(電磁弁)の中ですり減ったダイヤフラムを交換するか、それをシールで密封した後、バルブ本体を元の場所へ戻す。
ステップ5.
日なた、日陰、南西の斜面、その他に何か、露出の環境はどうだろうか。
状況に応じて、コントローラー上で灌漑の実行時間を調節する。陰地や北に面しているエリアは、おそらく日なたに面しているエリアの1/2の水量ですむ。また、南か西に面した斜面は、その地の日なたのランドスケープエリアの2倍の水を必要とする。
ステップ6.
どの種類の植物が生育しているか。
同じ水分要求を持つ植物をグループ化して、適切に潅漑する。例えば、活着したら低〜中程度の水利用をする潅木のボーダーが必要とする水は、ブルーグラスの芝生や菜園が必要とする灌漑量よりもずっと少ない。
ステップ7.
散水率を計算し、コントローラーをセットするために実行時間を決定する。
もし分からなかったり、メーカーがスプレーノズルの毎時散水率を定めた資料の値を、実際に確認する必要がある場合は、次の方法で確かめる。
ゾーン内のスプリンクラーヘッドの間に、同じ形材質の缶を垂直に4つ置く。置く場所は自由。 15分間にわたって灌漑を作動する。 缶の中に集められた水は、mmという一つのルールで計測する。各々の缶は15分間の収集時間に相当する量であり、4つの缶の総水量は、15分間を4回繰り返したときに得られる水量あるいは、1時間の水量を表している。こうして計測された水は、そのゾーンでの、毎時あたりのスプリンクラー散水率を表す。
その結果をもとに、コントローラにセットする実行時間(単位:分)が算出される。
*JXDAは、国際非営利団体イリゲーション協会の正会員です。
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