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果樹と条植え作物のためのマイクロ灌漑

 


  • マイクロ灌漑は、低圧低量の潅漑システムで、果実や野菜のような高いリターン値の作物への利用に適している

  • マイクロ灌漑は、適切に管理されれば収穫量を増加させ、水や肥料、必要労働量を減少させる

  • マイクロ灌漑は、植物の根域にのみ水を与え、高い使用効率と水配分均一性によって水を節約する

  • マイクロ灌漑は、洪水灌漑のできない斜面や不規則な形状の土地でも用いることができる

  • 水溶性の肥料ならば、すべてマイクロ灌漑システムに注入することができる

 

 

果樹や畑に一列に規則正しく植えられた作物への灌漑は、マイクロ灌漑が適している。作物によっては、スプリンクラー灌漑も用いられるが、果実や製品部位に水がかかることによる品質劣化を避けたいものには、マイクロ灌漑が最適である。マイクロ灌漑とは、ドリップ灌漑の他に、ミスター(霧状噴霧器)、スプレー、ミニスプリンクラーなどのエミッターを用いたシステムもある。いずれも、低い位置で吐水をし、小規模の水浸透パターンを伴う、低圧下で作動する灌漑システムである。水と肥料を個々の植物に直接与え、地表面の一部分だけを濡らす。水は根域に直接与えられる。適切に管理されれば、収穫量を増加させかつ水や肥料、必要労働量を減らす可能性があり、近年注目されている。

マイクロ灌漑システムは、圧力と吐水量によって主に4つに分けることができる。(下表)

 

マイクロ灌漑のシステムの特性
  圧力(PSI) 量 (gal/hr)
ドリップ 15 0.5 - 2
ミスター 15 2.0 - 5
スプレー* 25 5.0 - 20
ミニスプリンクラー 25 - 35 10 - 50
*マイクロスプリンクラー

 

ドリップシステム

ドリップシステムは、水を地表面あるいはそのすぐ下の土壌に直接、所定のパターンで低圧力もと水を与えてくれる。そうすると土壌に浸透する水の浸透断面図(浸透プロフィール)は、各エミッターの下にある植物の根域内で発達することになる。(下図1)水の浸透断面図の形状は、土壌特性に依存するが、図1で示されるように、多くは玉ねぎのような形になる。これを見ると分かることは、同じ地表面でも、エミッターから離れた土壌は乾燥のしたまま偶発的な降雨からのみ水分を受け取ることができるが、必要なところ(エミッター下)は水が土壌に広がっているという形になっている。補完的な水の使い方としては理想的である。

 

マイクロスプリンクラーシステム

マイクロ灌漑システムの他の方式(ミスター、スプレー、ミニスプレー)は、大気を通じて水を運ぶマイクロスプリンクラーシステムと名付けることができる。「マイクロ」と名前がつくのは、いずれも低圧と低量で、通常のスプリンクラーシステムに比べると湿らせることのできる直径はかなり小さいからである。このスプリンクラーのエミッターは2〜3cm程度のもので、通常短いライザー(管)の先に付けられている。その口から圧力をかけて出される水は、水滴となり、地面に達する前にごくわずかな距離ではあるが旅行することになる。であるから、風の強い日には、散水した水のほとんどが無駄になる。マイクロスプリンクラーシステムによって湿らせることのできる面積は小さく、その分、配置を容易にコントロールできる。そして、分散パターンには、さまざまな形状のものがある。 (全円、半円、1/4円、他)

 

マイクロ灌漑システムの長所

マイクロスプリンクラーシステムの長所は、霧のように柔軟に水の供給をコントロールするので、詰まりによる故障の発生が少ないことである。ドリップシステムの長所は、低圧で作動し、蒸発と雑草が消費する水を減らし、小さな面積や不整形の植栽地でも利用できることである。肥料注入は両方のシステムとも可能であるが、ドリップシステムとともに用いた方が、肥料の散布をより正確な位置へとすることができる。除草剤と殺虫剤はどのシステムとも一緒に用いることはできない。

 
図1: 根鉢の周囲にエミッターを配置すれば、水分浸透断面図は、その下、ちょうど根域中で発達する。

いずれのマイクロ灌漑システムも、プログラムによって高頻度に灌漑し、植物にとって最適の土壌水環境を築く。適切に用いれば、植物の根域だけに水を供給し、根域よりも下への深い浸透や、非有益な植物による消費、地表からの蒸発などの本来不必要なことに水を使わなくてよいので、水を節約することになる。しかし、忘れてはならないのは、作物の根域より下の深い地中へと浸出する水の流れは、根域内に塩類が過度に蓄積するのを防ぐために必要である。深く浸出した水は、地下水位へと達し地下水を涵養する。地下水の保全は、大きな水循環から見て決して無駄とはいえないが、水道代もかかるような上水での灌漑を頻繁に行う際には、ある意味「無駄」となる。利点があるにせよ、地下水の涵養は、自然降雨をできるだけ地中浸透させることにより専心すべきと考える。

マイクロ灌漑システムは、斜面や、不規則な形状の土地で、洪水灌漑やスプリンクラー灌漑が不可能な場合にも有益である。敷地の高低差が小さければ、重力圧力上(動力を用いない)でシステムを作動することができる。

 

システム・レイアウトと設備


典型的なドリップ灌漑システムヘッド

 

●システムヘッド(主要部)●

灌漑のシステムは、システムヘッド(主要部)と配水網から構成される。水ため(貯水槽)・ポンプ・フィルター・流量計・圧力計・肥料注入器・圧力調整器・コントローラー+電磁弁が、一般の構成要素である。ヘッド部分の構成はこれはマイクロ灌漑でも変わらない。

流量計と肥料注入器については、あれば大変望ましい。特に後者は、果樹や作物栽培ならば必須であるが、ランドスケープでの灌漑ではあくまでオプション設備である。そして、もしシステムを手動で作動させるならば、コントローラーは不要となる。

 

●>配水網●

<基点>

配水網は、大抵はポリエチレン(PE)で作られている管材、管取付器具(コネクター)エミッター、から構成される。配水網の基点は、ヘッドにある電磁弁である。異なる灌漑ゾーンが複数設定される場合には、その数だけ電磁弁が必要であり、マルチ制御のできるコントローラが必要となる。

 

<フィルター>

フィルターは、エミッターの小さな吐出孔やライザー(引き出し管)の細い管に異物が詰まらないようにするために、マイクロ灌漑システムには不可欠である。フィルターには、基本的に2つの種類、等級別のサンドフィルターとスクリーン・フィルターがある。少なくともどちらか1つのフィルターが必須である。ドリップ潅漑システムは通常、マイクロスプリンクラー灌漑システムよりも多くのフィルターを必要とする。水源が地表水(掘、貯水池)である場合は、両方のフィルター(サンドおよびスクリーン)を併用する。フィルターの選択は、水源の種類、水中の汚染物質の濃度、ろ過水として必要な品質、流量およびコストによって決定する。

エミッターの種類によっても、必要なフィルターが異なってくる。より大きな孔を持つエミッターならば、精度の高いフィルターの必要性は少なくなる。

フィルターの設置後は、定期的にバックフラッシング(逆転洗浄)を行う。 バックフラッシングは、手動あるいは自動で行うことができる。

水溶性の肥料は、どのようなものでも、マイクロ灌漑システムに注入できる。肥料に適した肥料混入器を用いて、溶解しなかった物質を削除するために、肥料を注入前に必ず先にフィルターを設置しておく。

 

<圧力調整器>

マイクロ灌漑システムは、低圧で作動ので、ポンプコストは少なくて済む。しかし代わりに、圧力調整器が必要な場合がある。圧力調整器は、配管(パイプ・チューブ)内の側壁圧力を制御するために使われる。勾配の変化が大きい場所では、複数の圧力調整器を使うのが望ましい。しかし、予め圧力補正されたエミッターやエミッターチューブを使うのならば、分岐管では圧力調整は必要ない。これらエミッターやチューブの種類は「定流量」と書かれているので、それを目安に選択するとよい。

 

●敷設●

主管となるポリエチレン管は一般に、各畝に沿って地表面に敷かれるか耕作作業を容易にするために地表面下に埋めて使用される。

下の図は、アメリカの資料から特徴的な15エーカーのレイアウトを示したものである。多岐管、主管、支管は、通常埋められている。

 


典型的な15エーカー(6ヘクタール)のシステム・レイアウト

 

図の側部(細かい配管)の目的は、樹木毎や植物畝に沿って設置するドリッパーに水を供給することである。果樹園では、新しく植えられた樹木1本に対してエミッター1つというのが適切で、樹木が成熟したらエミッターを追加する。側部は最大の水適用に対して長さをとっておくべきである。

 

●エミッターの仕組みと選択●

ドリッパーは、吐出孔で圧力をかけて少量の水を通過させ、水滴を生じさせる。 スプリンクラーやスプレーは、ドリッパーより大きな面積一帯に水をスプレーするために圧力をかけて水を噴出する。エミッターの吐出特性は、水圧とエミッターの種類に依存するので、目的とコストに応じて選ぶ。

エミッターホースは、ドリップチューブともインラインドリッパーとも呼ばれるが、規則的に密植された条植え作物にふさわしく、単独のエミッター(ドリッパーまたはオンライン・ドリッパー)はその一方で、個々の独立した樹木やまばらに植えられた植栽に適している。圧力補正され、末端まで定流量が保証されている製品ならば、圧力調整器がなくとも拡張できるため、一般の敷地にも適しているし、特に傾斜した地形にふさわしい。ただし、せっかくの製品も最大推奨長を守らなければ、正しく機能しない。

ミスターは、栽培温室のように、外部と隔離された場所の湿度を増加させるのに利用される。 マイクロ(ミニ)スプリンクラーが低圧下で、マイクロ灌漑のなかでは比較的大量散水、大面積をカバーするのに使用される一方、スプレー、ミニスプレーは軽度の水利用に使用され、濡れる面積と形状を制御する。また、アメリカでは、ミニスプリンクラーとスプレーは、果樹園の霜の管理策として、また、りんごを日焼けから護る蒸発冷却としても使用されている。

INDEX
灌水は簡単になった
住宅灌漑システムの運転とメンテナンス
住宅庭園用ドリップ潅漑
●果樹と条植え作物のマイクロ灌漑
灌漑スケジュールの作成

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