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第8回:非常気象―気候変動は我々に責任があるか?

文:小出 兼久 2006.08.17 写真:AP通信

 

 


渇水、洪水、熱波、ハリケーン、竜巻と、世界中で非常気象が大見出しで報じられている。以前はこのような気象ニュースは、後に知ることが多かった。しかし今日のニュースは、この地球規模の出来事を今の気象として発信するので、我々は、世界中で起きていることをより早く知ることができる。瞬時に送られてくる情報を、我々は家庭で即座に映像を通して見ることができる。気象ニュースは我々の現実の環境を確かに変化させている。

 


非常気象と気候変動

今日、気候変動の問題は非常に多く議論されている。それは今や、世界が徐々に温暖になっており、平均気温が上昇し続けていることを示す証拠となっている。海面においても同様で、極地の氷は減少している。そして、世界のあらゆる地域で降雨が増加している。このことは、今後、劇的で破壊的な非常気象*が、さらに増加していく序章なのかもしれない。
*非常気象・・・日常的に私たちが経験のしたことのない気象。日常気象の反意語。

 

気象変動に関する議論で、変動の要因のひとつは人間の活動によってもたらされているという意見があり、一方で、気候変動は自然の世界的変異の構成要素であるとか(つまり気象だけでなく自然世界全体が原因はともかく変化していると言う意味)、また、長い目では気象変動は循環しているという見方がある。

人間の活動は実際の気候変動とはあまり関係ないと思う人もいるが、我々は、人間活動のもたらす影響について、最初に考えなければならない環境にいる意識を持つべき時だという意見もある。例えば、降水パターンが以前と変わっていることは誰もが分かることだが、例えば洪水の原因は、気候変動だけを原因とするのは難しく、土地利用による影響も考えるべき要因であることは想像できるはずである。森林破壊と市街地開発のような土地利用の変化が、洪水の頻度や発生場所に影響をもたらす、つまり、洪水が多発するという非常気象は、単に降雨パターンが変化したという気候変動だけによらないということは理解できると思う。この線引きがやっかいだ。どこまでが、自然の領分でどこからが人間のせいなのか、それともまったく自然だけのせいなのか、人間だけのせいなのか・・・結論が定まらない点はここにある。

 

2003年の夏、ヨーロッパのほぼ全域は非常に暑く乾いた季節を迎えた。特に英国では、過去最高気温が8月に記録されている。過去500年間で最も暑い夏であった。これは、それまでの記録上で最も暑い年とされた、1990年以後に発生した新たなる非常気象である。
1990年当時、メット・オフィス(英国の研究所)の気候予測研究では、自然科学者たちは、この規模の熱波が再び起こる可能性があると予測していたが、それによれば、熱波は、大気中の温室効果ガス濃度が増加したことを示し、我々にとって危険が2倍になったことを示すという。それが、再び2006年の夏にも世界規模で起こるのではないかという見方が現在ある。
この研究は、未来の気候は変化に富み、北半球の気温は上昇する可能性があると予測している。地球全体では、より暑く乾燥する夏とより温暖く湿気の多い冬がもたらされるようになり、降雨の場所は、季節的に特定の地域だけ降るようになり、渇水と洪水がひどくなり、発生の回数も増すだろうというのである。

 

多くの人々は、昨年のカタリーナ(米国のハリケーン:台風)のように、非常気象には破壊力があるので気象に注目している。人々は強いハリケーンが今後も来るのか、発生する頻度はどのくらいか、を知りたいと切望しているのである。
ハリケーンの研究には、さまざまな要因を考慮しなければならないが、現在では、比較的短期間でその発生が予測できるようである。しかし、確実な観測が得られるようになったのは1970年以後であり、今までに短期間のデータしかないため、自然がもともと持っている不安定性と人間の影響で起きた気候変動と、どこで区切ったらよいのかが、まだ分からないと言う。

 

今は、ハリケーンの発生と維持は、約27度の海面水温が必要なことが分かっている。最近、熱帯の大西洋では、海面水温は長期平均よりもわずかに高く27度前後である。そこでこれが、台風の活動が増加すると発表された理由の1つとなっている。しかし台風の活動は、数10年単位で循環して変動するようで、つまり、1960年代や1930年代は高活性の時期だったが、1970年〜1994年は低活動となっている。そして、1995年からは再び増加傾向にある。今のところ台風のもと熱帯低気圧の活動と気候変動が関連する証拠はわずかしかない。

 

英国気象センターの自然科学者たちは、 今の世界の気候は、過去一万年の中でも先例のない変化を経験していると語る。
彼らは気候不安定性の原因として、変動について説明できるのが人間の活動が考慮に入れられる時だけであるとしている。しかし、その証拠が確立していない。
我々は、過去の歴史においても気候変動を経験しているので、その紐を解けば、変異を説明できるのではないかという意見もある。いずれにしても、気象変動が非常な気象を引き起こしていることに疑問の余地はなく、未来へ向けて、引き続き十分な研究を提供することが重要である。その意味で、気象ニュースは現実に新しい役割を果たしているといえる。

 

非常な気象の要因

●地球規模で平均気温が上昇し続けているのは事実である
●気候変動は自然の世界的な変異または循環による
●ハリケーンの発生には、約27度の海面水温を要する
●我々の気候は過去にも変動を経験しているので、最近の変異も説明できる
●気候変動は自然の世界的な変異による
●大気中の温室効果ガス濃度が2倍になった


第7回へ / 第9回へ

過去と未来の気候と緑
第15回(最終回)地球温暖化 深刻に考える時期
第14回 2007年の警告 エルニーニョ現象は気候変動の引き金となる
第13回 植物の「ノアの箱船」は用意されている
第12回 生物燃料はグリーンエネルギーか?死神か
第11回 次世代燃料のもたらす未来
第10回 水の乱用は地球を犠牲にする
第9回 2006年夏、中国の気象危機
第8回 非常な気象ー気候変動は我々に責任があるか?
第7回 気候変化による危険:自然は凶器
第6回 英国を襲う渇水の恐怖
第5回 地球観測衛星隊ーNASAのA列車ー
第4回 気候変化のB面
第3回 地球温暖化で急速に広がる伝染病からの警告
第2回 気候からの冷酷な警告
第1回 気候変化の危険ー洪水ー
 
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