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重圧の下の地球から
文:小出兼久 05.12.14
12月10日。京都議定書第1回締約国会議(COP/MOP1)は、議定書に定めのない2013年以降の温暖化対策に関する「対話」の場を設けることを盛り込んだ「モントリオール行動計画」を採択し閉幕した。
参加を拒否していた米国に対し、議長国であるカナダが「対話は公式には交渉の場ではない」とすることで歩み寄った。これで「ポスト京都」に対する議論の場は一応整ったが、実効性には今も疑問を残していると私は感じている。
採択までのプロセスの中、クリントン前大統領のブッシュ政権に対する厳しいコメントと義務的な目標を受理させようとするカナダの試みをもってしても、米国を議定書の枠組みに組み入れることは最後まで成立しなかった。そのクリントンは、ブッシュ政権がCO2排出量の削減目標に反対している声明の主要な綱領を非難した。すなわち、ブッシュがそれ(注:数値目標を達成しようとすること)は米国経済を害するだろうと強調したことを非難したのである。クリントンのコメントによれば、「加速し、人間の活動によって引き起こされた、気候変動が本当であることについて重大な疑問はもはやない・・」また「・・米国は大規模な現存のクリーンエネルギーやエネルギー節約(省エネ)工業技術の上で真剣に開発努力をすれば・・・我々は、ある意味では京都議定書の数値目標に容易に対応し、数値目標を達成することができる。それにより、我々の経済は弱まるのではなく強くなるだろう」と。確かにクリーンエネルギーや省エネに関する研究は、ずば抜けている米国だが、「地球温暖化」が政治家の駆け引きに使われていることも事実である。

人口、水使用、二酸化炭素濃度、自動車数など - 我々の地球に対して増加する重圧のグラフ
我々が今日直面している最も緊急の問題をまとめてみた。
我々は成功した種である。ヒトの起源から我々へ至るまでの進歩は、我々に天地の近くで支配とそれを速やかに理解することをもたらした。
自然科学者が、
人類が地球の主たる力になった時、我々は大地の歴史の新しい段階(*Anthropocene時代)に踏み入れることになる、
と発表してからすでに40年以上の月日が経つ。論文では、著名な科学者たちそれぞれが、我々があまりにも成功してしまったと心配している。大地に対して先例がないほどの人間の重圧がかかっているこの生態系は、我々自身が種として我々の未来を脅かす。我々は、以前のどの世代よりも手に負えない問題に直面する時代を生きており、こうした問題のいくつかは、解決不可能だろうとも語られている(『人間の行為』ハーバード大学出版)。
今日ほとんどの科学者は、次の6項目それぞれが重大な局面にさしかかっていることを指摘している。
食物
食物を増産する試みが、土地の生産性に損害を与えている間、6人中1人は、飢餓と栄養失調に苦しんでいると推測される。
水
2025年までに、世界人口の2/3は、激しい水ストレスを受ける地域に住むことになる。
*水ストレス=水の過不足:干ばつ、洪水、豪雨、台風やハリケーン
エネルギー
石油生産はまもなくピークに達するかもしれなく、2010年までにその使用を削減するための再出発を求められる時期に来る。
気候変化
世界に対する最も大きな環境の挑戦であり、トニー・ブレア首相(英国)は、豪雨、洪水、干ばつは増加し、種の絶滅は加速して減少すると予測している。
生物多様性
多くの自然科学者は、大地が現在6度目の大きな絶滅段階に入っていると考えている。
汚染
現在、全世界の新生児の体内から危険な化学化合物が見つかっている。また、人4人のうち1人は、大気汚染物質が健康に害をおよぼす濃度に高まっている環境の危険にさらされている。

大気汚染は、世界中の大都市において重大な問題となっている。(c)AP通信
上記の問題は、すべて相互に関係する緊急の課題である。例えば、気候変化がそれらを滅ぼそうとする時、あるいは、人々が必要とする水がそこにない時、種と生息地を保存したり、斬新な作物を展開しようとすることは無意味となる。地球には約60億人以上が生活していて、現在の変動傾向によれば、2050年までには約89億人(国連統計)を超えるそうである。人口増加はさらなる問題をもたらすかもしれない。
一方で、貧困の中で暮らしている人々の割合は減少し続けている。しかし、彼らは生活を豊かに改善するために、我々の努力を上回る努力をしなければならない。大抵の人々が上昇し続けるからである。また、多くの人々にとって貧困から脱出するのには、環境を開発する以外に選択の余地が残されていないせいか、貧困の解決は慎重にと言う風潮の問題もある。また、貧困はフラストレーションをあおる。なかでも、成長を妨げる社会構造と高い死亡率に対して社会を非難することになる。しかしこれらは、両方とも重大な問題であるが、回避可能な問題なのである。

化石燃料に対する依存がCO2排出量を押し上げる。(c)AP通信
答えの困難な沢山の問い
さらに我々の地球は、答えよりも疑問に満ちている。
−大地は、どのようなライフスタイルを維持することができるのだろうか?
−我々の何人が、例えば北部の消費水準で暮らすことができるか。
また、もしすべての人の貧困が解決するなら、どの程度の水準が予想されるべきか?
−人々が生存のために環境を用いる場合、我々は貧しい人々が環境を尊重するのを
期待できるだろうか?
−環境にやさしい生活は、贅沢だろうか、それとも豊かだろうか、そして、
皆のために必要だろうか?
さらに、
−我々は環境問題を解決したと社会の中で語って、それが真実の場合、
どのように行動することができるのだろうか?
種の生存
我々は種の生存に対してあまりにも無関心である。多くの人々がより健康に、より長い寿命を求めて実践している。しかし、我々自身は成功との関係によって将来を考えなければならず、種の弱点を自分も他の種に関しても理解する必要がある。地球に暮らすことは、我々が今仮に・・と考えることを放棄させないという意味でもある。我々は他の種と地球を共有しつつ、十分な生活をするべきなのである。
つまり、我々が直面する課題は、我々の消費量に罪があるかどうかであり、「緑」を高潔に感じることとは関係していない。それは、人類は進歩しているか、していないかという、成長評価に関係している。発明の才と工業技術は、よりよい世界への希望を与え続ける。しかし、飢餓や容易に予防できる病気から毎日約30,000人以上を救うために、発明や工業技術は必要とされない。
地球にかかる重圧に直面することは、我々を含む生態系の生存について考えることになる。我々は2006年の新しい時代を迎える。しかしさらに多くの危機が近づいている。このことが多くの人たちに認識されない限り、京都議定書は幻で終わる。

バングラデッシュは、気象変動により増加するであろう洪水に直面する準備ができている。
お勧めの本

The Word of God and the Languages of Man
Interpreting Nature in Early Modern Science and Medicine : Ficino to Descartes (Science and Literature Series)
James J. Bono (著), University of Wisconsin Press (著)

Coastal Fluxes in the Anthropocene:
The Land-ocean Interactions in the Coastal Zone Project of the International Geosphere-biosphere Programme (Global Change - the Igbp Series)
Hartwig H. Kremer (著), Han J. Lindeboom (著), Janet I. Marshall Crossland (著), Martin D. A. Le Tissier (著), Christopher J. Crossland (編集)
Anthropoceneに関する補足資料
参考資料
1. Encyclopaedia Britannica, Micromedia, IX, (1976).
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University Press, 1965.
3. W.C. Clark, in Sustainable Developement of the Biosphere, W.C.Clark and R.E.
Munn, Eds.,(Cambridge University Press, 1986), Chapt.1.
4. V.I. Vernadski, The Biosphere, translated and annotated version from the original
of 1926, (Copernicus, Springer, New Yorck, 1998).
5. B.L. Turner II et al., The Earth asTransformed by Human Action, Cambridge
University Press, 1990.
6. P.J. Crutzen and T.E. Graedel, in Sustainable Developement of the Biosphere, W.C.
Clark and R.E. Munn, Eds.,(Cambridge University Press, 1986).chapt.9.
7. R.T. Watson, et al., in Climate Change.The IPCC Scientific Assessment J.T.
Houghton, G.J. Jenkins and J.J. Ephraums, Eds., (Cambridge University Press, 1990),
chapt.1.
8. P.M. Vitousek et al., Science, 277, 494, (1997).
9. E.O. Wilson, The Diversity of Life, Penguin Books, 1992.
http://www.mpch-mainz.mpg.de/_air/anthropocene/Text.html (6/7)2005/12/14 5:44:15
anthropocene
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11. E.F. Stoermer and J.P. Smol Eds.The Diatoms:Application for the Environmental
and Earth Sciences (Cambridge University Press, Cambridge, 1999).
12. C.L. Schelske and E.F. Stoermer, Science, 173, (1971);D. Verschuren et al.J. Great
Lakes Res., 24, (1998).
13. M.S.V. Douglas, J.P. Smol and W. Blake Jr., Science 266 (1994).
14. A. Berger and M.-F.Loutre, C.R. Acad.Sci.Paris, 323, II A, 1-16, 1996.
15. H.J. Schellnhuber, Nature, 402, C19-C23, 1999.
IGBP Newsletter 41, May 2000
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