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アスベスト汚染とバーミキュライトの安全性:知っていましたか?

文:小出兼久  05.8.5

 

これは、米国でバーミキュライトに含まれるアスベスト (石綿) の危険性が指摘されたというニュースである。我々が普段何気なく園芸で使用しているバーミキュライトに関して、米国では社会的論議が4〜5年前から続いていた。そして、法廷闘争(訴訟)に発展している今日、バーミキュライトは「安全」か?との質問に対して・・・・危険ではないが、注意は必要!として、米国政府の調査機関が情報を公開している。

世界的なアスベスト汚染は承知の通りである。その汚染対策として、より徹底して改善策を打ち出し、速やかに対処してきた米国は、バーミキュライトのアスベスト汚染にも注目している。

以下は、EPA(米国環境保護庁)の資料を参考にバーミキュライトとアスベストの関係を取り上げてみた。いたずらに危機感を煽るのではなく、ただこういうこともあるということを認識してもらえることが、本稿の目的である。

 

バーミキュライトのアスベスト汚染

バーミキュライトとその製品におけるアスベスト汚染は、EPA(環境保護庁)、OSHA(安全衛生庁)、CPSC(消費者製品安全委員会)、ATSDR(毒性物質疾病登録機関)などのさまざまな連邦機関と国の至る所で多くの市民が関心を寄せる国規模の問題となっている。相当量の情報が、印刷媒体、テレビ/ラジオとインターネットによって、公に利用可能となっている。EPAのバーミキュライト・ページは、ユーザーにバーミキュライトとその用途に関する基本的な情報、データ表、質疑応答文書、報告書と、EPAの地方別バーミキュライト・ページへのリンクを提供している。このページに含まれていない他の関連情報については、連邦政府や州など地方政府、産業や商業組合と国際的なソースから利用可能である。

 

これに対して日本では、この種の情報公開が少ない。おそらく、生産者、園芸店や一般の人は、バーミキュライトについての詳細を知らないであろう。我々は、市場に出回るバーミキュライトがどこの国で生産されたもので、どこからいつ輸入されたのか知らされていない。しかも、それが安全かどうかも知らないままに使用してきている。仮に安全という答えが出たとしても、現状では不安は残る。米国のように公開される情報がない。日本はこんなことで大丈夫なのか?この際、バーミキュライトを徹底的に検証するべきである。我々は多くのことを学ぶ必要がある。

 

米国環境保護庁(EPA)は以下の点を呼びかけている。

 

  • バーミキュライトの混合作業は、屋外か排気が十分な部屋で行う

  • バーミキュライトは水で湿らせてから作業をする

  • バーミキュライトを使用した作業の後は、衣服への付着を十分に除く

  • 出来るだけ農芸用の既成混合土壌を使用する(自分で作らない)

  • ピート(peat)、おがくず、パーライト、バークなどの代替品を使用する。

 

EPA汚染防止有害物質部(OPPT)とEPA地域10*は、バーミキュライトを含む消費者用ガーデン製品に関する独立した調査を行い、共同で単一報告書として調査結果を発表している。

*EPAは合衆国全土を10の地域に分割し、各地域ごとに事務所を開設している。地域10とは、AK;アラスカ ID;アイダホ OR;オレゴン WA;ワシントン州のことである。

 


バーミキュライトとは何か

バーミキュライト(Vermiculite:蛭石)は、外観が雲母とよく似た粘土鉱物で、水和する薄層をなすマグネシウム-アルミニウム-鉄ケイ酸塩に与えられる鉱物学上の名前である。通常使われるのは全て焼成品である。バーミキュライトは熱せられると、剥離するか膨張する虫(蛭)のような特異な性質を持っている。バーミキュライトという名前はラテン語の「vermiculare―虫を生じさせる」に由来する。商業用途の根拠となるこの剥離特性は、水から水蒸気への急速な変換によって層が力学的に分離した結果である。商業レベルでの容積量の増加は8倍から12倍であるが、個々の薄片の中には、30倍も剥離するものもある。バーミキュライトと炉温の構成に応じて、膨張中に色変化が生じる。

 


バーミキュライト:左より膨張前、膨張後、1片の写真
(c)Vermiculite.net
 

 

バーミキュライトとアスベストの関係

バーミキュライト鉱石はすべて、岩中にバーミキュライトと共に形成された一連の他の鉱物を含んでいる。その中には自然に生成するアスベストもあり、このためバーミキュライト鉱石はアスベストを含む可能性もある。米国では70年代に一部の鉱山(注:モンタナ市リビー鉱山)からのバーミキュライト鉱石には、アスベスト鉱物が含まれていることが発見され問題となったが、しかし、アスベストはバーミキュライトに固有の鉱物(必ず含まれる)というわけではなく、そういうケースもあるということで、その場合、ごくわずかの量が含まれていることが分かっている。

ここでは、第一にバーミキュライトには鉱山によってアスベストが含まれる可能性があることを知り、第二にたとえほとんどが無害と思われる場合でも、万一に備えて適切な措置とともに扱うようにしたい、ということを述べたい。いたずらに危機感を煽るつもりはないが、アスベストが問題と取り上げられている昨今、わずかであってもこうしたことがあるという認識と情報の公開は必要だと考えている。

 

バーミキュライト鉱山は、地表で、他の鉱物からのバーミキュライト鉱石の分離や、次にいくつかの基礎的な粒径へとふるわれ分類されるという操業が行われる。世界の様々な地域で見つかっており、主要な商用鉱山は、オーストラリア、ブラジル、中国、ケニヤ、南アフリカ、アメリカとジンバブエにある。現在アメリカ産は、EPAなどの管理下にあり、アスベストの危険は取り除かれている。注意をすべきは、他の国から産出されるバーミキュライトはどのような状況にあるのか、わからないことで、JXDAでも分かり次第取り上げるが、どなたか情報をお持ちの方はご一報をお願いしたい。


南アフリカパラボラ(Palabora)鉱山

 

 

バーミキュライトはどのように利用されているか?

バーミキュライトは80年以上の間、さまざまな産業界で使われてきた。膨張したバーミキュライトは、軽く、すぐれた耐火性、吸収性のある無臭の素材で、こうした特性のために、屋根裏断熱材、包装材とガーデン製品などを含む多くの製品が作られ、主に、建造物、農業、園芸、産業市場で利用されている。

 


 一般的な用途

 梱包材 軽量骨材 土壌改良材 アスベストの代替品 吸収材 防火材 
 産業断熱材 など

 特定の用途

 建築

 防音仕上材 石膏プラスター 気硬性バインダーボード ロフト断熱材
 防火材(室内/室外)
 防音コンパウンド 床と屋根のスクリード など

 農業
 飼料 殺虫剤 種子カプセル用材 充填材 土壌改良材 肥料
 ブロック用混合土 種子発芽 水耕法 実生苗用のウエッジ混合土 
 組織培養 堆肥 鉢用混合土 抜根作業 など
 産業
 吸収性梱包材 断熱材およびブロック ブレーキパッドおよびブレーキシュー
 断熱材―高低温 キャスタブル など



2005年5月NYタイムズ

最近バーミキュライトにアスベスト汚染物質が含まれているという記事が発表されているが、これはリビーモンタナ鉱山に特定の話である。リビー鉱床には、Biotite(黒雲母ーケイ酸塩鉱物)とDiospide(透輝石)が存在しているというのが、その理由である。何百万年の時を経て、Biotiteはバーミキュライトに変化し、Diospideはアスベストに変化する。

この問題は、70年代後半ごろに報じられている。鉱山の所有企業であったW.R.Graceは鉱山を閉鎖し、ほとんどの訴訟も結審している。リビー鉱山のアスベスト含有問題が表面化してから、アメリカのバーミキュライト業界は、アスベスト含有がなく安全であることの確認検査を慎重に行っている。


注)
黒雲母:ケイ酸塩鉱物。多くは花崗岩中に含まれる。耐火性が強く、電気の絶縁に用いる。
透輝石:カルシウム、マグネシウムを主とする輝石。超塩基性岩や石灰質岩石起源の変成岩にしばしば含まれる。

リビー鉱山:バーミキュライトは1881年にモンタナ市リビーで金の鉱山労働者によって発見され、1919年にエドワード・アレイがそのユニークな特性を発見した。
1920年代にZonolite会社がバーミキュライト鉱業を形成して、操業を開始し、1963年にW.R.Grace社がZonoliteより鉱業操作権を買った。操業中、ここは世界の供給の80%をまかなっていたともいわれ、全米でも70%以上を占めていた。バーミキュライトは絶縁体と土壌改良材として使われていた。やがてこの鉱山で採掘されるバーミキュライトがアスベストに汚染されていることがわかり、鉱山労働者と周辺住民の多数死亡が明らかになるにつれ全米にパニックが広がり、鉱山は1990年に閉山した。1999年よりEPA(地域8)は、リビーの大気汚染監視、土壌サンプリングとクリーン、鉱夫とその家族の健康モニタリングなどの活動を地域と密接に行っている。

 

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