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自然の脅威 不自然な災害
ーニューオーリンズの殺人に関した25の質問ー

(JXDA会報Vol.5 の関連記事)

文 小出兼久 05.10.6

ニューオリンズは1965年のハリケーン・ベッツィでポンチャ-トレイン湖の堤防が決壊し、
都市の大部分が浸水。(上の写真)この教訓から、市はおよそ7億ドルをかけて、
堤防を16フィート(約4.8m)にしましたが、1995年にも洪水で6人の被害者を出している。

2005年カトリーナによる被害を受けたニューオリンズ。2枚の写真を一見しただけでは、
カラーとモノクロの違いだけで、およそ40年たっても何も変わっていない、教訓は生かされ
なかったのか、という気がしてくる。

 

作家であるマイク(*Mike Davis)と建築家であるアントニー(**Anthony Fontenot)は、たった今ニューオーリンズから戻った。彼らはルイジアナ州南部でハリケーン・リタを乗り切っていたが、多くの人々がカトリーナに関連する救助作業について話を始めたからである。「都市は今ある」と、マイクは語る。しかしあれはまさに「(今後も)適切な調査はなされないだろう大きな犯罪場面だった」と・・。ハリケーン・アイヴァンが2004年にビッグイージー(注:ニューオリンズのこと)から遠ざかった折りに、マイクは珍しく予言的なことを書いていた。

 

「・・・ハリケーン・アイヴァンによるニューオーリンズからの緊急待避は、ストローム・サーモンド(100歳を超える上院議員)の狂喜のように不吉に見えた。豊かな白人は、漁港を使いビッグイージーから逃げた。一方、老人と虚弱な住民、貧しい居住者(黒人)たちは、海抜以下の小屋の中に置き去りにされ、水の激流に直面する共同住宅にいる。十分に待避させることができなかった。」

 

これは、ハリケーン・カトリーナの上陸で再び証明された。それはまさにぞっとさせるような、2004年の再現であった。

 

ハリケーン・カトリーナが消滅した後、その担当の2人の要人、国土安全保障省長官のマイケル・チェルトフ(Michael Chertoff)と国防長官ドナルド・ラムズフェルド( Donald Rumsfeld)がカトリーナの引き起こした惨状にほとんど手をつけないままである一方、元FEMA(連邦緊急事態管理庁)長官マイケル・ブラウン(Michael Brown:この救助対応の不手際により辞職、共和党)のひどく無能な途方もない光景は、下院の共和党からも注目を浴びていた。イラクに侵入するのを待つことができない人は、ニューオーリンズに兵士を入れる方法を解くこともできなかった。これは残念な報告であった。マイクとアントニーは幾分妨害を受ける質問の上で、ニューオーリンズで会合した。叙事詩的規模のアメリカのショックと恐ろしい災害の最前線からの質問であった。

 

ニューオーリンズのミステリー

ニューオーリンズで最も有害なことは、明らかに恐ろしいほどの歴史的な世間の注目を浴びていることであり、9番街を覆う不吉な灰色の汚泥ではなく、これほど多くの公的な裏切りと偽善の結果として蓄積したすべての答えがない問題である。部外者がリーダーシップについて簡単に「無能力」か「失敗」を見て取れる場合には、地元ではさらに多くの慎重な構想を認識しているかおろそかにしている(あきらめている)かのどちらかである。ここには、大都市の災害による死は災害死ではなく殺人だという認識がある。順不同であるが、ここに緊急質問のうちの25個を掲載する。大陪審か議会の委員会が答えのふたを開けるまで、ニューオーリンズ地域のモラル再建は不可能なままだろうという。

 

  1. 17番街運河に沿った洪水防御壁は、なぜ単に隣街のメタリー側でではなく、ニューオーリンズ側で壊れたのだろうか?これは、ニューオーリンズ行政による不履行と整備不良の結果だったのだろうか?

  2. 9番街をより低い監視下におき、何百人も死なせたのは誰なのか?産業運河の壁を通って急上昇する巨大なはしけを所有していたのは誰なのか?これは米国史上、致命的な偶然の事故なのだろうか?

  3. ニューオーリンズ全域と産業運河の東方にあるセントバーナード教区は、シェフメントリハイウェイに沿ったアラモナ・マイチャード工業地域を除いて水没させられたのか?見たところでは、なぜ産業地域は近隣の住宅地と同様、健全な堤防によって保護されたのか?

  4. なぜ災害指図に逆らって市長は、都市の義務的な緊急待避を指図することを12〜24時間延ばしたのか?

  5. なぜ国家安全保障省長官マイケルは、8月31日までにカトリーナを「全国的に重要な事件」と宣言しなかったのか?至急必要とされる国からの資源の十分な配備を妨げたのはなぜなのか?

  6. なぜ近くのアメリカ海軍は、ニューオーリンズに直ちに援助を送ることが出来なかったのか?巨大な揚陸艦艇は技術的現状として、ベッドの600ある病院、水と動力設備、ヘリコプター、食品供給と、救助作業を行うことを熱望する1,200人の海員を持っていたのに?

  7. 同様に、なぜボルティモアのアメリカ海軍の病院船は8月31日まで海洋にいたのに使われなかったのか、また、9月5日までニューオーリンズに配備されていた82空挺師団への指図はなされなかったのか?

  8. なぜ国防長官ドナルド・ラムズフェルドは、カトリーナに対する軍事側の対応に関するグラウンドルールを確立した「天気擾乱強制執行命令」の公開に尻込みするのか?

  9. なぜニューオーリンズ地方交通局(結局洪水に浸されたが)の350台を超えるバスは、虚弱な住民や貧しい居住者と自動車を持っていない居住者を非難させるために動員されなかったのか?

  10. 市長によってジミー・ライスが交通局に任命されたという事実に対してなんらかの重要性があるのか?

  11. 伝えられるところによれば、貧しい黒人の居住区と都市を再建設するための企業に先導されたマスタープランを優先順に対処することについて議論するため、市長はどの権威の下、「40人の泥棒」(ライスの率いる白人の財界人)にダラスで秘密に会ったのか?

  12. 誰でも、「ニューオーリンズは列車の市」というくらい有名な列車(映画:欲望という名の列車の舞台地)のことを知っている。鉄道による緊急待避はなぜなかったのか?アムトラックは災害対策の役目を負っていなかったのか?そうでなければ、なぜ駄目だったのか?

  13. なぜ私立病院の患者は死ぬために残された間に、慈善病院で苦しまなければならないのか、ヘリコプターによって避難させられたチュレーン(大学)と同様の扱いがされたのか?

  14. (ニューオリンズの)ルイジアナ州スーパードームに食物、水、ポータブルトイレ、テントと医療を十分に仕入れることは失敗したのか、都市に残ることを貧しい住民に強いるような慎重な決定はあったのか?

  15. ニューオリンズのフレンチクオーターは、国内でレストランが最も高密度にある地域の1つとされている。なぜ関係者は、ホテルとレストランから供給を要求しなかったのか?スーパードームとコンベンション・センターでは深刻な食糧不足と水不足にみまわれていたというのに?わずか数ブロック離れたところにある広大な食品の山は、単に腐るにまかせて残されたのか?

  16. 恐らくジェネレーターがディーゼル燃料を使い果たしたのか、シティ・ホールに設けられた緊急司令部は重大な局面の中で初期に放棄されなければならなかった。同様に、病院の補助発電機が失敗に終わると、多くの重症患者が熱あるいは機器の故障がもとで亡くなった。ディーゼル燃料の供給は、なぜそれほど不適当だったのか?なぜ病院と同数あるジェネレーターは、明らかに氾濫すると水没するような基盤の中に位置したのか?

  17. 海軍や沿岸警備隊は、なぜ直ちに水害地において救命具とゴム製ボートの空中投下を行わなかったのか?そのような人命救助設備が学校や病院で仕入れられなかったのはなぜか?

  18. なぜ避難民センターは、オードゥボン公園とアップタウンの洪水に浸されていない幾つかの地域に作られなかったのか?

  19. 司法省は、ミシシッピ川にかかる橋を必死に横断しようとする何百ものニューオーリンズ市民を迂回させたのか?対岸の街グレトナ警察の黒人に対する類似した応対について調査しているか?1965年の黒人投票権登録運動の弾圧の地セルマを思い出させる画像だ?ニューオーリンズはその間に、略奪と警察による不法な射撃に対する目撃者を数えるようになってしまった、このうちのどれか少しでも調査されるだろうか?

  20. 誰が都市で発生した疑わしい火災の責任を負うのか?なぜ非常に多くの火災が発生したのか?河川に沿った低い公園地区と波止場のあるコンスタンス街のような長い間地上げのターゲットだったブルーカラーの居住地域で発生したのではないのか?

  21. FEMAの数ダースに及ぶ自慢の都市捜索救助隊はどこにいたのだろうか?沿岸警備隊ヘリコプター乗組員の勇敢な活動に加えて、都市へ自らのボートを曳航したボランティアによって、初期の救助作業の大部分は行われたのである。

  22. ルイジアナ州の州都バトンルージュでは、大規模な赤十字の存在が見られたが、最も印象的な救援作業を続けていたいくつかのルイジアナ州の小さな町中では、1つも見受けられなかった。例えば、バリープラット川の貧しいケイジャン共同社会は5,000人を越える避難民を収容した。しかし、赤十字はFEMAと同様、地元のボランティアがする専門職員の派遣と援助の訴えをほとんど毎日拒絶した。このような赤十字に対して、(今後)なぜお金を寄付することができようか?

  23. なぜFEMAはニューオーリンズ地域から避難させられた多くの人々皆の中央への登録をしていないのだろうか?避難民は不在者投票用紙を受け取り、一部分は都市の運命を決定する重大な2月の地方議会選に投票することを認められるだろうか?

  24. 政治家が「災害ツアー」としてエリートを任命した改造委員会は建築家のように話し、開発者はニューオーリンズに民族的に浄化された「新都心回帰」としてのユートピアの設計を進めているが、都市の一般市民がある程度本質的に参加できるような計画はどこにあるのか?

  25. 1965年に制定された投票権法の40周年記念として、つまりはどのようなことが民主主義に対して起こったのだろうか?

 

注)

*作家マイク・デイビスは、『石英都市』、『死んでいる都市と他の物語』など多くの著作がある。最近作は『The Monster at Our Door:The Global Threat of Avian Flu=我々のすぐそばにいる怪物:鳥インフルエンザの世界的脅威』。また、『Planet of slums スラムの惑星』を2006年3月刊行予定。

 



**
アントニーは、現在プリンストン大学に勤務するニューオーリンズの建築家兼共同社会設計活動家である。


これらの情報は、アメリカの各州で少数の建築家グループにより運営されている、建築家兼共同社会設計活動家のメンバーから入手した記録である。このグループは、国際的な災害についての研究を行う機関で、米国では重要なポジションにある。小出兼久は、ランドスケープにおける共同社会設計活動家として、1995年までこのメンバーに所属していた経緯があるが、現在は脱退している。

 

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