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猛威の予兆は環境や気候異変と関連するのか?
文:小出兼久 05.11.3
(c)AP通信
最近の地球には、豪雨、洪水、干ばつ、ハリケーン、台風の増加といった気象異変が、もたらされている。これは我々の生活を直接または間接的に脅かすものであるが、その中で、私は鳥インフルエンザにも注目をしている。一見関係ないように思えて、調べれば調べるほど、気象異変と何らかの関係があると思えてならないからである。ランドスケープには直接関係ないかもしれないが、世界的に環境そのものが変化をしていて、その余波が様々な形で出ている例と私が考える鳥インフルエンザについて、現在の状況を紹介する。
鳥インフルエンザH5N1が猛威を振るい始めた。世界は今、最大の危機に直面している。細菌研究者や医師は、従来、この病気が人間のあいだで容易に蔓延するようには思えないと楽観的コメントを発表していたが、しかし、その発言から数週間も経たぬうちに、世界保健機関(WHO)は、人間が鳥インフルエンザに感染した場合の死亡率は約250万人と推定されるという数字を発表した。(その後250万人から最大で740万人と発表している)今最も脅威なのはハリケーンではないかと主張する学者もいるが、WHOは世界中の国々に対して、鳥インフルエンザの蔓延に対する予防策を強化するよう警告を告げ始めた。が、すでに鳥インフルエンザは、元々の発生源とされる東南アジアから遠く離れたところで新たに発生している。

・・・強い風と降り続く雨が、ドナウ川デルタ域の黄緑色の水域をつき砕いている。白鳥は、灰色の空で重く羽ばたいている。川の土手にはいつもどおり灰色のガチョウが歩いていた。村民は河川を行き交う見慣れない船の列を警戒していたが、それは流域をスピードを上げて捜索する警察と国境警備隊の姿であった。やがて3つの症例(感染した鳥)が確認された。監視が増強されるにつれ、ますます多くの死んだ鳥が発見されている。・・・

これはルーマニアの小さな村で起きたことである。やがて検査により、いずれの症例からも毒性の強い鳥インフルエンザH5N1型ウィルスが検出された。今年10月上旬、鳥インフルエンザの欧州上陸が初めて確認されたのである。
(c)国際農業食料機関(FAO)渡り鳥の経路Map
今年、ヨーロッパでは初夏から夏の間に異常豪雨が続き、河川の水位が通常よりも高い水位となりがちであった。このため、白鳥たちは食物を見つけるのが難しくなり、白鳥が死んでいても不思議に思う人はいなかった。まさか他の理由で死んでいるとは思わなかった。複雑な検査プロセスが完了しなければ何とも言えないため、鳥の死に鳥インフルエンザや別の理由が関係していると判断出来ないでいるあいだ、人に飼われているアヒルも野生の鳥も共に、浅い水域で過ごしつづけた。そして、恐らく害はない、と思っていた。数日後、86羽の死んでいる白鳥がその中で見つかった。問題は、鳥が集まる場所ではウイルスが容易に蔓延するらしいということで、つまりは、アジアで人に飼われている白鳥、ガチョウ、アヒルと雌鶏も、野鳥から感染した可能性がある。シベリアから数百羽の白鳥がドナウ川のデルタ域にも到着した。次の日には何十万とも、さらに多くが集まっている。彼らはトウモロコシや小麦、大麦を目当てに、遠く内陸にまで餌を求めてやってくる。冬季の寒さが増すとより温暖な国に対して飛び立つ渡り鳥たちが、その渡りの経路に鳥インフルエンザを伝染させると言う推測は定説になりつつある。
(c)国際農業食料機関(FAO)鳥インフルエンザMap
今、世界の国々では、鳥インフルエンザの蔓延に対して、国家レベルの取り組みが水面下で急がれている。1997年の東南アジアでの最初の発生から始まって、鳥インフルエンザH5N1は、今年05年には他国へと拡大し、7月にはトルコ共和国とルーマニアのヨーロッパ大陸にまで広まっている。その勢力は衰えぬばかりか、中国や東南アジアでも再び大流行の兆しがある上に、人間から人間への感染という、もっとも恐れていた状況も生まれつつある。
さらに詳細な感染地図には南カリフォルニア大学関係者が設立したRecombinomics研究所の
鳥インフルエンザ発生地図詳細図 がある。
世界保健機関(WHO)は現在、鳥インフルエンザH5N1に感染した120人以上の人間の症例のうち、60人以上の死亡を発表している。H5N1は人間には容易に感染しないというが、極めて毒性が強く、感染後の死亡率は高い。今年7月のトルコとルーマニアにおける発生と、それからわずか数週間のうちのロシアそしてカザフスタン、モンゴルへの拡大、これらの地域からの報告書はいずれも、WHOに監視強化と警戒を促しており、WHOは、今年鳥インフルエンザは大流行の兆しであると警戒を強めている。
人間の症例は、生存適応性のある突然変異、もしくは他のウィルスとの再結合のいずれかによって、ウイルスがその伝染性を進歩させる機会を拡大していることになるという。報道は、もし人間のあいだで容易に感染するようなH5N1型ウィルスが発生したなら、それは鳥インフルエンザ大流行の契機を示すこと、鳥類のあいだでの鳥インフルエンザの広まりは、世界中の国家にその対策を求めさせていると報じ、また同時にこのウイルスが人間の間で広がり始める可能性に対しても、防止対策を呼びかけている。世界保健機関(WHO)は、世界的流行 (世界人口の25%に影響を与えるだろうと推測している)に対処するために、それぞれの国家が充分な抗ウイルス薬を備蓄するように勧めているが、開発途上国が特に不足すると指摘している。
鳥インフルエンザに対する各国の緊急事態処置計画
(05年10月30日現在)
★ベルギー=鳥インフルエンザが発生した場合には、すべてのヘルスワーカーには予防注射を受けさせ、感染した人々は抗ウイルス薬と医療管理が供給される。ワクチン研究は、任意のワクチンの最初のストックを買う権利に対して、一人につき会社に5ユーロを払う準備がある。抗ウイルス薬のストックは、07年の終わりまでに300万人分が利用でき、人口の30%をカバーすることを目標に備蓄を進めている。また、獣医の補充も優先事項になっている。
★フランス=鳥インフルエンザ対策は更新し準備されている。また、動物に発生した場合のシミュレーションも保持されることになっている。人間に感染した場合に備え、4000万人分のワクチンを準備している。ワクチン研究は臨床試験を行っている。抗ウイルス薬のストックは05年の終わりまでに1400万人分まで目処がたち、900万人分が利用できる病院体制も整っている。
★ドイツ=ババリア地方では今年の年末まで鶏肉市場を停止した。また、地域により詳細な対策を準備している。ワクチン研究は、個々の地域それぞれがワクチンを対策する。政府は、ワクチンの原型を開発するために、2000万ユーロを製薬産業に支援している。それは数週間以内で利用できるようになると予想される。抗ウイルス薬のストックは、インフルエンザ感染がドイツ人口の3分の1になることを想定し、10人中1人の抗ウイルス薬のストックが現在のところ備蓄されている。
★ギリシア=伝染病に対する全国行動計画は05年のEUのものに従っている。大きな病院は迅速な反応対策を立てている。04年には10億ドルを投じている。ワクチン研究については、独立した研究はない。抗ウイルス薬のストックについては、鳥インフルエンザがエーゲ海の島で発見された後、薬剤師と通常のインフルエンザ・ワクチンが全国的に不足し慢性に不足した。抗ウイルス薬のタミフル約20万人分を春までに準備する予定である。また、生態学者は、渡り鳥の死体を発見するために特にトルコ国境の周辺で監視を行い、多数の死んでいる鳥を発見している。
★イタリア=鶏がどこで育てられたのか、鶏肉に強制的に標識を付け、また、虐殺の日付と場所を公開する。予防注射を受けた地域の鶏肉を利用し、原産地と入荷期日が標識付けされた鶏肉のみを輸入する。獣医と家畜病予防専門家を補充し、国境検査を強化するために、警察部隊を派遣する。ワクチン研究については、入手できる情報はない。イタリアの健康省は、3〜4ヶ月の発生以内で3600万人分が入手可能だろうと話している。抗ウイルスのストックは、3000万人以上あり、また、人口の10%をカバーするべく、抗ウイルス薬を買う資金が新たに割り当てられた。野鳥の狩猟禁止は対策には盛り込まれていない。
★オランダ=世界的流行への対策として、ワクチン研究は、EU全域に及ぶ研究を提案している。製薬会社と共にその計画を交渉中である。抗ウイルス薬のストックは、現在22万人分のストックを確保しているが、年末年始までに240万人分の確保をめざしている。
ポーランド=ポーランドで鶏肉を生産する工場は、工場内にそれを維持しなければならない。 ワクチン研究はしていない。 抗ウイルスのストックもしていない。対策は常に更新している。
★ルーマニア=10月13日が介在の局所的な委員会および国立委員会を設立することを含んでいる以上、適所に調整する。GPは、感染した人なら誰でも孤立させるための警戒の上にある。また、助言は公に対して伝えられた。インフルエンザの症状はGPに対して報告されなければならない。ワクチン研究は、ルーマニアは、ワクチンを製造するための準備ができているが、それが世界保健機関の承認を必要とするだろう、と考える。抗ウイルスのストック状態は、抗ウイルスの500,000回分(それに300,000を分配した)を得ている。現在100万回分は注文中である。それは、抗ウイルスのタミフルの約15,000人のカプセル剤を得ている。鳥インフルエンザによって影響を受けた地域の中で強化された特別措置は、鳥小屋、隔離、住民のためのワクチン剤、自動車をスプレーする消毒薬、および魚釣りのような活動の禁止を含んでいる。
★ロシア=シベリアの中で最初の症例の後に8月の中で採用された鳥インフルエンザ対策。症状の許可における、防護服およびトレーニングは鳥を用いて仕事をする人々のために支持している。今後、60以上、または慢性の強心薬および肺病で養鶏場労働者はいないだろうと語る。 ワクチン研究は、ワクチン剤についての研究は起こっている。しかし、詳細はロシアの法律の下で秘密である。抗ウイルスのストックは、1億5000万人の市民の各々のための十分なストック。通常のインフルエンザに対する人々を処理するための薬も備蓄されている。単に訓練されたドクターおよび生物学者は、鳥インフルエンザの症状を説明する仕事をしてもよい。それらは十分な保護スーツを着なければならない。普通の人々は鳥インフルエンザがあった場所に接近するのを止める。
スペイン=政府は最悪の事態のために準備をしている。何百もの渡り鳥の監視をしている。ワクチン研究は、6年間で抗ウイルス薬を製造する工場を建築するよう対策がある。抗ウイルス薬は、スペイン人口の5%にあたる備蓄を抱えている。
★トルコ共和国=アンカラにある政府は、任意のインフルエンザ大流行に対して準備をしていると言っている。ギリシア、イランおよびルーマニアからの鳥や鶏肉生成物の輸入を禁止するとともに、 ワクチン研究を進めている。抗ウイルス剤のストックはない。 トルコには、渡り鳥が次々と訪れる湿地が至る所にあり、国はH5N1発生の発見に続いて、それらをモニタしている。
★英国=鳥インフルエンザ発生を防止する手段は研究中である。また、その大流行を予測した緊急事態処置計画を10月19日に更新している。公共の安全のために、実際の鳥輸入品を禁止するならば、バード・フェア、市場、ショーも禁止する。養鶏生産者の登録制度を制定する。 GPは、人間への感染と大流行の場合に何を行うべきか助言している。ワクチン研究については、人間の間で鳥インフルエンザが大流行しても大丈夫なように、英国の人口(1億2000万人分)をカバーするのに充分なワクチンを発達させている。メーカーは、製造の入札に参加するよう依頼された。抗ウイルスのストックは、1460万人の抗ウイルス薬の備蓄が構築されている。これまでのところ、英国は月間80万人として、250万回分を準備した。隔離された2羽のオウムが鳥インフルエンザH5N1型で亡くなった後、15羽の鳥が引き続きモニタされている。消費者は、鳥インフルエンザのあらゆる危険性を回避するために、鶏肉と卵子を徹底して加熱調理するよう伝えられている。
★中国=緊急対策は4つのレベルの警戒体制で行っている。赤(非常に重大)、オレンジ(重大)、黄色(全く重大)および青(規定)のレベルを適所に分けている。農業当局は鳥インフルエンザ発生の危険性のある地域をモニタしなければならない。ワクチン研究については、4年間の研究の後に、人間の中で鳥インフルエンザを妨げることができるワクチンを生産したと言っている。抗ウイルス剤のストックについては、鳥インフルエンザ患者は、症状に応じてタミフルとアマンタジンで治療されている。中国は薬を備蓄しようとしているが、圧倒的に数が足りない。
★インドネシア=鳥インフルエンザに陽性の検査結果が出た人々に対して救急で無料の入院治療ができるよう進めている。人々には、鳥が清潔に保たれる家と地域を維持するよう呼びかけている。また、鶏の死亡の報告を義務づけている。ワクチン研究はない。 抗ウイルス剤のストックは、約30,000回分のタミフルを利用できるようにしているが、これらは、44の病院と処方によって薬屋から分配される。 インドネシアでは、少数の鶏を飼う人々の多くが大量処分に反対することも起こっている。農場が権威を否定することができるのか法調査も計画されている。
★カザフスタン=ロシア国境近くでの鳥インフルエンザの症例があったため、数千羽の鳥が処分されたり隔離されている。これは緊急発動した措置であり、野生鳥類から鳥インフルエンザの存在をチェックする試みも始められている。政府は必要ならばワクチンを輸入できるよう準備し、検査室には、防護衣と設備を買うための資金を供給している。カザフスタンは薬をほとんど生産しないため、ワクチン剤についての研究は行われていない。抗ウイルス剤のストックについては、抗ウイルス剤を備蓄して利用できるシステムを持っていないため、鳥インフルエンザが国内で広がった場合には、外国からワクチン剤を買うことになり、すでにいくつかの養鶏場は、ワクチンのストックを購入している。 カザフスタンは、渡り鳥の渡り経路の主要な3ルートが国の上を縦断しているが、しかし、鳥インフルエンザに関する公共の討議はあまりされない。野生生物オフィサーは、病気の鳥や死んだ鳥の発生にむけ待機を命じられ、死にかけた鳥から人間への感染を防ぐために、秋狩猟期にも注意を呼びかけている。
★タイ=政府は市民に対して、鶏は加熱調理し血はどのような肉でもすべて回避するよう助言している。卵子は清潔であると思われるが、養鶏農家に対しては、鶏は清潔なケージ設備の中で養育し、病気の兆候がないかどうか頻繁にチェックするよう忠告している。また、農家に防護衣を着るよう勧めている。人間のためのワクチンとして、ワクチン研究は2007年に始まる予定。 抗ウイルスのストックは66万と100万のタミフルが用意されている。10月には、鳥インフルエンザによる新たな13人の死亡が確認されたため、フランス当局は、最近タイから戻った3人の観光客を隔離していると報じている。
以上国別対策の情報源:世界保健機構&NYタイムス、AP通信
★アメリカ=本日11月2日のロイター電によれば、ブッシュ大統領は、今日1日にあった国立衛生研究所の会合の席で、鳥インフルエンザの流行に備えて12億ドルを支出し、2000万人分のワクチンを確保する方針を示した。また、ワクチン研究についても、新型ウイルスに対応したワクチンの早期量産に向けて新しいワクチン技術を導入し、ワクチンが生産できるまでの間の応急処置として、インフルエンザに効果的な治療薬の備蓄を強化すると発表している。
★日本=日本では鳥インフルエンザへの対策として、厚生労働省、農林水産省、国立感染症研究所、環境省、文部科学省、および(発生があった)関連地方自治体から、通知や検査報告などが出されている。重複もあるがおよそ、厚生労働省は、国民の健康や安全な生活の見地から通知や指導を行い、研究所や農林水産省は感染した個体の検査とその結果関連を報告や公開、環境省は渡り鳥に関する通知、文部科学省は、学校で飼育される鳥類に関する取り扱いについて通知・指導を行っている。インターネットから収集する情報に限って言えば、海外動向については更新が頻繁でなく古い情報のままである。ワクチン研究に関しては不明だが、抗ウィルス薬として、昨年16年度実績では、抗インフルエンザウィルス薬タフミルを過去10年間で最大の1500万人分確保しており、人間に鳥インフルエンザが蔓延した場合の効果は定かではないが、タミフルの量としては世界で群を抜いた備蓄を誇っている。
経済的な損失
鳥インフルエンザの流行は、経済的な打撃も大きい。
鳥の処分による農業などの第一次産業だけでなく、観光のような第三次産業への影響も大きく、また、その影響はあちこちに飛び火する。一部産業が恩恵を受けて潤うことはあっても、経済損失は遙かに大きく試算される。イギリスでは英ノッティンガム大学の予測によれば19兆円、ヨーロッパでは1兆4000億円。日本でも2004年の3月に兵庫県で発生した鳥インフルエンザによる農家や関連業者の被害は約1億5000万円にのぼり、その損失補てんなどのために兵庫県が4億6000万円の緊急支援をしている。アジア開発銀行(ADB・本部マニラ)は10月27日までに、鳥インフルエンザが人から人に容易に感染する新型に変異しアジア地域から他地域に拡大した場合、人的損失や世界的な景気後退により、短期間で最悪2900億ドル(約33兆6000億円)の損失を招くとの推定をまとめた。(アジア部分:共同通信10/27)
もし、日本国内で鳥インフルエンザが大流行すれば、そのしわ寄せはランドスケープにも及ぶ。エコロジカルランドスケープへの影響や、大きくは地域社会や社会のシステムや在り方さえも問うことになる。現状でできることもなく見守るしかないが、鳥インフルエンザの動向は、いくつもの事柄が互いに影響しあう現代社会では対岸の火事と静観してもいられないことが多くあることを、実感させる事件なのである。
以前この欄で紹介したマイク・デイビスの
『The Monster at Our Door:The Global Threat of Avian Flu=我々のすぐそばにいる怪物:鳥インフルエンザの世界的脅威』
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