|
●2005, NO.12
 2005.11.17
たとえ素晴しい公共空間といわれる場所であっても、常日頃の注意を怠ることはできない。でなければ、その素晴しさを支えているものは消失してしまいかねない。
公共空間でも、何もせず安穏としていられる保障はない。例えば、大規模開発が突然近くで始まり、その後周囲の景観を損ねることもあるだろうし、自動車の侵入が徐々に増えていき、最終的に相当部分が占領されてしまうこともあるだろう。
ここに挙げるのは、元々素晴しい空間であった場所が、そうではないものに変容していく過程を見せる空間の例である。同時に、その原因となる障害は克服できるものであり、もう一度素晴しい空間に戻すことができるものばかりでもある。それらは、「一旦、木を植えたり通路を整備したといっても、いい空間をつくることは工事の完了をもって終わるわけではない。」ということを教訓として知らしめてくれるものばかりである。PPSとしても長期間にわたって、日々の注意を呼び掛け、「終わりはない」という意見に賛同している。
1.プラザ・デ・ラ・コンスティチューション・デ・オアハカシティー、オアハカ市、メキシコ
一般的にオアハカ市(Oaxaca)市のソカロ(広場:Zocalo)と呼ばれるこの場所は、ユネスコ世界遺産の中心部であり、社会性の非常に高い場所である。正確には、ある一時期までは社会性の高い場所であった、という言い方が正しいのかもしれない。今年の4月、全く不必要な改修工事のために削岩機を手にした労働者たちが広場に現れたのである。
もちろん、すべての改修工事が悪いと言っているわけではない。しかし、ソカロの改修はきわめて大規模なもので、全ての人・車を通行止めにし、また工事が完成したあかつきにどのような場所になるのかについて、事前に全く情報公開がされず、またブルドーザーが到着するその日まで、地域住民にはそのプロジェクトについてすら告知はされなかった。人々に人気のあった広場の樹木(輸入種)を、自生種に植え替えるということは知らされていたが、その他の改修の詳細について、政府も公開に協力的ではなかった。ものすごい反対運動が行政を動かして、結局、既存樹が枯れるか病気になるまでは伐採しないということになったものの、改修工事が完了してどのような姿になるのかについては、依然として誰にも知らされてはいない。
2.ブライアンパーク、ニューヨーク
マンハッタン島ミッドタウンにある、このたいへん利用度の高い公園は、ニューヨーク公立図書館の裏に位置し、現在では近隣のオフィスに働く人々がランチを食べる場所として、また、歩きつかれた観光客たちの休息の場として人気が高い。1980年代にはドラッグ売買が横行していた場所であったが、PPSが中心となって運動を展開した結果、市民に親しまれ人々が集まる場所に生まれ変わったのも、今となっては信じがたいことである。しかしながら、ブライアンパークの大きな成功も、一部の特定のグループの利益のために侵略され再び脅かされている。現在、1年のうちの2月と9月の2ヶ月間は、青々と茂った芝生の広場から一般の人々は閉め出されることになってしまっている。1つは“メルセデスベンツ・ニューヨーク・ファッションウィーク”のテントがその場所を被い尽くしてしまうからであり、もう1つは、“リングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム&ベイリー・サーカス“が占領してしまうからである。その他、VIPが政治パーティーを催すこともある。
公共空間を私的目的で使用することに伴って、日々の一般利用者が被る不便さは相当なものがある。彼らは、自分たちが “マンハッタンの宝石”とまで称される場所から、閉め出されていることに気づき始めた。ブライアンパークのように、人々から愛される場所の管理責任者は、常に全ての人々に有効に利用されるようことに、細心の注意を払うべきである。米国、あるいはヨーロッパにおいて民間によって管理運営されている市民の広場は、そのほとんど全てが民間のイベントを許可していない。仮にそうしたことがある場合にも、影響が無視できる程度のものに留まることを確認している。チケットを持っている人間だけが入場でき、その他の人が柵の外に閉め出されるようなものが継続的に開催されることはなく、そこには例外は認めていないのである。
3.クングストレッゴーデン公園、ストックホルム、スウェーデン
ストックホルムの中心部にある、クングストレッゴーデン公園には、王室の庭から軍隊の訓練場、緑が茂った公共公園まで様々な区画がある。ここも、オアハカのソカロと同じく改修は失敗に終わったという教訓をもたらすものである。元々は、たいへん開放的な場所であり、また如何ようにもレイアウトできる柔軟性を持ち合わせた場所であった。管理運営者もその長所を活かしながら、大きなパフォーマンスからチェスやピンポンといった個人的なゲームまでを楽しめる空間としていた。
1998年に改修工事が行われた結果、新しいレイアウトは以前よりずっと使いづらいものになってしまった。少人数での活動は出来なくなり、最新のデザインの子供向け遊具を特徴としていた斬新なデモンストレーションの場も、潰された。クングストレッゴーデン公園は、その場所の便利さのおかげで、今でも人気の場所ではあるが、以前よりもずっと閉ざされた空間となってしまっている。
4.タイムズスクエア、ニューヨーク
タイムズスクエアは映画館・劇場が多くある地区の依然中心的な存在ではあるが、多くのアメリカ人がニューヨーク中心部を頭に思い浮かべるときに、わくわくしながらイメージするような場所ではなくなっている。その場所は長い間問題を抱えているが、問題の質は変化してきている。以前は安っぽいアダルト映画館や覗きショーが乱立していた場所であったが、そのエリア一帯は1990年に生まれ変わった。しかし、今度は人が集まることで、その混雑が違う問題を引き起こしている。十分な歩行者用スペースがないために、街角のあちらこちらで、歩行者が車道に溢れ出し、車との接触事故が頻発している。タイムズスクエアは、その成功のために新たな不都合に直面している。
膨大な人数の観光客や近隣のオフィスで働く人々が、自動車の流れを縫って歩き回っている現状から、より広い歩道のスペースを確保することが課題となっている。多くのアメニティーを配置した、より広い歩道を確保することによって、人々が思い描いていたマンハッタンの場所として復活させることができる。大きく曲がった車道の一部を歩道に変更することで、問題は軽減されることなどが話し合われ、ニューヨーク市交通局では車道の15%を歩道用に供用することを決め、またNPOであるタイムズスクエア連盟と共同で、更なる歩道の拡幅についての研究を始めた。しかしながら、全エリアについて十分な広さの歩道が確保されるまでは、訪れた観光客を落胆させ、近隣に働く人々をイライラさせる状態は続くのである。
5.地域の商店街
小さな町のメインストリートから都市の郊外にいたるまで、押し寄せてくる大規模なチェーンストアの乱立に対して、個人商店は生き残りをかけて必死である。場所的に不利な所にあることも多い個人商店は、店舗の店先で商売を営んでおり、それに対して大規模なチェーンストアは倉庫のようなビルや大会社の本社にあるような駐車場を完備している。全てのチェーンストアが無慈悲な商業至上主義ではないとしても、個人商店の方が良い隣人であり、また、地域生活への貢献を果たそうとするインセンティブを、より自然に持つのが道理である。アメリカ人は企業家精神に旺盛で、何らかの事業や店を開業したいと望んでいるが、彼らを育てて地域生活の向上に取り込んでいけるかどうかは、その他地域住民の考え方次第である。
|