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雨の庭からの報告
水の循環

 (C)/図版出典:U.S. Geological Survey's (USGS)

2008.05.15



蒸発散とは何か

蒸発散について調べようとすると、その定義は実にさまざまだということがわかる。一般的に言えば、蒸発散とは蒸発と蒸散の総額である。
ある定義では、表面水本体(湖など)からの多量の蒸発を含んでいるが、我々が蒸発に関する研究を行う上の蒸発散という定義では、表面水からの蒸発は含まない。ここでは、蒸発散とは、1)地面から大気へと蒸発した水、2)地下水位からの毛管現象による蒸発、3)地下水位の毛管現象から水を取りこんだ植物の蒸散、の合計と定義する。

 

蒸散とは、本質的には植物葉からの水の蒸発量である。研究によれば、大気中の水分の約10%は、海洋や湖や河川などからの蒸発に由来し、残りのほぼ90%は、昇華(氷が水蒸気に変わるように、液体を経ずに水蒸気に変わること)によって生ずる微量の水分からだと明らかにされている。

 

蒸散とは

我々が呼吸の際に息を出しつつ水蒸気を放すように、植物も同じことをする。もちろんそれは、「呼吸」というよりは「蒸散」という言葉をあてたほうがはるかに適切なのであるが、植物は葉から水を放出する。下の写真は、植物の茎の周りにビニール袋をくくりつけて、約1時間放置した様子であるが、ビニール袋の曇りは、水蒸気が植物の葉から発散されていることを示す。

例えば、ビニール袋をさらに下に、土壌が含まれるようにくくりつけたならば、土壌からも同様に水が蒸発するから、袋の中にはより多くの水蒸気が放出されることになる。植物は、根を地中へと下ろし、その根が水と栄養素を吸い上げ、茎や葉へと運ぶ。この水のうちのいくらかは、蒸散によって空気中へと還される。蒸散率は、気温、湿度、日照有効性と強度、降雨、などの天候や、地盤の種別と水飽和、風と土地勾配に広く衣存し、状況に応じて異なるものである。乾燥期が続くと、土壌の上部の層に含まれる水分の損失を助長することになり、このことは、植栽にも作物畑にも広く影響を与える。

 

植物はどれだけの水を発散するか

植物からの蒸散は、ほとんど目に見えないプロセスである。水は葉面から蒸発しているが、我々が外に行っても葉の「呼吸」は見えない。しかし見えないからといって、水が蒸発していないのかというとそうではない。水は蒸発している。
植物からの蒸散を視覚化する方法のひとつは、前述したように植物の茎葉の一部をビニール袋で覆うことで、そうすると、写真のように、植物から発散された水は、袋の内部に接して凝縮することが、見てとれる。このような蒸散で、植物は、生長期には、葉それ自身の重量の何倍も多くの水を蒸散するという。
例えば、米国の研究によれば、1エーカーのトウモロコシ畑は、1日に約11,400〜15,100�Pもの水を蒸散しているそうで、また、大きなオークの木は、年間に151,000�Pもの水を発散するという。

大気要因が蒸散に与える影響

植物が蒸散する水の総量は、地域や時期に非常に左右される。蒸散率に影響する要因は大変多い。

・ 気温
気温が上昇すると、蒸散率も上昇する。特に生長期の大気は、強い太陽光と暖かい気団のために、より暖かくなり、気温が上昇する。気温の上昇は、植物細胞に気孔を開放させ、水を大気へと放出することを促す。そして、気温の低下は、同様に気孔を閉じさせる。

 

・ 相対湿度
植物の周囲の大気の相対湿度が増加すると、蒸散率は下がる。
水にとっては、飽和大気へよりも、乾燥した大気の中へと蒸発するほうが簡単なのである。

 

・ 風と気流
:植物の周囲で大気の動きが増すと、その結果、蒸散率は高くなる。これは、相対湿度にも幾分関係したことであるが、葉から蒸発した水は、葉の周囲の水分を飽和させる。もし風がなければ、大気はほとんど動かず、蒸散は葉の周囲の湿度を高める。風は大気を動かすので、その結果、葉の近くの飽和した大気は、乾燥した大気に取って代わられる。

 

・ 有効土壌水分率
:水分が不足すると、植物の早すぎる老化(その結果は葉は枯れる)が始まり、蒸散率はより低下する。

 

・ 植物の種類:
植物ごとに蒸散率は異なる。例えば、乾燥地帯に生息するサボテンのような多肉植物などは、他の植物よりも蒸散率を少なくして、貴重な水を体内に保つ。

 

 


蒸散と地下水

 

多くの場所で、植物根が存在する表土の層は、地下水位よりも上にある。このため、多くの場合には、表土はある程度まで湿らせられるが、地下水位よりも下にある土層のように、完全に飽和することはない。表土が湿らせられるのは、降雨が浸透することによるが、もし降雨がなければ、乾燥してしまう。地下水位は通常、植物の根の深さよりも下に位置するので、植物は水供給を降雨に頼るほかない。

左の図が示すように、地下水位が地面と近接する場所、つまり、湖や海洋などに隣接する場所の植物根は、地下水位以下の飽和帯へ入り込むことができ、植物が地下水系から水を直接得て、蒸発させることを可能にする。
ここでは、地下水の蒸散は、一般に、ポンプで揚げられる井戸に大変よく似た効果により、地下水位の縮小に帰結する。(図の植物根を囲む点線)。

 

地表浸透:降雨に起因する地下水

雨または雪として流れ下る降水の一部は、地表下の土や岩石へと浸透する。地中へ浸透した降雨は、幾分かは浅い層に残りつつ、徐々に垂直と水平方向に動く。そして、ついには、河川、川床へと浸出する。幾分かはより深く浸透して地下水帯水層を涵養する。

 

●浸透を左右する要因●

 

・降雨
浸透を左右する最も大きな要因は降雨または降雪とその特性(強度や持続性など)である。
地中へ浸透した雨は、しばしば、長期的には、河床へと浸出する。これが、長期的に雨が降らなかったり、あるいは、最近はその場所に直接表面流出していないのにもかかわらずに、河川が流れ続けている理由である。

 

・ 土壌特性:
粘土のような土壌は、砂質土よりも水を吸収せず、浸透率はより少なくなる。
浸透が少ない土壌では、表面流出が多くなり、陸上で河川に流出する結果となる。

 

・ 土壌飽和
湿ったスポンジと同様に、過去の降雨で既に飽和した土壌は、それ以上の雨を吸収することはできない。っこの場合、多くの降雨が表面流出することになる。

 

・土地の被覆
土地の被覆の方法は、地表浸透と表面流出に大きな影響を及ぼす。
地表を植物で覆うこと、すなわち、植生は、表面流出を遅くすることで、浸透を促す効果がある。しかし、駐車場や道路、開発区の舗装面のような、不浸透性の地表面は、降雨のための「追い越し車線」として働き、まさに、降雨を排水管へ、そして、直接河川へと運び去る。農業や耕作地というものもまた、同様に、土地の浸透パターンを変化させる。自然な状態では、土に直接浸透していた降雨は今や、地表を流出して河川へと(下水管を経由して)流れ込む。

 

・土地の傾斜
険しく傾斜した地面に降る雨は、流出速度が速くなり、平坦地に降る雨ほど浸透しない。

 

・蒸発散
地表に浸透した雨の幾分かは、地面に程近いところ、植物がそれを利用できるような表層にとどまる。植物の生長には、この表層の地下水(地表下水とでもいうもの)が必要で、この水は、蒸発散というプロセスによって再び、大気の中へと還ってゆくのである。

 

 

 

地下水(地表下水)

 

降雨が地中へと浸透すると、一般に、不飽和帯と飽和帯を作る。不飽和帯は、空隙つまり、岩石の割れ目から、砂利、砂、砂泥、粘土同士の間や自身にある、孔や隙間が、大気あるいは水で満たされている場所である。多量の水が不飽和帯に存在することはありえるが、これは毛管力によってしっかりと保持されすぎるので、井戸によってくみ上げることはできない。
不飽和帯の上の一部は土壌-水帯である。
土壌帯は、植物の根や昆虫、動物が縦横に横切る層で、根腐れによって残った孔や、動物や昆虫が掘った穴があり、それらは、降雨が土壌帯の中へ浸透することを可能にする。
土壌帯の水は、植物の生きるための機能と葉蒸散によって使用されるが、また、同様に、直接大気へと蒸発もする。
不飽和帯より下は、岩石や土壌粒子にあるすべての空隙が、水で完全に満たされた飽和帯である。

 

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