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ランドスケープアーキテクチュアの考察
第3回:気候コスト・
ランドスケープアーキテクトからみた分析
文:小出 兼久 2007.05.31

化石燃料の使用を減らせば、気候変動も減速する(イメージ写真):AP通信
2006年に発表された英国政府報告書は、化石燃料の使用は20%しか減少しておらず、地球温暖化は世界経済に深刻な影響を及ぼすであろうと伝えた。そしてこの問題に取り組むには、世界の国内総生産の1%が必要となるだろう、という経済学者(ニコラス・スターン卿)による報告も伝えている。
これを気象コストと呼ぶことにするが、今後の気象コストにおいて、ランドスケープの取り組みがコストの増減に影響を及ぼすこともありうる。また、我々の分野のみについて言えば、やがてはそれは、気候変動によって生じうる社会的な環境コストへと変化するだろう。ランドスケープはこのコストと向き合うべきなのか否か。より現実的には、向き合えるのか否か。つまり、それにランドスケープはどのような方向性を見出していけるのかが、今後より重要になってくる。幾つかの都市から見えてくるもの、それは、我々の役割が、技術的なことも含め、新しい局面を迎えているということである。
ワシントンDC=最近の地球温暖化の報告は、ワシントンDCの地球温暖化に対する現行の対応とは、まさに対極にある。中でもブッシュ政権は、京都議定書を承認しないことを決定してきた。そして、それはスターンの報告が提案してきたよりも、二酸化炭素排出についてはるかに甘い抑制を呼びかけてきた。但し、最近では、現在の環境認識に対してアメリカの世論の中でも微妙な変化があったようだ。つまりは、市民は地球温暖化の危機を公に認めはじめたという感じであるが、顕著な有名人たちは、政治的な境界線で区切ると認めるか否かの両面を、その都度、立場を選んでいるようだ。
米国は地球温暖化に取り組むべきだと要求し、今の背を向けた現状に警告を発するアル・ゴアは、その著書『不都合な真実』で広く賞賛された。また、カリフォルニアの共和党知事(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、最近では、クリーン自動車の製造を奨励し、そして課税により二酸化炭素排出に上限を適用するイニシアチブを導入している。こうした戦術はニコラス・スターンの報告の賞賛の趣で選択されたようである。
また、世論調査では、米国人の3/4が、地球温暖化は重大問題であると感じ、大多数の市民が環境保全は経済成長に対して優先権を取るべきであると言っている。
但し、温暖化を緩和すべき時期、問題解決の時期がせまり、それが人々により高い税負担を生じさせるという現実と結びついてくると、人々の高い理想は変わるかもしれない。
環境保護論者は、温室効果ガスの上限を全国的に定めるには、議会内部にまだ相当の対立があることを指摘している。自動車とエネルギー資源が温暖化問題の解決へと向けた攻め際であるのだが、それはワシントンで最も力のある人々であるようだ。
デリー=気候変動により最も強く打撃を受けるのは、インドのような開発途上国である。世界的に気温が上昇すると、海水面も引き上がる。浸水が大問題となる。気温上昇によりヒマラヤ山脈の氷河の溶解が進むと、インドの平原へより多くの水を放ち洪水を起こす。そしてその後、川が縮むように、干ばつが起きる。
そこで、気候変動はインドでは真の恐れとして理解されている。一方、それと同じくらいに、あるいはそれ以上に皆を縛り付ける優先順位は、経済発展を前面に押し出し上昇させることである。それは、最初に貧困に取り組み、次に健康管理。そして電気の通らない、じっとして暮らしている何千万という人々の生活を向上させる・・ということ意味する。さらに次に、国を発展させている富裕層、彼らの生活スタイルのような贅沢を望むインド人が多く存在している。自動車、冷蔵庫、テレビ・・・彼らは将来の環境汚染源を欲しているところに存在している。
さしあたりの展望は、インド人が気候変動に取り組むことを望む時、費用を支払うのを助けなければならないのは、先進国であるということである。
北京=スモッグでかすんだ大空は、世界で最も人口過密な国の首都の中でも、北京でよく起こる現象である。それは、自動車による多量の有害な混合物の排出が原因とされるが、工場や発電所の上にスモッグが立ち込めることも多い。
中国は、地球で最も汚染された都会を持っている。そしていまだ世界の温室効果ガスのアメリカにつぐ次に大きな生産者である。中国は他の国家よりも多くの石炭を生産する。そして、ここの潤滑油消費量は近年2倍になってきた。裕福な中産階級がその消費を後押しし、多くの工業製品を受け入れている。さらに、急激に景気づく経済に対して、多くの分析者は、中国の全電力放出量は数10年間で米国に追いつくと予想している。
国家の指導者たち自身は、温室効果ガス排出によって被る障害に気づいていると言う。
彼らは、再生可能資源を用いて電力の10%を生じさせ、さらにより多くの原子炉を建てるという計画を発表している。中国政府は京都議定書を承認したが、その排出量の削減は開発途上国である中国には要求されない。
さらに、問題がある。中国は、排出量制限が経済成長を減速するかもしれないと考えている。行政は、環境に対して何らかの対策を取ると約束している。しかしこれまでのところ、経済がいつも先んじているのだ。
ヨハネスブルグ=スターンの報告が発表される前にさえ、環境保護団体はアフリカへ及ぶ気候変動の危険性を警告していた。地球温暖化は大陸に重大な影響を及ぼすと言われている。そして、運動家の援護団体による研究は、食糧安全保障に対して「先例がない」恐れを予測した。
アフリカのどこか一部の地域では(特にホーンとサヘル地域だが)、食糧生産は気候にいつも左右されている。こうした乾燥地帯と準乾燥地帯は、地球温暖化の結果として一層水がなくなる危機に瀕している。アフリカは1世紀前よりも0.5℃平均気温が高くなっている。しかも、最近の研究によれば、ちょうど20年前よりも3℃以上温暖なところもあるという。
ニコラス・スターンの調査結果に応じてオックスファムは、干ばつまたは洪水の一定の恐れの下で暮らしている何億もの人々が、気候変動よって緊急にどうなるのか、どうするのかが重大であると言う。政府機関は語るだけでなく対策をとること、それは将来の(失ってしまう恐れのある)利益を保全することに他ならないが、同様に今日の、最貧国の多くの命を助けることにもなるだろう。
地球温暖化と温室効果ガスの排出が豊かな産業国により引き起こされるという事実に多くの人々が合意するならば、アフリカは、その問題の矢面に立っていると言える。ならば、まさかの時は支援するのはしごく当然なことだろう。
日本=温暖化が及ぼす影響あるいは温暖化を助長させるような事象が、我々の身近な場所にも日に日に深刻な問題として山積してきている。そのためにランドスケープアーキテクトが持つべき技術の提言において、日本の行政は腰を上げないのも事実である。特に地方都市における環境整備は、何も森林や水利、農業、あるいは過疎地の道路だけではない。あるいは都市化する大型店舗そのものの駐車場においても配慮に欠けている。これは例えばであるが、私が住む長野の農水路の水も決して汚染物が混入していないとは言い切れない。道路は舗装され、小さな集落の小道までもが整備されつつある。そしてその上を車が走る。そのことはほとんどの場所で、車から放出された二酸化炭素や汚染物を受け取っている可能性があることを示している。浸透性のない道路を流れた雨水は、水路へと移動する。この雨水(表面流出水)の汚染は日本ではまだ問題とされていないが、車社会アメリカではすでに大問題となっている。そして日本がすでにそうなっていないとは、誰も言い切れない。豊かな土地は汚染され、米の生産に不可欠な農薬も混入する。そして農家は無農薬を主張する一方で便利さを求めている。ここ長野でもこの冬は例年より積雪が少なく、夏の水不足が心配されている。が、同時に、局地的な豪雨は激しさを増し、発生は増える一方であった。また、すでに今年幾度となく異常気象という会話を聞いている。気候変動は都市が抱えている環境問題を大きくすることに拍車をかけるようだ。都会であれ地方都市であれ、現実を回避することは出来ないが、おそらく世界中の都市の道路は膨大な汚染水であふれている。現実の環境コストはまさに身近に存在している。そのことが次世代にどのような影響を与えるのか。答えは見えてくる。
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