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ランドスケープアーキテクチュアの考察
第5回:
ランドスケープは本当に何ができるのか?そして何故、活動しないのか? 汚染された都市からの報告
文:小出兼久 2007.10.9 Photograph:Wu Hong/EPA

世界最大の汚染された都市のリストが、米国の環境運動グループから公表された。その報告書は、推定として約1200万人が厳しい汚染によって影響されたと伝えている。
また、CNNによれば、世界銀行は最近、世界で最も厳しく汚染された都市のうちの20を調査したと伝えている。そして、それら都市のうちの16は中国にあるという。特に、Linfen(臨汾)市(山西省)は、世界中で最も汚染された市として公表され、その実態を明らかにしている。それによると、市の工場は、連続的に排ガスと下水の汚物を放出しており、この都市全体は煙で臭いがし、覆われ、そして工場のまわりの樹木が枯れ、汚濁水はねばねばした油に似ているという。特に汚染された川は、その区域の住民に、主に、癌発症の影響率を引き起こし、さらに慢性病と死亡率が潜在的な副作用となっているとも伝えている。
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世界銀行による-世界で最も汚染された10都市-
Sumgayit, Azerbaijan
Linfen, China
Tianying, China
Sukinda, India
Vapi, India
La Oroya, Peru
Dzerzhinsk, Russia
Norilsk, Russia
Chernobyl, Ukraine
Kabwe, Zambia
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中国の都市の大気汚染は重大な問題である。調査された522都市のうち、39.7%が適度にあるいはひどく汚染されている。2006年には、環境に対する住民論争と大規模抗議によって、前年と比較して、30%増加している。そのために50,000以上の実態が文書化され、これらの中で、50.6%が水質汚濁に関係しているという。また、ほぼ40%は大気汚染と関係があることがわかっている。
中国の国家環境保護総局の副局長は、「環境問題は主な影響要因とし、中国の国家安全保障および社会の安定の要因」と語っている。が、政府の行動は遅い。それについて環境の専門家は指摘している。・・・「都市や区域の中には、政府の役人が買収されて、個人の利益を獲得するために地域の汚染する企業を保護しているところもある。」という。

中国の好況によって、汚染が急増している
また、米国の科学者の間では、カリフォルニアおよび太平洋の北西部の衝撃的な発見を近年してしまった話もある。 それは、中国からの汚染、と彼らは言う。中国からの汚染が米国の西海岸に沿う大気の質を低下させている。中国の発電所や工場から排出されたすす、水銀および混合物による汚染は、酸性雨によって、太平洋を渡って広まっていると話す。が、このことは、まだ米国にとってさほど大きい問題でない、とある意味で、政治的な水面下で駆け引きが行われているようだ。しかし、汚染は中国の巨大な問題であると指摘している。
先に記した世界銀行の報告書は、中国には、世界で最も汚された20都市のうち16都市が現在あることを強調している。さらに、中国政府は、国家の河川および帯水層のほとんどがかなり汚染されていると言う。しかし、中国は、気候変動の原因とされる温室効果ガスの排出国として米国の次に存在しているにもかかわらず、それを他国のような話として伝えているのも問題である。開発を急ぐ中国は、自国の環境低下の状態と地球環境においての役割を正す必要がある。その強い意識を持つべき国家である。特に、世界銀行にリストされた山西地域は、中国の石炭産業の中心であり、 石炭は国家のエネルギーの約3分の2を提供している。中国の発展はより多くのエネルギー需要を招き、何百もの炭鉱の出現をここにもたらした。 こうした炭鉱は改善されぬままに稼動し、鉱山は既に裸にされた山を破壊し、地域の地下水を汚している。中国はこれらを受け止め、改善するべきである。
この地域に住む農家の人は、40年前に耕作し始めたときには、沢山の新鮮な水を有し、井戸はたった10mほどの深さですんだという。 しかし今は、水を得るために180m以上掘らなければならないという。山西地域は、中国で最も汚され、最も喝き切った地域の1つとなった。
水は配給制で、 地方首都では、数時間の間だけ新鮮な水を得ることができる。そこには巨大な価格差益があり、それは、地方役人を含む多くの金持ちを作り出している。貧しい農夫が彼らの塵で窒息する間、山西では、豊富な人々と貧しい人々との所得格差が急速に拡大している。

山西地域
影響を受けた可能性のある人々:約 3,000,000人
汚染物質:微粉灰、一酸化炭素、窒素酸化物、PM-2.5、PM-10、二酸化硫黄、揮発性有機化合物、ヒ素、鉛
汚染源:自動車、産業排出物
健康への影響:高濃度の汚染は、多くの住民の健康状態に重大な打撃を与えている。市内の病院は、汚染が原因と見られる気管支炎、肺炎および肺癌の発症例を認めている。そして、子どもはまた、鉛中毒にかかっている確率が高いという。近年、死亡率はますます上昇し、これらの圧倒的な汚染度に関連づけられた。井戸水で見つかった、高濃度のヒ素を含む水を飲むことにより引き起こされた疾病は、ここではもはや伝染性のレベルにある。ヒ素への慢性的な被ばくは、皮膚の損傷、末梢血管疾患、高血圧、ブラックフット病および高い癌発生率をもたらすという。公表された山西省の井戸水に関する研究によれば、安全でない井戸水の割合が多いそうだ。

汚染された川
環境を犠牲にする開発の多くは、このパターンの繰り返しである。何も中国だけとは限らない。汚染は、経済成長と共に多くの国や地域で起こる。なかでも途上国では、加えてそのペースが速い。 過去の開発では、重工業化された地域は大気汚染および水質汚染に苦しんできた。そして今も多くの問題が残されている。原因は、中国が今現在成長し、しかもそれが世界で前例のないペースで行われていることである。 そして、中国はそれが現在の政治体制の問題を悪化させることを恐れている。
周囲で起こっている現実が中央には聞かず届かず見ず、まして個人利益のために国家が後押しをしているようにさえ見える不透明な開発が行われ、他国の過去の教訓が生かされないままの住民不在である。中国の開発において、特にランドスケープがある意味で効果的に監視できる体制を作る必要があるとすれば、それは、中国で活動する日本のランドスケープが、米国のランドスケープのように、中国国内のランドスケープと共に環境の規則を作り出すことである。なかでも、水と緑と土に焦点を合わせなければならない。あるものに対して何ができるだろうか?何を行うことができるだろうか?その意識を持つことが、本当のランドスケープの行動ではないだろうか。
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