ホーム サイトマップ
リッド ゼリスケープ ゼリスケープ気象 ゼリスケープ灌漑 デザイン ゼリニュース セミナーと書籍


ランドスケープアーキテクチュアの考察
第6回:
ネポンセットの新しい光
ボストン近郊における公共と民間のパートナーシップによる「デイライツ」川の拡張 上

翻訳:小出兼久 2007.11.07
Photograph&(c): Landscape Architecture 4/2003

 

今アメリカで流行している「デイライツ」という川の設計をめぐる試み。daylightsというと- 名詞 1)昼間の光、2)昼間などが思い浮かぶ。動詞にすると、「陽をあてる」とか「陽にさらす」、「障害物を取り除いて明らかにする」という意味を持つ。ランドスケープ業界で最近流行っているのが、This project daylights the river.簡単にいえば、「(川を)陽にさらす。」それはどういう事柄を意味しているのか、紹介する。

ニューイングランドのパトリオット建物(会社)の新しいジレットスタジアム(2002年に竣工しオープン)は、マサチューセッツ州フォックスボロ(Foxborough)で長さ3,300フィートにわたるネポンセット川の拡張を復原する機会を提供した。ネポンセットの場合、川の復原は、新しく68,000席の多機能スタジアムを作るにあたって必要とされる、大規模な新駐車場のニーズと一致した。敷地には1940年代に旧競技場が建てられ、川は再編成され、競技場の上下流域は下水管によって地下に埋められていた。ネポンセット川の沈泥が詰まった下水管になっている部分と開渠している部分は、ちょうど旧競技場を横切り、そして、新しいスタジアムの計画地-まさに最も駐車が必要な場所に隣接して流れていた。新しいスタジアムは施設の近くに駐車を必要としており、ネポンセット川は、「デイライティング daylighting」され、復原される必要があった。両者のゴールは、ネポンセット川復原プロジェクトにて成し遂げられたが、それは新しいスタジアムのできる数ヶ月前に完了した。

 

復原プロジェクトは、競技場の建設に先立ち、この部分をとおるネポンセット川を後退させ再配置した。そして、川の流れと野生生物の行動をずっと自由にさせる、8.4エーカーにおよぶ川岸の回廊を新しく作った。世界中のディライティングプロジェクトを文書化しているロッキー山脈協会によると、このデイライティングプロジェクトは、アメリカ合衆国北東部で着手されたその種類のものでは最初の一つであり、全国的にみても大規模だという。
デイライティング(daylighting)とは、ロッキー山脈協会の報告書によれば、リチャード・ピンカムによって「埋められた河川に新しい命を与えること」と定義されているが(2000年)、それは、過去に覆われてしまった川や小川、降雨排水の一部または全体を、故意に人目にさらすプロジェクトと言い換えられる。現代は、皆の認識以上に、川と流れを地下のコンクリート中に隠したり、連続してカバーをかけるように設計しており、そうすることによって、水路の豊富な自然の機能と利益が抑制されている。ディラィティングは、洪水の貯蔵を増やし、表面流出水の速度を遅くし、水質を改善し、水中や水辺の生息地と野生動物の回廊を再現する。そして、人々を水と結びつけるような都市の遊歩道と連なり、環境についての市の誇りと感覚を向上させ、美的な価値と教育機会を増やすのである。もう一つの利益は、劣化したり機能しなくなった排水インフラを開渠水路と取り替えることで、関連費用の節約が可能となり、長期にわたる維持が簡単になるだろうということである。ディライティングというアイデアは、流行しているようである:ロッキー山脈協会は、アメリカ合衆国の約25のディライティングプロジェクトを調査し終わり、次の25を精査中である。

 

 工事前(旧競走場)2001年4月

 工事中 新しく掘削した川の回廊 2001年6月

 工事後 渇水でも植物が活着した回廊 2002年8月

 

 

スタジアム会社である「パトリオット」は、たとえ既存河川の周辺で駐車場を造ることができたとしても、主要な開発促進地域から離して、開渠にて川を再配置するという選択肢の設計のほうを選んだ。そして、規定する必要条件に合うたくさんの代替戦略が考慮されたが、その横にかなりの量の緑の回廊を伴って川を復原するという展望が非常に魅力的に映り、勝利したのである。鍵となる貢献要因は、複雑な許認可プロセスを促進するために、パトリオットのマネージャーと専門職員、州と連邦の規定機関、地元の当局とネポンセット川流域協会から成る公共個人一緒の専門調査委員会の早い設立にあった。専門調査委員会は、パトリオットのために速いペースで計画を進ませ、一斉に川を陽の光にさらし、新スタジアム建設の間、進行中の作業のために駐車を提供させた。

 

ディライティングプロジェクトは、多様で高機能な川岸システムを作成するために、広い範囲の熟練したプロを必要とする。そしてこのシステムの設計は、コストと日程制約と同様に、水文学的状況と他の環境要因を考慮に入れなければならない。また、法規に従わなければならない。このプロジェクトに関して、学際的なデザイン・チームは、Rizzoアソシエイツという、マサチューセッツ州フラミンガムに本拠地のある企業によってリーダーシップをとられ、生物工学的(bioengineering)実践を専門とするランドスケープアーキテクト、湿地科学者、都市構造エンジニア、許認可の専門家がその一員であった。ヘイリー&オールドリッチ社というボストンに拠点を置く会社が、重大なゲオテクニカル・サポートを行った。パトリオットと彼らのデザイン・チームは、2000年7月に最初の設計コンセプトを委員会の一員であった規定機関に提出した。

 

地表下土壌の状態、地下水と地表水文学、近くの植物群落といった広範にわたる調査は、設計作業が前進するための重大なパラメータとなった。ネポンセット川上流の、近隣既存参考領域を河川形態学により分析することで、チームは新しい川の流れによってできる必要条件を決定した。その場所に適応する流れの形態のほか、既存領域上の横断面、縦方向、曲がり寸法などのデーターが集められ、新しい川の水路は、それに応じて掘られた。分析段階もまた、デザイナーが直面する難題の一部を指摘した。たとえば、ジオテクニカルなテスト・ボーリングは、提案された8.4エーカーの回廊のおよそ3分の2は適切な状態にあるが、最上の3分の1は地下水位が高い場所である可能性を示した。この場所では、回廊は使用中の鉄道線路に隣接しており、最も幅が狭くなり、最も急な側傾斜路が必要となるようであった。設計は、最終的に斜面からの浸出(漏水)に言及し、この地で斜面を安定させる非常事態計画を提供することで、その潜在的不安定作用について言及した。計画は、建設の間、堤防を安定させるために石の使用を最小にするという現地決定をした。

 

 バーム両脇の池

 

河川を陽の下にさらす新しい区画の計画は、新しく川岸に湿地をつくり100年洪水に対処し、生息地の価値を最大にするという要求に基づいて作られた。その展望では、機能と外観において、できるだけ自然に近い川をつくることが求められた。敷地制約は、上流の3分のの区画では狭い60フィート幅で、残り下流の大部分の区画ではおよそ140フィートの幅で構成される、8.4エーカーの細くて長い回廊を要求した。川岸の湿地はやがて横幅方向の底を覆うように、高台となった川脇の斜面は昔どおりの野原へ遷移する草原になるように、計画された。大きな洪水調節用のバーム(高さ11フィート長さ100フィートの土製構造物:小丘)が、100年洪水を制御するために、下流の回廊の端を横切って造られた。広いが短い箱形下水管(ボックスカルバート)は、唯一実際に流れを圧縮しながら、その下で流れを運ぶ。川は、現場の上流の端からもうひとつの広くて短い箱形下水管(ボックスカルバート)を通って入る。バームのてっぺんには歩道が設けられ、駅とスタジアムをつなぐ公共道の役目も兼ね、また、川の回廊とスタジアムの広範な眺めを提供する。バームは、さらに、危急時には駅への非常用通路となる。回廊の大きい池があるエリアのうちの2つは、それぞれ平均しておよそ0.25エーカーあり、バームへの入口の両脇にそれぞれ位置する。

(以下、次号に続く)

 

 

INDEX
 
第6回:ネポンセットの新しい光
ボストン近郊における公共と民間のパートナーシップによる「デイライツ」川の拡張 下
第6回:ネポンセットの新しい光
ボストン近郊における公共と民間のパートナーシップによる「デイライツ」川の拡張 上
 
他のコラム一覧
↑このページのtopへ

Copyright©2003 -2008 Japan Xeriscape Design Association. All Rights Reserved.
*本サイトに掲載されている画像や文章等全ての内容の無断転載及び引用を禁止します。