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ランドスケープアーキテクチュアの考察
第7回:
小出兼久の持続可能な米国の再考

小出兼久 2007.12.18

 


Photograph:(c)財団法人旭硝子財団(素晴らしいポスターです)


第1章:認識

環境のより安定した将来の計画を立てるには、明白なビジョンを必要とする。例えば、その時にはもはや化石燃料を使うことができないとか、あるいは、作物を育てるために森林が伐採された場合、人口増加にどのように向き合い、如何に皆にエネルギーを配分できるだろうか?使い捨て文化が汚染と資源減損に必然的に結びつく場合、物質に対するニーズはどのように満たすことができるのだろうか?
言いかえれば、現在の軌道が明らかに非常に不健全な場合、持続可能な国際社会へと移行するには、未来をどのような状況へと導けばよいのだろうか?

 

我々の社会は分不相応の生活をしている。開発によって、昔から大地を奪っている。これは、我々が長い間、生存を依存する自然環境を荒らしていると言い換えても良い。

 

前兆

環境のまさにその性質は、自動車、石炭、原子力、森林の開発による環境破壊、地球温暖化、あるいは他の要因らの相互作用の結果のために、非常に変化するように見える。しかし、基本的に、人間のニーズには対応していない。人間と地球は、どのくらい相互影響をしているのだろうか?両者のよりよい関係を世界中で発展させることができるのだろうか?

以下に、現在の環境破壊の指標リストを明らかにしておく。

  • 熱帯林は1年間で約1100万ha減少している。工業国の約3100万haの森林が、大気汚染または酸性雨によって損害を被っているのは明らかである。

  • 1年に推定260億トンの表土が失われ、これは、新しい土壌形成以上の値である。

  • 土地の誤った管理によって、1年に約600万haもの砂漠が新しく作られている。

  • 工業の影響により、米国北部の何千という湖では、今日、生物が存在しないという。さらに、今滅びつつある湖が何千とある。

  • 人々の水への需要が増すにつれ、地下水、つまり帯水層の貯蔵率が、アフリカ、中国、インド、北米の数箇所で不足する。

  • 現在、年間に数千の動植物種が絶滅していると推測される。さらに、すべての動植物種のうちの5分1が、次の20年間で消滅する危機にさらされている。

  • 今日、米国32州の地下水は、約50種類の農薬によって汚染されている。そして、米国では有毒な廃棄物地が約2,500前後あり、浄化を必要としている。さらに、世界中の有毒汚染地を挙げるならば、その範囲や数は未知数である。

  • 平均気温は、今から2050年までの間に1.5℃〜4.5℃上昇すると予測される。

  • 海面は、2100年までに1.4m〜2.2 m 上昇すると予測される。

  • 南極大陸上のオゾンホールは、徐々に世界的な減少が始まっている。

 

こうした世界の状態に加えて、デービッド・ワンは、彼の生物学的な著作の中で「環境悪化は、関係ある情報の欠如である・・・」と記し、また次のように付け加えている。「我々の環境問題の大部分の責任は・・・多くの貧しい計画に負われている」という。
また、上に示された統計は、「我々は地球をそれが清算への仕事かのように扱っている」と述べる世界銀行の経済学者ハーマン・ダーリーの表明を支援するように見える。
「開発」の定義は、人間生活の質の改善から「無限の成長に対する信念を与えた経済活動」に進化した。どれだけ、この地球に対する人間の活動の有害な影響に平衡を与える開発を行うことができるだろうか。作家J.G.ネルソンは、「今必要なのは、効力のある知識が手元にあること、しかも全般的な指導の約束を備えて。」と説明する。この考えはつまり、持続可能な開発である。

 

持続可能性の概念

それは、地球の幸福(健全性)への懸念と持続する成長及び人間の開発を組み合わせ、両方を実現しようとすることである。環境と開発の国際会議の言葉を借りるならば、「将来の世代の力を危うくすることなく今の我々の需要に応ずること」という。過去20数年の間で、この言葉はずいぶんとポピュラーになった。人間の文明が自然界に不可欠で、人間の共同社会がそれ自身依存するものであるならば、我々が自然を保護し永続させることを認識するのは、自明だという概念である。
持続可能な計画は、保護主義を例証し、我々の毎日の生活で保護主義の適用を促進する。そして、その開発を通じて保護主義の考えを明瞭に表現する。
持続可能な計画を支えるもうひとつの概念は、生物地域主義である。その考え方は、我々も他の生物もその生活のすべては、確立され機能している地域社会の基盤で維持されつつ、そしてこの個々の地域社会(バイオリージョン)はすべて、相互に支援しあう生活系を持ち、それは社会全般に存在して自立している、という考え方である。

こうして見ると、持続可能性の概念とは、未来指向のテクノロジーが、主にバイオ地域のパターンとその規模内に機能すると考えるもののようである。それは生物多様性と環境保全を達成し、環境の健全性に貢献する。水や土は、生物地域条件を反映する要素であるが、これらを計画設計に組み込んで、人間が自然に及ぼす影響を縮小しなければならないということだ。

 

持続可能な計画、持続可能な開発、自然を有する計画、環境上敏感な計画、全体的な資源管理 - それぞれの言葉が示すこと以上に、今や環境を開発することにおいて、持続性は重要なのでである。そして持続性とは、 時間が経過しても前と変わらずに(質の低下なく)保持され続ける自然や文化的主義の能力と言い換えられよう。

 

Bioregions =バイオリージョンは、生態系の全機能に影響を及ぼす、広いランドスケープ規模のこと、自然の機能と環境のプロセスによって特徴づけられた比較的大きな地域を言う。

 

持続可能性の原則

持続可能性は、今に比べ生活の質の低下を求める訳ではないが、消費がより少ない生活様式への性向に価値を見出すように、従来の考え方の再考を求める。この変化は世界規模の相互依存や環境の管理、社会的責任と経済実行可能性を受け入れるもので、持続可能な計画とは、こうした考え方の変化を組み込んだ、従来の計画に対する代替案なのである。この新しい計画方法は、その選択された計画が地域的あるいは局所的、さらに地球環境規模の自然と文化財のすべてにわたり、どのような影響を及ぼすのかを知るべきと述べる。

そこで必要とされる新しい持続可能な設計原則のモデルは、2000年にドイツで開かれたハノーバー万博の設計家、ウィリアム・マクドナーが提言する「Hannover Principles:ハノーバー原則」あるいは「Bill of Rights for the Planet:地球のための権利宣言」によって例証される。具体的には次の9つである。

 

  1. 人間性と自然の権利を主張するのは、両者が健康で相互に支え合い、多様性持ち、持続可能な状態で共存するためである。

  2. 相互依存を認めなさい。我々人間は、自然環境全体と生態的な相互依存関係にある。人間の設計要素は、あらゆる規模で幅広く多様な関連性を持ちながら、自然世界と相互に影響しあい依存する。小さな結果(影響)さえ認識するように、設計に対する考慮を拡大しなさい。

  3. 精神と物質の関係を尊重しなさい。
    精神意識と物質意識との間に展開する従来どおりの関係の点から、地域社会、住居、産業界と商業を含む人間の決定の全ての面を考慮しなさい。

  4. .人間の幸福へのデザイン決定、自然システムの生存能力、彼らの共存する権利、それぞれの結果に帰結する責任を受け入れなさい。

  5. 長期的に価値のある確実な物を作りなさい。製品自体やその工程、基準などを軽率に作成したために、将来の世代が潜在的に危険を抱えることになったり、その警戒のための管理要求を負うことのないようにする。

  6. 浪費の概念を除去する。自然のシステムには無駄がないと言われるが、その状態に近づくために、今を評価して、製品とプロセスの完全なライフサイクルを最適化する。

  7. 自然エネルギーのフローに頼りなさい。人間も、生命体世界の様に、永続する太陽の利益から自分たちの創造的な力を引き出すように計画すべきである。責任を負う利用のためにこのエネルギー(ソーラーエネルギー)を効率的に安全に組り込む工夫をする。

  8. 設計の限界を理解する。人間の創造が永遠に続くことはなく、また、設計がすべての問題を解決するとは限らない。作成する人々も計画も、自然に面と向かって謙遜の態度を示さなければならない。自然は手本や良い指導者であると見なすべきで、回避されたり制御されるような不都合・不便なものではない。

  9. 知識を共有することによって、改良の継続を求めなさい。そして、長期にわたって持続可能な考慮を倫理上の責任と結びつけ、かつ、チュラル・プロセスと人間の活動との不可欠な関係を再確立するために、同僚や客、製造者とユーザーの間で直接的で開かれたコミュニケーションを促進しなさい。

この原則は、93年6月にシカゴで行われたアメリカ建築家協会(AIA)と国際建築家連合(UIA)の世界会議によって認可された。そして、この会議ではさらに、AIAとUIAが認める最初の「持続可能な未来に対する相互依存」の宣言が出されている。この宣言を要約すると、今日の社会は深刻な環境の質の低下を招いており、AIA、UIAおよび両会員は次のことを認識すると述べている。

  • 我々の実務と職能の責任の中核に、環境と社会の持続性を置く。

  • 持続可能な計画を実施するための実務、手続き、プロダクト、サービス及び基準を開発し、絶えず改善する。

  • 建築業に携わる人々、クライアントおよび一般市民に対し、持続可能な計画の重要性について教育する。

  • 持続可能な計画が全面的に支えられた標準のやり方となるように、政府と政策の調整、規則を変更するために機能する。

  • 現在の建築環境を持続可能な計画の基準に合致するよう引き上げる。


また、1991年には、環境と開発に関する国際会議(ICED:International Conference on Engineering Design)が開かれているが、ここでは、国際委員会の統合、建築上の提携、ランドスケープが建築上で組織を巧みに計画実行すること、持続可能な計画へのチーム方法を促進して、ビジョンステートメントを発展させることが述べられた。

 

環境と開発に関する国際会議ICEDの立場:

職業の倫理、教育と業務が、持続可能な未来を形作ると指示する。このビジョンを達成するためには学際的なパートナーシップも必要である。持続可能な計画のコンセプトは、世界的規模の様々な職業によって支えられており、究極のゴールは、環境上でよりよく反応するようになることである。世界では、省エネルギーで保護を促進する設備と、自然、経済資源の再利用がますます必要である。

 

参考文献
1) The Secret Knowledge of Water: Discovering the Essence of the American Desert
2) Environmental Deterioration Of Materials (Advances in Architecture)
3) Herman Daly=1999年、「理論と真実上の非経済的な成長」

 

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