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ひとつの水域に、賞に輝いたプロジェクトが2つある。近隣住民によってひとつは賞賛され、ひとつは悪口を言われる。この矛盾はなんなのであろうか?

ここでは前者のペンスウッドビレッジの場合を抜粋

(c)By Linda Mclntyre - Landscape architecture 9/2006 -    2006.12.01掲載

 

 

草原であり、野生生物の生息地でもある、州で一番の降水管理システムの近くで暮らしたくない人なんているのだろうか?
ーそんな人はまずいない。

 

ペンシルバニア州バックス郡で賞に輝いた2つのプロジェクトは、ランドスケープアーキテクトがクライアントや社会を新しい方向へと導こうとするときに直面した、難問の解決案を描き出したものである。時々、野心的な実務家は、クライアントの突飛な夢を越えて結果を成し遂げる。しかし、他方、成功したプロジェクトでも、その生態系的目的を誤解されたり、それによって利益を得るつもりだった人々から認められないこともあり、その場合、創造者は当惑して、失望してしまう。

 

バックス郡は、フィラデルフィアとニューヨーク市のほぼ中間に位置する。第2次世界大戦以降、積極的に宅地開発を促進していたが、開発に付属する負の面つまり、地元水路のひどい面源汚染や多量の表面流出水を出していた。233平方マイルのネシャミニークリーク流域は、近年、洪水や河川堤防の浸食又は堆積、水質悪化、野生生物生息地の減少に苦しんでいた。

 

バックス郡でも他の郊外地域同様、貯水池がよく使われていたが、豪雨の影響の緩和に役に立っているとはいえず、より問題が顕著になるだけであった。2つのプロジェクトはそれぞれ、より全体論的で生態学的にセンシティブなアプローチをとることによって、既存の貯水池の欠点を克服しようとしたものである。2つとも、水流を制御するだけでなく、自生種を繁茂させ、草原の植物によるランドスケープを確立し、鳥、カエルその他の野生生物を引きつけることに成功した。しかし、ひとつは容認し祝福されているのに、もうひとつは近隣住民の多くから無視されたり、悪口を言われている。

*注)以下は良い例です。


ペンスウッドビィレッジあるいは自分の降水システムを如何に愛しているかという例

ペンシルバニア州ニュータウンにある「ペンスウッドビレッジ」は、1980年代初頭に造られた、全ての宗教の居住者を歓迎するが、個人々やシンプルで機能的なデザイン、環境への責務と総意による意思決定に重きをおく、クエーカー(宗教の一つ)的価値によって強く導かれた、リタイアメントコミュニティである。このコミュニティは、「ニュータウンフレンド」と「ジョージスクール」という2つのクエーカー学校に隣接しており、居住者は学生との頻繁な交流を楽しんでいる。

 

住居建物まわりの既存のランドスケープは、ペンシルバニアで有名なランドスケープアーキテクト、ジョージ・アーヴィン・パットンによってつくられたもので、多種多様な青々とした観賞植物と外来植物が植えられた、無定形の植栽花壇の点在する芝生を特徴としている。シンボルとなる木には、学名と一般名の両方のラベルがつけられ、ゆったりとしていて、植物園の感じを与える。このランドスケープは、ランドスケープアーキテクチャー史上で、ある瞬間を完全に捕らえたものであり、ペンスウッドビレッジの残りの部分は、そこに時間がどのように流れ、変わったかを示すものである。

 

最近1990年代に、ペンスウッドビレッジは、大規模洪水がきっかけとなって作成した降雨管理計画を拡張して実施する準備をしていた。拡張の大部分は、ペンスウッドビレッジが地元の農夫に貸している、ヴィレッジのエントランスロードに隣接する土地上で展開する予定で、ペンシルバニア・ルート(州道)413とすぐ近くの建物からの表面流水は、この土地を通ってすばやく流出し、既存の貯水池をたびたび氾濫させ、下流にある住居地区の冠水を引き起こしていた。

 

ペンスウッドビレッジは、この拡張計画のために、建築会社とともに働くよう、フィラデルフィアに本拠地を置くランドスケープアーキテクチャーの会社である「ウェルズ・アペル土地戦略」を雇った。しかし、ウェルズ・アペルの社長であるスチュアート・アペル(ASLA)は、このランドスケープを生態学的に回復・保全し、歴史的なコンテクストも同様に保全するという実践は、大問題だということを知った。彼は、それまでのプランである、旧農地の古い石の納屋を取り壊して新しい建物を据え付け、南西の角近くの深さ17フィートの貯水池を単純に拡張するというのでは、この地域の土地の特質とペンスウッドビレッジの生態学的な価格には不釣り合いだと予見した。この計画のままでは、近年莫大な成長が見込まれるはずの地域の重要なオープンスペースを消し去ってしまう。

 

「私は雇われたとき、最初は確かにためらった。なぜならこれ(旧プラン)は、結実までに10年の年月と努力をかけたものであったからだ。」
と、アペルは本誌に語った。「結実へのプロセスには、3つのクエーカー団体、州の輸送団体であるペンウッドと、地元の権威者ミドルタウン町区が関与していた。しかし、驚くべきことに、話すのは簡単だった。なぜならば、ペンウッド、ジョージスクールとニュータウンフレンドスクールからも本当に『コンセンサス』を得たからである」

 

コミュニティの展望を心にとめて忘れないナンシースペア(ペンスウッドビレッジの専務取締役)は、アペルの考えを受け入れた。ペンスウッドビレッジの今回のプロジェクトには、収容力を広げることと、町区の降水管理を助けることの2つの目的があり、スペア女史は、どのような方法でも良く、ただ両方が正しく行われることを欲していた。彼女はウェルズ・アペルに、オープンスペースを維持しながらも、降水を制御しつつ、施設の容量を広げる具体的な方法を確定するような新しいマスター・プランを作るよう頼んだ。「コミュニティは非常にオープンで、聞く耳もあり教育的で、彼らの価値に直結する、より良いオプションを持つべきだとすぐに人々は理解した」と、アペルは言う。

 

アペルの会社は、ニュージャージーの会社で、水と湿地管理に広範囲の専門知識を持つ「プリンストン水力」など他の会社とともにプロジェクトのために密接に働いた。「我々は、常に学際的なチームとともに働いた」と、シラキュース大学でランドスケープアーキテクチャーを研究し、生態学的なトレーニングと焦点の深さで知られているプログラムに定評があるアペルが言う。「そう、我々のプロジェクトの多くの基礎をなしている科学がある。そしてそれは、プリンストン水力のような会社とともに協同することを必要とする。例えば、土木工学会社「ピカリング、コーツ&サマーソン」のプロジェクト・マネージャーであるウェイン・ジョンソンはランドスケープアーキテクト(ASLA)であり、彼は本当に我々が何をしようとしているかについて理解し、彼の技師が後に続いてよくわかるようにしたので、非常に助けられた。」学際的な専門家のグループは、ミドルタウン町区、ペンスウッドビレッジの居住者と管理者に対してプロジェクトの目的と特徴を明瞭に表現するために、一緒に働いた。

 



(c)Landscape Architecture 09/2006, Wells Appel L.S.

上記平面図/断面図ともに、クリックすると拡大します。

 

 

自然な水辺をしのばせる、回廊式流れチャネルという最終的なひとつのシステムデザインに達するまでには、数ヶ月に及ぶ議論とやりとりを費やした。しかし、アプローチを動かしたコンセンサスは、コミュニティのクエーカー哲学によって知らされたが、ひとたび仕事が始まったならば、異議も遅延もなく進むことを保証したし、また、ステークホルダー(利益関係者)たちは、細部まで、例えば草原の植物が活着して繁茂するのに忍耐が必要というところまで、精通していた。コミュニティにはすでに強い保存の気風があった。それはペンスウッドビレッジの居住者と影響を受ける隣人たちにプロジェクトの展望への理解を促進するのに大いに役に立った。

 

訪問客たちから見れば、ペンスウッドビレッジは、起伏する自然のままの草原の端にたまたま建てられたもののように見え、おそらくそれが複雑な降水管理システムであるということは分からないであろう。傾斜はなだらかで、低湿地は不均一で設計されていないように自然に見え、2つは丘と谷がうねるバックス郡の地形の中に繰り返される。「自然の洪水原のように、我々は広くフラットな湿地を作った」と、アペルは言う。
「それは、非常に効果的な視覚トリックである」と、プリンストン水力のマークは言う。
「CADプログラムで標準斜面を配置するのは簡単であるが、効果的でなかった。」

 

降水管理システムは、大きな沈殿池とすぐ近くの小さい派生池、一連のバイオレテンション(生物滞留池)、草深い湿地と処理湿地で構成されている。降雨後、網目状に張り巡らされたパイプは、流域からの表面流水を、メインの沈殿池が収容されている地元産の褐色砂岩でできた半円形の壁を持つ河口建造物へと導く。また、大きめの粒子と破片をろ過する大きな丸石によって、この池からの水の流れは遅くなり、石の堰は、第二の沈殿池への表面流水の流入を制御する。両方の滞留池は、清掃とメンテナンスにもアクセスしやすく設計されている。
降水は、広く平らで草の生えた洪水原を模した低湿地を通り、ペンスウッドビレッジのエントリーロードに沿って走り、最初の表面流水のしぶきを管理するように作った滞留池へと動き続ける。プリンストン水力会社の水文学者であるスティーブン・スザによれば、彼らは本物の浸入域として池を計画したと言う。とはいえ、長年の使用による土の圧縮が原因で、その場所はいくぶん水が残り湿ったままでいる。しかし、この水が浸透せずに幾分残るという問題は、草原植物の繁茂により解決したとスザは言う。

 

降雨の流れがこの池の容量を上回ると、水は石の堰を越えて放出され、一連の生物滞留池と連結するもう一つの植栽低湿地へと流れ込み、エントランスロードの両側を縦横に横切る。湿地が交差する点の上には地元の褐色砂岩で造られた橋を立て、道を支えている。「我々は、草原にドライブスルーの経験を持たせるよりむしろ、訪問客のためにエントリーの感覚を引き起こしたかった」と、アペルは言う。これはプロジェクトのコストを増す結果となったが、ペンスウッドビレッジのマネージャーも居住者もその考えを気に入り、喜んで代金を払ったと、彼は言う。

 

システム中の終点要素は、人工処理湿地と最終的な滞留池である。
猛烈な嵐の間、表面からの流出水は、くぼ地を経て湿地から最終的な池へと移る。しかし、100年洪水や他の激しい豪雨にあった場合には、池の制御構造は、放出口から水流を後ろの湿地へと流す。
必要に応じて、それ(オーバーフロー)は敷地の北側のくぼ地まで流される。そして3つの生物滞留池を通り、ネシャミニー流域へと流れ込む・しかし、ペンスウッドビレッジのランドスケープマネージャーであるドリュー・メーソンは、このシステムが構築されてから、まだコミュニティから水がネシャミニー流域へと流れ込んだことはないという。今年の6月と7月に2週に渡って降った豪雨の後でさえ、である。

湿地は地下水によって養われ、また、一年中本物の湿地状態のままでいられるのに十分な表面流出を集めるので、カエル、タカ、鳴鳥、カモ、ウサギ、キツネのための湿地生息地として機能している。ペンスウッドビレッジは野生生物の通り道に座しており、プロジェクトはただ彼らを、以前生息地であったところに呼び戻しただけである。

ギャラガーは、植物をすべて自生種とした。それは、自生種の持つ汚染物質除去特性や、文化的必要性、丈夫さと、生息地にとっての価値のためである。たとえば、滞留池と草原という湿った場所、乾いた場所のために、相反する種類(乾湿両方)の樹木を選んだ。
ウェルズ・アペルは、植栽計画は美学に焦点を合わせたが、用いた植物の大部分は、ギャラガーによって提案された種であった。
「我々は、機能と美学のバランスを考慮して植物を選んだ」アペルが言う。
その効果は、植えて6年が経つが、若いが確立した景色となっている。植物は、健康に見え、繁茂している。草は、木と潅木によって強調され、微風の中で揺れる。敷地の周辺に配置された成熟した樹木は、視野に枠をつける。(格好のフレームとなる)外来種が侵入したという形跡はほとんどないことは、ペンスウッドビレッジのメーソンに感謝したい、とアペルは言う。メーソンは、プロジェクトをよく維持し、その多機能の展望に忠実なままでいることを確実にするのに尽力する、ペンスウッドビレッジの担当者である。

 

草原の空間は、ペンスウッドビレッジの居住者と隣人に活用され、楽しまれている。草原のメイン通路には、コミュニティの場所と交通信号を知らせるサインがあるが、コミュニティに友人や親戚がいなくても訪れる人を妨げないよう、ゲートやフェンスは一切設けていない。アスファルトの通路は、車椅子、徒歩者とスクーターの人々に、簡単なアクセスを与えるために等級分けされ、敷地中を曲がりくねって配置されている。野鳥観察者は朝早く、気に入った場所を取っておき、犬を連れた散歩者や他の人々は、日中あちこちをそぞろ歩く。我々が訪問した雨の、湿気がある火曜日にさえ、丈夫な数名の人々は景色やカエルの合唱がバックグラウンドで歌うのを楽しんで、外にでていた。

 

この降水管理システムの美しさは、その機能的効果をそこなわない。ミドルタウン町区の他の一部で氾濫が起きた嵐にもかかわらず、下流に氾濫することは、終わった。我々は、中部大西洋岸諸州で記録的な雨量を記した日の後に、ペンスウッドビレッジを訪問したのだが、池の大部分は乾いており、ランドスケープのあちこちに小さな水たまりがかなりあった。
土壌の浸食や植物が被害を受けた徴候は見当たらず、堆積物などが道路や小径をふさいでいるということもなかった。
メーソンは、さらに多くの嵐や豪雨がこの地域を通過し、数日居座っていた時でさえ、何も悪くなったシステムはなかったと言う。彼は続ける、「最初の数年よりも一番遠い池へと移動する水は少なくなっている。おそらく、植物が活着し繁茂すればするほど、よりよく水を制御しするようになるのだと思う。」

 

このようなシステムはモデルとして勤めなければならないし、ペンスウッドビレッジはそうしている。「ニュータウンフレンド」学校の若い学生とジョージ学校の高校生たちは、頻繁にここを訪れ、近所の公立学校は、受賞した科学プロジェクトの根拠としてこのシステムを使用した。毎年、アペルはランドスケープアーキテクチャーを学ぶ学生を、このプロジェクトのツアーへと連れてくる。また、ペンスウッドヴィレッジの管理部署は、周辺地域から地方政府までプレゼンテーションを行っている。2003年のASLAデザイン功績賞に加え、このプロジェクトは、環境的に優れたデザインに贈られるペンシルバニア知事賞と、ASLAのペンシルバニア・デラウェア支部の2004年の優秀賞を受賞した。「それは、クエーカー・コミュニティに限らず、どこででも行われるべき種類の仕事である。」と、ASLAの陪審員は語った。
「私は、このプロジェクトが好きである」と。(了)