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文:小出 兼久 2006.11.22 写真:AP通信

 

前回生物燃料に期待する未来について述べたが、生物燃料というのは、自然界を地球の温暖化から救うものではなくむしろ、自然界にダメージを与えて終末へとみちびくのかもしれないという意見がある。 そのため、新しく安全な生物燃料革命を起こすには、政策、科学、遺伝子組み替えはのすべてを適切に導く必要があるという。


原油価格が高騰し、気候変動を抑止するための炭素排出量の削減について議論が白熱する中で、多くの具体的解決策が足踏みする中、再生可能でクリーンなエネルギー源として生物燃料に俄然注目が集まっている。ここ1か月の新聞を見ても、数回新聞に載っていることは、過去にはないことであった。

欧州連合EUは最近、2010年までに輸送燃料需要の5.75%を生物燃料が満たすよう求める伝達を出している。 これについて、ドイツとフランスは共に、期限前に十分に達成できる見込みであると発表したし、米国カリフォルニアでは、さらに先を行っている。
しかし、現時点での生物燃料は手放しで素晴らしいと言えない側面がある。つまりそれは、古典的な「良いニュースと悪いニュース」をもたらすものであるからだ。

もちろん、我々はみな、確実なエネルギー安全保障を望んでいる。また、如何に達成率や効果が疑問視されても、京都議定書の目標を達成しようとするのは、良いことである。 しかし、欧米では多くの人々が生物燃料のことを「森林破壊ディーゼル」と呼ぶ。これは、全く不思議でもなんでもないことであるが、生物燃料(エタノール、トウモロコシから作られるアルコール燃料、サトウキビまたは他の植物から生み出される燃料)は、安物買いの銭失いとなるかも知れない。

生物燃料のマイナス点とは以下のように論じられている。皆さんはどのように考えるだろうか:

●一例をあげると、レンジローバーのガソリンタンクをエタノールで満タンにするには、大人1人が1年間に食べる穀物量と同じだけの穀物が必要となると言われる。ガソリンタンクが2週間に一度補充されると仮定すると、必要な穀物の合計量は、空腹を抱えたアフリカの村を1年間養うことができる量となる。

●ヨーロッパでよく言われるのは、ヨーロッパの人々が利用する燃料のほとんどは、ブラジルから輸入されている。そこではより多くの砂糖や大豆を植えようとして、アマゾンの森林が焼かれている。また東南アジアからも輸入されているが、そこでは、燃料用のギネアアブラヤシのプランテーションを作るために、オランウータンや他の多くの生物が住む、熱帯雨林の生息地を破壊している。まさに、種は我々が運転をする(driving)ために死んでいく(dying)と言われる。


●では、米国ではどうなのか。最近のブッシュ政権はやっきになって生物燃料を推進している気もするが、エタノールは通常トウモロコシを原料としエコに見えるが、生成過程のあらゆる段階、耕作から処理と輸送にいたるまで器機やトラクターを用い、化石燃料を消費する。トウモロコシを育てるには、完成した燃料製品の30%を消費し、後には、衰退した大地と汚染された水を残す。 ある信頼できる調査によれば、EUが生物燃料使用率5.75%の目標を達成するには、EU全体で耕地の4分の1が必要だと言われている。

●エタノールは生成過程で化石燃料を必要とし二酸化炭素を放出する。また、その走行距離はガソリンの7割であるため、ガソリンに替えてエタノールを使った場合、二酸化炭素の排出はわずか約13%削減される。

●食物の価格は既に上昇しており、例えば 砂糖は、世界の全収穫量のちょうど10%がエタノールに生成されるため価格が2倍になっている。 パーム油の価格は、去年よりも15%高くなり来年は25%の高騰が見込まれている。

多くの人が生物燃料は「森林破壊ディーゼル」と呼ぶのはあたりまえのことだ。皆が望む環境にやさしい燃料とは対極にある。
我々はすでに多くの農地を、栽培効率とか経済のために、単一栽培の形にしてきた。生物燃料の生産はこの動きをさらに加速させるだろうし、それにより、自然の多様性はますます破壊されてゆくだろう。一方で、すべては野生動物のためとほのめかす。我々はもっと多様性を作り出したいのか、それともしぼりつくされた不毛の地を作りたいのか? 本当はどちらを欲しているのだろうか?
それ以上に大きな問題は、生物燃料が食物価格へ及ぼす影響である。生物燃料需要が食物需要を圧迫するとしたら、特に、収入の多くを食物に費やす貧困層に影響を与えることになる。

バイオテックの上昇

では我々は何をすべきなのか? それを考える前に、まず第一歩は自然界がどのようにエネルギーを生み出すのかについて、理解を推進すべきである。
驚くことに自然科学者は、まだ光合成の作用 ー植物が二酸化炭素を吸収して炭水化物を造るために、太陽エネルギーを使うプロセスー を十分に理解しているとは言えない。 環境保護論者の中には、去勢された樹木が野生の樹木と交雑種を作り、高い森ではなく、うなだれた森を結果として作り出すと心配する人がいるが、これはどういうことだろうか。


生物工学は、GM食品に対する公衆の抗議によってその評判が傷つけられているが、重大な貢献をするかもしれない。 科学雑誌『ネイチャー』によれば、エタノールの生産量を高めることができる、再結合技術はすでに利用でき、そうなれば、貯蔵による環境へのダメージを減らし、精練所での生成効率を改善することができる。
スイスの生物工学企業であるSyngentaは、特定の酵素を発達させることによって自身をエタノールに変換するのを促進する、遺伝子操作をしたトウモロコシを開発している。
また、樹木のセルロース(繊維質)をエタノールに変換するのを困難する物質、木が直立できるように木に強度を与える物質でリグニンのことだが、それの少ない樹木を作りだそうとしているものもいる。
そこで、先ほどの環境保護論者の言葉、「去勢された樹木が野生の樹木と交雑種を作り、有益な材木や野生生物の生息地も兼ねる高い森ではなく、うなだれた森を作り出すと心配する。」が理解いただけるだろう。

長期的な視野に立てば、生物工学は、木のチップや農業ゴミ、柳の木などを生物エタノールへとより安くよりクリーンに変換するのに役立つと考えられている。これは、生物エタノールの対外イメージを良くしつつ、エネルギー・ニーズに応ずるのに役立つことであろう。

公共の関与

しかし、それではまだ十分と言えない;
生物エネルギーは、民間部門の手のみに委ねられるには、あまりに重要なことがらではないか。
生物エネルギーの社会利益や環境利益の多くは、市場で値が付けられないものである。そのため、公共部門はこうした利益について皆に広く確実に知ってもらえるよう、介入する必要がある。
簡単で即時的方法としては、個人の自動車から始まって輸送のあらゆる形に対して、燃料効率を上げるように命ずることだろう。 現行の技術を持てすれば、燃料効率基準を20%上昇させることは可能であり、ヨーロッパでバイオマスがもたらすよりも多くのエネルギーを節約することになる。
政府はまた、食物と燃料作物間の競争を最小限に抑え、我々の都合で犠牲にすることなく水、高品質の農地、生物多様性を保証するよう経済を刺激する形でリーダーシップを提供する必要がある。
エネルギー投資収益の計算は、土、水、気候変化と生態系尽力への環境の影響を含む必要がある。
最低線は、エネルギーの保全や持続可能なエネルギー源の多様性、生成と輸送におけるより高い効率性とエタノール製品の慎重な管理などを含む全体戦略の一部として、生物燃料がエネルギーと環境のゴールに貢献することができることである。