自然な手法による雨水管理

公開日 2009年1月6日 最終更新日 2016年5月2日

雨水管理の方法はさまざまであるが、低影響開発における雨水管理とは、その敷地が開発前に持っていた水文学を模倣したものである。

 

ある敷地を例にとってみよう。開発前と開発後では、その環境は激変する。開発後は、それまでの水循環の仕組み、土性、通風、日照、環境条件がかなり変化するため、既存の生態系も大きく変化することになる。仮に、その変化が悪変化とすると、その後に大挙して参入する人間にとってもこれは結果的に好ましくない。そこで一般に、開発前と開発後の環境変化をできるだけ抑制することが理想となる。抑制する方法は、さまざまな観点から考えられるが、ここで水循環に注目し、それまでの水循環をできるだけ変えないということを目標にした雨水管理手法が、低影響開発である。

 

低影響開発は、「地域で開発が増加する中、開発による自然資源への害をいかに抑えることができるか」という問いに対するひとつの解決策である。

 

従来の土地開発と雨水管理

低影響開発 LOW IMPACT DEVELOPMENT:LID

 
世界中で低影響開発に対する機運が高まっている。それは、自然への影響が少ない開発を行うことは効率的であり、自然と人間双方の利益につながるからである。

 

水保全、水循環を復元するための低影響開発の手法は、開発業者だけでなくエンジニア、ランドスケープアーキテクト、建築家が、開発における雨水管理について、従来の考えから革新的な手法へと変えようとするときに役に立つものである。この手法は、「自然は雨水流出を制御する最良の方法を知っている」という前提に基づいている。平たく言うなら、私たちは自然に倣おうということだ。森林や田畑では、雨水の表面流出量はわずかである。降った雨の大部分は大地へ浸透するか、草木に吸収されるか、大気へと蒸発してしまう。この自然のシステムを、都市の利便性を妨げることなく、適切な形で取り入れた開発をすることが、低影響開発(LID)の目標なのである。具体的には次のような事柄の達成を目指している。

 

  • 開発地区近隣の雨水の流量を制御する
  • 汚染物質を雨水や小川以外の場所へとどめる管理をする
  • 不浸透性舗装面や圧縮される土壌の面積を減らす
  • 自生植物を保全する
  • 敷地からの雨水の流出を遅らせつつ、その量を減らす

 

 

LIDによる雨水管理は、新築・既存のいずれに関わらず、排水に関連して生じるさまざまな問題を解決する。家庭から居住区画、企業の開発まで、どのような敷地に対しても適用することができる。そして、住民・ビルダー・開発業者らは、LIDを実践することで次のような利益を手にすることができるのである。

 

  • 地域社会の成長と、地域の河川・自然生態系・湿地・自生植物の保全という両方を持続できる
  • 飲料水の供給を質・量ともに保全する
  • 多くの地域や地方自治体は、どうしても発生する定期補修を容易に維持するのに一生懸命だが、LID手法によったものは、その後の維持が容易で負担も少ない
  • インフラストラクチャーにかける費用が少なくてすみ、開発者や地方自治体の金銭節約になる
  • 不浸透性面を減らし雨水流出量も減少させるので、排水設備の費用を節約する
  • 雨水池(貯水池)を小さくでき、開発者は土地をより多く残すことができる
  • 地域社会に緑あふれるオープンスペースが出現し、「緑化」に伴う地域社会の価値が生まれ、近隣にそれを広げることができる

 

 

※関連記事として低影響開発の記事も併せて参考にされたい。