公開日 2008年12月22日 最終更新日 2016年5月2日
なぜならば低影響開発は、水源を不浸透性の表面を流出する雨水の悪影響から保護し環境を浄化してくれるからである。特に都市部において、水源や環境の汚染とそれによって生じる水面下の沈殿物は、我々の健康を脅かし、悪いこときわまりない。舗装面を流出する雨水の管理が必要となる。雨水の管理を行いながら健全な自然環境を護る、それが低影響開発(LID:リッド)の効果であり、必要とされるゆえんである。
従来の開発と雨水管理
道路や広場、屋根、建物の屋上……不浸透性の表面が都市部には増えた。それにより、雨水は地中へ浸透できなくなり硬質な舗装面の表面を流れて都市の排水インフラへと集められる。こんな雨水の流出くらいなんということもないと、最初は皆思っていたのかもしれない。管を配して雨を河川や海へと流す、ただそれだけのことだと。しかし、時間が経ち開発が進むにつれ、硬質の地表や屋根は一層多くなり、雨水の表面流出はますます進む。増加した流出水の罪は、雨が地中へ浸透せずに河川に流れ込み、大地を潤すことなく無駄に海へと流れ去ってしまうだけでない。都市に水不足や砂漠化をもたらしたり、逆に、台風や豪雨の際には、短時間に多量の水が下水道システムの許容量を超えて流入する現象をもたらすようになった。雨水の表面流出は都市のインフラに過大な負荷をかけ、都市を脆弱にするのである。下水道の許容量を超えたことで発生する下水のオーバーフローは浸水や冠水といった都市型洪水をもたらし、その際に地表の汚染物質を一緒に運び、河川などの飲料水の給水源を直撃する。そして、さらには海洋へと、海洋の生物生息地に多量の汚染物質が流れ込んでしまう危険性をもたらすのである。「たかが雨水が昔ほど地中へ浸透しなくなっただけで」、我々の健康と環境はこうした被害を受けている可能性があるのだ。
この雨水対策として従来の雨水管理では既に効果を十分に上げられなくなっている。かさむ費用や手間、都市の砂漠化・温暖化、洪水、環境汚染……。この連鎖を断ち切るためには、従来の開発に代わるスマートな開発が必要である。従来の雨水管理は完全には水域を保護しなかった。我々が今まで行ってきた土地の開発は、敷地から植物を一掃して平らに整地し、道路や駐車場、家屋など有益な構造物を設置し、造園をする(ランドスケープ)というふうに行われてきた。また、重機を用いて土壤を圧縮してきた。そのプロセスには、水の視点から自然を護ることを考えること、水循環を開発前の機能のまま開発後も保全しようという意思は、欠けていた。それらは開発とは別物と考えられていたのだ。
水循環の模式図
右の図は、開発が敷地内の水の道をどのように変化させるのかを表している。自然の状況つまり開発前の降雨は、地面に浸透するか蒸発するか植物によって利用されている。そして、非常にわずかしか地表面から流出する雨水はない。(<1%)
しかし、開発後を見てみよう。植物の減少と不浸透地表の増加は、雨水の表面流出を劇的に増加させる。(開発後の表面流出は未開発地の20~30倍にもあたる。)そして、地中への浸透の減少は、河川や湿地の水量を結果として減少させる。これには2つの悪影響がある。雨季には雨水の表面流出が増加し、魚や野生生物の生息環境に損害を与えたり、洪水をもたらすことがある。そして、乾季には時に渇水し、魚に被害を与えたり定期潅水用の水が不足したりすることになる。
例えばシアトル市の条例は、河川が高水位にならないように、開発者に大きな池*(LARGE POND)を設置するよう求めている。しかしこの池は、河川や湿地、地下帯水層への水の貯留を促すわけではない。また、汚染物質をバイオレテンションや在来の土壤ほど効率よく除去してくれない。また、せっかくの価値ある土地の場所を占拠し、メンテナンスも難しく、美観にもかける。加えて、池から放出される雨水は、鮭(などの北方の魚)にとって温かすぎるという弊害がある。
*池ならば何でもよいと考えるのは誤りである。三方をコンクリートで固めた貯水池は、流出の時間を遅らせたり抑制はするが、レテンション・浄化効果は期待できない。仮に、貯留された雨水が汚染されているならば、そのまま雨水管へと合流してしまう。それを防止したいならさらに専門設備を備える必要がある。浄化処理機能も併せ持つ池で、拘留池と呼ばれるものは大抵はバイオ技術(言い換えればローテク)によって設計されている。
革新的な雨水管理:LID
ここで低影響開発(LID)について考えてみよう。LIDは、雨水が地中浸透せずに地表面を流出することによって生じる悪影響から、私たちの水源を護ってくれる。経済成長を維持しつつ、次世代のための水源を確保してくれる。人口増加や経済成長をしながら、水源の確保、水質の維持、生活の質を向上させるという目的のために、LIDの需要は今後ますます増えると予測される。
端的に言って、LIDとは、従来の開発手法を改良する新しい手法である。それは、言い換えるなら、我々はどうやって土地を開発するか。そして、雨水の表面流出をどう管理するかということに他ならない。LIDは開発と雨水管理に対する新しいアプローチであるが、実はそれは、自然が長い間実践していることの模倣にすぎない。成熟した森林では、雨が降ってもわずかしか流出しない。多くは大地の中にしみ込み、汚染物質は土壌の自浄作用で取り除かれる。自然において降水は樹木など植物の生長を助ける恵みとなり、さらには、河川や湿地、地下水の一部となる。あるいは幾分かは蒸発し、再び雨になるという大きな水循環を育んでいる。
この大きな自然の仕組みを我々が開発した大地においても再現しようとするのがLID(低影響開発)なのである。
LIDの代表的な機能には次のようなものがある
- 既存植生の移植または保全
- 道路、駐車場、屋根のような不浸透性地表面積の縮小
- バイオレメディエーション(生物浄化)
- 透水性舗装のような比較的小規模でも設置可能な雨水制御装置の利用
- 降雨が自然の排水パターンを描けるように、住宅地などの敷地内の建物を密集させる
LIDは雨水を管理するだけではなく、地域社会により多くの緑をもたらし、美観を提供してくれる。そして、その計画の施工と維持には、それほどの費用はかからない。
資料) (C)PUGET SOUND ACTION TEAM, OFFICE OF THE GOVEMOR , STATE OF WATHINGOTON.
–元記事:2008.12.22投稿 本サイト再掲2016.5月-
コメントを投稿するにはログインしてください。