「雨の庭TM(レインガーデン)」株式会社丸五(Marugo Company Inc.)新設工場(岡山県倉敷市)の新たな試み

 

 

 

 

 

株式会社丸五 「新設工場敷地内緑地(野外)」
岡山県倉敷市茶屋町1680-1

設計・施工:稲谷順一(Stormwater Japan)

2021年6月竣工

※見学希望の方は事前にJXDAへ連絡(メール)ください。

 

 

「風景の中の見えない水」

文:小出兼久 

大都市のうち4分の1ほどの都市が、水ストレス(干ばつあるいは豪雨)の問題に直面しており、水需要は2050年までに従来比55%も増加すると予測されている。さらに、水不足の地域では、気候変動が及ぼす影響で長期の干ばつになると予測されるが、それとは逆に、より頻繁で極端な降雨事象によって洪水や冠水の発生を引き起こす可能性もあると予測されている。したがって、都市においては水の使用量を減らし、水システムを再生するような条例を制定をすることが切実に必要とされており、歓迎されている。水に対して体系的なアプローチを行い水システム全体をカバーする条例を作ることは、都市が水問題に取り組むために経済全体からのアプローチも必要なのだという証拠にもなる。

 

私たちの見解は、「目に見えない水」というのは重要で、その問題に取り組む際に、環境創出の専門家の役割をさらに強調することができるというものである。「目に見えない水」とはそもそもどのようなものか。例えば、水が地下を流れるとき、または、洪水の際に噴出した水が土石流になって海へと急ぎ下っていき風景には痕跡のみが残されるとき、水は都市環境では見えない(普段見えていない)ことがある。また、食料や建設資材を含むすべての商品を生産するには、水が必要になる。この具体化された水は、都市の消費者や建築材料を選択する建築環境の専門家には見えていないかもしれない。しかし、見えない水は、他の水不足地域を含むサプライチェーン全体の水資源の排出に深刻な影響を及ぼしている。

 

都市が水により脆弱な都市へ、あるいは、水の変化に敏感に反応する都市へ、なりつつ現在の過程において、私たちは都市の中に存在する「目に見えない水」について考慮する必要がある。統合的都市の水理管理(IUWM)は、土地や水、その他の天然資源の管理を調整する際に、集水域全体のアプローチを検討する。IUWMは、水循環を閉じ、水路での水からの廃棄物の排出を制限し、絶えず増大する補完的水資源の需要を制限することにより、都市がより循環的な経済社会へ前進するのを支援することを目指している。

 

都市計画家、建築家、造園家、都市主義者、建設エンジニアなどの環境を創出する専門家は、私たちの都市における水の持続可能な流通・使用・排出・再利用において、重要な役割を果たしていると信じたい。なぜなら、これらの専門家は、都市部で新しい開発をどこに配置するか、または、自然ベースの解決策をどこに実装するかを決定する際、目に見えない水を考慮する必要があるからである。基礎となる生態学的システムと水文学的システム(目に見えない水)を考慮することにより、雨水の流出を最大限に活用し、必要な排水管などのハードインフラ(従来の管渠と箱物インフラ)を最適化するための決定を下すことができる。これは、地形に応じて水が敷地とその周辺をどのように移動するのかを理解し、それに応じて湿潤土壌の床面積に緑のネットワークを復元したり、創出したりすることを意味している。

 

たとえば中東では、多くの設計会社が、大量の水を必要とする広大な芝生のある西洋式の緑地をコピーするという考え方に反論して、新しい形の線形都市を実験することに挑戦していた。これはしばしば、ワジとして知られている放置された乾燥水路のある公園で、ここでは、乾季には公園として機能しながら、極端な降雨事象で発生した洪水にも対応できるような、適応性のある柔軟な景観を設計するための革新的なアプローチがとられている。そうして出来た回廊に沿って浅い帯水層を流れる目に見えない水は、多くの場合、水路の緑化をサポートすることができる。在来植物を戦略的に植えた「オアシス」は、地下に水を貯めることができるが、長期的にはその水を地表に戻すこともできる。このワジは伝統的に、在来の砂漠の住民によって使用されている。

 

備考:ワジまたはワディ、ワーディー、ワーディとも言う。ワジは、アフリカ大陸やアラビア半島などの砂漠気候地帯や乾燥地帯の各地にある、流水のない「涸れ川」のことである。