ガーデンデザインのような主観がモノを言う分野には規則はないのではないかと想像するのは、魅力的なことである。しかし、長年にわたる庭づくりや膨大な庭に関連する手法や哲学の書籍から鑑みるに、ある種の規則に従った方が、より魅力的な庭を造ることができる。規則はただ一つではない。また、面倒なものでもなく拘束性もない。ここでは、『住宅の庭のためのランドスケープの8つの規則』という書籍で述べられている規則を紹介する。
01:重要な囲いに関する「法律」に従う
これは単なるルールではなく、いわば「法律」である。つまり、庭とは「包囲物」であるという庭のそもそもの意味を扱っている。私にとってこの規則は避難場所の感覚を作り、自然の抱擁の中で自分自身を感じるために、絶対的に重要なものである。重要な囲いの法則は、空間の垂直方向のエッジが水平空間の長さの少なくとも3分の1であるときに、私たちは囲まれている感覚を得る、というものだ。おそらくこれは、行動心理学の研究から得られた所見なのではないかと思うが、自分は、この規則を大学院の教授から教えて貰った。後になってみれば、それは私が今までに学んだもののうちで最高のものの1つである。
裏庭のパティオの描画
イラスト:デビッド・デスパウ
カリフォルニア州のパシフィック・パリセーズでのプロジェクトでは、既存の大きく育ちすぎたイチジクの生垣が大きく育ちすぎたので、それを半減させることにした。
このパティオの場合、必要な生垣は17フィート幅で少なくとも6フィートの高さのものである。公園で木の近くに座ったり、壁に近づいてみたり、徐々に遠ざかってみたりすると、木々がどのように機能するのかがわかる。景観設計のポイントは、大きさや眺めに対する個人の素晴らしいセンスの発露だと思うが、最高の庭園とは、どのような大きさであろうと囲い込みと開放感とのバランスを調節するものであり、その際には、この規則が役立つと感じている。
02: 規制線に従う
「規制線」の考え方は、建築要素(例えば、出入り口、建物の端、窓のマリオン)や独特の景観機能(シンボルツリー、既存のプール、敷地境界)を、設計によって結び付けたり、整理したりする仮想線を「生成」するものである。たとえば、裏庭に手を入れる際、庭の空間に建物から延長させた補助線を投影し、スイミングプールと木製の歩道をその線に対して整列するよう配置してみる。その後このプールや歩道の周囲に植栽をしてそれらの雰囲気を柔らかく見せたとしても、建物とプールと歩道は規制線上にあるため、裏庭の外観は整然とした印象になるのである。「規制線」について、かの偉大な建築家かつ理論家であるル・コルビュジエは、次のように書いている。「規制線とは気まぐれな思いつきをそうではなくさせる保証のようなものである。それはリズムという質を作品に与えるが……規制線をどこでどのように用いるのか選択することは、その作品の基本的なジオメトリーを固定する」
プールの描画
イラスト: デイビッド・デスパウ
カリフォルニア州パシフィック・パリセーズのさまざまなプロジェクトのデッキは、画像の右上の住宅のグレーの壁によって作成される平面と平行する規制線を作成する。また、家のガラス窓と平行に走るプールの縁によって別の規制線が作られる。2つの線は手前の樹木の根元で交差する。
ル・コルビュジエは、規制線をとても価値あるものにするであろう、規制線が持つ2つの側面に少々逆説的に触れている。側面のうちの1つは、基本的な秩序の考え方である。庭は、そもそも自然のものか野性のものか、庭の設計で「良い骨」と呼ばれることのある強い原則に基づいている。2つ目は、成功する庭を作り出すために庭の良い骨格を識別することで、これを操作するのは設計者である。私見だが、他のどのコンセプトよりも、この「規制線」の使用がプロとアマチュアの設計を区別するものだと思っている。
03:黄金長方形を使用して正しい比率を得る
特定の規則は設計を洗練させるのに役に立つ。その1つは黄金比で、ギザの大ピラミッドからギリシャのパルテノン神殿に至るまで、あらゆる素晴らしい物で観測された比率であり、喜びを感じるバランスと秩序の指針として、歴史的に使われている。黄金比の実際の応用にあたっては、短辺と長辺の比率が長辺と「長辺と短辺の差」の比と等しい(a / b = b / a + b)黄金長方形を用いるが、これを聞くと、ランドスケープアーキテクトは数学を学ばなければならなかったのかと驚く人もいるのではないか。 黄金長方形の比率は1:1.6に近く、このことを知っていれば、テラス、パティオ、アーバー、芝生などのレイアウトをする際に、用いることができる。ちなみに、常に見栄えの良いレイズド・ベッドは1.5m×2.4mである。
レイズド・プランターの描画
イラスト:デビット・デスパウ
04:階段の設計はトーマス・チャーチに倣う
前述の比率を黄金比と呼ぶのならば、それに勝るとも劣らないプラチナ比とでもいうべき素晴らしい比率がある。カリフォルニア・スタイルを生み出したランドスケープアーキテクト、トーマス・D・チャーチによって提唱された階段設計の規則がそれである。彼の精神的な仕事である著作『Gardens Are People』には、ライザー(蹴込板)の高さの2倍にトレッド( 上段框)を足すと26インチに等しくなると述べられている。つまりライザーが5インチの場合、トレッドは16インチにすべきということである。この規則を真実とみる者も多い。その使用経験から、2人が階段を並行して登るときの最小幅は1.5mが良いという有益な結果が得られた。
地中海風階段の描画
イラスト:デビット・デスパウ
ロサンゼルスのウエストウッド地区にあるこの地中海からインスピレーションを受けた庭は、タイル面のステップがトーマス・チャーチの比に従っている。
05: 大きさの問題
規模と空間を刻むことに対する最終的な規則はこれに尽きる。すなわち、迷ったら「大きい方を選択する」である。階段の幅を広げたり狭くしたり、プールの長さを長くしたり短くしたり、パーゴラを高くしたり低くしたりしなければならない決定に直面したとき、正解はほとんど常に前者である。
あずまやの描画
イラスト:デビッド・デスパウ
私の庭のあずまやは、10フィートのところでハンギングバスケットと周囲の葉が絡み合い、場所の感覚を侵害せずに、そこから外の空間へつながることを可能にしている。
06: 植物は大きなものから順番に植える
おそらく他のどの庭の要素よりも、植物はその自然ゆえの無限の変化や予想のつかなさが最も顕著なもので、それゆえに、植物に規則を処方するのは最も難しいことと思われる。しかし、植栽計画を成功させるには、庭に巧みなタッチが必要なのである。そのための3つの規則を紹介する。
大きなヤシの木の絵の描画
イラスト:デビット・デスパウ
この地中海風プロジェクトの大きなヤシの木は既にちょっとした財産になっており、コショウの木がそれに続いた。その後、生垣とブドウが植えられた。最終的には、ここにも多年草が植えられ、コンテナにも植えられた。
大きな植物から植えていく。樹木から始めて、次に低木、次に多年草、そして最後にグラウンドカバーを植える。これは構成方法として有用なだけでなく(全体的な構造を組み立てる場合、最初に大きい物を扱った方がやりやすい)、完全に実用的な意味でも重要である。大きな樹木の位置を決めるには、機械あるいは少なくとも複数の人員が必要であり、機械の操縦と修正には十分な空間と土壌が必要である。新しく植物を植えた場所を傷つけられたり、元に戻すはめになったりするのは悲しい。これも、大きな植物から植えていくべき理由である。ただ、これも非常に明白なことだが、多くのガーデナーたちにとって、到着したばかりの多年草の苗をすぐに植えたいという誘惑に抗うのは、難しいことである。しかしそれでも、その誘惑に負けないよう強くなって欲しい。植栽は大きなものから順番に、である。
07: マスプランティング
コテージガーデンの植栽については諸説あるが、そうした豊富な植栽手法がある一方で、(実際にはこの豊富さを取り除くことができる人物が、本物のマスターガーデナーと言えるのかもしれない)、庭の専門家には、真に庭に影響を及ぼしているのはどの植物かということを見抜く力も求められる。20世紀の偉大なランドスケープ・デザイナーの一人ラッセル・ページは、こう述べている。「最も印象的で充実した視覚的喜びは、1つの単純な要素の反復あるいは集団化から生じる。パルテノン神殿の各柱がそれぞれ異なる種類の大理石でできていたならどう感じるか、想像して欲しい」
オーナメント・グラスの描画
イラスト:デビッド・デスパウ
カリフォルニア州パシフィックパリセーズのガーデン散歩道には、オーナメンタルグラスのススキ’モーニングライト(Miscanthus sinensis ‘Morning Light’)とオータムムーアグラス(Sesleria autumnalis)が植えられている。これらを歩道の両脇に吹き流れるように植えたことにより、マスプランティングの感覚が強化された。
08:もっともためになる規則
おそらく、どんな時であっても、他にどんなに素敵な規則が発見されても色あせない素晴らしい規則は、「50セントの穴に5ドルの植物を植えるよりも、5ドルの穴に50セントの植物を植えるほうが良い」というものである。この規則が言いたいのは、計画がどれほど素晴らしいものであっても、植物が適切に植えられていないのならば、たとえそれが適切な高さで十分な大きさで掘られ、適切な土壌改良をなされた完璧な植穴であろうと、植栽の結果はおそらく貧弱なものになるということである。このように、いつの時代も正しい規則というものがある。
噴水の描画
イラスト:デビッドデスパウ
カリフォルニア州パシフィック・パリセーズのもう一つのプロジェクトで植えられた、エンジェルストランペット(Brugmansia versicolor)。適切な植穴に適切な方法で植えたことによって、エンジェルストランペットは良く育った。
※著者の言葉から
庭とは個人的で個性的な表現なのだから、庭を創造する「方法」があるのではないかと思うこと自体、おかしくはないだろうか。ボーダー植栽の後ろに背の高い木を植えたり、手前に背の低い植物を植えたりするといった従来の知恵から、規制や約束、制限といった破ることのできない拘束まで、庭に対する処方の範囲は、クリエイティブ魂が反乱したい衝動に煽られる。例えば、植栽の高さを制限する建築基準に直面したならば、それを高く評価して設計することを自負している。制限の枷の中でどれだけのことができるのか。
庭は健全なアナキズム衝動のすべてであると、この本の著者は述べているが、それは注目に値すべき、庭に関わる誰もが一度は抱く衝動ではないだろうか。
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