JXDA

集中豪雨が引き起こす問題

文:小出兼久 

ストームウォーターの循環  

米国の降雨システムについての環境教育のポスター

 

地球温暖化や異常気象で降雨を議論分析することよりも、その降雨がもたらす影響を学ぶべきである。中でも集中豪雨はさまざまな被害をもたらす。本コラムでは、集中豪雨のもたらす影響について、何回に分けて取り上げる予定である。

まずは、ストームウオーターという問題を取り上げる。そこに潜むものは何か。結論を言ってしまえば、雨水はもはや安全とはいえないのである。いや、より正確にいうならば、都市のストームウォーターは安全ではないのである。

我々は、ストームウォーターについて、真剣に取り組む時期に来ている。
以下に、JXDAで実践研究として取り組んでいる幾つかの問題を記しておく。

*このままページ順に読んでいただければ、以下の項目が分かるようになっているが、ある項目だけを再確認したいときには、下の見出しをクリックしていただければ、そこに飛ぶようになっている。

 



都市のストームウォーターとは何か? 
なぜストームウォーターに関心を持つべきなのか?
ストームウォーターを制御する方法
ストームウォーター中の汚染物質とその影響
ストームウォーターはどのように地上水へと運ばれるか
ストームウォーターの影響に対する公共の認識
ストームウォーター表面流出の制御プログラム例
ストームウォーター汚染の削減へ市民ができること

 

都市のストームウォーターとは何か? 

我々は、雨の問題についてしばしば、降雨とか雨水という言葉を使って論じてきた。これは、このコラムだけでなく、当WEB低影響開発のページや、その他の紙媒体などで発表した原稿でもそうである。が、まず、これからは、その意図を分かりやすくするために、両者の代わりに、ストームウォーターという言葉を用いようと思う。

 

ストームウォーター Stormwaterとは、日本で辞書を見ると、「嵐」とか「豪雨」という訳語が見当たる。なるほど、確かに、Storm(嵐)とwater(水)という単語をくっつけた造語である。この言葉は、アメリカの水管理行政でよく使われる言葉だ。以前は、Storm waterと2つの単語にして書かれていることもあったが、最近では専ら、1つの単語として扱われることが多い。私見だが、このことは、この言葉が広く認知されたことの表れだと思う。この言葉が使われ出したのは1980年代後半ごろで、私がそれに気が付いたのは1990年代になってからであるが、ごく普通に当たり前に目にするようになったのは、ここ2~3年の感がある。しかし、そうはいっても、日本ではまだあまり馴染みが無く、そこで、私もストームウォーターという代わりに、「降雨」とか「雨水」を使ってきた。しかし、3つの言葉の間には、当然若干の意味が異なる部分があるので、本稿を契機に、なるべく「ストームウォーター」を用いていこうと思う。

 

本題はここからである。
そもそもストームウォーターとは、何であろうか?

厳密に言うならば、それは、純粋な雨水とは少し異なる。 それは、雨水に雨と共に運ばれる物質が加わった水を指している

実はこの共に運ばれる物質が問題で、ストームウォーターの管理や処理とは、この含有物質を如何に都市の水域に持ち込まないようにするか、ということを目的とするものなのである。市街化された区域では、家の屋根や車道、歩道、などの舗装面に降った雨は、下水系と分けられた雨水管系によって、遠くへと運び去られる。合併式よりも分流式下水道のほうが、処理の手間も費用も抑えられるため、日本同様、アメリカでも分流式を取り入れることが促進されている。しかし、ここで、当初は想定外の問題が発生する。汚水と違って、ストームウォーター(日本ではこれを雨水と呼んでいる)は通常は処理されない。アメリカの中には、(大抵はシステムの最終地に設置される)ストームウォーター処理設備によってろ過される場合もあるが、多くの場合は、今もなお、街路や樋から直接的に、我々の河川や港、海洋へと流れ出るのが普通である。日本の分流式下水管も、ウトームウォーターを下水と分けて運ぶが、公共の水域へと流すのみである。

 

つまり、ストームウォーターは、街路などの発生源から魚やカエルやカニやその他の水生動物や植物が生息する水路へと直行する。もし、水路の近くに住んでいたり、あるいは、河川や湖、海洋の近くまたは水中で、よく時を過ごす人ならば、雨が降った後に起こる現象については精通していると思うが、汚れたストームウォーターは、泥のような色に見え、また、よくゴミが混じっているので、どのような水か明らかに見て取れるだろうし、それが、きれいな水を囲むように散開するのも見てとれるだろう。降雨後、例えば、雨水とともに運ばれた汚染が、重大な健康被害を起こさせる危険があるかもしれないので、2、3日の間、泳がないように勧められたことのある人もいるかもしれない。

 

もちろんすべてのストームウォーターが等しく汚れているわけではない。都市部と郊外では汚染の程度は異なるであろうし、また、都市部や郊外それぞれの中でも敷地の環境によって、その段階は異なるだろう。とはいえ、ストームウォーターは雨水が硬質の舗装面を流出することにより発生し、硬質の舗装面というのは、元来駐車スペースであるとか、車両の往来に使うものであるから、ストームウォーターで一般に見つかる汚染物質という項目を見ればわかるように、汚染物質が存在する出所として潜在的に可能性がある。(表をみれば汚染物質が我々の日常からいかに派生するかが分かる。)

 

ストームウォーターは汚れている可能性が高い。とすると、後は、その汚染の程度が、我々の生活や環境に影響を及ぼすほどなのか?という点に問題の焦点は移る。しかるにこれは、日本の現状からは非常に答えにくい問題である。なぜならば、まだ、研究や調査以前に、ストームウォーターは危険かもしれないという警告の類も、我々JXDAをのぞけばほとんど、皆無といっていいくらい情報が少ないからである。極端におびえる必要はない。しかし、汚染が全く皆無とも言えない。
車社会のアメリカが、ストームウォーター汚染(重金属と油が主)が深刻で、その水源と環境への被害を防ぐために、行政が連邦・州・市・単位で具体的に動いているのは、事実である。まずはこのことを受けとめることが必要である。それを他山の石としてしまうのかどうか。それは、その後の我々の問題である。

 

ストームウォーターによる汚染は、誰もが制御できるものである。自分たちの住む場所や働く場所で、近隣の街路からの排水を管理するような役割を務めるならば、それは、制御することができるのだ。これは言い換えると、もし、あなたが自分のところから出るストームウォーターを管理するならば、それは、浜辺や港、河川で起こる汚染を劇的に改善するということでもある。個々の一歩は小さいかもしれないが、その集まりは大きな改善となる。逆に言えば、これ以上の解決策はないのがこの問題である。

 

ストームウォーターの汚染を減らす最も効果的方法・・・それは、第一に、ストームウォーターがシステムに入るのを止めることである。

 

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