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低湿地の設置
敷地内に降った雨の流出を抑制する方法のひとつに、低湿地(swale)がある。
低湿地、何それ?どこに?、という疑問に答えつつ、説明する。
低湿地の設置とは、敷地内に低い湿地をデザインすればよいのである。英語のswale:低い湿地あるいは窪地と訳すのが、通常の植栽地や植栽マスとどこが異なるのかというと、従来の植栽地が植栽をするために土壌を残した・整備したというニュアンスで終わるのに対して、低湿地とは、土壌がむき出しなところは同じだが、地表面の流出水、特に舗装面を流れる雨水をそこへ導き、浸透させる目的で設置する植栽地を言う。植栽と連動したこの湿地は、流入した水をろ過浸透させる機能をもたせることにより、さらにBioswale(バイオスウェル:生物湿地)という、機能的ランドスケープ装置となる。
低湿地は、舗装面の設計と連動して作られる。敷地内にわざわざ湿地帯を創りだす道楽ではなく、他からの雨水をそこに流入させるための装置である。もちろん、植栽も" 湿地 "という環境に合うものでなければならない。
低湿地は、どのようなところにも設置できる。
●駐車場における低湿地の設置例●
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アメリカでは一般に、駐車場には緑化帯を設ける。たとえ小さな苗木を植えてたとしても、永の日には日陰を供給するのが目的である。アメリカの駐車場規模は日本よりも大きいので、建物入口へと移動するまでに日陰を提供するのは良いし、また、たとえ樹木を植えなくとも、緑のある駐車場が一般的である。ここ数年の間に、この緑地帯を低湿地にする動きが盛んになってきた。
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低湿地の役割
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アメリカでは、駐車場の舗装面を流れる水が、実は、油や排気ガスなどで汚染されていることが、かなり知られている。高速道路も同様である。日本では、こうした舗装面を流れる水が汚染されているとの認識は、まだ足りない。汚染された水が貯水池や河川などに流れ込めば、水源が汚染されてしまう。たとえ飲用としなくとも、環境汚染を促進するのは間違いない。アメリカではここ数年の間に、意思決定者や計画者、事業者が、こうした危険性を回避するのは当然のことであると認識するようになった。
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デザイナーや公共機関が、こうした水質汚染に対して抑制対策をとるのは、あたりまえだという風潮になっている。そこで、低湿地の出番となる。低湿地を駐車場の舗装面に隣接する形で設ける。下図を参照して欲しい。舗装面の表流水は、表面勾配により低湿地へと導かれる。
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駐車場に設置した低湿地の平面図および断面図:
特別難しい構造ではなく、従来の植栽地に少し手を加える程度でできる。
低湿地へ流れ込んだ雨水は、地中へと浸透するが、その過程で有害物質を土中へと残す。水は植物の生存に利用されるが、多くはより地中へと浸透し、地下水へと還元される。地下水は、やがて河川へと繋がる。こうして浸み出た水は土の持つフィルター効果により、排水管を流れる水よりも汚染が少ない。(バイオスウェイル)
低湿地を設ける5つの利点(まとめ)
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● 雨水の流出を抑制する(都市型洪水の緩和)
● 雨水の敷地内浸透を促進する(地下水の涵養)
● 雨水の汚染を抑制する (水質浄化)
● 植物への水供給を助け、緑化の維持管理に役立つ(景観維持)
● ローコストで設置できる
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メンテナンスの留意点
ここでひとつ注意すべき点は、土中に残った有害物質は分解されないので、そのまま土中に留まるということである。この点についてアメリカでは、現時点では他の解決方法もないので、定期的にその土をそっくりそのまま取り替えるという解決策を奨励している。しかし、それは、頻繁にではなく、10年あるいは数十年に一度でよいと言われてる。この是非だが、この試み自体が積極的に推進され始めたのがここ数年なので、10数年を経過する過去の事例も少ないため、この点に関しては、現在これ以上の解決案は示されていない。経緯観察が必要となることに留意する。
●低湿地の他の利用ー宅地と低湿地ー●

玄関アプローチ(通路)脇に設けた低湿地
低湿地は、もちろん、他の場所に設けることができる。上の図はその一例である。端的に言って、舗装面に隣接して設ける植栽地については、従来の植栽地のまま、ただあればいいという扱いではなく、水の流れに留意して設けるとその機能を十二分に発揮する植栽地となる。
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