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雨水管理の自然な手法

ーシアトル市『建築雨水コントロール技術マニュアル』例からー

 

水循環の仕組みや量を開発前と後で極端に変えないことで、低影響開発を目指す

 

開発前と開発後では、その地域の環境は激変する。それまでの水循環の仕組み、土性、通風、日照、環境条件がかなり変化するため、既存の生態系も大きく変化する。仮に、その変化が悪変化とすると、その後に大挙して参入する人間にとっても結果的に好ましくない。そこで一般に、開発前と後の環境変化をできるだけ抑制することが理想となる。その方法は、さまざまな観点から考えられるが、ここでは水循環に注目し、それまでの水循環をできるだけ変えないということを目標にした、雨水管理の自然手法を紹介する。すなわち低影響開発である。

これは、「地域で避けられない開発が増加する中、開発による資源への害をいかに抑えることができるか?」という問いに対するひとつの解決策である。

 

従来の土地開発と雨水管理


従来の土地開発は、土壤を圧縮し、道路、駐車場、屋根のような硬く不浸透性の表面の設置に多くの土地を割き、このために既存の草木が伐採されたり、移動させられることが多かった。開発過程で生じた圧縮土壤や、開発の結果増加した不浸透性表面は、どちらも雨水が大地に浸透するのを妨げ、雨水の表面流出量を著しく増加させる。

 

雨水は不浸透性の表面を流れると、そこにあった汚染物質を一緒に、小川、湿地、湾へと運ぶ。このため面源汚染を引き起こしやすい。例えば森林や草原の大地では、地中に浸透する以上の激しい雨が降ったなら、自然と流れができ、降雨が続けば流れの流量とスピードが増し、さらに速くなるとそれは洪水となって襲いかかる。この洪水は、森林や草原に堆積した腐植土を田畑などへともたらす、恵みでもあったが、同時に、小川を圧倒し、公共財産や私財を破損し、私たちの生活を脅かし、魚と野生生物の生息環境を滅ぼすものである。

 

ならばと、洪水を防ぐために、私たちはダムを造り河川を整備してきたが、洪水は山間部の問題だけでなく、田畑のない都市の中でも増えている。集中豪雨でマンホールから水が溢れ、生活道路が水浸しになったり、下水管や雨水管から一度に多くの雨水が河川へと流入したことで河川が決壊し、近隣の住宅地を水浸しにする。そんな報道が多く見られる。不浸透性表面の著しい増加とそれに反比例して減少する緑を起因とする都市の水害は、なんの恵みももたらさない。その対策として、いま我々の社会が行っていることは、新開発区には一定の割合で貯水池を設けること、つまり、集中化した人工の雨水設備を作ることと、雨水管渠や排水管をきちんと整備して雨水流出を迅速に運搬することである。しかし、この方法では、管を網の目のように配備しなければならないし、莫大なお金と時間もかかる。雨の降らないときのからっぽの人工池のやりきれなさ、そして、排水施設は拡充しているのに、都市はいまだに洪水の危険にさらされている。

 


低影響開発 Low Impact DevelopmentLID

低影響開発の要求が高まっている。自然への影響が少ない開発を行うことは、効率的であり、自然と人間双方の利益につながる。
水保全、水循環のLID手法について、米国での事例を紹介する。これは、開発業者、エンジニア、ランドスケープアーキテクト、建築家が、開発における雨水管理について従来の考えから、革新的な手法へと変えようとするときに役に立つものである。この手法は、自然は雨水流出を制御する最良の方法を知っているという前提に基づいている。平たく言うなら、自然に倣おうということだ。森林や田畑では、雨水の表面流出量はわずかである。降雨の大部分は大地へ浸透するか、草木に吸収されるか、大気へと蒸発してしまう。この自然のシステムを、都市の利便性を妨げることなく、適切な形で取り入れながら開発をすることが、LIDの目標である。具体的には次のような目標の達成を掲げている。

 

  • 開発地区近隣の雨水の流量を制御する

  • 汚染物質を雨水や小川以外の場所へとどめる管理をする

  • 不浸透性舗装面や圧縮される土壌の面積を減らす

  • 自生植物を保全する

  • 敷地からの雨水の流出を遅らせつつ、その量を減らす

 


LIDの観点から行う雨水管理方法ならば、新築・既存のいずれに関わらず、排水に関連して生じるさまざまな問題を解決する。家庭から居住区画、企業の開発まで、それは、どのような敷地でも適用することができ、そうすることで、住民・ビルダー・開発業者らは、次のような利益を手にすることのできる。

 

  • 地域社会の成長と、地域の河川・自然生態系・湿地・自生植物の保全という両方を持続できる

  • 飲料水の供給を質・量ともに保全する

  • 多くの地域や地方自治体は、どうしても発生する定期補修を容易に維持するのに一生懸命だが、LID手法によったものは、その後の維持が容易で負担も少ない

  • インフラストラクチャーにかける費用が少なくてすみ、開発者や地方自治体の金銭節約になる

  • 不浸透性面を減らし雨水流出量も減少させるので、排水設備の費用を節約する

  • 雨水池(貯水池)を小さくでき、開発者は土地をより多く残すことができる

  • 地域社会に緑あふれるオープンスペースが出現し、「緑化」に伴う地域社会の価値が生まれ、近隣にそれを広げることができる

 


LID手法の例ーシアトル市のマニュアルよりー

シアトル市では、現在、下記のようなLID手法を承認している。当市の「建設工程管理のための技術的要求事項マニュアル」からは、その方法を行うのに必要な規模や、設計要件などを参考にできる。このマニュアルは、すでに実施されたLID手法のうち、成功した地域の計画についてのケーススタディも含んでいるので、今後随時公開していく。



コンポスト・バーム

 

圧縮を起こした地盤の上部に、厚さ約3cm〜30cmで堆肥を盛ることで、圧縮を改善する。この技術は、簡単でコスト効率も良いわりに、豪雨の間貯水できるくらいに土壤の保水力を高め、結果として地下水を増加させる。また、堆肥であるから、土壌改良効果も期待でき、植物の成長も促進する。
建設工程中に地盤に盛っておけば、圧縮から表土を保護し、また、堆肥はマルチとして通路に利用することもできる。(足の跳ね返りがよく、負担が少ない)

透水性舗装

 

舗装面を透水性舗装にすれば、雨水が浸透し大地に保持される。透水性舗装の仕様は、ウッドチップ、ゴムチップ、透水性コンクリート/アスファルト、芝生、など様々ある。右はインターロッキングブロックと芝生の組み合わせ。使う場所と用途で、最適の工法を選ぶ。(例えばこれは歩行という観点ではお勧めしない)シアトルではほとんどの開発計画で、全不浸透性面から流出する雨水をどのように維持管理するのか、その方法を盛り込まなければならない。

庭への積極的雨水利用―雨の庭 レインガーデン―

 

雨水を庭に活用することはいわば、雨水流出抑制のための生物的設備とでもいうべきものである。とりわけ、「雨の庭(レインガーデン)」と呼ばれるスタイルは、縦樋から水を集め、通路や舗装面のレベル以下に埋設したコンクリートのコンテナを備え、建築物の基礎周辺に植栽地の設計を行うものである。(浸透性プランターの設置を参照)コンテナを埋設しない場合は、砂利(砂)を敷き込んだ土壌に植物を植え、オーバフロー装置を備えるようにする。雨の庭は、駐車場や住宅の計画にランドスケープを統合するという長所があるだけでなく、適用敷地内の雨水制御に直接、大きな役割を果たす。しかもタンクなどの設備や貯水計画を委細必要としない。雨の庭の事例で、従来の庭における地下水貯槽と処理システム、雨の庭との原価比較、降水量、庭の設計図、仕様書などを、今後公開することを考えている。(現在作成中)


グリーンルーフの設置

 

芝生による屋根緑化など、現代のグリーンルーフは、防水層、排水層、貯水層、土壤、植物から構成される。わずか数cmの地盤を備えた薄く軽量のシステムが開発され、従来は困難であった小さな植栽を可能にするような進歩も見られる。一方、新築物件ならば、より深い土壌の荷重に耐える設計が可能になり、潅木や小高木を育てることができる。グリーンルーフは、それまでの屋根という大きな不浸透性の表面を、雨水を保持しゆっくり放出するという魅力的な自然の機能に変えてくれるものである。

 

雨の庭やグリーンルーフは、敷地に降った雨水を直接利用することができるので、大きな価値がある。

 

緑の技術による道路用地とパブリックスペースでの雨水制御


開発は、雨水の制御や処理のために、芝生フィルター、低湿地、湿地などの緑の技術を利用する絶好のチャンスであり、公園などの大きなパブリックスペースを持たない都市計画では、道路や歩道が、緑の技術を試すための最も適した場となる。
アメリカでは、シアトルを初めとする幾つかの都市で、市の中心地区で縁の代替事業計画を実施し始めた。(下の写真参照)

 


  

 
シアトルの地区計画(前・後)
何が異なるかわかるだろうか。 まずだらだらした芝生緑化をやめたのである。縁石によって、水の道がゾーニングされたのが分かるだろうか。道路からの表流水が両脇の水の道に流れ込む。

緑の技術がいかに交通を緩和し、洪水を抑制できるのか。また、水と大気の質を改善し、コスト効率の良い開発に貢献するのかが実証されている。

 

 


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