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今回は、土壌を掘り起こさないで作る植え床を紹介する。植え床は一般に、ベッド(Bed)と呼ばれる。ガーデンに作るベッドは、ガーデンベッド(庭床)と呼ばれるが、これをその植栽目的別に、フラワーベッド(花床)、ベジタブルベッド(菜園床)などど呼ぶこともある。分けようとすれば際限なくあるが、ベッド=寝具を想像すると分かるように、「台」とも言える、それは少し高く盛土された場所である。そして、30cmとか意図的に床を高くあげたものは、レイズドベット(高床式植え床)と呼ばれている。
●耕作なしで庭床(Bed)を作る方法
菜園を作ろうとする人の多くは、植え込みをする前に、土壌を掘り起こしたり、耕すのが最良の方法だと思っているかもしれない。しかし、そうではないやり方もある。現場の土を掘り起こさなくとも、簡単に植える場所を整備できる方法がある。例えば腰痛持ちであるとか、面倒であるとか、様々な理由があると思うが、そのような簡易な作り方も利用されている。そして今年は簡単な苗床であっても、やがては恒久的に植え込みをする場所に変えることもできるのである。以下に、アメリカで行われている例を簡単に述べる。
最も簡単な無耕起ベッドの作り方
一般に、新しい庭床づくりで最良とされる方法は、有機物を鋤き込んだり、雑草を除去するために、敷地を掘り返すことである。
しかし、少しのスペースならば、刈ったばかりの芝草や、細かく砕いた落葉、雑草の混じっていない干草やわら、あるいはそれらが手に入らなければ、濡らした新聞紙やボール紙でもいいが、それらを数cmの厚さで敷いてその場所を覆う。そして、そこに、トマトやピーマン、ナス、キュウリ、ハーブ、花などの苗を買って来て植え付ける。その時には、移植のために、その周囲のマルチを取り除き、移植ゴテ(シャベル)で植え穴を開けて植える。全部は耕さない。植え穴のみである。全部を耕さなければ、駄目だという人もいる。根が穴から出ていかないという人もいる。一理である。畑でも自明のように、耕せるならそうすべきである。しかし、この無耕起な方法が何も考えていその場しのぎかというと、そうではない。この方法では上部に敷いた(マルチングした)材料が重要である。それらは、ゆっくりと分解にするにつれ、この地盤をゆっくりとではあるが、以前より軟らかく豊かなものにしていく。これは確かである。そして、どのような苗の移植に対しても、有効な方法である。
もし現場の土が絶望的に硬くてしかも肥沃でないときには、どうするか。そうしたら、車トランクにビニールシート(古いシャワー・カーテンでの代用可)を敷いて、ガーデンセンターや園芸用品店に行き、40ポンド(約20リットル)入りの表土(培養土)の袋を購入する。そして、戻ってきたら、袋をそのままベッドを作りたい場所の上に一列に並べて敷く。このとき、袋の底面(平たく置いた時に地面と接する部分)には排水用の穴を幾つか開けるようにする。そして、袋の上面は、苗を植えるために、鋭いナイフやはさみで植え穴をあけるが、雨もしみ込むように、根鉢よりもやや大きめの穴をあけるようにする。そして、移植後、袋の中全体を十分に湿らせる。
最後に、そのままだとビニールの袋が見えたままなので、これを覆うために、袋上面や側面などが隠れるようにマルチをする。まさか袋がそのまま置いてあるとは誰も思うまい。
すると、土が流れることもなく、袋を開けて土を出す手間もなく、植え床の完成と言うわけである。袋1つに植える野菜は、1〜2個程度。トマトならば、袋1つに苗1つが適しているが、これは、根を張ることのできる土の量が限られているためである。とはいっても、次第に育ってくれば、排水穴のような小さな穴からでも、根は伸びてより地中へと張っていく。
大きなわら包みのベッド
オレゴン州の園芸教授N. L. Mansourとフロリダ州のジェームズ・スティーブンスらの先駆に続き、2004年、ローズ・マリエ・ニコルズ・マギーと数十人のボランティアたちは、堆肥になりかけた干草でカラフルなサラダ用野菜を育てて、「空腹な者のための1列植え」プログラムを進めるために、それをノースウエストフラワー&ガーデンショーに展示した。
それ以来、何千というガーデナーたちが、わら包みのベッドを試している。
どのようなやり方かというと、大規模なものを例にすると、わらや干草が束になって糸(合成糸がよい)で梱包されたもの(菰のような立体的かたまり)をストローベールというが、その梱包を15ほど並べて、2.4mx6mほどの大きさのレイズドベッドを作る。わら包みの表面はガーデンフォークなどで粗くしておき、その上に10cmくらい堆肥や培養土などを被せる。そこに野菜を植えるというものである。
ベッドで使うわら包みは、数日間、断続的に水をまいて、十分に湿らせておく。それから、野菜を植え付ける。植え付け後、移植面には、ソーカーホースの敷設とマルチをし、わらは常に湿らせておく。夏には多くの野菜が生育することになるが、約1〜2年の間に、この美しいベッドの有機物は分解する・・・というものだ。
これには、賛否両論がある。プラスの面は、わら包みを、どこにでもひとつから置けば始めることができること。そして、一年中湿らせておけば、この包みの下の部分(土と接するところ)では、大ミミズが良く繁殖し、その恩恵によって、排水と耕作性が急速に改善されるということである。このために良く育つ。
しかし、マイナス面を言うならば、わら包みのベッドには灌水が欠かせず、また、多量の液肥も必要とすること、また、根菜類は、混雑するわらを突き破ってひとつに生育することが困難なので、栽培に向かない・・などが挙げられる。しかし、それでも面白いもので、やってみる価値はある。
枠組み庭床 比べ
即席仕立てのベッドについて、他には、何かの材料で敷地に枠組みを作り、その中を培養土で満たすという方法もある。そもそも、これが従来の方法である。この枠組みは、(移動や撤去可能な)一時的なものと考え、最も簡単なのは、2x4材を小端づかいにして敷設することだが、この他、プラスチックのフェンス材や非処理材だけでなく、材木の余りや細長い丸太を使ったり、ブロックや石を積み重ねて作ってもかまわない。または、廃棄処分にされた杉の枕木や線路柵からリサイクルされた材料など、地域の現状に応じていろいろな材料が手に入るだろう。それを利用する。
このときに、四方を枠組みするのはオーソドックスなやり方であるけれども、必ずしもそこまでやる必要はなく、単に2本の長い材木や丸太など平行して置き、その間に土を入れるということでもよいのである。
枠組みの材料としては、プラスチックフェンス用の厚板が軽量で使いやすい。これは、角をプラスチックのコネクターで留める。堅牢でシロアリ耐性のある合成デッキ材を使っても良い。
もしも、もっと自然風の枠組みにしたいならば、巷で「鳥の巣」と称される方法、つまり伐採枝や落ちた小枝やらをいっぱいに寄せ集めて作った小さく盛り上げた垣根のような枠をつくり、その内部を堆肥と土でいっぱいするとよい。これは、カボチャや冬瓜を育てるのに格好の菜園床になる。
即席に庭床を作る最速の方法は、市販の組立てれば済むばかりのセット材を組み立て、そこを堆肥入り培養土で一杯にすることである。
とはいっても、枠組み自体は、市販のものも自分で作る場合も、余り時間は関係ないかもしれない。しかし、培養土の利用は、堆肥入りのものも多く改良材を入れずに済み、速くつくるにはかかせないものである。新しいベッドを2、3時間以内にセットして、植えることを可能にする。さらに、通常は雑草種子を含まないため、生育の間ほとんど雑草なしで育てることができる。しかしながら、より長期的視野に立って庭床の土の肥沃性の維持を考えるならば、刈ったばかりの芝草や熟成させた有機堆肥をさらに加えることである。落葉でもよいが、細かく切り刻むと効果がより速く現れる。
こうした改良材の追加は、植物の使うことができる栄養物を提供するという意味があるが、それに加えて、水分の多い緑の材料がベッドの中に散在することは、健康的で肥沃な土壌を作るために中心的な役割を担う、土壌微生物の注意を惹きつける効果もある。
もっとも、この他にも、簡易的な庭床の作り方はいろいろある。敷地に、堆肥とピートモスを交互に敷いて層にし、その上を新聞紙や細かく切った葉で覆うというやり方もあれば、庭床で使う土は、ピートモスと堆肥とバーミキュライトの混合土が良いと言うものもいる。この2つのやり方は、どちらも良く機能するのであるが、これから新しく始める方は、どうせならば、古代に沼地だった場所から掘られて生成され、何千マイルもの距離を輸送されてくるピートモスを使うよりも、もっとシンプルに、土(このテーマに反して掘り起こしてしまうが)に堆肥を混ぜて庭床の土にすればよいのではないか。すべてを培養土にするよりも手間がかかるが、安価な方法である。
最近注目のマッシュルームコンポスト
堆肥にもいろいろな種類があり、選択には迷うところである。アメリカで最近、ガーデナーの熱い視線を浴びて注目されているのは、マッシュルームコンポストという堆肥である。これは、キノコ栽培のプロセスから生じる培養体で、農業資材(一例として、干草、わら、厩舎の敷きわら、家禽ゴミ、粉末状の綿実粕、ココア殻、石膏など)から作られるものである。マッシュルームが収穫されたあと、マッシュルームコンポストは、病原体や雑草種を排除するために蒸気処理されてから出荷されるが、それは、ペンシルバニア農務省など行政に認められたように、肥料製品として扱われている。栽培1年目の痩せ地であっても、その驚くべき能力によって、野菜を盛大に繁らせるという。
マッシュルームコンポストは、既存の土壌と均等にまざあわせて用いると良いとされている。
日本ではキノコの栽培に培養地を使っているのだろうか。シイタケは違うと思うが、他は分からないが、同じようにできる素地はあるのだろうか。それが気になりつつも、それ以上に気になることは、わらも干草も利用できる安全なものが、この国には十分にあるのだろうか。マッシュルームコンポストに限らず、時代は、すべてのものの再利用に動いている感がある。口に入る物を栽培するのならば、再利用材と言えども安全性を考えなければならない・・・こうして、再利用が盛んになるほど、いずれの分野の産業であっても、現状さまざまな実態が、一旦は破壊され、再び構築される契機になるのではないかと感じている。
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