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第11回 外来生物法と侵略性外来種
この規定に違反をすると、個人の場合には最大で懲役3年以下もしくは300万以下の罰金、法人の場合は最大で1億円以下の罰金など、非常に重い罰則が課せられる。 また、すでに「特定外来生物」による被害が発生しているか発生するおそれのある場合には、計画的に「防除」が行われる。この防除には、「国だけでなく、地方公共団体や民間団体も参画できる」(環境省自然環境局野生生物課移入生物専門官、長田啓氏) ここでは、侵略性外来種について解説し、すでに発効している外来生物法についてゼリスケープ、ランドスケープ、緑化業界にどのような影響を与えるのか考察する。
第1次特定外来生物選定種及び要注意外来生物分類群別一覧表
選定の基準として、前出の長田氏は、「明らかに被害実体があり、比較的分布が拡大する初期段階で対策がとりやすいものを選定した。水草は、水を介して分布を拡大し、個体増加の速度が速いため、侵略性の高い外来生物になりやすい」と述べ、試行段階でホテイアオイなど3種の水草を「特定外来生物」に指定している。また、1次指定の段階で、イタチハギやギンネム、ハリエンジュなどの緑化植物を含めた60種が要注意外来生物リストに挙げられ、環境省では6、7月に植物の専門家による会合を開催し、7月下旬には第2次指定の候補リストを固める予定である。*1
侵略性外来種(帰化植物) 植物の地域や国を越えた移動は、時に、侵略性外来種(帰化植物、移入種とも呼ばれる)という問題を発生させる。国の内外を問わず、種が本来の自然分布範囲を越えて移動すると、移入先の自生種の生息地の消失、遺伝子の攪乱、自生種との浸透性交雑などが生じ、地域の生物多様性を脅かす。これは、降水量が多い地域ではより深刻となる。水は生命の鍵を握っているため、水が豊富な地域ほど多様な植物が存在する可能性が増え、種の競争や淘汰が激しくなるからである。この意味で、河川流域や周辺での侵略性外来種の問題は、他の場所よりも深刻となりうる。実際に、日本の植物の分野で侵略性外来種の問題が顕著になってきたのは、河川流域からであった。(後に詳述) セイタカアワダチソウ 侵略性外来種として昔から日本で有名であったのは、北米原産のセイタカアワダチソウで、これは、地下茎から他の植物の害になる物質を出し、他を弱らせて繁茂する。同様のメカニズムはセイヨウタンポポにも見られるが、多くの侵略性外来種は異なる土地での生存のために、このようなメカニズムを身につけたと考えられている。セイタカアワダチソウは、最近では自分の分泌物が自身を攻撃するようになりその数が減っている。この2つは今回の選定表の要注意リストとしてあげられているが、これを含めリスト項目のほとんど、ハルジオン、ヒメジョオン、ムラサキカタバミ、メリケン・・・、アメリカ・・・などすべてはなじみの雑草で、緑化目的で導入されたものではなく、何らかのルートで移入したものである。
外来種の歴史 外来種の移入の歴史は古く、史前からすでに日本に入ってきている。それは、1.稲作の伝来とともにやってきたもの(水田の雑草)、2.麦類の伝来と共に日本に入ってきたもの(畑や里山の雑草)、3.中国から有用植物として日本にもたらされたもの、に大別される。1.には、イヌタデ、ツルナ、ヨモギ、オヒシバ、メヒシバ、イグサ、チカラシバ、エノコログサなどがあり、2.には、ウシハコベ、スベリヒユ、ナズナ、タガラシ、ミヤコグサ、カタバミ、オオバコ、ジシバリ、スズメノテッポウ、カラスムギ、ツユクサなど、3.には、ヒガンバナ、シャガ、ヤブカンゾウ、フジバカマ、ミツマタなどがある。このなかで、上の一覧表にひっかかるのは、カタバミの一種(ムラサキカタバミ)、ヨモギの一種(ヒメムカシヨモギ)、オオバコの一種(ヘラオオバコ)である。これらは、今ではすっかり田や道端の雑草と化し居場所を得ているが、当時は同じように生態系攪乱が起こったのだろうと考えられる。こうした現象は今でも続いている。すべてが問題となるわけではないが、爆発的な増殖には警戒が必要である。
移入のメカニズム 移入から定着し繁茂するメカニズムは解明されていない。移動には介在者が必要なので、飼料混入・貿易などの輸入製品に混入・海外旅行・愛好家による持ち込みなどが推測されている。これは、こうした外来性の雑草が、空港や港湾からの幹線道路を経て、各地域の道路沿いで繁茂する様子からも見て取れる。しかし、移入したすべての外来種が脅威となるわけではない。侵略性種は、既存の農薬が効かず、逆の選択的に増殖していったのではないかと考えられている。また、何をもって脅威と判定するのか、「外来生物法」曰く、何をもって「被害を及ぼすまたは及ぼすおそれがある」と判定するのかは、科学的な問題であると同時に、実は心理的な問題なのである。
規制への流れ セイタカアワダチソウなどの繁茂が、テレビなどで取り上げられていたころは、侵略性外来種への取り組みは、個々・各地でまとまったものではなく、「刈り取り」が最大の防除ですんでいた(すませていた)。侵略性外来種について、「やっかいだけどよくある雑草」の類から、「より高段階の取り組みが必要」だと認識を新たにさせられたのは、河川流域からであった。 日本では河川流域から、侵略性外来種対策が本格的に始まった。天竜川流域では、天竜川上流河川事務所が、平成16年より自らが施工する公共工事においては帰化植物を使用しないという宣言を出し、生物多様性を守る取り組みを始めている。この流域では現在、約190の帰化植物が確認されているが、中でも北米原産のハリエンジュの駆除には手を焼いている。 ハリエンジュ対策 ハリエンジュは別名ニセアカシアとも呼ばれるマメ科の高木で、花が美しく、蜜原植物や、木材として利用され、刺の少ない品種は街路樹として広く植えられている。(強風で倒壊しやすいので一時期よりも減っている) ハリエンジュの根絶法は難しく、「外来生物法」が防除に国だけでなく、民間や市民の知恵と腕を借りようというのも分かる。どんなに体裁のいい言葉で飾っていても、要は、「侵略性外来種の被害除去は、国だけではできないから、皆さんでお願いします」といっているのである。これは、手間と費用を国は負担できないといっているようなものであるが、逆を考えれば、そこにビジネスチャンスとNPOなどの市民団体の活躍の場があるともいえる。 しかし、この問題は一筋縄ではいかない。多摩川永田地区におけるアンケートにも代表されるように、昔の風景を知らない世代から見ると、河川流域に広がるハリエンジュの緑の風景は地域の風景であり、「何故根絶しなければならないのか」という見方がでてくる。このため、単に「除去」という作業を誰かにさせるのでは、行為の正当性に対するコンセンサスを取りにくく周囲の理解が得られにくい。いまや、「何故こうした取り組みが必要なのか」という第一段階の啓発教育から始まる一連の防除システムが必要なのである。誰もが納得できる生態系保全に対する統一見解、それを作るのは難しいけれども、そのために努力をしなければならない時代に、我々は生きている。
土木・法面緑化と外来生物法 今後、こうした河川流域では、「外来生物法」の後押しを受けて、侵略性外来種に対する対策が、全国で活性化すると考えられる。全体にネットワーク化をしてお互いの情報を交換し合いながら、有効な既存「特定外来生物」の防除対策をとるとともに、土木業界および公共の法面緑化業界とともに、流域緑化に使用する植物について常に侵略性外来種の脅威を考慮しながら、代替的な在来植物(または自生種)を利用する環境を整備していかなければならない。こちらは、一般の緑化よりも事態が深刻なので(関係者がすべてそう認識しているとは限らないが)、より速く対策手段が講じられるであろうし、そこで得られる成果は、他の一般的なランドスケープや緑化を行う際に、かなりの役にたつはずである。従って、こうした業界の相互の風通しを、是非ともよくしてもらいたいと願う。 さて、気になるのは、私たちランドスケープと一般の緑化、ガーデニング、外構設計などの分野が、今後「外来生物法」によりどのような影響をうけるのかである。 「都市緑化については、一般的に種が分布を無秩序に拡散していくような環境ではない」(長田氏)ため、現在のところ「外来生物法」による影響は少ないと考えられている。また、都市緑化に多用されているものには、現在の段階で「特定外来生物」に指定もしくは「要注意外来植物リスト」には挙がっているものはない。*2 ここまで聞いてこれで安心してはならない。お役所が事後承認的に物事を決めるのはいつものことで、役所が認めるようになってからでは、すでに被害がたくさんでてハリエンジュのように困ったことになるのがおちである。(一般の方はそれさえ深刻に捉えていないかもしれない。一頃のガーデニングブームでもてはやされた黄金ハリエンジュ(ニセアカシア 'フリーシア':Robinia pseudoacacia 'Frisia')も、ガーデン愛好家から見れば洒落た素敵な木であっても、近隣の家々や土木事務所からみればやっかいな侵入者なのである。) さて我々がここで取らなければならない姿勢は、侵略性外来種になる可能性のある植物種をリストアップし、緑生産者は生産を控えるあるいは品種交配による改良などの対処する、ランドスケープやガーデン、外構に携わる専門家は、そうした植物規制の動向に注意し、自らの計画地への導入を控えるまたは限定することである。なかでもリストアップの作業は早急に取り組む必要がある。市場に出回るすべての園芸植物やランドスケープ緑化資材について、ことに草本の類まで知っている専門家は多くない。多くの人の力を借りて、樹木から草本までまんべんなくリストアップする必要がある。JXDAはこれに着手し始めている。そして、もうひとつ忘れてはならないのは、我々が一丸となって、クライアントや消費者にむけて、侵略性外来種の脅威と生態系保全の意義について、自らの立場からメッセージを発し、啓発していくことである。その絶好の契機がこの「外来生物法」の発効であると考える。
生態系保全の意味 生態系保全とは、実は喉元につきつけられたナイフのようなものである。それは時に、鋭く厳しい選択を我々にせまる。上述のハリエンジュの問題しかり、園芸雑誌やガーデニング雑誌で写真や記事とともにハリエンジュを紹介するときに、そうした短所的なことや生態系に及ぼす影響に十分に触れているだろうか。否やである。季節になると、河川敷に咲き誇るコスモス何万本という風景をテレビで見たことがないだろうか。自然愛好会などの団体がわざわざ植えました、世話をしています、週末にはコスモス祭りがひらかれます・・云々。コスモスは侵略性の草本である。そのために河川敷の生態系が破壊されてしまうことに、多くの人は気づいていない。まだコスモス街道などの道ばた・畑地などの人為的な場所ではいいのであるが、残しておきたい自然のある場所では脅威となる。綺麗だから、可愛いから、街おこしになるから・・・善意や好意からでた行為が、こうして貴重な自生種を追いやってしまうことになる、この種の行為は実は結構存在しているのだということを、愛でる側も導入する側も今一度認識しなければならない。
ランドスケープと侵略性外来種 日本におけるランドスケープや造園業界の侵略性外来種への取り組みは、まだまだこれからである。環境省は2002年8月に「移入種への対応方針」を発表、その後2003年11月に「移入種対策」という最終報告書をまとめたが、ここでの生態系保護の対象は動物で、植物についてはほとんど考慮されていなかった。一方で日本造園学会は、2003年5月の会合で移入種問題を初めてとりあげている。2年を経て、また今回の法律の施行もあり、今後の対応が注目される。こうしたなかで目を引くのは、法面緑化などに従事する業者が中心となって作っている緑化工業会と日本生態学会で、前者は早くから「生物多様性保全のための緑化植物の取り扱いに関する提言」をだし、後者は「外来種ハンドブック」を作成している。
アメリカでの取り組み ランドスケープやガーデニングによって導入される外来種が、地域の生物多様性に影響を与える事例は、アメリカで多く報告されている。植物のメカニズムは複雑で、こちらの州では何の問題もないのに、州を越えて繁殖すると別の州では「侵略的」として問題になることがある。こうした意味から、全米で統一した侵略性外来種という規定は難しく、各州がそれぞれの基準で侵略性外来種(他の"国"ではなく"州"からの移入も含む)のリストを作成している。その中心となるのは、行政と専門家によるタスクフォースである。 JXDAではアメリカの最新のデータを収集し現在分析中である。これについては別途また提供したい。
ゼリスケープと侵略性外来種 ゼリスケープで用いる植物には、少ない水やりに適応する「ゼリスケーププランツ」があるが、乾燥に耐える植物の中には大変に強健な種があり、また、それゆえにより乾燥に耐えるのであるが、それが栽培環境から逃れ野生化してしまうと、他の植物を駆逐してしまうことがある。都市の環境は、植物にとって決して好ましいものではなく、繁殖力の強い種であっても、一度に拡散することは確かに難しいのであるが、降雨の多い日本の地は、こうした植物にとっても魅力的なことも確かである。今後、ゼリスケープランドスケープがますます普及していくであろう環境で、その先駆者となるものは、ことさら使用植物の侵略性には配慮が必要である。 侵略性外来種へのランドスケープ的対処 侵略性の植物を植える際には、そのスペースを舗装や障壁で囲み、封じ込めるのも一案である。問題を抜本的に解決することはできないが、種の普及は鳥や人間などの媒体が種を広く遠くまで運ぶことで起こるので、少なくともその危険性を抑えることができる。 品種改良が進み、輸送手段もあり、栽培技術が進み、世界中の最新園芸品種を手に入れることができるようになった。新しい品種や珍しい品種を試してみたいという気持ちは、設計者も園芸愛好家も当然のことかもしれない。その気持ちは大事なもので、ランドスケープやガーデンの空間は、やはりわくわくするような高揚感とか、楽しみ、美しさなどを忘れてはならない。緑化の人間の快適性に対する貢献はこうした気持ちとともに倍増する。新しい植栽が、それまでの一律の無難な緑化にひとつの風穴をあけることは間違いない。しかし、それでも、その前に性質を調べ、内外の事例を研究し、地域の生態系への配慮を忘れないようにすべきである。繰り返しになるが、我々はもはや見た目や美しさ、好みだけで物事を進められない時代に生きている。生態系保全や環境保全の真の意味を踏まえたうえで、できるかぎり自由自在に植物を楽しみたい。
注)*1*2ともに『グリーンアークテクチャートリビューン』第53号 2005.6.8発行より引用。
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文:松崎里美 |
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