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今、日本の環境緑化、景観に必要なことは何か。ランドスケープ・建築・植物生産・関連資材など諸分野の専門家が、ゼリスケープに関連して今必要な視点を問題提起します。

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気候を戦略的に受け入れる

文・小出兼久 05/06/18

いま人間の活動により世界の気候が変動しているという、圧倒的な証拠がいろいろある。
最近、次のような報告書を読んだ。

グリーンランド氷冠という南半球では南極大陸についで大きな陸上に拘束された氷床がかつてない速さで融解している、過去5年間だけで南極の棚氷はロードアイランド州に匹敵する大きさが崩壊していると指摘されている、原子力潜水艦によって収集されたデータを分析する科学者は、北極の海氷は減少をつづけ過去40年間のあいだにその厚さの40%が失われたと推測している・・・。

 

別の資料によれば、1998年は観測史上空前の最も温暖だった年であり、1999年は観測史上で5番目あるいは6番目に温暖であった。じつのところ観測がはじまって以来、最も温暖な年10年のうちの7年は1990年代に観測されている。樹木の年輪や南極の氷芯の分析によってもこの選ばれた10年は、現在の千年紀の中で最も温暖だということが示されている。

 

米国科学アカデミーは2000年1月に、過去20年の地球規模の地表面温度の観察により、地球が温暖化傾向にあるのは確かに本当で、20世紀の間に生じた温暖化の平均率よりも高く、現在の状況がきわめて重大であると結論を下している。同アカデミーはその後もいくつかの報告や提言を行っているが、最新では、6月7日に10カ国の国立科学アカデミーとともに、世界、特に来月スコットランドで開催されるG8先進国首脳会議参加国の指導者らに対し、気候変動の脅威は明らかであり、かつ増大していることを認識し、その原因に対処し、もたらされる影響に備えるよう要求した。

 

気象変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change :IPCC)は、2001年の報告書の中で、温室効果ガスは重大なほど増加しており、地球は温暖化のプロセスにあると予言しているが、気象学者の多くの考えも、温室効果ガスの増加が地球温暖化を促進するというIPCCの発表と一致する。そして、大気が水循環を変化させたことを指摘し、この結果、いくつかの地域は、相当に「より暑い」か、「より冷たく」なると予想している。水の循環が我々の生活空間に様々な影響を与えている。

 

気象変動は、地球温暖なだけではない。ヒートアイランドもそうである。
市街化開発は、地域の温度を増加させる傾向がある。土壌に代わり、建築物と舗床がより多くの熱を蓄積し、降雨も浸透せずに舗装面からの水流出が多くなり、より高温で乾燥した状態を周囲にもたらす。大気が流れていれば、高温部はより市外へと移動するが、この高温部がヒートアイランドである。 ヒートアイランドと地球温暖化は異なる現象だが、夏のヒートアイランドは温暖化を促進している可能性がある。

また他方、未開発地域においても、天然林や草地から農地へ転用するだけで生態系が変化し、大地と大気間のエネルギー資源と水の循環サイクルが変化する。その結果、将来的にやはり周囲の温度や降水量に変化を生じさせる。さらに、石油などの化石燃料が生活や経済活動で消費されると、燃焼により温室効果ガスが放射され、気温を全体的に上昇させ、雨と雪の降水パターンに変化をもたらす。また、産業設備から排出される硫酸塩や他の汚染物質も、太陽光を遮断しわずかにこれを相殺する。そして、気流に応じてある地域の大気を暖める。水蒸気、二酸化炭素(CO2)や他の温室効果ガスが、地球大気に作用して温暖化を促進している。

 

話が少し長くなっているが、化石燃料の広範囲な使用が始まって以来、大気の中におけるCO2は、それ以前と比べて30%以上も上昇していることがわかっている。CO2上昇率は、年間0.5〜1.0%なので、逆算すると現在大気中に存在するCO2の中には、100年間以上前からの分も含まれていることになる。人間の活動からの地球規模の排出が抑制されない限り、大気のCO2濃度は上昇し続けることになる。
 

他にもいろいろあるが、これらの記録を読むと、温暖化やヒートアイランドという現象がより身近に感じられる。気候変動による環境・社会へのインパクトがより速く生じてきている。しかし、我々がこの時点で、何らかの行動をとってもその効果がほとんどないことも事実である。政治システムが、気候を再び元に戻すためにインフラストラクチャーを何十年間も後退させるだろうか。最近の米国科学アカデミーの提言も2000年とちっとも変わっていないではないか。ストップ温暖化などの言葉だけが先行し、その問題解決に取り組む政治的行為が、コストや思惑に阻まれて思うようにすすんでいないようで、いらだちを感じている。

 

誰でも天候について話す。しかし、誰も気候に関して何もしない」と思う。

21世紀の扉を希望をもって開けた我々は、世界規模の気候変動がはじまっていること、それと一緒に、地域における気候も変動していると確信を持たざるをえなくなり、すでにすべてがバラ色という未来は描けなくなっている。
急速な氷冠融解を見る(読む)につけ、自然からの警告が切迫していると感じている。地球規模の汚染を抑制し温暖化に歯止めをかけることは、今後、あらゆる企業がみずからの生き残りのために取らざるをえない戦略であり、将来を見通した会社は、多くの恩恵を得ているのも事実である。


「・・・我々がそれを正しくすれば、気候の保全は、コスト支出ではなく利益を与えてくれる。負担ではなく利益。犠牲にせずに、より高い生活水準が得られるだろう・・・省エネルギーが高収益、つまり、より低コストでより上質のサービスを与えられることを、今我々は見せつけることができる。ビジネス証拠という巨大なシステムがある・・・。」アメリカ合衆国・ビル・クリントン前大統領の言葉である。

 

最近、緑の業界紙は、こぞって屋上緑化について、都市温暖化の見地から議論を重ねている。しかし、植物を気候学的に分析することに関しては何も触れていない。我々の調査では、1本の樹の役割は、大気中の汚染物の軽減からヒートアイランド現象の緩和にまでおよぶ。そして将来的に地球温暖化をも緩和する。それを実際に計測し、科学的裏付けをとるための実験もしている。地域気象観測、特に生物気象の観測は、ますます重要になっている。

 

また、大気は複雑な気候システムの1つの構成要素であり、大気中の酸素、二酸化炭素と水蒸気の増減が植物と密接な関わりを持っている。そこで蒸発散などこれらを観測することは、植物にとってのよりよい環境をどう作っていくのかといことに結びつく。観測の結果をどうランドスケープに生かしていくのかは大きな課題である。さらに現実には、ここに人間の活動による影響が加わる。人間の活動が気候に影響を及ぼし、及ぼされ、そしてまた植物にも相互作用している。都市の植物もそうした複雑な生態系の中に生きていることが、気象観測から見えてくるのである。

 

これからは、気候を戦略的に取り入れる活動が中心になるはずである。戦略的にとは、消極的な対応策というのではなく、逆手にとって積極的にそれをアピールすることである。いかに気候から理にかなったデザインを導いているか、いかに気候にあった植物を用いているか、資材ひとつとっても、気候変動の抑止=二酸化炭素の排出削減という図式から考えれば、おのずとできることが見えてくる。温度や南北極の氷の変化、大気の流れや水循環の変化、降雨パターンの変化、気候が見せるさまざまな変化をどう抑制するのか、例えば屋上緑化が南北極の氷の融解と関係している、そのくらいのことを連想できなければ、我々の未来はないだろうし、そういう視野にたって初めて見えてくる有効な解決策もあるはずである。

 

政府システムの力は圧倒的で、我々ができることに限りがある。時に無力に感じても、実際に現場から声をあげ、ひとつひとつ解明していると、いくらかでもできることがあると思えるようになる。その繰り返しである。

 

小出兼久 プロフィール
ランドスケープアーキテクト, ASLA /AHSH /AWWA 会員/ NPO法人日本ゼリスケープデザイン研究協会代表理事/(株)ランド・ジャパンデザイン事務所代表取締役社長/日本林学会会員/日本農業気象学会会員 

 

 

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