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JXDAは、ゼリスケープの観点と必要性から、あらゆる地域のランドスケープ開発(都市整備・建設・公共施設など)を行う企業や協会、団体のプロジェクト情報を、独自のネットワークより提供しています。
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■カナダ編6 カナダの都市緑化のあり方について ーCMHCからの提言ー
今回は、カナダのゼリスケープ推進に大きな役割を果たしている前回紹介したカナダ・モーゲージ・アンド・ハウジング・コープ(CMHC)の調査報告書の中から、特に興味深い資料を紹介する。
「高層集合住宅のデザインと建築の一新への手引き」(A Guide to Innovation in the Design and Construction of High-Rise Residential Buildings)によると、正しく適切なランドスケープを実践するためにデザイナーが考えなければならないのは、快適さの追求と、資源エネルギーの浪費を抑えることによるコスト削減の両立である。それには、1.水の保全と有効利用、2.季節に応じたエネルギー効率の良いデザイン、3.*ストームウォーターマネジメント、の三点について考察されるべきとしている。
1.水の保全と有効利用
カナダ中どこにおいても夏期の水消費は、通常月の倍に跳ね上がる。芝生や庭への灌水、洗車、プールへの使用などが主な理由であり、これらは郊外地域において顕著である。また都市部においても、夏期に水消費量が多くなる傾向は同じであるが、ランドスケープデザインにおける水保全・有効利用を考えることで、改善できる。
具体的手法としては、
‐雨水再利用
オタワ市のマウンテン・イクイップメント・コープ・ビルでは、直径2.4m、高さ6mで容量65,000�Pの雨水タンクを設置。植栽灌水用の水のほとんどをこれで賄っている。
‐自生植物の多用
必要水分量が少なく、病害虫にも強いので、消毒剤・殺虫剤の使用も少量で済む。総じてメンテナンスにかかる時間もコストも少なくなる。
‐必要水分量に応じたグループ分け植栽 無駄な灌水の削減
‐耐乾性の強い植物の多用
‐効率的なドリップ灌水
ドリップ式はスプリンクラーに比べ、不必要な場所への灌水、無駄な蒸発消失分がないため、最大50−75%節約可。雨センサー併用によって、より効率は高まる。雨センサーの購入代金は、その後の節水によって2年以内に回収できる。
‐芝生の種類の再検討
踏圧のかからない部分はクローバーなど広葉のグラウンドカバーで代用
‐マルチング
水分蒸発を抑え、土壌の保水性を高める。ゼリスケープ7つの原則参照。
2.季節に応じたエネルギー効率の良いデザイン
都市部のエネルギー使用効率についても、同じく改良の余地は大である。都市緑化は、ビル周辺のヒートアイランド現象の緩和に貢献する最も安上がりな方法であり、僅かな投資で大きな省エネルギーに繋がる事例の代表である。都市部の温度は、郊外にくらべ最大で約5℃も高くなる。これは緑陰樹が存在しないことによって、直射日光をまともに受けてしまうことと、絶対的な緑地面積の不足によって、植物の蒸散作用による気温低下効果が期待できないことによる。解消策として、

『資源エネルギーとランドスケーピング』小出兼久&JXDA編・著より抜粋
‐樹幹の大きな落葉高木を植える
成熟したブナの木1本で約170�Fの日陰を提供してくれるし、また、樹高21メートルの**キャノピー1本の蒸散量は375�Pに及び、エアコン5台を20時間掛けたのに匹敵する。夏期に生い茂った広葉樹は太陽光線の約90%を遮断し、約10℃の低下効果をもたらす。一方で冬期は、日照の約65%を通過させる。
3.ストームウォーターマネジメント
最後に重要なポイントとして、適切なストームウォーターマネジメントについて考察が述べられている。急速な都市化に伴う非透水性舗装の飛躍的な増加によって、森林では降水量の6%しか下水道に***流出しないのに対して、都市部では最大90%が流出して下水道に流れ込む。そのため、瞬間過剰排出によって発生する洪水などの量的な問題のみならず、最近では、水分や土壌における各構成元素の濃度変質(チッソ、リンや他の微量元素の集中偏在化、それに伴う土壌の固形団粒化の停滞)といった質的な問題も引き起こされている。高層集合住宅地域においては、平均で50−70%、最大で85%が非透水性部分となっている現状を鑑み、地下浸透エリアを増やしていく試みがとデザイナーらにより行われている。
雨どいや舗装面から下水に直結している雨水の流れを、如何にして変えていくのかという課題には、曲線や****バームを多用し、水の流れを迂回させることによって時間をかけて徐々に貯水池に誘導し、地下浸透させたり、また、数種類の植物群を多層的に配置させ、降雨の落下を何層かの*****葉簇(葉群)で受けることによって、地表面への到達の緩衝帯とする機能を、如何に美として表現するか、デザインとして組み込むか、デザイナーの力量が問われている。
[屋上緑化]
また、屋上緑化は、夏期で全降水量の70−100%、冬期で40−50%、平均して約90%の流出を削減するだけではなく、天然のフィルターとしてとしての機能も果たす。つまり、雨水に含まれる微量重金属や窒素、リンなどを、植物が養分として吸収することによって、流出水の水質浄化・調整を行うものとして積極的に取り入れられていくことが期待されている。
[まとめ] 北米西海岸の気候は、夏が乾季で冬に雨季を迎えるということで、日本におけるそれとはかなり様相が違い、条件も厳しい。植物の生長時期が渇水期にあたることや、落葉樹が葉を落とす休眠期に降水が増えるといった切実な問題を踏まえながら、あるべき都市緑化を模索し実現していくに際して、デザイナーをはじめとする人々が乗り越えなければならないハードルは高い。そういった、より深刻な環境での試行錯誤の中、チャレンジを繰り返している彼の地のランドスケープにとって、ゼリスケープは最低限必要な基本的条件となりつつある。技術的な側面はもとより、行政・業界の取り組み姿勢やデザイナーの意識のあり方など、見習うべき点は多いのではないかと思う。
注)
*ストームウォーター:一時的な集中豪雨
**キャノピー:快適な日陰をもたらす樹冠の大きな緑陰樹
***流出(表面流出):雨どいや舗装面から下水に直結する地盤に吸収されない雨水の流出分
****バーム:意匠的に設けられた水平面の起伏
*****葉簇(葉群):枝と葉のむらがりから構成される一つの形を持った群団
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