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 >> 世界ゼリスケープ事情


JXDAは、ゼリスケープの観点と必要性から、あらゆる地域のランドスケープ開発(都市整備・建設・公共施設など)を行う企業や協会、団体のプロジェクト情報を、独自のネットワークより提供しています。

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■カナダ編5
カナダ住宅金融公庫報告書に見る
ゼリスケープ推進パートナーシップ

カナダにおいてゼリスケープが推進されている背景には、日本の住宅金融公庫にあたるカナダ・モーゲージ & ハウジング・コープ(以下CMHC)という連邦政府機関の果たす役割も大きい。なぜかというと、その元来の使命、つまり国民が良質の住宅を取得できるよう個人が金融機関から借り入れる住宅ローンに保証を付与するという一義的役割だけでなく、環境保全と住環境の快適さの追及の両立を実現するという視点から、敷地内における資源エネルギーの活用について数多くの調査報告資料を作成しているからだ。それらを公開することで、一般市民や設計施工者だけでなく、法整備にも大きな影響力をもっている。資料は、CMHC自身が自主制作したものと、CMHCが厳選した応募外部団体に援助金を出し作成させたものとがあるが、これらの中の資料で、これからのランドスケープのあり方について、各所でゼリスケープの有用性を推奨している。カナダ各地各様の異なる気候風土の下で、単一的な手法が全ての土地に当てはまるわけではないのだが、各地の事例を紹介することによって、それぞれの土地での応用を可能なものにしている。

いくつか例を挙げると、取水可能な降雨量の地区別データ、ガーデン・タイプ別のエネルギー消費量の差(冷暖房費節減効果についての言及)、必要となる施肥量・灌水量・殺虫剤使用量の比較表、メンテナンスに要する労力・時間・コストの比較、屋上緑化の効果の検証、ストームウォーターのマネジメント手法、必要灌水量が少なくて済む自生植物の紹介、3R(Reduction資源の浪費や廃棄物の削減/Reuse再利用/Recycleリサイクル)と呼ばれる資源の循環利用の訴え等々、盛りだくさんである。そのほんの一例を紹介する。
まず、降雨の取水については、モントリオール、トロント等の主要都市における年間降雨量と建物の屋根に降る量をデータとして示した上で、集合住宅における灌水はこの屋根から取水した分だけで十分に賄うことができ、夏場の水不足時における効果を指摘している。また、ガーデン・タイプ別の必要施肥量・灌水量・殺虫剤比較においては、伝統的な芝生、フラワーベッド、樹木中心の庭と、耐乾性植物で構成されたゼリスケープ・ガーデンが具体的な数字で比較されている。

また、自主制作資料の中で取り分け興味深かったのは、中水の再利用についての問題点の考察である。中水(ここでは、風呂、シャワー、食洗機からの排水<グレイ・ウォーター>の再処理水の意)の再利用は、慢性的な夏場の水不足を打開する方法として長期的な公益に資するものであると、主に園芸の場での利用が期待されている。しかし、カナダにおける中水に上水と同等の水質基準を求める衛生に関する法律や、蛇口等からの給水施設は全て上水管に接続されていなければならないとする条例などが、再処理された中水の利用促進を阻んでいるという。

所轄省庁ではないCMHCが他省庁(飲料水の水質基準という衛生面を司る厚生省や、汚水処理に伴う環境汚染面を司る環境省)の守備範囲にある法制面の不備をついて改正の必要性を説いている点や、現状の連邦レベルの問題点を所与とした場合にすべきこと、つまり州レベルの条例改正への指針を提示してまで流れを作ろうする意思を持って、この報告資料を作成している事実に、政治・行政のダイナミズムが顕れている。この点、縦割り行政の日本との違いはあまりに大きいと感じざると得ない。

資源保全や生活環境向上のためのゼリスケープの取り組みに、連邦政府、州政府、市・自治体レベルといった線の濃淡に差がありこそすれ縦の連携、そして、今まで紹介してきたバンクーバー市のシティー・ファーマーとオタワ市の報告書がWEB上でリンクしているといった、各地のゼリスケープ推進団体の横の連携も緊密であるというパートナーシップの連携が、カナダにおけるゼリスケープ推進の大きな要因と言えよう。

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文・平松宏城