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 >> ゼリスケープ技術講座 -灌水システム編-


ゼリスケープガーデンを創造するための基本的な知識・技術の会得を目的とする技術講座。
中でも専門性が高い灌水システムについて、基礎から学んでいきます。

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第7回 パイプ(配管材)・灌水器具

今回は、灌水システムの最終目的である植物への灌水経路と器具について説明する。庭の形態や植物の種類が様々であるように、灌水システムにも多種多様の形がある。設置場所と灌水の効率性を考え配管し灌水器具を選ぶことで、適切な灌水システムを作ることができる。配管材と灌水器具の知識は非常に重要である。

パイプ(配管材)
灌水の経路は、主管と支管により構成される。それぞれの役割と材料は次のとおり。

◎主管
主管とは、給水栓からコントロールタイマーなど灌水制御装置を経た水を、灌水が必要な庭全体に送水する管である。直接灌水器具を付けることは少なく、そこから支管を伸ばし、植物に応じた灌水器具を取り付ける。
主管として使われるパイプには以下の2種類がある。

・ポリ塩化ビニル管(Polyviniyl chloride pipe, PVC)
 硬質の管で家庭用水道に多く用いられており、13mm、20mm径のものが多く使われている。スプリンクラーによる灌水を行う場合は主にこれを用いる。

・ポリエチレンパイプ(Polyethylene plastic pipe, PE)
軟質でポリ塩化ビニル管よりも加工がし易い。16mm、20mm径のものが主に使われる。 マイクロイリゲーション(低水圧でも稼働する灌水システムの総称)を用いる場合は主にこれを用いる。

◎支管
ドリップチューブ以外の灌水器具は、主管から伸ばした支管に取り付ける。主管を血液の動脈に例えると、支管は毛細血管の様なものである。支管材には、主管と同様に、ポリ塩化ビニル管・ポリエチレンパイプ も用いられるが、マイクロイリゲーションの器具を取り付ける際には、4/7PVCチューブを用いる。

・ 4/7PVCチューブ
内径4mm、外径7mmほどの軟質で加工しやすい黒色チューブ。その外見からマカロニチューブとかスパゲティとも呼ばれる。先端にドリップエミッターやマイクロスプレイを繋げるのが一般的だが、インラインドリップエミッターならば、管の途中に付けることもできる。より細い、3/5PVCチューブもあり、こちらは定流量エミッター+4分岐チューブにて構成されるペグ式灌水器具の分岐チューブに使われている。

灌水器具
灌水するための放水口は、様々な種類が開発されており、灌水場所、植物、土壌、灌水効率に合ったものを選択しなければならない。放水のタイプにより、スプリンクラーのような飛散型の散水器具と、植物の根元でジワっとしみ出るドリップ器具に分けられる。

◎スプリンクラー
内部で水に高圧をかけることにより比較的広い面積にほぼ均等な水を散水する構造の灌水器具。広範囲の芝生などに従来から取り入れられてきた。

スプリンクラーの種類
ランドスケープ空間で主に扱われるスプリンクラーは散水形状により以下の2つに大別される。

・スプレイスプリンクラー
筒状の本体吐出部から霧状(スプレイ)の水を散水する。
散水パターン(スプリンクラーは弧を描くように散水するが、その弧の角度のこと)は全円から半円、1/4円や自由角など様々である。適用圧力もロータリーと比べて低く、散水半径が数メートル程度なので一般家庭の変形した芝地にも適応した配置を組むことができる。


 

・ロータリースプリンクラー
本体に内蔵された機械と水流によって吐出部が回転運動をするような構造になっている。
スプレイスプリンクラーとは異なって直線的な水を噴出するので散水半径が広い。このため広い敷地での散水に適している。ゴルフ場などでの芝への灌水にもこのタイプが用いられる。

なお、両者とも、ポップアップというタイプがある。これは、本体底面から水が入水しその圧力で、地表面と水平に隠れていた吐出部が一定の高さまで押し出され散水する構造になっており、散水時以外は吐出部が地上にでないため、子供の遊ぶ芝生や公園、ゴルフ場などに向いている。

選択のポイント
・灌水半径   
・散水パターン
・適応圧力


設置上の注意
・均等に散水するには、隣り合ったスプリンクラー同士の灌水半径が重なるように配置する。そうすることで灌水半径の間で発生する散水むらを補うことができる。
・スプリンクラーは、次のような場所では適さない。
 → 地表面に植物がまばらに植栽されている場所。(非効率)
 → 地表が植物でおおわれてその葉で散水が妨げられ、地表面に届きにくい。(非効率)
 →屋上など風の強い場所。(水を飛散させるので非効率)
いずれの場合も、次に述べるマイクロイリゲーションを用いたほうが効果的である。
・ 水の有効利用のために、さらに、散水の時間や時間帯を調節する。散水を朝か夕方の、風のおだやかな時間帯に行うことで、蒸発散を最小限に抑えることができる。

◎マイクロイリゲーション 
現在使われているマイクロイリゲーションは、もともと農業の一分野である施設園芸で使われていた灌水方法の応用として発展してきた。アメリカでは70年代から盛んにランドスケープ用灌水として用いられるようになった。特に住宅地での灌水は、通常の(大型)スプリンクラーでは面積的に大きすぎたり、また給水圧の点からも、スプリンクラーの多使用はできない。この点、マイクロイリゲーションには多くのメリットがある。

マイクロイリゲーションのメリット
さまざまな植物が混在するランドスケープ環境では、植物の種類、サイズ等も考慮した最適な灌水量を与えることが本来必要である。マイクロイリゲーションのメリットは、とにかく効率的な灌水が行えることである。まず、その器具について言えば、1つ1つの器具の放水量が規格により決められている。一般に日本のドリップエミッターには、1時間あたり2リットル、3リットル、4リットル、8リットルを放水する種類がある。マイクロエミッター(マイクロスプレイ)は、水圧により放水量が増減するので、例えば1時間あたり1〜1.78リットルという具合に規格されている。そこで、各器具の放水量を知り、植物毎に適切なものを選ぶことで、灌水量を必要最小限に押さえることができる。また、一つの器具あたりの灌水範囲が狭いため、灌水器具の設置を細かく行え、根圏へ正確な量の灌水ができる。余分な水を蒸発させたり、地表流出させたりすることはない。そのため雑草の生育を助長することはない。さらには、マイクロイリゲーションの灌水器具は適応水圧が低く、一般家庭の水道からの取水で十分な灌水効果を出すことができる。

マイクロイリゲーションで使用するエミッター(放水口)の分類と特徴

・マイクロエミッター(マイクロスプレイ) 
中心に備え付けられたエミッターから狭い範囲にスプレイ状に水を地表面に飛散させるもので、マイクロスプリンクラーとも呼び、スプリンクラーの小型版と捉えて良い。狭いエリアのグランドカバーや根の張りが浅い植物など、根元に直接灌水するのが難しい植物に有効である。

 

・ドリップエミッター&ドリップチューブ 
水は、エミッターの設置位置から直接土中に浸透するので、灌水域はマイクロエミッターよりもさらに狭い範囲に限られる。一点から吐出されるので、水の重力と垂直方向の広がりに対しては土質に左右される。(下図参照)地表流出や蒸発が他の灌水器具に比べて少ないので、水資源の保全として最も有効である。ドリップエミッターがポリエチレンパイプに等間隔に内蔵されているものがドリップチューブである。

【土質によるドリップエミッターの水浸透比較】

・ 多孔管(ソーカーホース)
スポンジ状の硬質管から水がしみ出るようにでてくる管。線上に連続したドリップと考えて良いが、より柔らかく水が出、またドリップチューブよりも多くの水を放水する。このため広い面積では、多くの水量が必要となってしまい、適さない。

定流量灌水
ドリップエミッターとマイクロエミッター(スプリンクラー)を併用したり、ドリップエミッターを直列に幾つも繋いだり、またはドリップチューブを長距離用いる場合には、ライン末端のエミッターが、水量不足になってしまうことがある。この対策として、定流量エミッターと呼ばれる種類のエミッターがある。これを用いることで、末端まで定流量の灌水を行うことができる。

設置上の注意
・ 目詰まり防止のためにフィルタを設置し、チェックと洗浄を定期的に行う。
・ 稼働している間、管の破れや灌水器具のはずれや破損によって水が出過ぎている箇所がないか、定期的にシステムをチェックする。
・ 冬期は凍結予防のため、管内の水を抜き備品の水切りを行う。

マイクロイリゲーション普及への展望
一般家庭の灌水には大変有効であり、使い方によって庭木からグランドカバー、プランターの草花まで対応できる。自動制御コントローラーを使った灌水システムにし、雨の日には灌水プログラムをストップする雨センサーを取り付けることで、より水の無駄を防ぎ有効な使い方ができる。
灌水システムの設置は、本来、1回の設置で全てが終わるわけではなく、その後の植物の生育に応じて、エミッターの種類の変更や数の増減が必要となってくる。その対応ができるようなシステム作りが計画時に求められる。現在、屋上緑化や壁面緑化等の都市緑化ではマイクロイリゲーションの技術が普及してきており、芝生などでも今までのスプリンクラー灌水から、芝生の下にドリップチューブを埋設して無駄な蒸散を抑える方法なども行われている。

次回は最終回。例を挙げて灌水システム計画の事例を解説する。

参考資料
『Landscape irrigation 』Stephen W. smith
『マイクロスプリンクラーかんがいテキストブック』(社)畑地農業振興会
『土地改良事業計画指針 マイクロかんがい編 』農林水産省構造改善局計画部
『イーエス・ウォーターネット製品ガイド』(株)イーエス・ウォーターネット
『アメリカン・ボーダーガーデン』松崎里美
『資源エネルギーとランドスケーピング』小出兼久&JXDA

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文・美濃輪 朋史