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ゼリスケープに関わる製品・資材をクローズアップ。今何が流通し、何が求められるのか・・。
利益追求だけではなく、使用者と創り手、そしてこれからの環境を考えた情報をお届けします。

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■第10回 炭

炭は古くて新しい素材。炭の効果はさまざまにいわれてきたが、炭あるいは炭をやくことは、人間の生活だけでなく、地球環境に大きく貢献するということをご存知だろうか。室内外の環境向上に活用される炭とその特性を取り入れた製品を検証する。

[炭とは]
有機物に火を付けて燃やすと、後には粉末状のわすかな灰だけが残る。しかし、密閉して熱を加えると、酸素がないために、木から水分やガスが抜けて、黒い炭素の固形が残る。これが炭である。
化学構造でいうと、木材などの有機物の炭素(C)、水素(H)、酸素(O)の3原子から成り立っている巨大分子を熱で分解し、低分子化して一酸化炭素(CO)と水素(H)を分離させた炭素の塊である。

注目される地球環境改善効果

木材は完全に燃焼させると、ほとんど炭酸ガス(CO2)と水になる。また木材を地中に埋めると、微生物により分解されメタンガス(CH4)を発生する。これらの炭酸ガスやメタンガスなどは地球温暖化の大きな原因といわれている。
しかし、これを炭にやくことにより、木材の炭素を固定化し、炭酸ガスやメタンなど温室効果ガスの増加を防ぐ。間伐材や廃材の処理方法としては最も環境に配慮した活用法とも言える。
木炭を燃焼すると同様に炭酸ガスは発生するが、最終的に土壌に埋めることで、土壌環境を良好にする効果がある。

[ 炭の構造] 
木や竹からできた炭は、木材と同様に、縦にも横にも通じる細いパイプを束ねたような組織構造になっている。その太さ、構造は樹種で多少異なるが基本的に同じである。その孔の大きさは直径数ミクロン(1ミクロンは1/1000�@)から数100ミクロンのものもある。木炭を切断し、電子顕微鏡で200〜500倍に拡大すると、その断面が蜂の巣のように、網目状になっているのがわかる。樹木の細胞そのままが空間になった、多孔質と呼ばれる構造である。その孔の大きさに相応して、特に細菌や放線菌など通常ではあまり増えない多種の微生物が共生できるようになり、それが土壌の中の植物の根の生長を促進したり、水、空気の浄化がされたりといった効果をもたらす。

炭は、焼成の方法や原料の種類によって,性質が大きく変わる。

○ 焼成方法
炭をやくには、いわゆる山村で行われる炭窯による炭やきのほか、伏焼法や坑内製炭法など炭窯を使用しないもの、また大量生産に向く工業炭化炉などの方法があるが、個人で趣味的に庭などで穴を掘ったりドラム缶を使ってもつくることができる。

○焼成温度
炭のpHは、焼く温度と炭の中に含まれる灰分の量で変化する。
一般に、低温(400℃位)だと微酸性、高温(1000℃位)だとアルカリ性になる。低温でやかれた炭では、酸素分やガス成分が残っているために、炭は酸性を示す。温度が高くなるに従い、木材から多量のガスが抜け、炭に含まれる炭素の割合が多くなり、中性からアルカリ性へ炭の性質が変わる。低い温度でやく燻炭は微酸性、高温でやく白炭はアルカリ性になる。
また、炭素は電気を良く通す性質があり、高温で作られた炭はよく電気を通す。

一般的な炭のpHは8〜9のアルカリ性で、酸性土壌の改良や酸性雨対策に使用され、効果を発揮する。

分類
焼成温度による違い
表面積
くん炭
400℃程度
黒炭
600℃程度
白炭
800℃以上
材種
広葉樹
キャンプ用
レジャー用
マングローブ炭
燃料用 飲料水浄化
炊飯用
高級燃料
備長炭
狭い
針葉樹
油の吸着剤 農業土壌改良
アンモニア吸収
酸性土壌改良
調湿材
化学物質吸着
水質浄化
αカーボン
広い
竹材
農業用土壌改良材
飲料水浄化
炊飯用
調湿材
高温竹炭
広い
固定炭素
50%
←→
90%以上
見た目
もろい
音がさくさく
←→
つやがある
金属音
PH
酸性
←→
アルカリ性
比表面積
1m2/g
500℃から大きくなる。

○ 原材料
一般に炭というと木材・竹が広く用いられる。木材は大きく分けて広葉樹と針葉樹に分けられるが、広葉樹の炭は壁が厚く、火持ちが良い炭となり、燃料用に適す。針葉樹の炭は壁の厚さが薄くもろいが、より多孔質なため臭いや水分を多く吸収する。
一般に木炭1g当たりの表面積は、

備長炭(白炭)<広葉樹炭<竹炭<針葉樹炭<活性炭

の順になる。表面積の広い炭は、もろく汚れやすくなり、備長炭のように表面積の少ない炭は吸着の効果はあまり大きくない。

ゴミも炭にすることは可能

炭は木材や竹などからのみ生成できるのではない。
紙類や布繊維、生ごみなど家庭から出た可燃性のゴミや産業廃棄物の構成主成分は炭素、水素を主成分に窒素、水素より成り立っている。木材と共通しているのは、炭素、水素から成り立っている有機物ということで、熱量(カロリー)も木材とほぼ等しい。
ただ焼却するのではなく、酸素を遮断して加熱することで炭にすることができる。
有機汚泥の新しい処理法として、リサイクルされ各種製品に取り入れられているものもある。

木酢液
炭の生成過程で出る煙を冷却して収集したのが木酢液である。
木酢液は酸性で、10〜20%は有機化合物で主に酢酸、残りは水分である。木酢液は植物の生長を促進したり、また害虫を防いだりカビなどの微生物を発生しにくくする性質が注目され、広く有機農業や園芸に取り入れられるようになった。

[炭の効果]
炭には次のような効果が認められ、様々な用途に活用されている。

1.遠赤外線
炭にも遠赤外線を出す能力があり、遠赤外線の波長のうち、6から14ミクロンの光線を別名「生育光線」と呼ばれる。生育光線のエネルギーは生物に吸収されやすく、人間にとっては暖房、調理、健康器具などに用いられる他、農業用として地温の上昇や、発芽率・生育の向上等の効果が認められている。

2.蓄熱
炭素自体は、元々熱を良く通す性質があり、更に炭には空気層が含まれているために、伝えられた熱を蓄える効果がある。

3.調湿
温度が高いときには湿気を吸収し、空気が乾燥している時には水分を放出する。炭化温度が500℃を下回る炭は、放出能力は無い。
また炭の断熱効果により内装建材に用いると床壁面の温度変化をなくし、結露を防ぐ効果がある。

4.吸着・浄化
多孔質の性質により、臭いや野菜などが腐敗の際発するエチレンガスやホルムアルデヒドなどのシックハウス症候群の原因となるなど化学物質も吸収する働きがある。

[用途・活用]
炭はそのままでも活用もできるが、用途によって他の原料に取り込み製品化されているものも多くある。

○ 農業・園芸への活用
古くから行われており、微生物による土の団粒構造化、水や肥料の流出抑制、地温保持、pH調整などの効果がある。また、炭に2〜3%含まれる灰分は樹木が地中より吸い上げたミネラル分で、樹木の生長、結実に必要とされる貴重な成分である。また堆肥の中に炭を入れて完熟が早まるなど、特に有機農法を行う場合、多く活用されている。

○ゴルフ場への活用
広大なゴルフコースを常に均一で美しい芝生に保つためには、大量の除草剤などの農薬や肥料の散布がまぬがれないゴルフ場において、木炭粒施用による大きな効果が認められている。土壌改良材として芝の生育を増進し、土壌中の有用微生物が繁殖し、また木炭の多孔質が農薬や肥料を吸着保持することで、農薬肥料の施肥量を軽減し、排水に流出するのを防ぐ。


○ 河川浄化・汚水処理
都市排水、産業排水、農薬や化学肥料の流出による水質汚濁がますます深刻化する河川において、木炭を沈めることで悪臭の軽減や自然生物の回復など、大きな浄化効果が認められている。
木炭の多孔質の表面に微生物膜が付着するわけだが、炭自体の性質は変化しない。しかしある程度吸収してしまうと効果が落ちるので、再び洗浄、乾燥して使用するか、粉砕して土壌改良にするか、炭化炉で再生するなど、炭の状態を見て再生方法を決める。また、雑排水合併浄化槽に硬質の炭を入れ汚水処理することも行われている。

○ 内装建材
シックハウス症候群対策などとして最近特に注目され、多く製品開発がされている分野である。ただ炭を置いておくだけ でも効果があるが、床下調湿炭、炭素塗料、壁クロス、炭しっくい、炭畳などさまざまな製品がでており、内装における環境配慮と差別化が図られている。

床下調湿炭
床下に敷きこむことで家屋耐久性の向上、シロアリ、ダニ等害虫やカビの抑制、断熱性の向上、シックハウスの予防などになる。

炭素塗料
粉末にした木炭を塗料に入れたもの。白アリ忌避効果があり白アリ駆除剤の替わりに使用できるものや、食品パッケージ用の塗料もある。

壁クロス
備長炭や竹炭を粉末状にして繊維に練り込んだもの。部屋全体を覆う面積の最も大きい壁に 炭を取り入れることで、直接の効果が得られやすいとされている。この他にも『炭しっくい』『炭畳』などもある。


 

○ 生活の中での活用

・炭を室内に置くだけで、脱臭・調湿効果がある。
・炭をお風呂に入れれば、水道水に含まれる、塩素分やカルキなどを吸収するためアトピーによい。
・ご飯を炊くときに、炭を入れるとおいしくなる。
・塩と炭(備長炭)をつかって洗濯することができる。洗剤を使わないので、すすぎの水の量も少なくてすみ、洗剤による肌刺激がない。
・炭を入れたまくらや布団は、炭が電気をとおす為、体の中の静電気を吸収し、また炭の保温性や遠赤外線の効果で、体を芯から温める。

など、身近に取り入れることで炭の効果を感じることができる。


現在は、ガーデニングや日常生活でよく利用される炭だが、炭やきによる地球環境保全の普及を訴え、60年にわたり炭の研究を続けまた指導をしてきた、国際炭やき協力会理事杉浦銀治氏は、『炭やきは地球を救う。良い土をつくれば国が栄える。急げ環境立国をめざせ。』とメッセージを贈り続けている。優れた資材であるだけでなく、その生成過程から廃棄までのエネルギー循環をも考慮して、われわれがこの新たな活用や普及を考えていくことが、環境保全への道となっていくことであろう。

国際炭やき協力会
http://www.sumiyaki.jp/


資料提供:
国際炭やき協力会
炭やきの会「環境を守る炭と木酢液」
(株)笠原
(有)ヒロ企画
東リ(株)
リリカラ(株)

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企画・文:森山晶子