ゼリスケープに関わる製品・資材をクローズアップ。今何が流通し、何が求められるのか・・。
利益追求だけではなく、使用者と創り手、そしてこれからの環境を考えた情報をお届けします。
**************************************************************
■第9回 風力発電
規則的に風車が並ぶ姿・・現代では地球温暖化防止対策のシンボルといわれる風景とともに、風は化石燃料にかわるエネルギーとして注目されている。風は地球上どこにでもある身近な存在だが、今、太陽エネルギーやバイオマスエネルギーといった自然エネルギーと並び、風エネルギーは積極的な技術開発とともに普及を支援する社会基盤の整備も進みつつある。現存の代替エネルギーとしてだけではなく、景観のあり方・緑空間への活用の可能性を探る。
[風力発電のメリット]
風エネルギーは自然エネル ギーであり、原子力や化石燃料による発電のような集約化は困難であるものの、潜在的エネルギー資源は広範に存在し、無尽蔵であると考えられる。
他の発電方式と比較して、ライフサイクルでの二酸化炭素排出量が少なく、また放射性廃棄物のような環境汚染物質の問題も起こらないことが特徴である。特に、風力発電を導入することによって、石油や石炭などの化石燃料の消費を削減できるならば、二酸化炭素の排出削減を通じて地球温暖化防止に寄与することが期待され、環境上きわめて優れたエネルギー源の一つであると言える。
日本での風力発電は着実に伸び続けており、1990年代後半にヨーロッパで開発された高効率の大型風力発電機が導入され、コストパフォーマンスは向上している。風力発電容量は急速に増加し、2001年度には30万kWに達した。
○新エネルギー政策
1997年の地球温暖化防止京都会議において、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を削減する国際的な合意が成立した。日本政府は、2001年6月の総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会報告「今後の新エネルギー対策のあり方」で、2010年度の風力発電の導入目標を従来目標の10倍である300万kWに引き上げた。また、2002年6月に「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」が公布され、2003年4月から電力事業者は販売電力量に応じて一定割合以上の新エネルギー等電気(新エネルギーを変換して得られる電気)の利用が義務付けられている。エネルギーの安定供給と地球環境問題対策として、なかでも風力発電は今後その中核を担う新エネルギーとして大きく期待されている。
[風力発電の歴史]
世界で最初に風力発電を開発した国はデンマークで、1891年に四枚羽根のオランダ風車型の風力発電装置が建設された。その後、デンマーク風力発電協会が設立され、1908年までには10〜20キロワット機建設されたが、第二次世界大戦後には石油エネルギーの普及にしたがい、急速に減少し一時まったく用いられなくなった。今日の大規模風力発電の父といえるJ・ユールによる電力網に接続した実験などを経て、1973年の石油ショックで、再び風力発電が脚光を浴びるようになった。1980年代に入るとデンマーク国内の20社もの風力発電機メーカーが活発に製造を開始し、1997年末、国内では4700台/110万キロワットもの風力発電装置が運転されている。これは、古くからの風力利用の土壌に加えて、ヨーロッパで最も風が強く風力を利用しやすい地形である上、個人所有の風力発電装置からの電力を商用発電網に接続できることや政府による初期の補助金などの政策補助が大きな理由とされている。
1980年代初期の普及期は米国とデンマークの2カ国が主流であったが、1990年代半ばではドイツ、オランダ、イギリスなどEU諸国やインドへ広まった。さらに現在ブラジル、中国、ギリシャ、メキシコ、そして米国においても大規模な風力発電プロジェクトが進行しており、地球規模で普及しつつある。
すでに、1997年、COP3(気候変動枠組み条約第3回締約国際会議)において「京都議定書」を採択し、CO2等の温室効果ガス排出量の1990年レベルでの安定化に合意した国々では、太陽光発電や風力発電、さらには燃料電池、バイオマスなどがその対象となって、自然エネルギー開発が積極的に進められ飛躍的に進歩しつつある。
この条約締結国では、風力発電へ積極的な取り組みを計る国々が増えており、例えば、米国エネルギー省では2010年までに1000万kW,2020年には総発電量の5%以上を風力発電とする計画を発表。また、政府・エネルギー省の主導で推進した風力発電が、総発電量の10%を占める国、デンマークでは、経済成長を続けつつ消費電力が減少するという、自然エネルギー開発と省エネルギーへの国民的コンセンサスが得られた理想的な進展をみせている。
[ 風車の種類] 
今現在発電装置として使われる風車は、以下の二つに分類される。
○ 水平軸型:プロペラ式等。風エネルギーの取得効率が良く、風力発電事業で多 く用いられている。
○ 垂直軸型:ダリウス型、サボニウス型等。風向きに依存しない等の利点がある。
[風力発電のしくみ]
風力発電事業で多く使われるプロペラ式風車は一般的に、翼(ブレード)2枚から3枚で構成されるローターに風を受けることで揚力を発生し、その揚力で翼車が回転する。ローターの回転は主軸に伝達し、増速機で高速回転に変えて、発電機を回し発電する。発生した電気は、風車の下にある変圧器により高電圧に昇圧し、電力会社の送電線に送られ、会社や家庭などで消費される。
風力発電所においては、一般的には無人でコンピュータ自動制御されており、風向に合わせてローターの向きを変えたり、台風や暴風などブレードへの負担が強すぎて危険な場合には、ブレーキをかけて回転を完全に停止するといった制御を自動的に行う。
個人において、単独で風車を設置し風力のみの電源を使用している場合もあるが、風の吹き具合によって発電量が変動するため、日常生活に使う電気をまかなうためには、安定的な、既存の電力系統との連系が不可欠である。

○電力の売買ーグリーン電力証書システム
直接風力で発電した電力を使う方法ではなく、風力発電の電力を購入する方法としてグリーン電力証書システムが考案された。これは、電力使用者が仲介の日本自然エネルギー(JNE)に風力発電の委託費を支払い、JNEは地方の風力発電事業者に発電を委託し地域の電力会社に売却するというものである。
電力使用者は、風力発電実績の証明として「グリーン電力証書」を受け取り,自社が使う電力を風力に転換したとみなされるので、企業にとっては環境保全活動をしているというアピールになる。

[風車の設置に向く場所]
風車を設置し電力を供給するにあたって、設置場所の選定には風車が稼働すること、供給電力に対し建設費など施工コストが高くつきすぎないこと、そして騒音や景観など住民からの理解が求められる。
○風力が強いこと(風力エネルギーは風速の3乗に比例し、風が強いほど風車は多くの発電を行うことができる。風車の立地の選択には少しでも風況の良いところが望まれる。年間平均風速が6m/s以上が望ましい。)
○風の乱れ度が小さいこと(風が強くても、竜飛岬のような突風が多いところはトラブルが多い)
○風車を建設に伴う場所が確保できること(狭い場所で風車を建設すると施工費が高くつく)
○風車を運搬できる場所(山の頂上は風は強いが、運搬が困難である)
○近くに病院や学校施設、出来れば民家がないこと。(騒音や陰などの問題がある)
○風力発電装置をつないでも 問題のない電気系統であること。
風力発電の環境問題にはこれらの騒音、電波障害などの他に渡り鳥の衝突による鳥問題、景観問題、航空機が認識するための航空法の塗色問題などがある。
[日本の環境における風力発電]
日本の自然環境条件は、急峻な地形、長くて複雑な海岸線、南北に細長い国土、温暖湿潤な気候、発達する季節風、豊かな植生などの特色がある。
日本の風の強い場所は海岸線が多く、日本の局地風を見ると、その風向はいずれも山地から海岸平野に向かうものがほとんどである。大平洋岸では、冬の西高東低型の気圧配位置の時、内陸から大平洋に向かい、逆に、日本海側では、春・秋に日本海が低気圧になった時、日本海に向かう風向きの局地風である。これらの局地風の原因は、地球規模の気圧差によって吹く風に、各地域の特徴的な地形が影響して生じるものといえる。ただし、一年中吹いているわけではなく、その原因からも推定できるように、ある時期に限られているのが特徴だ。
|
○ウィンドファーム
現在風力発電の設置が多く進められているのは東北地方、次いで北海道、九州と続き、ヨーロッパやアメリカに続いて、日本でも大規模集中風力発電所「ウィンドファーム」が各地で建設されている。
多数の風力発電機を同じ地域に集中するメリットは、周辺インフラ整備との同時施工による建設コストダウンはもちろん、ムラのある風を点で受けるより面で受けて、発電総量を平均化し、安定的な発電量を確保できることである。
日本における風力発電施設の立地可能性は、1993年NEDOの調査によると有望面積3,599km2で、500kW発電機約70,000基以上が建設可能といわれている。
また、陸地ばかりではなく、海上に風力発電施設を建設する「洋上ウィンドファーム」の構想もあって、日本のように周囲を海に囲まれ、陸地面積が狭い国々では、障害物のない海上ならではの効率の良い発電に期待が寄せられている。
未利用の土地を風力発電に有効活用する、発電量の確保と住環境や景観面に最も問題の少ない方法である。
|


|
○国立、国定公園における風力発電施設の設置
海岸線は風力が強いが現在公園に指定されている地域がたくさんあり、今まで風力発電施設の設置を阻む要因となってきた。
これに対し、環境省自然環境局では、「国立、国定公園内における風力発電施設の設置のあり方に関する基本的考え方」を平成16年2月にまとめた。
優れた自然の風景地として、国家的見地から保全の意義を認められ区域指定された国立・国定公園内においては、財産権の尊重や国土の開発その他の公益との調整に留意しつつも、人為的な影響を極力抑制し、自然景観の保護と生物多様性の保全を主として考えることが基本となる。その上で風力発電の効果を認めたうえで、自然環境を踏まえ環境調査・影響調査を実施し、的確な予測・評価を行った上で、慎重に設置を検討する必要があるとしている。なお、風力発電施設の設置に関連して行われる、取り付け道路、送電線、変電所の設置などについてもあわせて検討することが不可欠である。
現在主流を占めているプロペラ式風力発電施設は、地球温暖化防止対策のシンボル的存在としてみなされること等から送電鉄塔などの工作物と比較して、景観上良い印象を与えるという意見もある。
その一方で、風力発電施設は一般に山稜線や海岸線、岬の上など、見通しのよい場所に立地するとともに、特に大規模な施設の場合、人口構造物それ自体が風景の主対象となるなど、自然景観を一変させるため大きな影響を与える可能性がある。
このようなことを回避・軽減するため、公園内のゾーニングに応じ、施設の立地場所の精査をはじめ、以下のような各種保全措置を必要としている。
・ 自然景観の保護上核心的な地域を回避する。
・ 眺望対象である山稜線など景観上目立つ場所への立地を回避する。
・ 重要な展望地点から遠ざける。
・ 重要な眺望対象を含む視界から外す
・ 背景の地形スケールを損なわない規模とする。
・ 背景に溶け込みやすい色彩とする 等

[個人規模の風力発電]
太陽熱発電などと比べ、設置施設が大きい風力発電においては、今時点個人住宅で設置されている例は少なく、学校などの教育機関や公園、事業所などで環境保護のシンボルや環境教育のツールとして導入されている。
○屋上での風力発電
特に都市部においては、設置面積の関係より屋上に設置に設置されることが多いが、限られた環境であるため制約も多い。
設置面をいうと、鉄筋コンクリート製の建物の平らな屋根なら、マンシ ョンの屋上でも基本的には設置可能であるが、屋上の強度や設置スペース、風況などの条件から総合的に判断する必要がある。
屋上は建物の影響で風が乱れており、風下に設置すると風向が不安定でほとんど発電されないので、事前の年間を通した風向調査が重要である。
風車の種類はプロペラ型の小型風車が主流となって いるが、風向への対応や風切り音の騒音問題を考えると、ダリウス型、サボニウス型が向いている。
一部で風力発電装置をつけたマンションの開発が始められており、風力とソーラーによる電力を、雨水を屋上菜園への給水ポンプや外部照明の電力に使用している。
○ 学校・教育機関
学校での風力発電は、環境学習だけでなく機械工学の教材にも使われている。
神戸市立科学技術高校では高さ約6メートルあるサボニウス型の風力発電機を校舎屋上設置している。風速2mなら毎時2キロワット程度発電でき、校内で消費する。
○ 公園
公園においてはランドマーク的な役割として、外観のイメージから小型から大型のプロペラ式のものが多く導入されている。公園内のすべての電気をまかなうのではなく、公園内の照明や、公衆トイレ、風車のライトアップ用、噴水用の電力として利用されている例が多い。立地に関しては、風況と騒音の配慮が必要となる。また風致地区の場合は建物の高さは15m以下と制限されている。条件が合い、高出力の風車が設置できた場合、施工・維持費に対し消費電力の減少と買電で収支がなんとか合う計算だが、それ以前に文化的・教育的自己啓発施設として、ソフトエネルギー都市の象徴として役割を期待して設置されている。
未知の分野の多いエネルギーである風力利用は、景観の問題を含め普及に論議が残る部分もある。 特に都心部においては、気象条件とあわせてその利用方法を研究すべきである。
風車独自の性質や形態をランドスケープと融合して開発に結びつけることに、今後新たな活用が期待される。
資料提供:
日本自然エネルギー(株)
日本風力開発(株)
エコパワー(株)
環境省自然環境局
(株)アンビエックス
前田建設工業(株)
|