ゼリスケープに関わる製品・資材をクローズアップ。今何が流通し、何が求められるのか・・。
利益追求だけではなく、使用者と創り手、そしてこれからの環境を考えた情報をお届けします。
**************************************************************
■第8回 樹木地下支柱
都心にもっと木を植えるべきである。環境改善の切り札として都市緑化が叫ばれるようになって久しいが、現在の緑空間はさまざまな形態をとっている。公園、街路樹、個人庭園などにおいても狭小地や屋上緑化などさまざまな条件への緑化の可能性が広がっており、それらの条件に対応すべく樹木支柱も多種開発されている。電線や歩道、緑地緩衝帯など都市のインフラ整備が進まない中、次々となぎ倒される街路樹に対する対抗手段としても、適切な樹木支柱と植え方で公私問わず緑空間に樹木の植栽を増やしていくことは可能なのである。
[樹1本の効果]
緑化とひとくくりにいっても、今までの屋上や法面などの地被緑化はよく効果測定がされるが、樹木しかも高木の場合はどのような効果があるのだろうか。
○冷却効果
樹木類は、水分蒸発によるエネルギー交換をしている。大木の下の日陰には、冷却効果があるのは、樹木自体もその葉からの水分蒸発で、葉と葉のあいだに存在する空気の熱を奪っているからでである。そして、木の内部と周囲の空気の間に発生した温度差により対流が生じ、外部の空気を葉の間へと誘引し、微風を発生させる。気温が高い場合、必ずこの現象が起こる。このように、日陰、蒸発、対流の組み合わせによって木の下の温度は、約4℃ぐらいまで下がり、また温度以上に涼しく感じることができる。

○太陽光調節効果
西日や夏の日射しが建物に当たるのを防ぎ、落葉樹だと冬は必要な日光を取り入れることができる。
木陰の芝生は、日が当たっているところより最大で95%水を節約できる。
アメリカの実例では家の周囲に3本の木を配することで、空調費用を10〜50%削減できるという報告がある。

○空気浄化効果
樹木は二酸化炭素(CO2)二酸化窒素( NO2)や二酸化硫黄(SO2)などの大気汚染物質を吸収し、大気を浄化する。
樹高4mの樹木が1年間に吸収するCO2の量は平均11.5kgとされる。4mの樹木が5〜6本分植えられれば、1人分の二酸化炭素が吸収されることになる。
また、NO2は同条件の樹木が1年間に吸収するのは平均108gである。樹木1本で日本製の自動車が432km走った分のNO2を吸収することになる。ホルムアルデヒドについてもほぼ同程度の吸収速度で吸収することが分かっている。
これらは樹勢はもちろん樹種によっても違い、落葉広葉樹のほうが常緑広葉樹に比べ吸収速度が大きいことが最近明らかになった。これらは、樹木が気孔から水分を放出する速度、すなわち蒸散速度と関係があり、樹木は気孔を介してこれらを吸収する。
その他の大気汚染物質(粉塵、煤、重金属など)についても捕捉、吸収する作用があり、充分に生長した1本の木は、23kgの微粒子の埃や煤を吸着し取り除く効果があるともいわれている。
○ 騒音抑制効果
木の葉が騒音を吸収し、騒音低減効果がある。これには、実際の吸音効果だけでなく、葉擦れ音によるマスキング効果と樹木による静かな雰囲気を醸し出すことも含まれる。
○リフレッシュ効果
樹木が発散するフィトンチッド(殺菌作用のある物質)により、ストレスを解消したりやすらぎをもたらす効果があるとされ、リラックス感向上により平均のα波総量が高くなり、気分が落ち着くといわれる。また、緑の色は目にやさしく、目の疲労回復効果が大きいともいわれる。これら以上に、人間は古代から木々の緑に守られてきたという心理的な安心感が大きいのかもしれない
このように、樹木には地被植物にはないさまざまな効果があり、また上方に伸びるため、少ない面積でも植えることができる。また樹木の根は、移植時には根巻きされているが、活着すると土のある方向へ伸びていくため、人工地盤など植土が浅い場合でも支柱しだいで植栽が可能になる。都市環境の改善を目指すならば、もっとさまざまな場所で樹木を植える必要がある。
実際に大木も移植可能
高級住宅地の地下1Fの中庭に移植された樹高12mの樹木。根鉢は植え穴に合わせ直径1.6mに仕立てられた厳しい条件ではあったが、クレーンと地下支柱により、以前からそこに生えていたかのように移植が完了した。
|
[今までの支柱] 
支柱の目的は、植え付けた樹木が倒れないよう、また風によって揺れ動かないように支柱を取付け、樹木が活着するまで支援することにある。樹木を活着させるためには新しい土と根鉢を密着させて発根を促進することが大事で、そのためにも樹木を大地にしっかりと固定 する必要がある。
従来の支柱では、二脚支柱、三脚支柱、鳥居型支柱、八つ掛支柱などが用いられてきたが、活着後3〜4年後には取り外すことを前提とする。ワイヤー支柱は、樹木を地面に固定したワイヤーの張力で固定するものだが、これも同様で樹木の生長に合わせ取り外す必要がある。これらの支柱は、空間・景観上にも妨げにもなり、公園や庭など樹木に接したゾーニングプランの障害となる。
[地下支柱とは]
地下支柱とは、樹木の根鉢をベルトや縄で固定した杭や抵抗板などを地中に打ち込み、地盤との摩擦抵抗により樹木を固定するものである。水極めの後埋め戻すと、地表面にはまったくわからず、後で取りはずす必要もない。素材や構造は各社メーカーによって工夫されている。
・ 杭式
低木から高木まで対応。台座や根鉢を囲んで杭を取付け、地面に固定するもの。横方向に対しては小スペースで施工可能で、移植時の樹木の位置の修正が比較的しやすい。地盤下方向に対しては、深さと地盤の固さが必要なので、屋上などの人口地盤には向かない。
・ アンカー式
現在の地下支柱の主流となっている。下方向と横方向にアンカーを打ち込むものがある。設置方法は、あらかじめ決めた位置に台座を設置し、アンカーを打ち込んだものの上に、根鉢を乗せ、バンドや縄で固定し埋め戻す。下方へのアンカー打ちだと、、設置場所によっては打ち込みができなかったり、地下埋設管を破損させる可能性があるため、屋上緑化や人工地盤では横アンカー式が取り入れられる。
・ 埋設式
掘削していない地盤に打ち込むのではなく、あらかじめ堀った 植え穴に抵抗板を取り付けた根鉢を置き、土を埋め戻すもの。構造は簡単だが、客土の重量のみの抵抗で固定するため、大きな植え穴を掘らなければいけないのと、面積の広い抵抗板が必要となる。
○素材
台座や杭を木材でつくり、地中で完全に分解できるものもあるが、大型の樹木や軟弱な地盤、また強風のあるエリアでは、強度に問題のある場合がある。アンカーと台座は剛性のある金属を用い、樹木を固定するベルトは自然分解するものが開発されている。
○ 根の生長を妨げない工夫
アンカーや杭などに樹木を固定する際、根巻きされた根鉢ごと、ネット状のもので包むと、活着時の根の生長が妨げられる場合もある。また、縄やバンドの固定も根鉢に食い込むとよくないので、根鉢をカバーし安定した固定力を持ちながら根の生長を妨げないサポート部品も開発されている。
[屋上緑化・人工地盤など特殊な場合の地下支柱]
屋上緑化では、風への対策が重要となる。このことから、樹木には地下支柱が用いられることが一般的になっているが、人工地盤のためアンカーの打ち込みによる固定ができない。そのため、抵抗板をなるべく連結させたり、防水に問題のないコンクリート基盤にアンカーを打ち込んで台座を安定させる方法が採られている。また下方にアンカーが打てないケースには、側壁に固定補強する場合もある。

その他、巨木やヤシなど特殊樹木にも対応できる地下支柱が開発されている。
開発の際既存樹木を安易に切り倒すのではなく、新しいゾーニングに合った場所へ移植することで、人間と緑空間の新たな関係が築けるはずである。新規に樹木を植える場合のみならず、樹木地下支柱は街に樹を取り戻す強力な助っ人として活躍が期待される。
資料提供:
『資源エネルギーとランドスケーピング』小出兼久&JXDA
『新・緑の仕事』東邦レオ(株)
日本地工(株)
環境開発(株)
(株)ランド・ジャパンデザイン事務所
|