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ゼリスケープに関わる製品・資材をクローズアップ。今何が流通し、何が求められるのか・・。
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■第7回 雨水浸透ます

住宅の屋根や敷地、道路などに降った雨はどこに行くのだろうか。近年、河川氾濫や都市型洪水、また地下水の減少などが問題となっているが、それは、都市における舗装化が進むに従い、雨水が地盤に吸収されることなく、下水に集中していることによる。雨水自体、さまざまに再利用可能な貴重なエネルギー源であるが、敷地あるいは地域で地下浸透させることで、地域の水源確保、また下水流出量削減の取り組みができる雨水浸透ますをはじめとする雨水浸透施設の導入が進められている。


[現在の下水状況]
それでは、通常敷地内に降った雨がどういう経路を通るか見てみよう。
敷地の中で庭などの非舗装部分へ雨水は地中へ浸透するが、都市化に伴い敷地内の建蔽率が高くなり、また非透水性舗装部分が増えていることにより、屋根や敷地内に降った雨は雨水ますに集められ、下水道へ排出される。
現在の下水道には、地域によって汚水と雨水をひとつの管で流す合流式と、汚水と雨水を別々の管で流し、雨水はそのまま河川等に流す分流式の二つの方式がある。


合流式は、下水道整備の初期から取り入れられた方式で、生活汚水と雨水を一本の下水管で集めて処理するしくみである。特に大都市は低地で浸水が生じやすい地域に位置しており、汚水の収集をあわせて雨水排除をすみやかに行うために、汚水と同一の管渠で排水する合流式下水道を採用しており、現在で192都市において採用され、大都市の大半は合流式下水道である。大雨のときは、雨水と汚水が混合したものが未処理のまま直接川や海に放流されてしまうという問題がある。
これに対して分流式とは、汚水と雨水を別々の管に集め、雨水を直接川や海に放流し、汚水のみを汚水処理施設にて処理をするものである。一部で設置が進められているが、予算の関係上稀に起きる集中豪雨のためだけにむやみに管の大きさを変えたり増設することは現実には難しく、国土交通省では全面的な分流式への移行を推進するよりは、現在の合流式下水道の改善対策指針をまとめ、(1)汚濁負荷量を分流式下水道以下に削減、(2)越流回数の削減、(3)夾雑物の流出防止を設定し、概ね10年で緊急的に改善するための仕組みを整備することとしている。(国土交通省・都市地域整備局下水道部監修「平成14年日本の下水道 その現状と課題」より)

そこで、自治体や民間で雨水浸透ます施設を設置を呼びかけ、河川の氾濫や地域の水源確保のための運動を始めている。

雨をマネジメントする対策 国土交通省 都市・地域整備局下水道部
http://www.mlit.go.jp/crd/city/sewerage/innovation/ame/taisaku1.html

[雨水浸透ますの効果]
○ 河川の氾濫・都市水害の防止
日本は、年間降水量が世界平均の約2倍もある恵まれた国であるが、平野が少なく河川も短いため、地上に降った雨水はすぐに海へ流出してしまう。現代では、市街地の大部分がアスファルトなどで覆われ、雨水が地下に浸透しにくくなり、 その結果、地表を流れる雨水が増え、河川や下水の能力を超えてあふれるようになり、浸水被害が多くなっている。
雨水浸透ますを各家庭や公共施設に設置することで、まず集中豪雨時に下水道へ雨水が流入する時間が遅くなりそして、量も少なくなるので、下水の氾濫が予防できる。また、汚水と雨水を同じ管で排水する合流式下水道から、雨水が集中した際の汚水処理場の処理能力を超えた汚水が河川へと流れ出る現状も改善される。

○ 地下水源の確保
雨水の地下への浸透量を増やすことで、地下水の確保による汚水処理水でない上水源の確保、湧水の復活、地下水の塩水化の緩和、地盤沈下の防止、街路樹や緑空間への補水や植物の育成による地盤の流出の防止、都市の生態系の自然回復等ができる。


[雨水浸透施設の種類]
雨水浸透施設には大きく、一般家庭や商業施設など既存の敷地でも設置しやすい雨水浸透ますと、学校や公園など大規模施設に向く、地下雨水タンク兼用のものとがある。

○ 雨水浸透ます及びトレンチ 
1 雨水浸透ます
集水機能と透水機能とを有するように、有孔又は多孔性の透水ます、その周辺の砕石等の充填層、砕石充填層の外面を覆う透水シート、敷砂、連結管(集水管等)等から構成し、必要に応じ、目づまりの防止のためにゴミ除去フィルター等を設けるものとする。
2 雨水浸透トレンチ
浸透機能と通水機能とを有するように、有孔又は多孔性の透水管(周囲に浸透孔のある塩ビ管等)、その周囲を覆う砕石の充填てん層、砕石充填てん層の外面を覆う透水シート、敷砂等から構成し、透水管については、こう配をつけて設置する。
雨水浸透トレンチは、集水機能の確保等を図るため、雨水浸透ますとの併用を原則とする。

設置方法・設置上の注意及びメンテナンス
設置方法は、既存の住宅の場合、既にある雨水ますを雨水浸透ますに取り替えて地中に埋め込む。通常屋根の雨トイにつなぎ、雨水浸透ますだけでは大雨の際に浸透しきれず地表に流出してしまうので、浸透しきれないオーバーフローした水は下水管へ接続し排水する。その間に浸透トレンチを配置し、地中浸透を補助し下水道へ排水する水量を減らす。
設置位置は、浸透水による影響を避けるため、建物の基礎等から一定の距離を置くものとする。
雨水浸透ます等については、定期的にゴミ除去フィルターの点検及び清掃を行うとともに、年に1回程度、ますの底に貯まった泥等の除去を行うものとする。

雨水浸透施設等の規模は、総合的な雨水対策に基づく基準等がある場合を除き、年間降水量の80パーセント程度(降雨強度が1時間当たり10ミリメートル程度)の雨水を、確実に地下へ浸透させることを目標に設定するものとし、浸透対象面積、設置場所の状況及び雨水浸透施設等の浸透能力に応じ、複数の施設の設置や、各種施設の組合せを検討し、選択するものとする。
(『下水道雨水浸透施設導入のすすめ』下水道新技術推進機構 2001.6より)

雨水浸透施設設置目安

敷地面積
雨水浸透ます
雨水浸透トレンチ
 100m3未満
1〜2基
1〜1.5m
 100m3以上〜200m3未満
2〜3基
3〜4.5m
 200m3以上〜300m3未満
4〜6基以上
5m以上

○地下雨水貯留タンク兼用タイプ 
地下埋設雨水タンクとして使用されるプラスチック製の空隙のあるコンテナ状滞水材を、積み重ねたものの上に透水シートで覆い土を埋め戻すことで、ますや排水管なしに直接地盤から雨水を地下に貯留し、徐々に地中に浸透させる。
底面と側面を透水シートあるいは遮水シートを使用することによって、水を浸透させることもできるし、貯水したものを非常時の生活用水や洗車用水、庭への灌水にも使用が可能である。




設置する敷地の大きさ、形状に合わせて設計施工でき、地上部に駐車場設営可能な強度があり、 大量の雨水の流入に対応可能である。設置にあたっては、平坦地が絶対条件であるが、その他周囲環境などよく考慮・検討した上で計画する。

雨水浸透施設設置に向かないとされる地域条件
1 地盤の雨水浸透能力が低く、浸透効果を期待できない地域(地下水位が高い地域、地盤の低い地域等)
2 雨水を地下へ浸透させることにより防災上の支障が生じるおそれのある地域(地すべりのおそれのある地域、急傾斜地で崩壊の危険がある地域等)


[助成金制度]
各自治体では雨水浸透施設設置補助金の一環として、透水性舗装などとともに雨水浸透ます、雨水浸透トレンチの補助金制度を設けている。
助成金額は自治体によってかわるが、個人住宅向けの雨水浸透ますは概ね1基あたり10,000円程度からあり、規模によって工事総額の何割かを負担する制度もある。
その他、雨水貯留漕(雨水タンク)や雨水浸透性舗装など雨水利用施設への助成制度も検索できるデータベースがあるので、今までにこの「製品考察」で紹介してきたものについてもあわせて、下記よりお住まいの地域の助成制度を調べることをお勧めする。

雨水利用助成制度検索データベース
http://wateruse.life.shimane-u.ac.jp/

資料提供:
『下水道雨水浸透施設導入のすすめ』下水道新技術推進機構 2001.6
『平成14年日本の下水道 その現状と課題』国土交通省・都市地域整備局下水道部監修
『東京都雨水浸透指針 平成13年』
http://www.reiki.metro.tokyo.jp/honbun/g1011365001.html
(株)林物産

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企画・文:森山晶子