環境、気象、経済、政策など地球上で起きている様々な事項や現象について、ゼリスケープをよりよく理解するための専門用語を、事例を交えて解説します。
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第10回 グリーンビルディング
「グリーンビルディング」でいわれる「グリーン」は、「持続可能な」や「環境共生」と訳される「サスティナブル」と同義と扱われ、「サスティナブルなデザイン方法を用いた建築物をつくり出す一連のプロセスとシステム」を意味している。建築物は、社会的・経済的諸活動のための基盤であるが、その一方で、建築物は地球上の資源エネルギーを大量に消費し、自然環境や都市環境に多大な負荷を与えている。これに対して 「この建築物は、いかに環境に配慮しているのか?」を明確にし、指針をつくろうとするものである。
「グリーンビルディング」の原則を整理してみると、次の6点に集約される。
1. 建築物のライフサイクル全般における消費の最小限化
2. 環境負荷の最小限化
3. 生態的環境の保全
4. 安全、快適、健康で質の高い建築空間
5. 建築物の機能や性能等の建築目的との整合性
6. 環境性能とコストバランス
これらにおいて、設計段階のプレデザインや敷地条件の分析や、建築資材の適正や長寿命やリサイクルの検討、建築現場でのエネルギーおよび汚染の削減、室内環境の向上、解体までを含めたライフサイクル・コストの削減、利用者や地域への配慮とアメニティの確保などを含んだ、徹底的なエネルギー効率の達成と水循環システムの確立、ゴミ減量やリユースの推進が進められている。
世界各国では、建築物の設計・建設・運用・更新・解体の各段階において、環境に関する性能を評価する建築物環境評価システムの開発が進んでいる。総合的な評価法としては、米国のLEED、英国のBREEAM等がある。 GBToolにおいては日本も参加しており、サスティナブル建築世界会議(SB05Tokyo)が2005年9月に東京にて開催される。(下表参照)。
表 海外における主な建築物の総合的環境性能評価手法の開発状況
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名 称
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開発年
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開発元
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運用対象
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評価項目
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評価尺度と評価結果
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| BREEAM |
1990 |
BRE
(英国) |
事務所
工場
スーパーマーケット
住宅 |
広域環境
地域環境
室内環境 |
�各評価項目毎の条件に応じて加点され、最終評価結果は全評価項目の合計得点によりFair,Good、Very Good、Excellent にランク付けされる |
| HK−BEAM |
1996 |
香港理工大学
CET
(香港) |
事務所
高層住宅 |
同 上 |
同 上 |
| LEED |
1997 |
USGBC
(U.S) |
事務所
商業施設
学校
集合住宅他 |
敷地計画
水消費
エネルギー
材料
室内環境
プロセス |
総合得点は69点で、最終評価結果として総合得点によりBronze、Silver、Gold、Platinumにランク付けされる |
| GBTool |
2000 |
世界18ヶ国 |
事務所
学校
集合住宅 |
資源消費
(外界への)負荷
室内環境
サービス品質
経済性運用開始前のマネージメント
都市環境 |
細目毎に-2〜5点の間で採点し、重み付けをして得点を合計する。評価部門毎等にそれぞれのレベルで-2〜5点として表示する |
(資料提供 宇都宮大学建設学科助手 横尾 昇剛氏)
これらの建築物評価を受けることは建築主の義務ではないが、多くの建築主が率先して格付け取得を目指す流れになっているのは、これらで高い評価を得ることが、資産価値が上がる他、その後のテナント誘致、転売等の際に有利になるという実質的なメリットがあるからだ。
日本独自では、「環境共生住宅」や「環境・エネルギー優良建築物マーク表示制度」(いずれも(財)建築環境・省エネルギー機構)があり、2002年より東京都では特にヒートアイランド現象対策を危急の問題として、東京都建築物環境配慮制度が実施されている。この制度の概要は、今のところ建築主より提出された東京都環境確保条例に基づいた計画書を公表し新たな環境技術の開発を促すのみだが、いずれは効果の度合いを評価する基準を設けていくとされる。
グリーンビルディング先進国であるアメリカの現状を、ランドスケープの視点と共に見てみよう。LEED格付制度は、持続可能な敷地、水効率、エネルギーおよび大気、材料および資源、屋内の環境基準および設計慣習の革新の、6つのエリアをカバーし、全体の建物へのアプローチによって協力的な統合された設計および構築プロセスを促進することを目的としている。それは事実に基づいた科学的な標準に基づき、持続可能な用地開発、水貯蓄、エネルギー効率、材料選択および屋内の環境基準用の最先端技術の開発も促進している。同時に、包括的なシステム提供やプロジェクト証明、専門の認可、トレーニングおよび実際的な資源によってグリーンビルディングの専門知識を普及促進している。
その中で、当然ランドスケープが建物環境に与える影響も評価に大きく関わっている。具体的には、雨水や中水の再利用や、庭への灌水の効率化、ランドスケープデザインによる空調使用の低減などである。ランドスケープアーキテクトは、特に水効率の分野において建築プロジェクトチームに助言を与える立場にある。“水の効率利用”項目での加点をするために、「自生植物や水要求の少ない植物を使ってのデザイン」「効率性の高いイリゲーション・システムのデザイン」ができるランドスケープアーキテクトを、多くの建築プロジェクトが必要としているにもかかわらず、多くのランドスケープアーキテクトは、LEEDのポイントを獲得するためのイリゲーション・システムの細部まで熟知していないというケースも少なくないといわれている。
全世界に広まりつつあるグリーンビルディング構想では、より具体的な成果を求めるためにランドスケープの住宅環境への影響は見逃せないものと認識され始めているが、実際にはランドスケープにおいてまだまだ知識と技術は行き渡っていない。JXDAは、水効率ランドスケープの基礎技術をまとめ、新たなランドスケープの手引きとなる書籍を近日出版予定である。
(世界のゼリスケープ事情 第10回 世界に広がる環境への配慮 住宅取得のエネルギー効率「格付け」システム 参照)
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