環境、気象、経済、政策など地球上で起きている様々な事項や現象について、ゼリスケープをよりよく理解するための専門用語を、事例を交えて解説します。
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第7回 環境アセスメント
環境影響評価ともいわれ、土地開発や建築・土木建築工事などの事業を行う場合、実施に先だち環境への影響について調査、予測、評価し、その結果に基づいて環境保全に配慮することを定めた手法・制度のことをいう。
道路やダム事業など、環境に著しい影響を及ぼす恐れのある行為について、事前に環境への影響を十分調査、予測、評価して、その結果を公表することで、地域住民等の関係者の意見を取り入れながら、環境配慮を行う手続を総称して環境アセスメントと呼ぶ。
世界で最初に環境アセスメント制度を導入したのは、1969年のアメリカの国家環境政策法(NEPA)である。米国においては複数の代替案から最適案を選出する手続が最大の特徴になっているが、国によって、それぞれの事情を反映した制度構築が試みられている。
日本では長く閣議了解や個別法でアセスが位置づけられ、97年にようやく「環境影響評価法」が制定、99年4月から施行さ、環境配慮のための民主的意思決定、科学的判断形成方法として考案された。日本の環境アセスメント制度においては、代替案の比較検討を必須要件とせず、環境基準等の環境保全目標をクリアしているか、環境影響を低減させるための最大の努力を図ったかで評価することとしている。しかし、評価手法、評価手続の客観性の確保、環境アセスメントの結果そのものの拘束力の確保など、課題が残されており、計画や政策形成段階におけるアセスメントを行う戦略的環境アセスメント(SEA)の導入の必要性が指摘される。
●環境アセスメントの必要な開発行為
一定の規模以上の面積や延長で計画される大規模開発に、環境アセスメントが義務付けられる。
道路、河川(ダム、放水路など)、鉄道、飛行場、発電所、廃棄物最終処分場、公有水面の埋め立て・干拓、土地区画整理事業、新住宅市街地開発事業、工業団地造成事業、新都市基盤整備事業、流通業務団地造成事業、宅地の造成事業 など
●環境アセスメントの調査対象項目
スコーピング(=方法書の手続並びに環境影響評価の項目及び手法を決定する仕組み)により、環境アセスメントの調査項目・内容を決定する。
1.地域環境に係る基礎的項目
生活環境
自然的状況
社会的状況
環境関連法律等
2.環境の自然的構成要素の良好な状態の保持
大気環境(大気質、騒音、振動、悪臭、その他)
水環境(水質、底質、地下水、その他)
土壌環境・その他の環境(地形・地質、土壌、その他)
3.生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全
植物
動物
生態系
4.人と自然との豊かな触れ合い
景観
触れ合いの活動の場
5.環境への負荷
廃棄物等
温室効果ガス等 |
戦略的環境アセスメント(Strategic Environmental Assessment)とは、個別の事業実施に先立つ「戦略的(Strategic)な意志決定段階」、すなわち、政策(Policy)、計画(Plan)、プログラム(Program)の「3つのP」を対象とする環境アセスメントである。早い段階からより広範な環境配慮を行うことができる仕組みとして、その導入が国内外で議論され、実施されはじめている。
3つのP(政策、計画、プログラム)といっても内容は様々であるが、事業との関係では以下のような類型のものが含まれる。
- 複数の事業等を総合した地域全体の開発計画(例:総合開発計画、圏域計画等)
- 事業そのものを決定するものではないが、事業量の総枠を規定する計画
(例:各種五箇年計画等)
- 個々の事業に直接結びつくものではないが、事業の内容を拘束する政策・計画
(例:土地利用計画、資源の有効な利用の促進に関する基本方針)
- 個々の事業についての構想や基本計画(例:高速道路の基本計画)
なお、上記のうち1〜3は、いわゆる事業(project)に対する環境アセスメントとはそもそも対象を異にする。4は対象としては同一の「事業」であるが、その環境配慮を実施段階ではなく、より早期のいわゆる「計画」段階で行うというものである。
世界で初めての環境アセスメント制度であるアメリカの国家環境政策法(1969)は、政策、計画、プログラムを含むあらゆる連邦政府の決定に対して事前に環境への影響を評価することを義務付けるものであり、事業の実施段階での環境アセスメントのほか、資源開発や水資源開発等のプログラムに対するアセスメントが行われている。
その他の先進諸国では、1990年前後から急速にSEAの導入されはじめ、1992年の地球サミットの開催を契機に制度の導入が急速に進み、EUの共通制度化が本年中に図られる予定であることから、ほとんどの先進国では、SEAの導入が図られることとなる。
環境面、社会面や経済面に関する評価を一体として行う場合には、環境情報を有する機関や公衆、専門家の間での情報交流のベースを提供し、環境面からの評価結果を意思決定のための情報として活用することを可能とすることが必要である。
SEAは、当該計画等の策定者が自ら行うものである。自主的環境配慮というのが環境アセスメント全般の大原則であり、計画策定段階において、環境配慮を意思決定に円滑に統合するための必然でもある。ただし、これは十分な情報公開と第三者の関与によってはじめて正当化されるものであり、公衆や特に専門家の関与が必要である。
また、複数の案について比較評価を行うことが必要であり、検討される複数案は、とりうる選択の幅をカバーする必要があり、より広域的な視点から、環境の改善効果も含めて、複数の事業の累積的な影響を評価することが期待される。
ランドスケープが環境と表裏一体である以上、本来全てのランドスケープ開発には適切な環境調査が必要である。 持続可能な開発の実現するために、ランドスケープ業界から自主的に、生物物理的、気象条件的、社会的、経済的側面の相互関係について研究していく必要があり、またそれらは単独ではなく、統合した視野を持つことが不可欠となる。 我々JXDAが進める環境調査は、そうしたことに大きな意味を持つものである。
日本では、現状では本格的なSEAの実施事例はまだまだ少ない。このため、当面はまずできるところから取り組み、具体的事例を積み重ねることが必要であり、各主体の参考となるガイドラインを提示し、SEAの実施を促すことが求められる。
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