ホーム サイトマップ
リッド ゼリスケープ ゼリスケープ気象 ゼリスケープ灌漑 ゼリニュース セミナーと書籍 コラム

なぜランドスケープが失敗するのか

2005.10.28

 

最近の研究や最新の技術、環境問題が、我々が設計し維持管理するランドスケープの需要に変化をもたらしつつある。ゼリスケープ生態系・環境アプローチによるランドスケープ管理IPM(統合的有害生物管理)、マイクロ灌漑緩効性肥料リサイクルなどはいずれも、アメリカで現在ランドスケープの創造と管理を行おうとする際に、新しく騒がれている言葉である。目端のきく設計者や管理者ならば、こうしたコンセプトは必ず計画・設計・管理の中に取り入れられている。

実際、これらの新しい概念をもとにした実践は、ランドスケープの管理を容易にし、美的価値を損なうことなく管理費用を安価にしてくれる。しかしながら、ホームオーナーや敷地管理者、さらにはランドスケープの専門家であっても、これらの概念や技術についてまだよく理解していないため、自らのランドスケープを失敗の危険にさらしているのが現状である。

ランドスケープは統合的なひとつのシステムとして理解されなければならない。灌水、マルチング、病虫害管理などは、いわばパズルの1ピースであり、それらは相互にリンクしている。これはまた、ある管理敷地での失敗は、別の敷地でも問題を引き起こす恐れがあるということでもある。

 


失敗の原因をさぐる

例えば、その失敗の中には、植物体系と成長を全く理解していないことに起因するものもある。あるいは、これは最新の研究に理解が追いつかないとも言える。一例を挙げると植物の根系についての知識である。従来は、根は地上部を反映するように広がっていると考えられていたが、今では、どのような植物でも根のほとんどは、地表から50cm以内のところにあり、樹木でも潅木でも根は比較的浅く、しかし葉張り以上によく横に広がっていることが知られるようになった。
これは、管理の見地からいうと何を意味するのだろうか?例えば、植物の根が考えていた以上に浅く広がっているということは、それを前提に、水やりも管理も組み立てなければならないということである。これは我々が新しいルールの元に、パズルの一片一片を組み直す作業を始めなければならない(実際には始まっているのだが)ことを意味している。

芝生に対して使われる除草剤について考えてみると、それは樹木をも単に広葉の雑草と見なすのではないかと考えられる。つまり、樹下の芝生に使用した殺虫剤が揮発して、新しく成長し始めた樹木や潅木の葉に有害な反応を引き起こす恐れはないのだろうか、ということになる。また、高濃度窒素肥料については、芝生にはいいけれども、樹木や潅木には却って栄養不足を引き起こす恐れがあることも考えなければならない。


ランドスケープ設計・施工の際の失敗

既存の樹木は、建設重機が樹下の植生を根こそぎにする整地をしている時に傷つけられたり、根域の上に盛土をされることで、残存しないことが多い。また、建設中の土壌は家の基礎を作るために施工者により締め固められるので、元の土壌の何倍も圧縮されている。これがランドスケープへ影響を及ぼす。つまり、こうした状況下で植栽しても、よい根の発達は望めそうにない。特に雨季には土壌の排水が妨げられ、植物の根は水に溺れて窒息することになる。この状況を最初に回避することから始めなければならないのである。

通常、建設業者はランドスケープをいいかげんに考えている。最後に適当にはめ込むと言っても過言ではない。その結果、我々は、安い芝生と木が少し建物の基礎に隣り合って、ひどいときには軒下に植えられているのを見ることになる。こうした植栽が、土質やPH、植物が活着に必要とする条件や水の量などのことを(軒下では自然降雨も受けることが出来ないのだが)全く考えて作っていないのは事実である。さらにひどくなると、時にはすべての建設廃材が、「去る者は日々に疎し」という哲学を持っているらしい建設業者によって、不注意にもランドスケープの中に埋められていることもある。こうした異物は、当然これからここで成長しようとする植物にとって非常に有害なものであり、それでも生存する植物がいることは驚異である。

 

ランドスケープを設計や施工する際に起こりやすい誤りには次のようなものがある。

  • 家に近接して樹木を植えた

  • 狭い場所や斜面に芝生を植えた

  • 根鉢を巻いてある布を除去しないで植えた

  • 芝生と潅木を同じ灌水ゾーンに設計した

  • 暑さに弱い樹木を深植しすぎた

  • 支柱サポートを幹に強く締め付けすぎて傷になった

  • 排水不良の土壌に植栽した

  • 有機性改良材を樹木の植え穴のみに加えた

 

この誤りを防ぐために、誤りが引き起こす結果とその防止策を次のようにまとめる。

 

【誤ったランドスケープ設計・施工の例】

落とし穴
結果
防止策
施工中に既存樹木の保護を怠る 樹勢が衰え枯れる 樹木の葉張り外まで防護柵を延長する
建物の残骸を敷地の中に埋める 植物がよく育たない。あるいはまったく育たない 建設中にでるゴミは専用のゴミ回収箱へ入れる
新しいランドスケープを痩せた土で一杯にする 植物が貧弱になる ランドスケープのために表土を保全する
土壌の圧密による排水不良 植物の根が腐り枯れる 硬盤層を砕く
既存樹木の根域上に盛土する 根が酸欠状態なり枯れる 根域があると推測される地表面には盛土しない
敷地に合わない植物を植える よく育たずに衰弱する 微環境(日陰・日向・pHなど)にあった植物を植える
誤った灌漑設計 植物が菌性の病気にかかったり、水の過不足で枯れる 芝生と他の植栽の灌水ゾーンは別にし、一対一で有効範囲を保証する
狭い場所や斜面、深い日陰の場所を芝生にする 散水や手入れがしにくいので、芝は枯れてしまいがちである こうした場所にはグランドカバー植物や潅木を植栽し、マルチングをする
小さな植穴に大木を植える 樹木の生長が妨げられ不健康になる 小さな穴には小さな樹木や潅木を植える
低品質の植物 植物の生長が悪い 購入する前に植物の品質をチェックする
植穴が深すぎたり、小さすぎる 根が窒息し、根の発達が悪くなる 植穴の幅は広めに、深さは根鉢よりも深くしない
根巻きのラップ材と結束を除去しない 根の発達が悪くなる 移植の際に、分解しないラップ材と結束は取り除く
樹木の植穴に土壌改良材を加えて埋め戻す 2種類の異なる土壌が接していると、根は肥沃な土壌から外に出ずに巻状に発達するので、根が安定して広がらない 土壌改良は、植穴単位でなく、植栽エリア単位、つまりより広い範囲で行う
移植の際に、過度に剪定する 枝の先端に含まれる根を刺激するホルモンが除去され、新しい根の発達が妨げられる 剪定は最小限に留めるか、まったくしない
芝生と他の植物が競合する
(同じ場所に植える)
樹木や潅木の生長が抑制される 樹木や潅木は芝生の中に植えない
不適切な支柱 傷ついた幹などから病原菌が侵入する 幹の低位置に支柱をし、根が活着したら支柱を取り除く


 

ランドスケープ管理の際の失敗

ランドスケープの設計は間違っていなくとも、その後のメンテナンス不良により時間の経過とともに、失敗することはよく起こっている。多くのランドスケープがこれに至っている。明らかに管理の難しいランドスケープを設計するのは設計者に非があるが、管理できそうでできなかったというのが良くある現実であることを考えると、水掛け論になりやすい。管理の失敗には、過剰な灌水や施肥、農薬や殺虫剤の過剰使用などが挙げられるが、これは直接・間接的に多くのランドスケープ植物に対して問題を引き起こす。しかし、我々はまた、完璧な環境を保とうとして、「管理をしすぎる」こともよくある。とりわけ、身近な庭や園芸鉢花などは、その"被害に"会いやすい。

 

再括するとランドスケープを管理する際によくある落とし穴とは次のようなものである。

  • マルチの不適切な使用や維持

  • 灌水システムを正しく管理できなかった

  • 誤った時期に誤った肥料を与えた

  • 刈草や剪定枝をゴミとして捨ててしまった

  • 殺虫剤の不適切な使用

 

さらに順当な管理を行っていたつもりでも、最近では干ばつ、高温などの気候変化により、予期せぬうちに不適切な栽培環境となり、植物がストレスを受け不健康なランドスケープとなることがある。メンテナンス(維持管理)のゴールとは、ランドスケープの美観の維持であるが、その鍵を握るのは、まずは植えた植物が活着するかどうか、活着後はさらにそれが継続して健康に育ち、見た目も美しいかどうかということになる。施設器具の修理などハードスケープの安全性や快適性、美観の維持も重要であるが、こと、生き物相手のメンテナンスというのが、もっとも厄介なことで、では、何が植物の活着と生長を妨げるのか、誤った行為とそれが引き起こす結果とその防止策をまとめると次のようになる。

 

【活着を妨げる行為と誤ったメンテナンスの例】

落とし穴
結果
防止策
活着までの間の水やりが不十分 根/地上部ともに乾燥して枯れる 根鉢の上に水鉢を作り、ゆっくりとドリップや手で灌水する
マルチを幹に接触させて敷いた マルチが菌類による疾病を樹木に媒介する マルチは幹に触れないように敷く
マルチが補充されなかった 地温を上昇させる。もし根が露出にさらされると枯れてしまう 5〜8cmを保てるように、少なくとも年に1回はマルチを補充する
灌漑システムの誤作動 植物が衰弱死
水が無駄になる
定期的に灌水システムをチェックし、補修する
過灌水 根腐れ病、土壌の腐植、病害虫の発生を促す 季節や植物に応じて水やりのプログラムを変える
肥料の過剰使用 水質汚染、異常な成長、土壌の腐植、病虫害の発生を促す 成分バランスのいい緩効性の肥料を用いる
土に肥料を噴射した 高価、よく根域以外に流出し無駄になる。 肥料は樹木など葉張りや枝張りから想定した根域の外周から中心にかけての地表に与える
切れない刃で芝を短く刈りすぎた 短根を促進し、干ばつに弱くなり、葉に病気が発生しやすい 切れる刃で、芝の丈は高めに刈る
貧弱な剪定 病虫害の発生を促し、時に大きく茂りすぎた植物は危険をもたらすことがある 剪定は枝の外側から行う。潅木は非整形に整える
殺虫剤の定期的な使用 益虫を殺し、将来の病害虫の大量発生を引き起こす 局所的に病虫害の発生有無をモニターしながら、発生初期のみ薬剤を適用し、普段から植物が健康に成長する栽培環境をととのえる
農薬の過剰使用 植物が損傷し、病害虫が薬剤に対して耐性を持つようになる恐れがある できるだけ最も有毒でないものを選んで使用する

 

 

ランドスケープアーキテクチャーのパラダイムシフト

アメリカではランドスケープの失敗が公けに語られるようになってきた。その背景には、ランドスケープは単に「創造」するよりも継続的な管理により「存続」させていくほうがより大切であるという、パラダイムシフトが起きている。当たり前のことに聞こえるが、その当たり前のことを実現するのが難しい。ランドスケープの新ルールに基づく再編は、日本でも体系的に手を付けなければならない問題である。

 

 

Copyright©2006 Japan Xeriscape Design Association. All Rights Reserved.
*本サイトに掲載されている画像や文章等全ての内容の無断転載及び引用を禁止します。