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| >> 世界ゼリスケープ事情 | |||||||
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■アメリカにおける森林への警鐘(Landscape Architecture 誌より引用) 北東部において、木々が枯れるのは中西部の渓谷にある工場の煙突が原因のようである。数年前にNASAは東部の山々の衛星写真を作成した。NASAでは、森林の被害について、アディロンダック(アパラチア山脈の一部)、バーモント州のグリーンマウンテン、ニューハンプシャー州のホワイトマウンテンなど各地で調査を行っている。その調査によれば、最も被害が深刻なのはアディロンダックで、次にグリーンマウンテン、最も軽微なのがホワイトマウンテンであるという。これは、被害が西から東に移動してきており、大気汚染が原因であることを示唆している。グリーンマウンテン全域を移した写真では、どこに被害が存在するのかを明確に見て取れる。傾斜の上の方で、風上に面した部分に被害は集中しているのである。 西部においては、スモッグが山脈の上部に吹き込み、漂白剤が洗濯物を白くするかのようにマツの針葉を白く覆い、光合成を妨げている、とリトル氏は言う。また、最も弱い仲間の一種であるイエロー・パインは、濃いスモッグの中では休眠状態に入ることで自分を守り、危機が去ると再び成長を開始する、と語るのは、シエラネバダ山脈でスモッグの研究をしている生物学技師のダン・デュリスコー氏で、針状葉にとっての問題は、常に気孔が開きっ放しになっているため、濃いスモッグが発生すると1−2週間で被害を受けてしまうことである。デュリスコー氏によれば、そこは木々が生長できる環境には全くないという。そこでの炭素収支は、本来のマイナス(吸収・固定)ではなく、プラス(放出)になっている。その状態で、樹幹や新芽のために必要以上に養分や水を使うと、徐々にではあるが、最終的には生命を維持出来なくなる。 都市部において、精錬所の直ぐ風下にあるとか、高濃度の酸化窒素が集中しているというようなわかり易い場合を除き、大気汚染が如何に樹木の生長に影響をきたすのかを特定するのは、たいへん難しい。ミルウォーキー市森林職員を最近引退したばかりのボブ・スキーラ氏によれば、都市部の樹木は、大気汚染によって確実に健康を損なうが、同時に塩害や土壌圧密作用によっても、多くの深刻な被害を受けているという。 リトル氏も、人類のもたらしている木々への害は汚染だけではないと言う。商業伐採では、丈夫で高々とそびえ立っている木々を切り倒すし、病気にかかった木々はそのまま放置するため、その後何年か経つと、残された木々も枯れ果ててしまい、健全な姿をしていた森林の多くの部分が禿山になってしまうのである。 スプルース・バドワーム(トウヒを好んで巣食う昆虫の幼虫)による食害で、膨大な数のダグラス・ファーがやられてしまったコロラド州では、山火事防止対策としての植林が事態を悪化させている。ポンデローサ・パインが生育している平野林や草原と違い、傾斜地には日陰を好むモミが密生しているが、これはスプルース・バドワームに抵抗力がなく、その幼虫が木の抵抗力を弱めた後に、バーク・ビートル(キクイムシ科の各種の甲虫)が樹幹に侵入してしまったら万事休すである。立ち枯れに密生した葉は、山火事にとっての重要な危険要素にもなってしまうと、リトル氏は言う。 コロラド大学の地理学のトーマス・ヴェブリン教授によれば、「大量の燃料が積み上げられてしまっている以上、落雷による発火が続くのを放置するわけにはいかない。もし、それを放置してしまったら、これまでのところそれほど激しさのない地表面火災に留まっていたのが、とんでもない大災害を引き起こしかねないのだ。」という。 本当に、森林の未来は大きな不確実性に直面している。「これまでに見てきた事例を見れば、それは実に恐るべき状況と言わざるを得ない」と、ヴォーゲルマン氏は語る。「もし私たちが高山の森林の立ち枯れについて、最初から追跡調査をしていれば、それは信じられないほどの大災害と呼ぶに相応しいものであることがわかる。それは標高の高低を問わず、全ての場所で発生しており、ヨーロッパからの森林の専門家と科学者を連れて行ったときには、彼らは自分の見ている現実を、にわかに信じることが出来なかったほどだ。ある一時期に、全体の70%にのぼるドイツトウヒが消失してしまっていたのである。そして、標高の高い場所の生物量(バイオマス)は、40%にまで落ち込んでいた。本当に信じ難い出来事であった。消失してしまった木々は、樹齢200年、300年という古木であったため、今の時代に生きる人は、もう二度とそのように古いドイツトウヒを、その場に見ることはなくなってしまったことになる。」 ただ、だからといって全てが終わったわけではない。自然には驚くべき復元力があり、自然破壊の度合いが小康状態になり、最悪期を脱し、回復に向かう可能性もあるのである。現時点では何とも言えないし、いくつかの疑問もある。もっと大気汚染に抵抗力のある品種が現れてくるのか?遺伝子的に、より酸性雨や重金属に強い品種が出てくるのか?はたまた、これまでに十分過ぎるほどの森林が破壊され尽くしてしまったために、もうこれ以上失うものが残っていないところまで行ってしまったから、小康状態を迎えることになるのか? しかしながら、リトル氏は森林の未来についてあまり大きな期待は持っていない。その理由の一つにあるのは、大気汚染の問題は、環境問題と同じように政治的になってしまっており、政策によっては多くの立ち枯れを無くし得る力を持っているはずの政治も、時々の政治を取り巻く風向きに左右されてしまうからである。現在、世論が真剣にこの問題に注目しているとは思えない。最後に、リトル氏は次のように語っている。 「私は、木々が死に行く世界を目の当たりにしている。外来の害虫により、幹に穴をあけられ、葉はむしられ、木は枯れる。菌類が根元から枝にかけて取り囲み、葉を真っ黒くし、木は枯れる。収縮した根は、生命を維持するのに必要な養分や水を吸収できなくなり、木は枯れる。対流圏には多過ぎ、成層圏には少なくなり過ぎたオゾンの直接の影響で、木は枯れる。隣地にある木がきれいさっぱり伐採されたために、異常な熱風や寒風、乾燥した風が境界線を越えて吹き込み、木は枯れる。産業界の排ガスを頻繁に浴びせられ、木は枯れる。気候変動が激しくなり、それに適応できずに木は枯れる。そして、木が枯れるから、更に多くの木が枯れるのである。」 「個人的には、我々の世界は既に限界点を越えてしまっていると思わざるをえない。しかし、どうすればもう一度正常な領域に戻すことができるのか、私にはわからない。」(以上翻訳)
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文・平松宏城 |
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