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■アメリカにおける森林への警鐘(Landscape Architecture 誌より引用)
ゆっくりと死に行く森 (前編)


森が死に行くという不安な現象は、ランドスケープの将来だけでなく、我々の生活環境の行く末についても、重大な警告を発している。

アパラチア山脈の尾根沿いでは、未曾有の数のアカドイツトウヒが枯れかけている。カリフォルニア州のサンガブリエルでは、ポンデローサマツやジェフリーマツが急速に衰退し始めている。その中間における地域、つまりペンシルベニア州、ウエストバージニア州、オハイオ州にわたる温暖な地域の森では、広葉樹林を構成している多種多様な植物の消失を、専門家たちは危惧している。80種の植物が、オゾンの被害の兆候を示しており、レッド・マルベリーやチンカピンは全滅したも同然である。バターナッツの木の70%は、バターナッツ癌腫病で朽ち果て、樹齢150年経たないと生長可能な実生を作らない。ヒッコリーは、再生する間も無く、次々に枯れている。

米各地の森で、葉が萎れ、樹皮が剥がれ落ち、針葉が斑になり、朽ちた幹が倒れ、地面のあちらこちらに横たわっている。最悪の被害は、植物の成長時期が短く、風が激しく吹き、汚染物質が集中し、気温が氷点下にまで低下するなどの環境の厳しい山々の上の方で見られる。しかし、標高の低いところでも、尋常でない数の樹木の生命が病気によって奪われている。ノースカロライナ州立大学の植物病理学者であるロバート・イアン・ブルック氏は、「以前は、非常に高い大気汚染の負荷がかかるのは、標高の高い場所に限られると仮定していた。事実、標高の高い場所での汚染率はより深刻なのであるが、カリフォルニア州では標高にかかわらず、全ての高度において高い汚染率が見られ、これはヨーロッパにおいても同じことがいえる。」と言う。

また、「低い標高の広葉樹林でも、病気に冒された樹木が予想以上に多く、数多くの立ち枯れが見られる。」と語るのは、バーモント大学近隣の森林調査を1960年代から続けている、植物学者のハバート・ヴォーゲルマン氏である。「バーモント州北部で、持続可能な森林プログラムを実施している我々は、一つの森全体が、全て病気に冒された樹木で覆われているのを見て、ひどく衝撃を受けた。ただ、森が衰えているのが、大気汚染によるものなのか、人間による過度の立ち入りによるものなのか、特定するのは難しい。」森林管理組合では、強風、厳寒、病・害虫など、森を取り巻く自然のリズムが崩れているという。他の樹木専門家は、原因の中に、汚染という一つの共通点があると言う。人類による干渉が、森を殺しているというのだ。ニューメキシコ州のプラシタスに住む、環境ライターのチャールズ・リトル氏は3年間かけて海岸線を調査して歩き、植物病理学者を訪ね、被害の状況を見て回った。それは、「森の死、アメリカの森林に蔓延する病気」に著されているが、リトル氏は、汚染、無分別な伐採、山火事防止対策などが、警戒を要するほどの早さで森を死に追いやっている主な理由であると解説する。その速度は、自然の摂理の3倍から8倍であるとも言われ、汚染が原因で弱り果てた木々が、害虫に蝕まれ、容赦ない強風になぎ倒されている。数十年前までは、荒々しい自然の中でも持ちこたえるだけの強さを持っていた樹木は、今や自然の猛威の犠牲者になっているのである。

リトル氏の解説は、ハナミズキの経験談で始まる。汚染が病気の伝染力を助長することを実証するものとして、数年前にメリーランド州のカトクティン・マウンテンで発生した悪性の炭疽病の大被害を掲げている。そこでは、ハナミズキが全滅し、森の外にまで被害は及んだ。ハナミズキを温室の中で、数段階に分けて擬似酸性雨に晒すという実験を行ったところ、菌類によって媒介される伝染性は、酸性雨によって、その頻度も強度も増加するという計測結果が出た。炭疽病によって樹木が枯れたことの原因を、酸性雨の浸透、光化学スモッグ、近代文明化に伴う急激な気候変動だけに求めることは出来ないのかもしれないが、それらの要素が及ぼした影響を無視することはできない。「これは物語の序章に過ぎない。経済的価値は低いかもしれないが、そのただ愛らしいだけのハナミズキが、絶滅する間際に、私たちへの最後の贈り物として、警鐘を鳴らしてくれているのではないのだろうか?」と、リトル氏は言う。

一見、青々と緑が茂り、健康そうに見える森においても、その場に暮らしている人や、樹木の研究をしている人にとってみれば、その変調はあまりにも明らかである。彼らは、1980年代にヨーロッパで発生した大規模な森林破壊に似た現象が、ここでも広範にわたって発生する前兆ではないかと憂慮している。上を見上げれば、濃く生い茂った緑のキャノピーが見えた時代を知っている人々も、今は所々、青い空が透けて見えるのに気付いている。そして、緑の葉が今も青々と茂っている森ですら、それを構成する中身は著しく変化しているのである。「ほとんどの木々が枯れてしまっているような標高の高い地では、立ち枯れしていた木々が倒れて腐り始め、地面からはまた新たな植物が生長を始めており、表面上、それは正常な循環のようにも見えるが、30年から35年というスパンで見ると、そこで何が起きているのかに気づくことになる。」と、ヴォーゲルマン氏は語る。

葉が生い茂った森でさえも、樹齢を重ねた木々が所々、新種の樹種や耐酸性のある草本類に取って代わられていると語るのは、マイアミ大学でエコシステムの研究をしているオリー・ラウクス氏である。一頃、バターナッツやヒッコリーが生育していた場所においても、アメリカハナノキ、ニオイベンゾイン、シオデ属のツル植物などが勢力を増しつつある。「シオデ属のツル植物は暗い日陰を好んで生育し、通常は疎らに点在しているに過ぎないのであるが、最近は6フィート(1.8m)の高さで密生していることさえある。棘も硬く、ナタでも使わなければ全く進めないほどになっている。そこでは、驚くべき遷移が起こっている。当然、ツル植物が一面を覆ってしまった場所では、その他の木々が生育することは難しい。」

現在森で見られることは、過去何十年もかけて起きてきたことの結果である。ヴォーゲルマン氏は、樹齢200年のドイツトウヒやサトウカエデの年輪を研究している。「汚染の最初の兆候は1900年頃に見られ、そこでは燃料油や石炭から発生する重金属であるヒ素やバナジウムが少量検出され始める。」1920年から1930年になると、それらの物質の蓄積が始まり加速度的に濃縮していった。

1950年代になると、樹木の寿命が以前に比べ短くなり始めた。「これは大量の発電所の建設が、汚染物質を撒き散らし始め、圧縮比が高い自動車エンジンが窒素酸化物を排出し、加鉛ガソリンの使用が一般的になり、精錬・精製所の稼動が広範囲に広がった時期に符合する」と、リトル氏は指摘する。丁度その頃に、バリウムやカドミウム、亜鉛、鉛、銅などの他の有毒物質が年輪の中に検出され始め、一方では、酸性雨が食物連鎖に影響をもたらし始めた。地下浸透した酸性雨によって溶脱した地中のアルミニウムが、根をダメにし、土壌の必要元素であるリン酸、カルシウム、マグネシウムなどを、酸性度の中和のために消費し尽くす。またそれは、地表面に落ちた針葉や他の腐葉土を分解し栄養分を土中に還元する役目を担う、有益な菌根類や他の有機体の生命をも奪ってしまった。本来は、腐葉土の堆積層がシダ類の繁殖を促し、そのシダ類の発する物質がアメリカハナノキの実生の成長を阻害していたのである。「産業化の副産物である窒素の集中化は、始めのうち植物の成長を促進する。しかしながら時間の経過とともに、窒素量が樹木の許容量の3倍を超えるほどに蓄積された結果、針葉は落ち、毛細根は腐り、最終的には木全体が朽ちて倒壊してしまった。アンモニアや他の汚染物質は、ミミズやコケ類などの森の有益な生物や植物をも殺してしまった。」と、ラウクス氏は語っている。

問題を複雑にしているのは、木々が枯れる原因が(汚染、虫害、病気、強風、旱魃など)何であれ、それによって、より多くの二酸化炭素が生産され、さらに温室効果現象が進むという皮肉な結果を生むことである。樹木が死ぬこと自体が、さらに多くの樹木が死ぬことを意味するのである。(以上翻訳)

〈次号に続く〉

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文・平松宏城