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■米国ユタ州ソルトレイク市近郊視察報告‐その2
ソルトレイク市水道局「水保全マスタープラン」
前回紹介したとおり、コロラド州に並んでユタ州では水保全政策が推進されており、その中心都市であるソルトレイク市の水道局において、水保全部門担当のステファニー・デュアー女史と、同局のプロジェクト・マネージャーとして採用されているプソマス社のランドスケープ・プランナーであるジェイミー・サンデス女史という二人から話を聞く機会を得た。今回は、ソルトレイク市の「水保全マスタープラン」のランドスケープ条例とその実施の実態について報告する。因みに、ステファニー・デュアー女史は過去10年以上の間、プロのガーデナーとして仕事をした後、2年ほど前に当市の水道局の職員となり、水保全部門の担当責任者になったという経歴の持ち主である。
水道局の役割は、域内における飲料水道水の供給、下水道管理、ストームウォーター(暴風雨水)管理に大別されるが、管轄内には、同水道局がサービスを提供している住宅や商業施設などが32万6千戸あり、域内には1つの国際空港、2つの大学、210の公立学校、1,400の灌水を必要とする公園やゴルフ場なども含まれている。その中での水保全部門の役割は、水量確保と水質管理の観点で全ての分野に横断的に関っており、ゼリスケープ発祥の地であり、その実践を強力に推進している、コロラド州デンバー市水道局内のコロラド・ウォーターワイズ評議会(CWWC)と、同じ目的を持つ組織である。
ソルトレイク市は、年間平均降水量が15インチ(375mm)の乾燥地帯であり、飲料水の確保と、その資源保全の活動の歴史は古く、1847年にグレートベイスン(*1)に開拓団が入植すると同時に、水源開発や農業用灌水設備の敷設が着手されている。また、ソルトレイクが、市という形態を成した1851年には、市議会で水道条例が施行されており、当時から「水資源の量と質の確保」は重要事項であった。
近年においても、ソルトレイク市では1999年に「水保全マスタープラン」を議会承認の上で発効し、5年毎の見直し時期にあたる今年4月に、新たな改定が行われている。この際、将来の需要予測、過去5年間の保全実績評価を踏まえて、今後必要となってくる方針策定をより公正に行うために、外部のコンサルティング会社を雇い入れており、これが前述のプロジェクト・マネージャーにあたる。このマスタープランの内、二人から説明を受けた、特にゼリスケープに関連性のある条項について、いくつか以下に紹介する。
ランドスケープ条例、ウォーターワイズ・プランツ・リスト
・水保全を促進するため、芝生に代わるウォーターワイズ・プランツの推奨を始め、施工業者、デザイナー、住宅所有者向けのウォーターワイズ・プランツ・リストの作成を行う。
・1999年時点で、パーク・ストリップ(*2)の面積の少なくとも1/3の部分については、芝生を取り止め、ウォーターワイズ・プランツで代替させることになっているが、植え替えの際のプラント・リストの更新を行う。
ビルの新築、または改築に際して、水資源とエネルギー利用の効率化を指導し、促進する。(世界のゼリスケープ事情10 住宅取得のエネルギー効率「格付け」システム参照)
灌水監査プログラム
・ソルトレイク市は、ユタ州政府の水保全局が推進している灌水監査プログラムを最初に実行した州内の自治体であり、州組織と協調して、他自治体への広がりを推し進めている。“Slow the Flow(水の流出を抑制しましょう、の意)”というコピー の下で、灌水チェック・リストに従って、これまでに千箇所以上の灌水設備の修理・改善の必要性の有無を調査している。
デモンストレーション・ガーデン
・2001年に、プロのガーデナーと個人のガーデナーを啓蒙するために、最初のデモンストレーション・ガーデンを、ワシントン・スクエアに設置。今後も、複数のデモンストレーション・ガーデンの設置を予定している。
水道局内での面会の後、ステファニー・デュアー女史は、市内の砂糖工場跡地に、水保全推進計画の中で 作られた公園に案内してくれた。
周囲を現代的なショッピング・モールやオフィスビルに囲まれたこの公園は、すぐ脇を小川が流れ、あくまでも自然な風景を次世代に残そうとの意図で設計されたものである。おもしろいのは、設計段階で地域の子どもたちから公園設計についてのアイディアを募り、そのいくつかを実際に取り入れたものになっていたことである。これは、この自然な風景の公園を、出来るだけ子どもたちに身近なものと感じさせるための努力なのだろう。また、維持管理の一環として侵略性の強い外来品種を取り除き、自生植物を入れ直す努力が、継続的になされているとのことだった。元、ガーデナーとしての彼女の経験が植物選択の面で生かされているのは言うまでもない。
ステファニー・デュアー女史は、現在ソルトレイク市水道局の水保全関係予算は、ユタ州政府の水保全局に比べ1/10ほどの予算しかなく、その制約のために実行が遅れている事柄がまだ多く残されていると、その点については苦笑していたものの、現市長ロス・アンダーソン氏は環境重視を政策の一つとして掲げており、その任期中に、水保全運動の推進を加速していけるであろうとの手応えを感じていると、情熱的に語っていた。業界団体や市民団体、NPOなどが行政に対して働きかけを行うという構図ではなく、行政という組織の中に、その道の専門家としての経験を持つ人間がいるということの意味は非常に大きい。日本の自治体においても、例えばランドスケープを専攻した人が、公園緑地課に配属されるなどの例が増えつつあるようであるが、そのような専門知識や実務経験を持つ人間が、その専門性を活かして行政側の主導権を発揮することで、緑化の推進や水の保全などの環境配慮政策が、より強い推進力を持ちうるのではないかと、考えさせられる一例であった。
(*1)シエラネバダ山脈とロッキー山脈の間に広がる大盆地
(*2)パーキング・ストリップとも呼ばれる。駐車場周囲の細長い緑地帯
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