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JXDAは、ゼリスケープの観点と必要性から、あらゆる地域のランドスケープ開発(都市整備・建設・公共施設など)を行う企業や協会、団体のプロジェクト情報を、独自のネットワークより提供しています。

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■米国ユタ州ソルトレイク市近郊視察報告‐その1
ユタ州のゼリスケープ

大昔、海の底から山が盛り上がり、海水が閉じ込められて湖となったソルトレイクが、レイク・ボナビルと呼ばれていた頃、その面積は現在の約7倍もあり、ユタ州北西部、ネバダ州北東部、アイダホ州南東部にまで及んでいたという。何万年という歳月をかけて、降水量と自然蒸発の差によって年々水位が低下してきた湖周辺の土壌は、海水が蒸発して塩の堆積層となっているため塩分濃度が高く、アルカリ性が強い(*1)。ゼリスケープが発祥したコロラド州同様、乾燥が厳しく、また塩害のため肥沃とは言えない地盤に位置するユタ州では、行政を中心に水資源や環境に対する問題意識は高く、ゼリスケープが積極的に推進されデモンストレーション・ガーデンも多く設置されている。それらの情報をもとに、6月初旬我々はユタ州におけるゼリスケープの現状の視察に訪れた。
今回は、ソルトレイク市近郊にある2つのガーデン視察を報告する。

ジョーダン渓谷水保全局デモンストレーション・ガーデン

ユタ州における最も先進的、かつ最大規模のゼリスケープ・デモンストレーションガーデンである。
ここにはユタ州政府の運営する水保全局の本部があり、水保全を推進するためのデモンストレーションガーデンを運営・管理している。以前は、噴水の周囲を水消費量の多いブルーグラスで100%被っておりそれをを取り巻くように展開していたガーデンは、2000年秋に大改修工事が行われ、ウォーターワイズのデモンストレーション・ガーデンとして生まれ変わった。これは、複数の水保全計画の一つとして、特に屋外での水消費を抑えることを目的に、わずかな灌水で景観を美しく保つゼリスケープガーデンの設営が決められたことによる。ユタ州は、ユタ大学発のベンチャー企業群が主導する形で経済発展が続き、90年代の人口増加率・経済成長率はともに、50州中第4位と全米平均を大きく上回っており、それに伴う飲料用水の確保が、行政当局の最優先事項の一つであるという事情が、その背景にある。
ここでは、水保全を目的とした適切なランドスケープデザインの在り方、灌水技術、自生植物を中心とした灌水の少なくて済む植物の紹介を通して、地域住民や、ユタ州内の各市当局への手本と示すという、教育的側面をその一義的役割としている。個人住宅用、公園用、商業施設用と大きく3つに区分けされたデモンストレーション・ガーデンの内、更に6つに細分化された個人住宅用には、それぞれに水道メーターが設置され、ガーデン・タイプ毎に必要な灌水量の違いがわかるようにしている。また、同局の作成している植物リストは、実際に植栽されている500種以上の自生植物を中心としたゼリスケープ・プランツの紹介がされており、たいへん内容の充実したものである。

ユタ大学付属レッド・ビュート・ガーデン

ここは、州立大学が主体となり、自然の地形を活かして作られた、地域社会のために開かれたガーデンである。
まず、そのロケーションに圧倒される。グレート・ベイスン(*2)の中にあるという地形状の利点を活かし、同ガーデンは山裾を上手に利用した場所に存在している。乾いた岩肌がゴツゴツした自然の風景を残しながら、ビジターセンターを中心に各種ガーデンが周囲を囲み、また山の頂上部に向けて必要最低限の手が加えられ、そこでトレッキングを楽しめるようになっている。グレート・ベイスン最大の植物園であり、環境教育センターでもある同施設は、園芸鑑賞、地域教育、植物調査という主目的の推進の他に、定期コンサート、子どものバースディ・パーティー、早朝バードウォッチング会、昆虫探索会など、地域住民や来訪者を楽しませる行事も盛りだくさん 企画され、家族連れをはじめ多くの来園者で賑わっていた。パーキング・ストリップと呼ばれる駐車場周囲の細長い緑地帯の植栽はゼリスケープ・プランツだけで構成され、また、ここでもユタ州の自生植物や、高中木・低木・グラス・多年草というグループごとに、乾燥に強い各種ゼリスケープ・プランツが紹介されると同時に、何故今ゼリスケープの考え方が必要なのかを説明するパンフレットが配布され、その啓蒙活動が熱心に行われていた。

以上これらのガーデンは、その生い立ちや存在理由は異なるものの、ガーデン、植物園という場に、多くの人々が親しみを持ち、その時間、空間、機能を楽しみ、利用し、学び、生活の一部に取り入れられている。同時に、その場を中心として、広義のグリーン・インダストリー(緑の仕事)に関わる人々と、地域住民や来訪者、一般消費者との間の距離も、とても近いと感じられた。その距離が近いが故に、地球環境が苛酷さを増しているという認識を共有し、環境負荷を低減するための、具体的方策として発信されているゼリスケープの考え方に基づいた手法が、今後浸透する範囲は広く、時間的速度も速いのだろうと思われる。コロラド州同様乾燥が厳しい同地でも、必要に迫られる形で問題意識が高まる中、州・市・大学・植物園・開発業者という様々な主体が、ゼリスケープを積極的に取り込まざるを得なくなっているかのようであった。

この秋、同地でASLAの年次定期総会が開催され、ゼリスケープをテーマにしたツアーも、複数企画されているという。

次回は、ソルトレイク市水道局におけるゼリスケープへの取り組みを紹介する。

 

(*1)大きな流れとしての湖の水位は、徐々に低下の一途を辿ってきているが、それは直線的な変化ではなく、短期的に上振れた時期もある。実際、1983年には突然その水位が上昇に転じ、地下水位の上昇とともに排水設備に大きな問題が生じた。そのため、今後の水位の変化予測が、継続的に調査されている。(Major Levels of Great Salt Lake and Lake Bonneville / Map 73)
(*2)シエラネバダ山脈とロッキー山脈の間に広がる大盆地

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文・平松宏城