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ゼリスケープガーデンを創造するための基本的な知識・技術の会得を目的とする技術講座。
中でも専門性が高い灌水システムについて、基礎から学んでいきます。
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第8回(最終回) 灌水システム計画
前回まで7回にわたって灌水システムの基本構成を取り上げてきた。最終回にあたる今回は、それらを踏まえつつひとつの敷地プランを例に挙げて、具体的なシステム構築を考える。
【灌水システムを導入する前に】
既存の庭にただ灌水システムを入れるだけでなく、庭の用途、気象条件を考えた上で、植物の配置を考えることが望ましい。あまり水を必要としない植物を選ぶことも大切だが、植物をその必要水分量毎にまとめて配置することで、灌水システムの設置を合理化できる。
【灌水システム導入のステップ】
導入計画は大きく分けて以下の7つのステップに分けられる。順番に1つ1つ考えていくとよい。
1. 灌水エリアのゾーン化
2. 土質のチェック
3. 流量・水圧の計測
4. 灌水器具の選択
5. ライン(配管)の決定
6. 灌水制御装置
7. 灌水時間の設定
次に例題を挙げて、1から順番にすすめていく。
1.灌水エリアのゾーン化
目的にあった灌水器具を選択するために、植栽に応じて灌水エリアをゾーニングする。
このプランではエリアを、
(A)芝生
(B)菜園
(C) 低木類・草花・グラウンドカバー類
の3つにゾーン分けした。(右図参照)
必要水分量は、芝生、菜園、草花、グランドカバー、低木類の順に高い。
<図をクリックすると拡大>
2.土質のチェック
土壌によって水の浸透性・保水性が違うため、敷地内の土壌を調査する。砂質か粘土質かという土性の判断をし、排水性がどの程度あるのかを調べておく。識別、手触り、水を注ぐ、硬度計を用いるなど複数の方法を実施する。
現実では例えば、浸透率の高い砂質土壌では、横方向の水の浸透が少ないためドリップエミッターやスプリンクラーなど灌水器具の設置間隔を短くするという対応が必要となり、逆に粘土質の土壌では、縦方向つまり地下への浸透がしにくいために、1時間あたりの吐水量が少ない灌水器具を選択したり灌水時間を短くするなどの工夫が必要である。もちろん、土壌改良を行い、排水性と保水性に優れた土壌にすることが一番望ましい。
3.流量・水圧の計測
●流量
使用する灌水器具の吐水総量が、水源の流量を上回ると末端まで灌水器具の性能どおりの灌水ができなくなる。そこでまず給水の水源から出る1分間あたり流量を把握しておく。流量を計測するときは、他の水栓から水がでていないことを確認し、給水管から一定時間に流れる水量をバケツ等用いて測り、1分間の流量を割り出す。
●水圧
各灌水器具には適用圧力が表示されている。その最適な作動のために、給水栓管内の水圧を知ることが必要である。計測には水圧計を使う。
4.灌水器具の選択
植栽に応じて水の必要量や灌水器具が変わるため、スプリンクラー、ドリップチューブ、ドリップエミッター、マイクロスプレイなどから最適な灌水器具を選択する。
このプランでは、芝生にスプリンクラー、菜園にドリップチューブ、低木類などにマイクロスプレイとドリップチューブ、ドリップエミッターをそれぞれ用いる。
5.ライン(配管)の決定
灌水器具から出る水量の総量が、使用する水源の流量を超えないように灌水器具を設置する。ひとつの水源で全ての灌水をまかなえない場合は、ラインを分け、コントローラーで灌水のタイミングを分けることで、全てのエリアに灌水できるようになる。
以下に各ゾーンの特色と灌水方法を示す。
(A)芝生ゾーンへの灌水
芝生は必要とする水分量が多く、頻繁な灌水が必要になる。必要水分量は芝草の種類によって変わる。ノシバ、高麗芝などは水量が比較的少なくて済む。このため通常日本ではノシバは水やりをせず、また高麗芝も水をやらないことが多いが、無降雨が続くと枯れてしまうことになる。この時灌水システムがあれば、緑の芝生を保つことができる。可能な場合は灌水システムを導入したいものである。もちろん、芝生の用途から芝草の種類や芝生の面積を事前に決定することが望ましい。
また、灌水の方法としては、芝草は均一に根が張るため、通常ドリップは使用せず、スプリンクラーの使用が主流である。地表面からの蒸発を防ぐために、芝生植栽の下にドリップチューブを埋設する方法もあるが、風があり人工地盤で乾燥しやすい屋上緑化では有効である。ただし埋設が深すぎたり、露出面にあたったり土壌が薄すぎたりして乾燥が激しい場合には、水は無駄に流れてしまい適さない。地表敷設のほうが適している。また、一般の敷地でも、埋設したドリップから出る水が地下へ浸透してしまい、地表面が乾燥してしまうためあまり用いられない。
では実際の配置計画について図をもとに説明する。
●スプリンクラーの設置
1)スプリンクラーの配置
(適応圧力2kgf/cm2、散水量5L/m、散水直径10mとした。)
1.散水直径をもとにして、図面上にコンパスで散水範囲を描く。基準となる最初の点1(スプリンクラーを設置する位置)はコーナー(芝植栽面の角地という意味)に置くと良い。
2.次に、点1を基準とした円と灌水を行う植栽の境界が交差した地点に点2をおく。点2から同様に円を描く。
3.1、2を繰り返して灌水をおこなう植栽がすべてカバーされるようにする。
4.コーナーに近いスプリンクラーはコーナー(点1、点5のような位置のこと)に移動させ、灌水に無駄のないようにする。
5.スプリンクラーの配置完了。
2)スプリンクラーへの配管
スプリンクラーは水を圧力により一定距離まで飛散させるため、ドリップ灌水に比べて多くの流量が必要となる。そのため一般家庭に導入する場合は、1つのラインにつなぐことのできるスプリンクラーの数も制限される。
水源からの流量をスプリンクラー1つ当たりの散水量で割り、1ラインでの稼働可能なスプリンクラーを算出する。
(このプランでは、水源からの水圧が2kgf/cm2、流量が18L/mとする。使用するスプリンクラーの散水量は5L/mとする。)
18L/m÷5L/m =3基のスプリンクラーが1つのラインで稼働することができる。
このプランでは、1つの水源をもつ植栽地全体で、スプリンクラー5台を使用することになるが、1つのラインでは5台すべてのスプリンクラーを同時に稼働させることができない。解決方法としてラインを2つに分けることになる。1ラインにスプリンクラーが2台稼働するラインをA-1、スプリンクラーが3台稼働するラインA-2をとして設置した。
 
スプリンクラー設置の良い例 悪い例
ライン上の接続では、スプリンクラーが並列になるようにつなぐ。直列につなぐと、水源に近いところにあるスプリンクラーと、末端にあるスプリンクラーとの間に散水量の差ができてしまうため注意する。
実際の設置は、凍結を防ぐため地表面下30 cmに埋められる。(地域や整備基準によってはこの限りではない。)スプリンクラーをつなぐ管は塩ビ管などの硬質のものが主に用いられる。

灌水システム設置完成図
<図をクリックすると別ウインドウにて拡大>
(B)菜園への灌水
●ドリップチューブの設置
1.菜園では、野菜の植え付け間隔を考慮して等間隔で点滴灌水ができるドリップチューブを使用する。ドリップチューブはドリップエミッターの間隔が決まっており、畝に植えられた野菜のように規則的に植栽された場所に最適である。
2.電磁弁から実際に灌水をする畝までの主管は塩ビ管やポリエチレンパイプが主に用いられる。
3.主管から各畝につき一本の散水支管を分岐し、ドリップチューブを使用して、さらに均等に分散させ設置した。(ドリップチューブに付属するエミッター1つ当たり滴下量は1L/H、3L/H。ドリップの内蔵間隔は15cm〜100cmがある。)
(C) 低木類・草花・グランドカバー類への灌水
●ドリップチューブ・ドリップエミッター・マイクロエミッター等の設置
C-1 ドリップチューブの設置
一定の規則で植栽されているゾーンや、密植されている植栽にはドリップチューブが有効である。ここでは、ドリップ吐水口間隔1mのドリップチューブ定流量型を使用する。
C-2 マイクロスプレイの設置
植物の丈が低いグランドカバー類のエリアは、主管に4/7pvcチューブをつなぎ、マイクロスプレイを設置する。
設置位置は、スプリンクラーと同じく吐出流量と散水直径を考えて散水が均等に行われるように配置する。(今回は流量18L/M、水圧2kgf/cm2とした。)
C-3 ドリップチューブの設置
植物の草丈が高い場合や、必要水分量がまちまち植物が混植されていたり、植栽間隔が一定ではないゾーンでは、主管を灌水範囲の近くまで伸ばし、そこから4/7pvcチューブでボタンタイプのドリップエミッターをつなぎ、個々の植物の根圏に直接灌水が行き渡るように設置する。植物の大きさや個々の必要水分量を考慮して、ドリップエミッターの数を増減するか吐出量に応じてドリップエミッターの種類を変更し調節する。
6. 灌水制御装置
灌水の制御は、通常、コントローラーと電磁弁で行う。コントローラーとはタイマーで、設定した時間が来ると信号を発し、電磁弁はその信号を受けて弁を開閉し、水が流れたり止まる。
一般によく見られる乾電池式の灌水タイマーは、内部にコントローラーと電磁弁が組み込まれたものである。この利点は、安価で入手しやすく、扱いが簡単であることだが、難点は、電池の補充を必要とすることと、ひとつのタイマーでひとつの電磁弁しか制御できない点である。
このプランでは図のように、庭全体の灌水システムを、(A)芝生のスプリンクラーシステム、(B)菜園のドリップチューブ、(C)低木類その他のマイクロスプレイ等器具併用、という各ゾーンによって異なる灌水器具が接続されている。植物の性格を考えれば当然なのであるが、この場合、基の電磁弁がひとつでは、ひとつの灌水制御のプログラムによって全体が管理されてしまうことになる。たとえ流量・水圧の問題をクリアしたとしても、植物に応じた綿密な計画が崩れてしまうことになる。そこで、このような場合には、各ゾーンの主管の分岐点に1つずつ電磁弁を設置する。(図のA-1, A-2,B,C)
1つの電磁弁は1つのプログラムを制御するが、このプログラムをチャンネルと呼び、ここでは4つの電磁弁を同一の制御盤で管理するので、4チャンネルの制御盤を使用している。そうすると、例えばスプリンクラーは10分間、ドリップチューブは15分間などと個別のプログラムが起てられるので、水の利用が効率的になる。この制御盤に雨センサーを取り付ければ、降雨時の灌水を自動停止するので、効果はさらにあがる。JXDAは、雨センサー付きの制御盤を灌水システムの標準構成要素としているが、皆さんが導入される場合にも、それを標準とされることをお勧めする。
制御盤の利点は、現実に即した水の有効活用ができる点や、建築時からの計画では屋内配線もできる点にあるが、難点は商用電源の工事が必要なこと、価格が高いこと、制御盤を収納するボックスの配置をどこにおくのか、などが挙げられる。制御盤は、ある一定規模以上の庭では、管理のしやすさからいっても導入を促進したいものである。また公共の敷地では、維持管理の分担が明確な場合、導入をしているようである。
7.灌水時間の設定
各電磁弁A-1, A-2, B,Cが順番に作動するようコントローラー(タイマー)を設定する。
(例)
A-1 6:00-6:10 2日おき 10分間
A-2 6:10-6:20 2日おき 10分間
B 6:20-6:25 3日おき 5分間
C 6:25-6:35 2日おき 10分間
灌水時間は、ゾーン毎の必要灌水量を、灌水器具の吐水総量で割って算出する。次に灌水時刻の設定は、灌水システムの正確な稼働という面から見ると、家庭内で水を比較的使わない朝食時間前が最も水圧が高く安定していること、また、地表から蒸発を考えても早朝がベストである。ただし、秋冬は土壌の凍結や植物の冷害も考慮しなければならなく、この限りではない。
参考資料
『Landscape irrigation 』Stephen W. smith
『アメリカン・ボーダーガーデン』松崎里美
『DRIP WATERING MADE EASY』RAIN DRIP Inc.
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