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 >> ゼリスケープ技術講座 -灌水システム編-


ゼリスケープガーデンを創造するための基本的な知識・技術の会得を目的とする技術講座。 中でも専門性が高い灌水システムについて、基礎から学んでいきます。

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第1回 灌水システムとは

灌水システムは、主には農業生産用に開発され、特に乾燥した地域では不可欠のものとして、植物の種類や気候、水源などに応じてさまざまな形で発達してきた。特にアメリカにおいては、ゴルフ場、商業施設、個人邸において、自動灌水システムが広く普及している。これには、いわゆる「自由・解放の象徴」としての芝生を好む傾向と敷地面積の大きさ、さらには「合理化」を推進する精神によるところが大きいと思われる。

農業用灌水と庭園灌水の違い
現実として不可欠な農業用灌水は、基本的に単一植物を畑やハウスなど同一環境で育成するため、それぞれの植物にあった灌水器具を開発し、灌水量を調節することで、最終的な収穫の質と量を増大させることを目的としている。農業関係者にとって水はいわば死活問題なので、個別の植物によってさまざまな研究・開発が行われている。
一方、庭園灌水は、基本的に鑑賞することが目的で植えられた植物に対するものなので、植物は単一とは限らない。ゴルフ場などでは、大規模な芝の単一植栽であるが、その効果は植物が水切れをおこさず青々とした美観を保ち、なおかつ人が手動で灌水しなくてすむということを目的に行われている。

ゼリスケープと灌水システム
このように、灌水システムはかねてから庭園灌水に用いられているが、その効果は必ずしも水を節約するものでなく、むしろ水の浪費の結果をまねくものであった。私達が推進するゼリスケープTM*の発祥は、アメリカ・コロラドであり、ランドスケープによる水資源保全・活用を旨に、公共空間や家庭における庭への無駄な灌水を減らしながら健康的な庭をつくる運動を行っている。ゼリスケープの考え方により、植物ごとの灌水量をコントロールし、貴重な資源を浪費することなく、人間を含む生態系を守ることができるということで、積極的に導入を促進している。

現在普及している庭園用灌水の種類は
  ・スプリンクラーシステム
  ・マイクロイリゲーションシステム**
に大別される。

スプリンクラーシステム
農業用かんがい法として古くから使用されている方法。広く普及しており、日本でも単体ならば簡単に手に入る。
高水圧を先端のノズルにかけ、散水する。また、散水は弧を描き角度は360度から半円、45度または自由に角度を変えられるものまでそろっている。
主に広範囲にまんべんなく散布するため、芝などに代表されるグランドカバーや密植された宿根・低木類などに用いられている。

マイクロイリゲーションシステム
スプリンクラーシステムに比べ新しく、施設園芸などの分野で広く使用されてきたものを応用したものである。この中にはドリップ、ソーカーチューブ***、低圧スプリンクラー等がふくまれる。
スプリンクラーに比べて高圧をかける必要がなく、器具も小型で扱いやすいので設置が容易である。大きな特徴は狭い範囲にゆっくりと水が浸透されていくので、余分な水の流出を防ぐことができる。
両システムは中央管理システムで灌水コントロールされ、庭の各ゾーンごとに分け最適な灌水量や灌水方法を選ぶことができる。さまざまな植物が混在する庭、特に日本のような狭く複雑な庭には適しているといえ、広く普及が期待される。

*ゼリスケープTM・・・「創造的なランドスケーピングを通しての水資源保護」と定義づけられる。1981年にアメリカ・コロラド州にて、ランドスケープに関わる専門家と水道局が参画して始まった活動。
**低水圧でも灌水装置を稼働できるシステム。
***海綿状の表面から水がしみ出るように灌水をおこなうもの。密植された狭いエリアで有効。

文・美濃輪 朋史