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 >> 月例研究会レポ-ト


JXDAの月例研究会とは、毎月テーマを設け、専門知識を持ったメインスピーカーが提供する情報や研究成果をもとに、情報や意見、アイデアを出し合い、目標に向かって行動を起こしていくものです。

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■10月度研究会 2003年10月22日実施   メインスピーカー:金澤良春氏(建築家)
建築とランドスケープによるパートナーシップ

ランドスケープを考える時、その大小にかかわらず建築とのパートナーシップは欠かせない。10月度は建築家を招き、建築家とランドスケープアーキテクト、デザイナーとの関係について話し合った。まず、メインスピーカーの金澤良春氏が設計チーフとしてかかわったケースが紹介された。(以下はその講演要旨)

ケーススタディ- 世田谷区民健康村 なかのビレジ

 

<計画データより抜粋>
   建物名称 世田谷区民健康村なかのビレジ
   建築主 世田谷区
   設計 坂倉建築研究所東京事務所
   施工 佐田建設・山内工業建設共同企業体
   所在 群馬県利根郡川場村
   敷地面積 154,957.0�F
   設計期間 1984.4〜1984.7
   施工期間 1984.11〜1986.4
   工事費計 1,345,000,000 円
        (建築・外交、造成、空調、衛生、電気、浄化槽)
   階数 地上1階一部2階

○発端から開設まで
世田谷区の前区長大場氏が提唱した『区民ふるさと構想』により川場村がふるさとに設定された。折しも当地では高速道路の建設計画が進められており、従来の道路が敷地を迂回する形で再配備されたため、敷地がまとまった形で利用できることになり、敷地造成的には最初から関われるという理想的な経緯をたどることができそうだ。だがしかし、区長交代に伴い、施設の性格が変容した。

○開設準備
開設準備には、以下の行政(区および村)、専門家、地域住民を含む委員会、三者による協働(今流行のパートナーシップ)が発揮されている。形的には理想的な経緯であった。
    ・開設準備室を区役所と村に設置(ソフト)
    ・建設にむけて造園家・建築家の参加(ハード)
    ・委員会にて建築の検討
    ・設計を行い、検討を加える 計画の立案

○目的 
用途:当初は、小学校移動教室としての機能が求められたが、後に「区民利用の健康村」というリゾート的な側面が重視されるようになった。世田谷区の植民地ではない地域に根付く健康村を目指したが、地域の実情に合わずなかなか役割を演じきれなかった。建築家としてはこれに対し当時は何もできなかったので歯がゆさが残る。

旧側面:村とのコミュニケーションツールの役割を盛り込む
    近隣の農地、リンゴ(レンタアップル)農園→失敗におわる。
    区民村セントラルキッチンから食事を村の学校給食に配給→のちに廃止
新側面:地域とふれあうよりも、区民の施設として改修工事
    バリアフリーEVの設置、スキー場 村営のもの利用、施設内温泉の新設

○実務  
開設準備の協働に伴って、基本構想は土木(造園)、建築一体のものがたてられた。通常、後追い仕事で、枠内のできることだけ考えざるを得ない建築の仕事だが、最初から関われたことは、大変評価すべきことと思われる。もちろんその後の工程(基本計画、基本設計、実施設計、工事着工、工事管理、完了検査)では、土木、建築、造園それぞれに分かれている。

[本人による計画の達成度と評価]
良い形で計画自体にアクセスできた例であった。資金も潤沢で興味深いプロジェクト。現在実現しようと思ってもこうした規模のプロジェクト自体がなかなか存在し得ないのではないか。また、ランドスケープアーキテクトはいないが、自らが建築設計チーフを務め、最初から竣工まで(その後の改修も)関わったことで、設計案に忠実に、質的にも満足のいくものができたと感じている。これでなければ、ああしたグランドデザインは生まれない。コンクリート擁壁=建物壁の原型となった本作品が、その後デザインだけを存在理由もなく多用されるのは本末転倒であるが。また、植栽の知識があれば、よりよいものになったであろうと今感じている。

[デザインについて]

鉄筋コンクリートの建物を大地の隆起に上手くはめ込んだような、デザイン。
機能性を備えながらも、これこそまさにグランドデザインという観が見て取れる。こうした仕事は本来はランドスケープアーキテクトの仕事だろうが、現実にはなかなかそうはいかない厳しさがある。以下のような質疑や意見が参加者から挙げられた。

[参加者の意見など討議の内容]
・建築家でもランドスケープアーキテクトでも、コーディネーターでも、誰かが計画の最初から最後まで責任をもって関わるということの大切さが身にしみた。現実としてそういう機会も少ないが、これからはそうした人の役割は大きいのではないか。

・ランドスケープに関わるものが仕事の幅を広げるためにも、建築の知識というのは欠かせない。建築家と協働していく上でも、同様である。今日はその思いを一層強くした。

・ランドスケープがゼネコンや建築の下請けとなっている現状で、なかなかパートナーシップというのは実現されていないのだろう。金澤氏の話は、自分の予想と違う切り口であったが、その現実と終始一貫性を貫くのにどうするのかという問題提起がされており、大変興味深かった。


文・松崎里美