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1.行政による取り組み
(1)水保全の必要性と展開
デンバー水道局視察を報告した。その概略を紹介する。
[建物および敷地空間]
建物エントランスを入るとすぐに吹き抜けのアトリウムが広がり、水道局とは思えぬ水と緑の空間が展開していた。エレベータ脇には灌水キットのパネル展示があり、灌水に対する意識の高さがうかがえる。広大な敷地には、車両と共に、土などの基礎材・舗装材を含む材料一式と水道工事用重機、ガソリンスタンド、さらに車両修理工場が完備しており、全米初のゼリスケープ・デモンストレーションガーデンが広がっていた。
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[ 水保全活動の推進]
室内・外の水保全キットの無料配布を皮切りに、ここでは庭での水保全を目的としたゼリスケープ活動が推進されている。その背景には、昨年の大干ばつ・渇水に代表される頻発な渇水状況の中で、年使用量の3割以上を占める庭での水浪費の低減を求めていることが挙げられる。渇水に対する危機感は日本の比ではない。
ゼリスケーププロジェクトを水道局が主導しそのチームは、ランドスケープアーキテクト、灌漑士(いずれも水道局職員)等にて構成されている。
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(2)デモンストレーションガーデン
[デンバー水道局](上写真)
・全米で最初のゼリスケープガーデン
・1983年に最初の区画が完成
・すべての植物に必要水分量など表示したプレート付
・芝生4−5種 宿根草および低木 およそ100種
自生植物を中心に植栽
・灌水はインラインドリップチューブ及びマイクロスプレイを使用
・灌水頻度は 1週間に2回、1回につき30分
[コロラドスプリングス共益局](下写真)
プロジェクトチーフは、アン・セイモア氏。同局の職員でASLAに所属するランドスケープアーキテクト。ここには幾つかの異なる景を持つ素晴らしいガーデンが展開していて、誰もが訪れることが出来る。その成功の秘訣は日本と異なる綿密なメンテナンス計画が上手く機能していることにあった。
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2.ナーサリーの取り組み--ウェルビー・ガーデンの場合--
(1)生産概景
50余年の歴史をもつ同社は、12エーカーの敷地にパートタイムを含め100人以上が働く、アメリカ西部有数の園芸生産者である。ここでは、年間1000種以上の生産が行われ、コロラド及び西部に出荷されている。従来より、AAS(オールアメリカンセレクションズ)テスト栽培など積極的に行ってきた同社を訪問し、オーナーのひとりダン・ゲーラス氏の話を聞いた。
(2)植物耐乾性の実験
インターネットと敷地設置のウェザーステーション等から気象情報を入手し、それをもとに灌水量を0、25、50、75%に設定した植物の育成実験を本年度より開始した。その目的はコロラドを初めとする西部地域に適した植物を提供すること、また、水の効率的な使用であった。データはJXDAにも提供される予定であり、今後緊密な情報交換と交流が期待されている。
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3.デンバー・ボタニックガーデン視察
敷地面積23エーカーの公共の植物園。同園のシニア・ホルティカルチャリスト近藤氏にガイドしていただいた。
氏曰く、以前は、ごく一般的にイングリッシュ・ガーデンを目指していた同園だが、地域的に異なるためになかなかそれは上手くいかず、ここ10年位前から地域に根ざした植物園として、地域気候にあった植物の選択など西部地区の住宅ガーデンの新しい独自の発展形を模索しているとのこと。特筆すべきは、灌水をしないボーダーでの植物の生育状況であろう。草丈が伸びずコンパクトにまとまるその姿は、育成における水分量管理の必要性を、私達に十分に知らしめた。
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4.個人の庭 --デンバーの庭では今何が起きているか--
メアリ・アレン氏の庭を訪問。彼女はアマチュアだが「ゼリスケープ・コロラド(CWWCの前身)」のゼリスケープ講座の受講を機にゼリスケープガーデンに取り組み、10年以上、今ではその庭はゼリスケープガーデンのモデルとして、サンセット・マガジンを初めとする園芸・ガーデン雑誌に多く登場している。
植物の選択と灌水システムが上手く配置された美的にもすぐれた庭であった。このように、手軽に灌水システムを庭に取り入れられる環境は日本でも期待されるところである。
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まとめ
冷夏であった日本に比べ、猛暑・乾燥の厳しい当地での視察は過酷であり、ゼリスケープの発祥の由来を体感できたが、それだけではない合理性と先見性、方法論の確立を随所に見ることができた。ここから世界に広がるゼリスケープを基に、日本の気象条件を鑑み、行政との協力、デモンストレーションガーデンプロジェクト、ゼリスケーププランツの開発・供給など、日本における活動に繋げるための多くの参考と課題を得た結果となった。
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