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 >> 月例研究会レポ-ト


JXDAの月例研究会とは、毎月テーマを設け、専門知識を持ったメインスピーカーが提供する情報や研究成果をもとに、情報や意見、アイデアを出し合い、目標に向かって行動を起こしていくものです。

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■1月度研究会 2004年1月28日実施   

メインスピーカー:前田 正明氏(東邦レオ株式会社)

屋上緑化について考える

予定では「土壌と植栽基盤−一般土壌から人工土壌まで」とのタイトルで行うはずだったが、テキストとなる冊子増刷の関係で、急遽「屋上緑化」について考察することとなった。

1. 屋上緑化の効果

サーモグラフィーによる都市部の気温調査
屋上における芝生植栽と人工芝、屋上モルタルの時間経過に伴う温度変化を測定すると、正午すぎではコンクリート部は50℃以上なのに対して、緑化部は30℃以下。コンクリートは熱吸収量が高く、日没後は大気に熱を放出していることがわかる。コンクリート建造物は、日中に吸熱し夜間に放熱し、ヒートアイランド現象の原因となっている。
緑化による効果は以下のとおり。

(1) 外断熱効果
緑化による断熱効果は確かに認められているが、構造躯体と違い緑化は土壌や植物など水分保持率によって熱伝導率は一概には言えない。むしろ水分の蒸散効果により積極的に冷却しているといえる。経験上、10センチの土厚だと変化するが、15〜20センチの土厚だとかなり断熱効果は安定するといえる。

(2) 建築物の保護効果
激しい温度差の他紫外線や酸性雨による建物上部の劣化防止効果がある。
緑化をした場合のコンクリート表面温度 8〜28℃
緑化をしない場合のコンクリート表面温度 -6〜60℃

(3) 庭や公園として使用する際の子供の安全性
防犯面より、不特定多数の人が出入り可能な公園で子供を遊ばせることに不安のある人も多い。屋上庭園ならば、限られた人しか入ることはないので、防犯上は安心できるという面がある。

2. 屋上緑化に対する行政の取り組み
東京における自然保護と回復に関する条例(2001年4月より義務化)


2001〜2015年でのべ1200haの屋上緑化目標

3. 屋上緑化の失敗原因

3-1.排水
○壁面に当たった雨水が跳ね返って思わぬところに流れ込む。
 →壁面の雨量は床面に加え1/2を加算して計算する。
 長大な壁面の下部には植え込みをしない。植え込みをする場合は十分な排水対策を考える。

○建物開口部近くの植栽をしたために、屋外の水が室内に侵入する。
 →開口部立ち上がりまで土壌をいれずに縁を切り、境界部にはグレーチングや砂利などを入れて排水を促す。

○コンテナなどの立ち上がり付近に水がたまる。
 →コンテナの下にも排水層を設ける。

○ 屋上に露出したルーフドレインを土壌で埋めてしまった。
 →ルーフドレイン部分は植栽しない。

○植物の根が空気を求めてルーフドレインに入り込み、詰まって漏水した。
 →ドレイン点検カバーを取り付ける。

○ルーフドレインに落ち葉や土壌などがつまる。
 →日常の点検清掃を徹底させる。施主への申し送り。

3-2風の巻き込み 

○強風を考慮しても予想外の風に土・マルチングが飛散される。
 →風速計算はあらかじめ可能だが、砂利などでも飛ばされることがあるため、裸地のままにせず、必ず植栽をすることが飛散の予防となる。

3-3.灌水

○自動灌水システムの電池切れに気付かず、植物を枯らした。
 →電池切れによる灌水切れを防ぐためにソーラー式コントローラーを導入。

3-4.倒木対策

○強風のため屋上に樹木を植えるのに心配がある。
 →屋上緑化に対応した地下支柱を設置する。

4.施工・土壌
東邦レオ(株)では排水層の施工方法は以下の方法が有効であると考え実施している。
(1)耐根フィルムの敷き込み→重ねるだけは不可で必ず接着すること
(2)保護パットの敷き込み
(3)貯水・排水ドレインの敷き込み
(4)黒曜石パーライトの敷き込み
(5)透水フィルターの敷き込み

屋上緑化の追跡調査
単植植えのコンテナより広いコンテナに混植したほうが、根系が伸びて生育によいことがわかった。単独桝のケヤキは、7m程度の樹高で成長がほとんど止まっている。緑地帯が大きければ、人工地盤でも十分に生育している。(H=13m程度)

土壌の役割
(1) 養分・水分の保持
(2) 樹木の支持
(3) 外部環境からの保護

土壌に求められるもの
1. 水分率と有効水分保持量
2. 飽和透水係数  一般土壌30mm/h 
3. 養分保肥性 CEC(塩基置換容量)

人工土壌の活用(同社による)
・ 比重が軽く、施工しやすい。
・ 安全対策 経口・皮膚刺激・水質など各種試験をクリア

 


[まとめ これからの屋上緑化とは]

数多くの屋上緑化の施工実績を持つ同社から、失敗も含めた事例を提示されることにより、現在浮き彫りとなっている問題点とその対処法が明らかになった。最近国土交通省が、「緑化地域」への大型ビルへ敷地面積の25%の緑化を義務づけることも含む「景観緑三法案」を提出することになり、今後屋上緑化は都市部においてより推進されていくことが予測される。その中で、これからの屋上緑化は、施工面では素材を含めた資源のリサイクルのスペシャリストが求められる一方、都市型の人間工学に基づいた効果検証データの収集が必要となる。また、雨水利用やその活用に伴う電力の供給源として、風力活用の可能性も検証していく必要がある。ただ緑化すればいいという屋上緑化の時代は終わり、施工・維持のエネルギーコスト、人や環境への快適性の検証がより一層シビアに求められる。

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文・森山晶子