|
vol.8 08.4.10
バルバロッサな人へ
「悪い時がすぎれば、よい時は必ず来る。おしなべて、事をなす人は、必ず時の来るのを待つ。

あせらずあわてず、静かに時の来るのを待つ」。松下幸之助著「大切なこと」PHP研究所に書

かれていた一節である。

重い言葉である。しかし、現実はなかなか言葉のようには行かない。どこかでもがき、どこかで

あきらめてしまい、何故・・とか。いや、こんなはずではなかった・・などと、トラウマのよう

な状況に追い込まれ、時代の反映や社会、人のせいにもする。一方で、そんな状況から、また時

代の反映や社会、人によって、突然「時が来るのを待つ」気持ちが生まれる。そんな気持ちが生

まれると「悪い時がすぎれば、よい時は必ず来る・・」という気持ちのほうが強く思えてくる。

おそらく、誰でも一度や二度、経験したことがあるだろう。

私にもある。これらはなんだろうか?すべてに向き合うことが出来れば「大切なこと」が確かに

見えてくるだろう。しかし、一人で解決することはなかなか出来ないのが現実でもある。


こんな言葉がある。バルバロッサな人である。このバルバロッサな人について、小阪裕司 氏

(オラクルひと・しくみ研究所代表・静岡大学大学院客員教授)は、こんなことを書いていた。

バルバロッサとは、今のような時代に必要なタイプで、センスと教養を感じさせ、プロ意識が高く

理知的に冒険する人をいう。周りから信頼され、好かれ、年齢性別を問わずちょっとばかり尊敬も

される。イタリア語(Barbarossa)で「赤ひげ」の意味であるという。バルバロッサ的活動には

医療や福祉、教育や地域紛争、人種差別、環境などのNGOやNPOも含まれる。そして、バルバ

ロッサな人は、多くの分野で注目されている。


バルバロッサ的な仕組みを、舘岡康雄さんの著書「利他性の経済学」(新曜社)は、支援が必然と

なる時代へという中で論理的に解説している。

例えば、ある企業と我々との関係でいえば、ある企業は「応援してくれる」。また一方の企業は「

見返りを要求する」。時に私自身の仕事が社会に役に立つか、あるいは企業として利益になるかが

問題となるように、人も企業も他を支持するときには、多くの見返りを前提とする。しかしこれか

らは、舘岡康雄さんの著書のサブタイトルのように、人を応援すればするほど自分もどこかで応援

してもらえるということや、これからの経済活動においては人を支持することが当たり前になると 
指摘している。

つまり、見返りを求めて支援するのではなく相手のために支援する。「させる/させられる」とい

う管理のありようから「してもらう/してあげる」という支援行動への変化。それが結果的に自分

に対する様々な支援にもつながる。支援する関係性は、実はビジネス全体を効率化し、パフォーマ

ンスレベルも上げっていくという概念を論理としてまとめ、検証している。ただし、社会環境の変

化という前提をまず認識すること、そうすれば「支援が必然となる時代」が来ることが理解できる

ようになるという。

舘岡康雄さんは、社会のキーワードとして「リザルトパラダイムからプロセスパラダイムへの変化

」と記している。リザルト(結果)パラダイムは結果重視の考え方であり、一方の、プロセス(経

過)パラダイムは経過を重視する考え方である。社会の変化が遅いリザルトパラダイムの時代が終

わり、変化の早いプロセスパラダイムが訪れた、これが論理の大きな前提になっている。

現実に、会社の中でお互いが「隣は何をする人ぞ」とばかり分離して、設計は設計だけで完結し生

産は生産だけで完結するようなやり方だと、開発期間が短縮できない。なぜならそういうやり方だ

と、設計を終えて試作部門にバトンを渡したはいいが、プロトタイプを作るうちに設計上の問題点

が出てきて、再びバトンが戻される。あるいは生産ラインに乗せてみるとビジネスの位置に難があ

って、生産効率が落ちる。そういうことをやっていたのではこの時代、身動きが取れなくなってく

る。だから設計部門も試作部門も生産部門も、常に他者のことを配慮し、支援しながら自分の仕事

を行っていく。スピーディーな時代にあっては、巨視的には自を利することになる。しかし支援は

見返りが前提ではなく、単に利他を考える。つまり相手に対する支援が前提としてある。みんなが

そうすることによって、お互いがお互いを支援するメカニズムが動いていくという。

著書の理論は、自動車の生産現場との関係性から話がおよぶ。リザルトパラダイムの時代は結果が

大切で、結果を高めるためにどう取り組んでいくかが仕事のベースだった。プロセスパラダイムの

時代は「現在が刻々と作られる」。したがって、動いている過程こそが大切なのであり、過程を高

めていこうとする。つまり、リザルトパラダイムの時代は変化がゆっくりしていたから、規範を過

去に求めればよかった。いわゆる「前例主義」だ。しかし、もはや過去を規範にしてそれを再現し

ていくのではなく、刻々と移りゆく状況に対応しなければならない。

事実「利他の経済」のベースには、このようなパラダイムの変化がある。これからはお互いに助け

合う社会になっていくとか、そういうありようが大切だという論自体はすでにある。が、舘岡康雄

さんの理論の特筆すべきところは、これを実際のビジネス現場の問題と直結して取り扱っているこ

と、理論をシミュレーションし検証していることである。そして、こんなことを付け加えている。

「利他組織性が必要となる時代は・・、助けることより助けられることのほうが重要なのである。

なぜなら、助けることは自分の意思でできるが、助けられることは相手の意思に帰属するからであ

る。支援の意思決定は自分に属し、自分への支援の意思決定は相手にある。相手が支援してくれる

か、そうでないかは、支援されるほうからはどうしようもない」。

山積された環境問題や政治、経済の中にも、大きな錯覚を起こしている政治家や企業人がいる。私

たちは「おしなべて、事をなす人は、必ず時の来るのを待つ。あせらずあわてず、静かに時の来る

のを待つ」という苦言とはそぐわない時代の中にいる。バルバロッサな人が、政治、経済、企業に

存在し社会を作ることこそ望まれる21世紀の姿だろうと思った。

今の私は、春爛漫、陽だまりの中で草を相手にしているバルバロッサな人でありたい。そしてそこ

から生まれる何かが、社会の中に加わればそれでいい。是非、読むべき一冊を記しておく。



兼久 

新曜社
|