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vol.6 08.02.13
春までの読書の時間
年末から年始にかけて大雪で始まった常盤であった。が、雪を酒のつまみに・・と思いつつ、時間

の許す限り読書を楽しんでいる。ジャンクランプと薪ストーブの明かり、身体を包み込むどっしり

としたソファーに腰を下ろして見る外は、無表情な雪景色だ。

そう・・音楽は60年代のジャズではなくフォークソング、これがまたいい。今は、常盤の冬が生

活を少しずつ変えていることに気が付いている。


読書は、明治の文豪、幸田露伴である。代表作である「五重塔」は、中学生のときに読んだ以来で

あるが、今、読み返すと違った味で、主人公の大工・十兵衛の一途な性格が好きになった。そして

「雲の陰・貧乏の説」というエッセイからは、明治、大正、昭和という時代の流れの中にある東京

の町と地域、そして人間(人情)というものがかすかに見えてくる。


雪景色のせいか、酒は進み・・・いや読書は進む。が、露伴、恐るべしという感想になる。少し大

げさかもしれないが、読書とは、読み手(私)と書き手との一騎打ちのようなものである。斬るか

斬られるか、基本は一気に読む。しかし、途中退場もある。身勝手な結末を想像し本を閉じる。し

かし、恐るべし文豪は、ただの剣客ではない。それは中々説明しにくいが、読み手の心まで切りき

ざむ。書き手の力の底が見えたとき、本は永久に閉じたままだ。


さて、露伴の娘、文(あや)さんもしかり、その時代とともに、言葉の美しさがあふれている。そ

れとは別に作家幸田文がどこかで、女性としての理想的な人であるという、私の・・思う気持ちが

強くある。明治、大正という時代の背景が、文さんの言葉によって、しっかりとした文字に変わる

とき、曇りのない透明な光として、時代に差し込む。文さん自身から見た様々な季節の息使いが伝

わってくる。著書「季節のかたみ」はお勧めである。

確か露伴は、文さんに女性としての「しつけ」や「たしなみ」が厳しかったという。そして、頭が

上がらないという。文さんは、父露伴について、その厳しさは嫌いだったが・・ただ自然(季節)

を教えてくれた人で、そのことには感謝していると記している。その自然が、日本の家族あるいは

生活文化を育ててきた。私が惚れる先の風景である。


今、失われているものだらけである。文さんの著書は、ランドスケープとしての私の目で見ると、

何度も何度も本当にドキドキする。これは風景に対する嫉妬である。


さて、文さんの娘。青木玉である。文さんとは性格も違うが、露伴、文さんから受け継いでいる、

物の観察力や日本語から想像できる日本の生活というものが今流に響く。言葉が形や姿をつくり、

それが想像して見える。多分、文さんの影響だろう。いや、女性としてたしなみが整っている。こ

れは、玉の父親への嫉妬である。青木玉の作品で「帰りたかった家」は胸が熱くなる。理由はわか

らない。これは家族への嫉妬である。


露伴、文、青木玉に魅力を感じる。特に日本人の絆、そして愛情が沢山ある。確かに絆は、家族

という日本の原風景だ。

混迷した今の時代、その断片をつなぎ合わせるために、それぞれが賢明であるべきだが、パズルの

ように埋めていくには、よほど強い意志が必要だ。私の読書とは、自分の生き方に問いかけるよう

に、壊れたものを拾い始めている読書かもしれない。それだけ拾い集めるものが多いせいか、書庫

には沢山の本が待っている。北側の窓にはいつの間にかツララが出来ていた。

兼久 

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